錆びた太陽

恩田陸・朝日文庫

2020年春。コロナ騒ぎの休業期間中に嫁実家で読むにはシュール過ぎるハナシだった。

解説に書かれるまでもなく、いろいろなオマージュは近未来モノの「ロミオとロミオは永遠に」を想起させる。
太陽に吠えろ
ウルトラセブン
山口百恵
101回目のプロポーズ
ワイルドセブン
サンダーバード
アルジャーノンに花束を

テロによる放射能事故で国土を荒廃し、人口も半減したジリ貧な近未来の日本が舞台。
政権が窮余の一策で考えたのがゴミ箱ビジネス。
汚染地域に世界中の核廃棄物を保管することで、半永久的に保管料を懐に入れようというものだった。
汚染地域には、本来ヒトであったはずの生命体が極悪な環境下で独自の進化を遂げ、
マルピー等と呼ばれ人間に仇なす存在(ゾンビ)になっており、汚染地域の管理はロボット達に任されていた。

そこに闖入者として現れる珍妙な国税官が主人公。
実は過去に、自身の祖母が汚染地域に取り残されたという背景があった。
複雑な思いを胸に、マルピーへの課税というジリ貧国家のもう一つの政策実現のため汚染地域へ潜入する。

有名なロボット三原則の進化系であり、人間側の矛盾や不条理を孕んだモラル三原則のもと
ロボット達は過去に類を見ない珍妙な来訪者に翻弄される様を描く。
ある食品加工会社が汚染地域の食料配給に関して不正を働いている、という唐突な伏線も絡め
主人公の過去が少しずつ露わになり、物語はほんの少しだけ溜飲を下げることができる形で幕を閉じる。

正直、事実は小説よりも奇なり、のまま現政権が不条理かつ嘘臭く笑うしかないエピソードで満載なので
もはや笑っていられない悲劇がそこにある。

「そうか!徳子が8番目のシンコで、ボスたちはプログラム書き換えられて失念してるんだ!」⇒これはハズレ。
あとは水越事件は何だったんだろう。まったくのサイドストーリーか。
今回の『かしらん』は不発かな? 気が付かなかったけど。

伏線が唐突なところはあるが、投げっぱなし感は薄く、ドミノと同じエンタメ系の印象。
個人的には「ロミオ〜」と近未来モノで括る感じではない。
作品としてはまとまりがある方だと思う。面白かったと素直に思えた一冊。

(20/05/07)


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