蝿の王

W.ゴールディング・集英社文庫

第3次世界大戦勃発。
無人島に子供たちだけが残された。
果たして彼らは・・・

ありがちなモチーフではあります。映画とか劇画っぽいし、何より
「宝島」とか「十五少年漂流記」など、こういう題材の本は多いですよね。

子どもだけ、というのはどういう意味があるのでしょう。
日常、子どもは常に親であったり、先生であったり、上位自我に
抑圧されています。「抑圧」と感じるかどうかは別問題ですが、
胡散臭く思う事は多々あることでしょう。

子どもだけの環境というのは解放に他ならないはずです。
はずでした。

しかし、必ず混沌の影が彼らを追いつめるのです。
純粋で真っ直ぐな理想は、やがて対立を生みます。
一枚岩であった仲間に派閥が形成され、競合が生じます。
生々しいまでのむき出しのエゴは時として悲劇を演出します。

この作品で最も恐怖を覚えたのはサイモンがみんなに
虐殺(?)されるシーンです。
混沌の無人島で理性の象徴たる”ほら貝”の所有者であった
ラーフまでが輪に加わり、狂気的な「狩り」に参加してしまうのです。
群集心理という一言で片づけて良いものか悩みますが、
ともかく、場の雰囲気が何かを産出するという現象は
歴史的にも明らかですよね。

最後の島全体が狼煙火になるという展開は読めました。
あれも浄化の炎という意味合いが有るんだろうな。
「蝿の王」とはキリスト教で混沌をつかさどる悪魔であるベルゼブブの
異称である「the Lord of Fly」を意味してもいるんですね。
おそらく、キリスト教的な主張が他にも随所に散りばめてあるんだろう
とは思うのですが、そこまでは私には分かりません。

今回はあまり本編の感想を書いていない気もしますが、
そもそも現在NTVで放映されている「ぼくらの勇気」を見てて
「蝿の王」を思い出しましたんですよ。
結構彷彿とさせるシーンとか有るんですよね。
あれも、最終回をどう終らせるのか見物ですな。

(97/12/13)


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