report(2)
アウグスト発の輸送コプターをルアーすると、北へ向かわせた。
すぐにハウノイ・アマトにたどり着く。
荒れた街だった。つむじ曲がりな子供が、玩具で作った街を元に、設計したかのようなめちゃめちゃな道路。
ここの人間はどうやって生計を立てているのだろう、と前を通るたびに思う、積層住宅。路面は百彩石で舗装されていたが、薄汚れていたし、往来を行き来するオートモビルや力車の姿は少なかった。
失業者は一杯いるはずなのに、探すとなると見つからないものだ。イェルンは懐のお金と、腰の刀両方をうまく使わねばならなかった。
あまり真面目に共通語を喋る気のないウルマル人の老人に連れられ、雑居ビル同士の谷間に案内された。
「失業者って、政府の作った案内センターにいるもんじゃないのか? こんなところに本当にいるのか?」
「ちょっと」
「ここでどのくらい待てば、そいつらに会えるんだ?」
「ちょっと」
老人はそう言うと、ひっひっひと笑いながら、走り去っていった。
「おーい……行っちまった」
まともに意思疎通のはかれる案内人は重要だ。
イェルンはビルに四角く区切られた空を見上げた。とりあえず、青空だけはある。
アウグストや、首都カリアンにはもうない、青い天蓋。
ここは静かだ。生活のざわめきが聞こえてこない。
大戦中の、占領地帯の街のように静まり返っている。
人々は、現代が浮かれ騒ぐべき時代ではないという、共通の認識を持ったのだろうか。
聞こえてくるのは、ネズミの鳴き声だけだ。
だが、その鳴き声に警戒の音があるような気がした。
猫か? いや、ハウノイ名物猫料理のせいで、そんな動物は絶滅した。
じゃあ人間だ。
「誰だ、そこにいやがるのは?」
イェルンは怒鳴った。
廃屋の薄暗い一角から、人が出てくる。一人や二人ではない。後から後から続く。まるで安物の奇術を見ているような気分になった。
三十人ほどの人間がイェルンの前に並んだ。
年齢は様々だが、揃って服装はよれよれ、顔つきは妙に空白だ。
こいつらが失業者に違いない。
しかし、こんな所で何をやっているのか?
ひとりの男が進み出た。柳のような髪の下、目を閉じている中年の男だ。
「おまえたち、失業者だな?」
イェルンは問うた。
「我々の時間は黒い」
男はうつむいたまま答える。
「喜べ。UX3の俺が、もの凄い仕事を持ってきてやったぞ」
「我々の黒さは、前から目に入ってくる、中で巣食う、熱い、冷たいのに、熱い」
「すごい仕事だ。おまえたちはまた仕事にありつける」
「この熱さは、熱い、我々は、どうにかしようとする、触る、触れない、熱い、黒くなる」
男はうおおおっと吠え、両手で顔を掻きむしった。
「……ふむ。俺の提案をあまり喜んでいるようには見えないな」
踊るように身をよじらせる男を見ながら、イェルンは口にした。
他の失業者を捜さなければならないようだ。
と、男はぴたりと動くのをやめ、ゆっくりと目だけをイェルンへと向けた。
「おまえの時間は、白いな!?」
男は叫ぶ。背後の三十人の失業者が一切に身構えた。皆が、ナイフや棍棒を持っている。
それだけではない。ピストルを持っている奴までいやがる。
銃を作るには科学が必要だし、買うには金が必要だ。こんなものを持っているとは……。
イェルンは低く笑い、手を刀の束へとやった。
「おまえたちの失業の原因は、景気のせいじゃなさそうだな。さあ、どういう風に刻んで欲しい?」
「黒くしてやる。黒くしてやるー!」
三十人の失業者が一斉に襲いかかってきた。
銃が吠える。
だが、イェルンが刀を抜くと、その音も消された。
刀身が、異常に甲高い鳴き声を上げている。
銃弾は、全て剣風に軌道を変えられる。むなしくコンクリートの壁を叩くだけで、イェルンには届かない。
イェルンの妖気や凄まじい、長い刀を目にし、失業者たちの顔面は蒼白に。目は見開かれ、口からは上げるは声なき叫びだった。
後ずさる彼らに、イェルンは笑い、
「格の違いを分かってくれたな。じゃあ、安心して俺に刻まれ――」
突如、敵が激しく身を踊らせた。死物狂いの反撃か。
いや、それにしてはおかしい。
失業者どもは、次々と花火のように怪しく破裂していく。
地面にはガラス化した弾痕が一万個ほどもできて、湯気を立てた。
イェルンは刀を鞘に戻した。上からわずかに人工の風を感じる。
「姿を現せ」
イェルンが言うと、かすかなイオンの音を立てて、眼前に灰色の機械が出現した。
光学迷彩で姿を消したステルス・コプターだ。
機体は灰色一色。現代アーティストが魚屋さんで見た夢を具現化した、と言えば分かりやすい、滑らかなデザイン。見ようによっては、極度にサイボーグ化されたシャチに見えなくもない。
機体下部には、針ほどの太さの銃身を束ねたガトリング銃がぶら下がっている。
