この1冊から始まった。
本屋大賞を受賞した作品と言うことでその存在を知り、
その作者と言うことで恩田陸を知った。
ハードカバーを敬遠したので、先に『三月は深き紅の淵を』などが先行してしまったけれど待望の文庫化。
『図書室の海』の中に前日譚である「ピクニックの準備」で甲田貴子と西脇融という異母きょうだいである事が明かされる。
どうやら正妻の子が貴子、融は妾腹と見え、いつも自然と居場所を確保している貴子のことを面白く思わない融という構図なんだね。
そこに、真実を知る第三者の野望が交わる。
利枝子と蒔生。美佐緒と祥子。その2人とも違う展開なのか・・・
と、ここまでが本編を読む前の感想。
先ずは正妻の子は融であることが分かる。なるほど、居心地悪いはずなのに、いけしゃあしゃあとしているのが
気に入らないという訳か。貴子=蒔生、利枝子=融の逆パターンかな。
『黒と茶の幻想』と大きく違うのは、戸田忍と言うめっぽう性格の良いキャラクターが存在している点だね。
彼もネガティブなエピソードを持っているにも関わらず、親友である融への説教と称してそれを打ち明け、
融の心のわだかまりを解きほぐそうとする。
戸田忍が陽とすれば、高見光一郎が陰。高見は変わっているけれど、性格が良いというか貴子・融にとっては
重要な立ち位置にいるキャラクターだったね。彼自身は誰が好きだったんだろう。意外と亮子が好きなだけだったりして・・・
その亮子の一途さはそれはそれでドラマなんだけど、本編では貴子のライバルという大事な役割を演じてくれました。
女の子同士の友情って、私には結局のところ理解することはできないんでしょうが、梨香・千秋のような友達と、
美和子・杏奈のような友達と、2タイプいるのは間違いなさそうだね。強いて言えば前者は似ている友達、後者は似てない友達。
自分のことって、自分が一番分かってない。素直になれない感情。
それがこの本のテーマかな。強い女性の象徴として描かれている美和子ですら、貴子の一言で自身を省みている。
貴子、融は自分たちが抱えていた感情と行動の不一致がそう。親友に真実を語れない複雑な心持ちもそう。
忍だって本当は貴子が好きなのに、親友の融とくっつけようとしちゃう。
共学ってこんな感じなのかな。青春ってやっぱり大事だよ。
『ネバーランド』では男子校での青春が描かれていて、まさに共感したのだけれど今回は美和子や忍の優しさが羨ましい。
恩田陸の作品ってパターン化しているような気もしてきたけど、人物描写はやっぱり上手いよね。
最後の貴子と融の2人の会話で、貴子が融のことをフルネームで呼ぶ辺りなんか、照れ隠しとしてはリアリティ十分だよね。
杏奈の仕掛けた“去年のおまじない”って何だろうってずっと考えてた。まさか土左衛門が関係あるのかな?とかね。
謎の闖入者の正体は随分早くに明かされて、結局は彼がその者がおまじないだったとみわりんが推察する。
順弥の登場と立ち回りが杏奈の計算通りかどうかは定かではないけれど(計算どおりだとしてもキレイな伏線には思えないけどね)、
真実を知る一人として順弥が「ピクニックの準備」の第三者だったんだろうな。
『三月』シリーズにもあったけれど、やはり「ピクニックの準備」と本編で多少つじつまが合わなくなっている部分があるんだよね。
揚げ足を取るつもりではないけれどさ。貴子が一緒に走る可能性のあったメグって?美夜は杏奈のことだったんだろうな。
融だって、テニス部の肇と歩くのか30位以内を目指すのかって事になっていて、忍の存在は描かれていない。
極めつけは第三者。2人の真実を知り、3年で同じクラスになったのを知ったとなれば、可能性があるのはみわりんだけなんだけど・・・
ある偶然?野望?
インターネット版の「ピクニックの準備」も杏奈編、貴子編を見ました。
なかなか映画の出来も良さそうですね。期待が高まったので是非2人で見に行きたいものです。