世界史の構造

柄谷行人・岩波現代文庫

“交換様式”から世界史を見つめ直す、という壮大な一冊。佐藤優の推薦図書として選択。

 不平等平等
拘束B:略取と再分配A:互酬
自由C:商品交換D:

【A】
狩猟採取の頃は、収穫物の携帯に制約があり蓄積ができないので分け与えるのみ。
グループ内の共同寄託に始まり、グループを跨る例もあり。
これが漁になってくると、定置型の設備に伴い定住が始まる。そうすると蓄積が可能になり
贈与、お返しのバランスに傾斜が生まれて、上下関係に発展。
贈与の権力の下での不平等や戦争が始まる。対立を避けるためにも互酬が行われる。
また定住は死者との共生という側面も持ち、埋葬後に先祖神として崇める呪術から宗教の素地。

【B】
国家権力が互酬を禁じ、国家権力の独占する暴力による上下関係。
主権者は外からやってきて、服従の代わりに保護を与える。

【C】
貨幣は永続的に蓄積が可能。価格の統制は官僚機構と法によって。
そして急進的な平等主義が共同体の頭越しに市場へアクセスでき
貧富の差を生み、普遍宗教の素地が出来上がる。
普遍宗教は王権への批判として顕れる。

地政学的に、世界帝国、周辺、亜周辺、圏外という風に文明は分かれて進化してきた。
経済に関しては、ローマ帝国は市場まかせ、アジア諸国は官僚統制の歴史がある。
これはローマ帝国がキリスト教という交換・交流に適した素地があった影響もあろう。
アジアは科挙制度に見られるような貨幣と文字による統治組織が確立し、
王権が変わろうとも統治組織が引き継がれていく。

その後のヨーロッパでは、教皇即皇帝の東ローマ帝国はアジアの周辺としてビザンチン帝国で官僚化が進む。
西ローマ帝国はアジアの亜周辺としてキリスト教は同一性のイデオロギーとしては残るが協会の権威は必ずしも強くなく
分権、自由都市の乱立、市場を通した不平等、王権への批判としての宗教発展といった多元的は封建制を経験する。
ヨーロッパまでを巻き込むモンゴル世界帝国という経験も、周辺、亜周辺にアジア文化の影響を与える事になったが
その程度には差が生じた。

普遍宗教が優位な西ヨーロッパでは、地域主権である絶対王政が乱立。
絶対王権同士が近隣で併呑を繰り返していく。
清教徒革命、三十年戦争、名誉革命、市民革命などを通し、絶対王政は軍・官僚に取って代わられる。

この辺りから経済も自給自足せずに賃労働で得た金で生産物を消費する、という資本主義の自律システムが確立。
いずれ内需には限界があり、資本と労働者の階級闘争は国外にパイを求め
帝国主義が広く席捲し、貨幣経済そのものを広げていく。
ナショナリズムは、そのまま民族問題に発展。国民国家を次々とつくりだしていく。
対立回避にための交換様式Dとして社会主義が第一インターナショナルで世界革命を目論んだが
ナショナリズムには抗しきれず、世界革命は起こらなかった。

然るに、資本主義+民主主義の行きつく、今の2020年は
富の寡占は国家権力・行政をしても再分配が適わず交換様式Bも破綻。
セーフティネット、NPO、国連など交換様式Aの互酬の協調政策よりも
市場優先で競争社会の名の下に、経済変調の不平等が跋扈している。
国同士の間でも、外への喰い合いは止まらず、TPP、EU、COP25、核合意など様々な紐帯が失われていき、 右傾化、ポピュリズムが台頭している。

ミャンマーではアウン・サウン・スー・チーですら権力を手にすると批判の声を弾圧し
アジアは正にシステムの乗っ取りが繰り返されるだけ。

対立を超える概念が生まれなければ、乱立の中から一強に併呑されるのみ。
『地球民』という同一性イデオロギーに立った時、対立を避けるための手法として今あるのは『倫理』だろうか。
ただし日本単一の中にあっても、総論賛成各論反対であり、そう簡単な事ではない。

本作中の底流としての思想家たち
ホッブズ 1588−1679(英) 『リヴァイアサン』恐怖に強要された契約は、交換様式B
ロック  1632−1704(英) 
モンテスキュー 1689−1755(仏)
ルソー  1712−1778(仏)
カント  1724−1804(普) 『永遠平和』の考え方は、交換的正義のある諸国家連邦。国家の揚棄で高度に互酬を取り入れよ。
ヘーゲル 1770−1831(独) 覇権国家による処罰が必要。
マルクス  1818−1883(普) 過渡期に国家権力を握る事は止むを得ない。ただし国有化が長すぎたスターリニズム。
エンゲルス 1820−1895(独)

(20/01/12)


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