地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

櫻井祐子 訳・朝日新聞出版

地政学シリーズ。相変わらず、地政学が何物かと言うのは分からないけれど、 テクノロジーがどれほど発達しても、地理的要因には抗えず、地理的要因を背景にした国際政治の駆け引き それが地政学が論じられる所以なのだろう。 この本で論じられている地政学の主役たちを幾つかご紹介。

金融問題で揺れるギリシャ。なぜヨーロッパ各国がギリシャを放っておけないのか。 ギリシャが地中海へつながる玄関口という地理的要因を持っていなければ、さほど大事にされる事も無かったのかもしれない。 ヘロドトスの昔から、ギリシャはヨーロッパが終わり、そして始まる場所だったらしい。

そして紛争が止まないアフガニスタン。マッキンダーの唱えるハートランドにあたるのがアフガニスタンなのだと言う。 アフガニスタンが安定し、適度に穏健化すれば、中央アジア南部だけでなく、ユーラシア全体の信の中心地になるから。 残念ながらアフガニスタン周辺はヒンズー教のインドと、イスラム教のパキスタンの対立だったり、 アフガニスタンそのものを巡って、ソ連、インド、イラン、パキスタンが覇権を争う構図になってしまっている。 例えばアフガニスタンがタリバンの支配下に収まってしまえば、大パキスタン圏としたイスラム勢力が完結する。 地政学の要諦であるため、今しばらくアフガニスタンを巡る対立は穏健化しないだろう。

かつて一大帝国を為したペルシアの後継が今のイラン。ペルシア湾とカスピ海の両エネルギー生産地にまたがる唯一の国。 中央アジアに向かって開けているがゆえに、過去にモンゴルの襲撃を受けたりした被害の歴史もある。 イランの置かれている地理的位置は国際地政学の根幹をなす存在だと言う。 文化的、歴史的に影響範囲を広範に持っていたと言う帝国の歴史が、民族の誇りとして血に刷り込まれているのは イランだけではなく、インドや中国にも言える事なのかもしれない。 もしイランが文化的で啓蒙的なアプローチを取れば、再びこの世にペルシア帝国が興る事も有り得るのだろうか。

歴史上もう一つの帝国が現在のトルコ。旧オスマン帝国。トルコもイランと同様に、地理的に重要な地域にある。 地中海と黒海に挟まれた陸橋のため、周辺地域に影響を及ぼすものの、陸地の広がりが無いのでイランのように 近隣国にとっての地理的要衝にはなれなかった。しかしコンスタンチノーブルはバルカン半島、地中海、北アフリカに 確実にアクセスできる安全な拠点であった。 その地理的要因と、イスラム教国であり、親米・親欧の民主主義国・経済大国という面を持つトルコがこれからも 地政学の主役の一人であることは頷ける。

世界の警察として冠たるアメリカ。その役割も随分と変容したのは、何となく伝わってくる。 ただしアメリカとメキシコ の関係性は、日本からはあまり感じる事が無かった。アメリカの弱点が南西部のメキシコ国境なのだと言う。 マッキンダーもメキシコはアメリカとカナダとともに、世界島の周辺の海に浮かぶもっとも重要な大陸の衛星をなしていると言う。 メキシコの安定が成れば、西半球最大の人口大国アメリカとメキシコの有機的連携は、地政学的に最強の組み合わせになる。 残念ながら今のメキシコは十分に安定しているとは言えない。 もっともオバマ政権になってキューバとの国交回復など、カリブ諸国との関係改善は続いており、メキシコとの真の連携がなれば アメリカにとってはアフガンや中東政策で得られる以上の実利を得る事になるのかもしれない。

あの奥山真司が解説を書いていたと言う事からも、古典地政学のマッキンダーの影響を色濃く受けている一冊なのだとは思う。
それだけに、私には取っ付きやすい本だったのかもしれない。

(15/08/02)

■トランプ大統領が実現しメキシコとの国境に壁を建設する、という主張はマッキンダーの地政学の観点からは、自ずと導き出される結論だったのか! その建設費はメキシコに拠出させるという主張が現実的かどうかはともかくとして。何でも、今もメキシコとの国境の一部では実際の壁が建築されているそうですよ。 さてトランプさん強権発動はあるのでしょうか?

(17/03/20)


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