君主論

マキアヴェリ・中公文庫

§15
国を奪われかねないような汚名は避ける必要がある。 国を奪われる心配とは無関係な様に見える汚名も避ける必要があるが、出来なければ成り行き任せで良い。 しかし、自国の存亡に必要不可欠な悪徳であれば、評判を省みず実行すべき。

§16
鷹揚さは害をもたらす。鷹揚である評判を維持するために奢侈に類する事を必然的に避けられなくなるため。 財産を使い果たした後には、民衆を異常にしいたげ重税を課し、なんとしてでも金銭を得ようとするため。 この結果、ごく少数の者に褒美を与えて、大多数の者を傷つける事になる。 この危機に気付き、身を引こうとしてもケチとの悪評が立つ。 【しかし、悪評が立っても自国存亡のためには、身を引くことが大事 §15】

鷹揚さは自分に不利を招かざるを得ないので、ケチだと言う評判は気にかけていられない。 ケチとは悪徳(必要悪)の一つ。

但し、他人の財産は気前よく振舞う機会をいささかたりと逃してはならない。 他人のものを乱費しても自分の評判を落とすどころか、一段と高める。

復習。鷹揚さによって自分のものを乱費すると、貧困になって蔑まれるか、それを逃れようとして強欲になり恨みを買う。 蔑まれること、恨まれることは共に君主としては警戒すべき。 となると、憎しみを買わないケチと言う汚名に甘んずる方が賢明である。

§17
結束・忠誠を守らせるための残虐だという悪評は気にかけてならない。 憐れみ深さが混乱を招き、殺戮や略奪を横行させる事を考えれば、残虐な君主は ごくたまの恩情のある行いだけで、ずっと憐れみ深いとみられるから。 また、残虐さは一個人を傷つけるだけで済むが、憐れみ深さは国民全体を傷つける結果になる。

愛されるのと恐れられるのとどちらが良いかを考えると、愛されるよりも恐れられるほうがはるかに安全。 人間は恩知らずで、ムラッ気で、偽善者で、厚かましく身の危険は避けようとし、物欲には目の無いものだから。 報酬で買い取った友情は、それだけの値打ちのもので、 いつまでも価値があるわけではなく、ここぞと言う時に役立てることはできない。

また、人間は恐れている者より、愛情を示してくれる者を容赦無く傷つける。 元来、人は邪悪であるから、たんに恩義の絆で繋がれている愛情などは、自分の利害が絡む機会が起きれば 直ぐにでも断ち切ってしまう。

恐れられることと、恨みを買わないことは両立する。 愛することは下から(民衆)の思うことで、恐れられるのは上(君主)が意のままにすること。 賢明な君主は自分の方針に基づくべきである。ただし、恨みを買うことはつとめて避けること。

§18
人間は邪悪なもので、信義を忠実に守ってくれるようなものではないので、 信義を守ることがかえって自分に不利をまねく場合と、 すでに約束した時の動機が失われた場合は信義を守ることをしなくて良い。 立派な気質を備えていて、つねに尊重していると言うのは有害であり、 備えている様に思わせることが有益である。

大衆はつねに外見いかんによって、また出来事の結果だけで評価してしまう。 しかも世の中には大衆しかいない。

§19
自分の裁断はぜったいに撤回しないこと。 君主を騙そうとか、言いくるめ様などと考えることさえ愚かだと言う世評を打ち立てること。 憎まれ役は他の者に請け負わせる様にし、君主はありがたがられることだけを引き受ける様にすること。 【道路公団総裁の首きりは国交相に任せて、民営化委員会の決定を尊重するとした小泉首相?】

人の恨みは悪行のみならず、善行からも生まれる。 味方につけるものが腐敗していれば、風潮に染まらざるを得ない。この時、善行は仇になる。 【君主になるのに正当性が無く、不当な味方を頼らざる得ないなら、政権を維持するのに善行は無理】

§20
城砦のハナシなので略

§21
君主は敵味方の是非を明か(旗幟鮮明)にするときに尊敬を受ける。 当面の危機を回避しようと中立の道を選ぶと、おおかた滅ぶ。

勝利者の味方になったときは、勝利者からの恩義を得られる。 人間は恩義を感じた人間を虐げ、恩知らずの見本を示すほど、それほど不実ではない。 【でも邪悪な生き物であったのでは? §17】

敗者の味方になったときは、その者からかばってもらえる。 また、力のかぎりあなたを声援してくれる。すなわち運命を共に分かち合う同行者が得られる。

ただし、争い合う両者が恐れる必要の無い場合、最善は両者を救うこと。 自分よりも強力な者と手を組んで、第三者に攻撃を仕掛けてはならない。 勝利を収めても、強力な者の捕虜になってしまうから。君主は他人の意のままになる状況を避けるべき。 【銀英伝でのマリーンドルフの選択】

祭や催し物を開いて没頭させるべき。【ガス抜きが必要】 それでいて、君主の厳然たる威光をたえず堅持していなければならない。

§22
君主は秘書官に、自分がいなくてはどうにも立っていけないこと、身に余る栄誉を与えてそれ以上の名誉を望まぬ様にすること、 十二分の富を与えてそれ以上の財産を望まぬ様にすること、過ぎた職責を与えて変革を怖がる様にすることを教えるべき。

§23
へつらいから身を守るには、真実を告げられても決して怒るものでは無い事を理解させる以外に無い。 ただし、誰もかも君主に向って真実を話して良いという事になると、君主への尊敬の念は失われてしまう。

まず君主は賢人を選び、君主に対して真実を語る自由を認める。 しかし、それは君主が求めた時に限る。真実を語れば語るほど歓迎される事を知らしめなくてはならない。 また進言によって決断した事は翻す事無く、固執して貫かなければならない。【§19】

誰が立派な進言をしたとしても、良い意見は当然君主の深い思慮から生まれるもので、 良い進言から君主の深い思慮が生まれてきてはならない。 【あくまで、決定はトップの意思として発令されるべき。】

以下 略

(03/12/30)


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