ようこそ、わが家へ

池井戸潤・小学館文庫

今、話題の池井戸潤の最新作。6年前の雑誌連載作の文庫書き下ろしと言う。
スイスイと読み進め、あっという間に読了。物語として、登場人物も出来事も、ちょうど良いサイズかも。

帯からストーカーと対峙する話なんだってのは、読む前から分かっていた。
今や、国家の戦争も非対称なテロ相手となり顔が見えない。
ネット炎上などは、個人を特定するのも難しく、問題解決を困難にする。
物語では、倉田太一の正義感の発露が、筋違いな憎悪の導火線に火を点ける。
正義が正しいとは限らない世の中になってしまった。

健太の傷も、自業自得の背景が隠されている。
目には目を、歯には歯を、ゲームにはゲームをの理論だと、負の連鎖を止められない。
でも、そうすると田辺や赤崎への抑止力って何なんだろう。

もう一方の軸である、ナカノ電子部品社の内部のゴタゴタ。
2代目社長と営業部長は共謀してるのかと推測して読み進めた。
ラストで茶髪のシングルマザーに用意された結論は好ましいじゃないか。
器の大きさは図りかねるが、社長としての器量は示してくれて、一角の人物であったね。
世の中の多くが、まだまだこうした社長の決断一つに生死を委ねていると言うことか。
そう考えると、判断から逃げてはいけないし、自分の判断でどれほどの人を動かしているのか自覚しないとね。

下手したら年金支給70歳世代の我々。
まだまだ働き続けなければならない。先は長い。
自分の武器は何なのか。自分の価値は何なのか。自分が守りたいものは何なのか。

考えさせられる事の多かった1冊だった。
せめて「半沢直樹」は残り半分テレビの前で頭空っぽにして見られると良いな。

(13/08/18)


茶色い本棚(国内作家)へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る