コプターはゆったりと旋回した後、ふわりと着地した。キャノピーがさっと開く。
「一体、何の冗談だ?」
イェルンは問うた。
「それはこちらの台詞なのですねん、イェルンさん」
コプターから降り立ったのは、まっすぐな金髪を揺らす少女。ゼロフだった。
水色の誕生石じみた瞳が光っている。
こんな色の虹彩、見たことがないから、ゼロフのそれは作り物なのだろう。だとしてもよくできている。
髪の下に隠されているが、額や後頭部にソケットを移植している。
UX3の誇る最高の電脳使い。それが彼女だった。
「こんな所にいるとは……イェルンさんもついに失業?」
「違う」
イェルンは唸るように言う。
「俺は容易に失業させられる人間ではなく、もし失業するとすれば、その前にひと暴れする人間なのだ」
「アポトーシス型ではなくて、ネクローシス型なのですね。まあ、知ってたけど」
「この喜劇役者どもは何だ?」
転がる失業者たちの死体を指す。
「面倒な方々ですよ」
ゼロフはそう言って、肩をすくめた。
立ち話もなんだ、ということで二人はハウノイ・アマトの大通りに面したカフェに入った。
ゼロフ好みの高価な店だ。店員は店の入り口にステルス・コプターを駐機されるのが気に食わなかったとしても、それを顔に出しはしなかった。
「突き詰めて言えば、あれは失業者ですね」
「それは知っている」
「異常な失業者です」
「それも分かった。だが、なぜ俺を襲おうと?」
「彼らは、誰構わず襲うのですよ」
なんだそれは。信じがたい。こんな大都市だというのに。
「ここの警察は何をやっている?」
「市の予算削減のために、全員失業させられたそうです」
「……一体何が起こっているんだ?」
「八年にも及ぶ大戦のおかげで、うちの国の通信ノードの大半が吹き飛ばされました。有線系の電話から、アンシブル通信に至るまで、全ての通信機器がです。が、例外も一つだけ。ネットワーク・ウェブだけは損傷を受けなかった。なぜだか、分かります?」
イェルンは長々とグリーンティーに口を付け、
「ウェブは古い時代の、長きにわたる冷戦時代に作られた。ウェブには中継所も交換所もない。ウェブを物理的に破壊することは誰にもできない」
「ちゃんと勉強はしてんのね」
ゼロフが感心したように言った。十代前半にしか見えない少女にこんな風に言われるのは、変な感じだ。
ちなみに、ゼロフの前にあるケーキも茶も、イェルンがおごってやっている。ゼロフは、空中からぱっと金を出現させることのできる能力を持つくせに、こういうことをされるのが好きだ。
「失業者たちは現実側で多くを失ったの。実に多くを、ね。プライドのようなものから、家族のようなものまで。ネットワーク上のコミュニティ、知ってますよね?」
「存在は聞く」
現実世界の敗北者が作った、ネット上の楽園。
「なるほど、ネット上のコミュニティが、どうにかして失業者を洗脳して、暴動を引き起こしていると……」
イェルンは天を仰いでつぶやいたが、
「おい、ちょっと待て。そんなことをして何百人も洗脳すれば、うちらUX3が簡単に察知するだろう? だいたい、なんで失業者がネットの通信料を払えるんだよ!」
「失業した後も安価でネットを楽しめる『失業パケットサービス』があります」
「はあ?」
「失業というイベントが、社会の中心にあるんですよ。……でも、私たちが探知できなかった、というのは確かに奇妙なんですよね」
少女はスプーンを眺めた。
「イェルンさん、ちょっと変な考えを言うけど、あまり深く取らないでください。……私たちがネットを介して伝え合っているのは、言語だけなのでしょうか? ネットは多くの人に取って、特別な存在感を持っています。言語より、多くのものを伝えてしまっているのではないのでしょうか?」
「言語より?」
「私は……ネットが感情まで伝えてしまっているのを、想像しているんですよね。サブリミナルな、自覚不可能な感情です。ほら、ネット上に、説明のつかないものをいろいろ見るでしょう? ネット宗教、ネット恋愛とかは、まだしも……ネット自殺者コミュニティなんてどうです? 文字だけの交流で、あんな大量死を呼び寄せるものなのでしょうか。ネット通信を通じてなにか、私たちの知らない作用が起こっていそう」
「だとしても、なぜ今なんだ? 大戦前でもなく、大戦中でもなく」
「社会の情動が、負の方向に進んでいるからじゃない、イェルンさん? ほら、免疫力の落ちた人間にいろんな問題が生まれるように」
ゼロフはイェルンの顔を見て、にっこり笑った。
「あまり深く取らないでください。こんな噂、年がら年中ネット中で流布してますから」
「ま……なんであれ……」
イェルンは言うべき言葉を探した。
なぜだ?
