ブラック・ジャック

手塚治虫・秋田書店
手塚治虫という人は天才だと思います。彼の著作の大半は読みましたが
どれも質が高く、メッセージ性が強いですね。

ブラック・ジャックは当然「命」がモチーフになっている訳ですが、
奇麗事だけではなく、「いくら出しても良いから命だけは・・」という
スタンスがリアリティがありますね。

法外な値段に文句を言うクランケ(患者)やその家族に対して
「私だったら(親を救うのに)いくら出しても惜しくはない」等と
応えるブラック・ジャック。

彼は不発弾処理の失敗により、母親と伴に事故に巻き込まれます。
親子を救えなかった医学会に報復するために、自らメスを握ることを決意した
ブラック・ジャック。医師連名にも所属せず、免状無しでオペを行う
彼のスタンスはここに起因しています。

とは言うものの、彼は「救う」事を心情としていますが、
同業のドクター・キリコは安楽死が専らの担当です。
彼らの生命観についての議論は、深く考えさせるものがあります。
結論は一つではないのでしょうね。

私が一番印象に残っているストーリーは
豪華版6巻に収められている「2度死んだ少年(TWICE DEAD)」です。
父親殺しの罪で追われている少年が逃亡の際に、ビルから飛び降りて
脳死状態に陥ります。公判を受けるためブラック・ジャックの手術により蘇生しますが、
裁判の結果死刑が確定する際に、傍聴席にいたブラック・ジャックはこう言います。
「(私は、その子を)死刑にするために助けたんじゃない!!
 どうしてわざわざ二回も殺すんだっ
 なぜあのまま死なせてやれなかった!?」

他にも進みすぎた医学の引き起こす病気や、その進んだ医学でさえ
救うことの出来ない病気に対峙し苦悩するブラック・ジャックの姿は
まさに作者の身代わりだったのでしょう。

命への素直な飽くなき欲求。
命の大切さを、こういう形で学べるというのは幸せなことではないでしょうか?
文部省にお勧めしたいくらいですよ。

(97/10/09)


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