紅はこべ

バロネス・オルツィ・創元推理文庫

時は18世紀末。自由・博愛・平等を旗印に起こった市民革命により
これまで栄華を縦にした門閥貴族たちはギロチンの影に怯える事になった。
ギロチンの刃にかけてやらんとする公安委員会の手を逃れ、
イギリスへの亡命を図る門閥貴族たちを手助けする謎の組織。
≪紅はこべ≫と呼ばれる彼らの首領は、亡命を手助けする度に
その花が押印された手紙を残していくと言う。

フランス門閥貴族の係累ながらイギリス貴族に嫁いだマルグリート。
今やイギリス社交界の華となった彼女の唯一の親族たる兄アルマンの身にもギロチンの危機が訪れる。
フランスのスパイであるショーブランから、アルマンが≪紅はこべ≫に協力していると言う嫌疑を突きつけられ、
≪紅はこべ≫の正体を探る様に脅迫されるマルグリート。
とある理由から夫婦熱の冷めたマルグリートは、夫パーシーにも相談できずに苦悩する。
マルグリートは次第に会った事の無い≪紅はこべ≫を思慕しつつも、兄アルマンのために
≪紅はこべ≫を追い詰めるショーブランに加担し煩悶する。

マルグリートは意を決してパーシーに心を開きかけ、それが通じた様に思えた矢先に
パーシーはマルグリートを置いて突然旅立ってしまう。
それがアルマン奪還のためであり、まさに自分の夫こそ≪紅はこべ≫なのだと看破したマルグリートは
夫の友人でもあり、≪紅はこべ≫の一味である青年貴族アンドルーの力を借りてパーシーを追う。
パーシーを捕らえんとするショーブランと追いつ追われつの捕り物劇は、マルグリートが捕まってしまい
パーシーや、彼と落ち合おうとするアルマンや亡命貴族の命運や如何に!

あらすじは、そんな感じ。
ちょっとご都合主義なところもあるし、予め『青春アドベンチャー』で聞いてなかったら読了するのは大変だったと思う。
でも舞台とか映画にはちょうど良いストーリーかもね。ちょうど今頃、東京宝塚劇場で月組公演しているらしい。
それに便乗する形で本屋で平積みになっていたところを衝動買い。
折良く、来月にはNHK-FM『青春アドベンチャー』でも再放送されるみたい。
あの冒頭のナレーションを思い出せずに気になっていたのだけど、これで再び聞くことができるので楽しみだ。

1789年。
ヨーロッパ全土を動乱の渦に巻き込んだフランス革命は
それまで栄華を誇り、ともすれば洒落た赤い靴の踵の下に
人民を踏み躙ってきたと陰口されるフランスの貴族たちを
恐怖のどん底へと突き落としました。
人民がその支配者になったフランスでは、
古い貴族の子孫に生まれ合わせた者誰もが
叛逆者として石もて追われ、
その身を隠し、逃げねば捕らえられてしまうという、
憐れな身の上になってしまったのでございます。

「ルイ王朝を倒せー!」
「そうだ、そうだ!」

それから3年。
人民政府の公安委員会は命からがら逃げ惑う貴族たちを執拗に追い詰め
男であろうと、女であろうと、貴族と名のつく者は全て死刑の判決を下し、
毎日その命を血に飢えた群集の集まる広場に置かれたギロチンの刃で断ち切っておりました。
世に言う恐怖政治の時代でございます。
フランス貴族たちは絶望し、遅かれ早かれその刃の犠牲となる
自らの運命を呪って止まなかったのでございました。

しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
巷では夥しい数にのぼる貴族たちがフランスを逃れ、
イギリスに亡命し始めていると言う噂を耳にするようになりました。
しかも公安委員会の目をかいくぐり、まんまと脱出する貴族たちの背後には、
いつもイギリス人一味によって組織された秘密結社の影が
見え隠れしていると言うのでございます。
彼らは脱出を成功させた証に、いつも公安委員会の誰かのポケットに
小さな紙切れを残して参りました。
そこにはただ、赤く小さな星の形をした花が記されているだけ。
人々はその花の名を取って
彼らを「紅はこべ」と呼んだのでございます。

(10/06/27)


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