ワイルド・ソウル

垣根涼介・幻冬舎文庫

「ヒートアイランド」の正統的な後継の様な1冊。さすが三賞受賞作。読み応えあった。
舞台が時間、場所を大きく変えて進行していくため、世界観を掴むのに少し苦労したけれど
比較的グイグイと引き込まれた。

戦後直ぐの移民政策の失政に伴う悲劇に端を発する復讐劇。
いつの時代も、国は本当に信じるに足るのか疑ってかからねばならないという事か。メディアもまた然り。
タレこみネタの時間が番組の直前で、木島Pが機転を利かすところなんて、「翳りゆく夏」にも似た様な場面があった気がする。

国家権力に異を唱えるテロリズムって構図でいくと「亡国のイージス」なんかも似てるね。
もっとも「亡国のイージス」が田中芳樹ばりにバンバン登場人物が死に行くのに比べると、
犯人たちのほとんどが生き永らえる事ができる本作は、ヒーロー主義、ご都合主義ではあるけど。
松尾も死線を潜り抜けて、恐らく生き延びるんだろう。ケイもふらふらしながら、最後まで生き抜いてしまうのは役得だな。

エピローグで日本とブラジルとの間に逃亡犯引渡し条約が締結されていない事を隠れ蓑に利用しようとする件があるのだが、
これは皮肉なのだろうか。散々国家は当てにならないとしておきながら、最後は国家間の条約によって守られるってのは。

ちなみに、作中で過去の失政を認めさせられる事になる総理って、やっぱり小泉さんをモチーフにしていたのだろうか。

(09/08/16)


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