大戦は終結した。もう蛮人の軍団に蹂躙される恐怖はない。それなのに、なぜこの国はうまく動いていない?
なぜ、虚無が広がり始めている?
イェルンは顔をしかめていたが、やがて顔を上げた。
「ところで、おまえはどうしてここに?」
「異常失業者の討伐ですよ。ただでさえ、ハウノイ州は荒れ果てていますからねん」
「夕べ、州都ソーア・ツェンユーで魔物を片付けたばかりじゃないか」
「私はホワイトカラーで、仕事の能率も高いんです。刀振り回すだけのイェルンさんが、仕事を一つこなす間に、私は百個こなすんですよ」
ゼロフは当然の顔でそう言い、ナプキンを口に当てた。
「私のコプターから散布した無人偵察プローブが、街角をいろいろモニターしています。さっきみたいに、のこのこ出てきてくれれば、殲滅できます」
「UX3の支援はどうした?」
いくらゼロフといえども、街一つ担当するのはきついはずだ。
「ありましたよ。UX3が数人と、UKAFの暴力屋さん二個大隊、都市警備隊がいました。けど、郊外にムスファド大佐率いる反乱軍が現れてね。私だけがお留守番」
「ちっ、あの悪党め」
「でも、イェルンさんがいてくれるのなら、百人力です。失業者ぐらい――」
「おいおいおい! 俺は前の作戦の報告書も書いていないんだ。ここで働いて、新たな報告書を作らなきゃならないなんていうのは、御免被る」
彼女に報告書のことを話してやる。ゼロフは弱った顔になった。
「噂は本当だったんですね。報告書ごときに手こずる人がいるだなんて」
「失業者はとるに足らん。報告書は足る!」
「だいたい、失業者を報告書作成に使うって、一体何です?」
「リアンの野郎の案だ!」
「……でも、仕事しなかったら、仕事しなかったということも、報告書に書かなきゃいけないのでは?」
ゼロフが指摘すると、イェルンはうううと唸って、頭を抱えてしまった。
「……報告書作成プログラム、差し上げましょうか? さっき暇だったので作った、『リトル・ゼロフちゃんver4.2』には、そういった機能が――」
イェルンは首を振った.司令官どのはそういったものに気付くだろう。
「と……とにかく、俺は働けない。夕べのことを報告書に書かねば。そして、この苦しみから脱しなければ」
「でもね、イェルンさん。司令官どのはいくらでもあなたを苦しめることができるのですよ」
少女は紅茶を飲み干しながら、向かいの悩める男を見やった.
「あなたが司令官を嫌っているのは知ってますけど、彼はあなたの上司です。あなたを苦悩の底へ、突き落とし続けることができるのですよ。イェルンさん、アクションでは無敵ですけど、あなたは不器用です……どうにかしないと、あなたも失業者に……」
そうだろう。
このままの状況が続くと、結末は定まってしまう。
今のこれに耐えられず、UX3を去るか。
あるいは、ある日爆発して、司令官どのを叩き斬り、それからUX3を去るか。
後者の場合、追っ手がかかる。前者でもかかるだろう。
イェルンはUX3を知りすぎている。
ふと、背中に視線を感じた。
人間のものだけではない。電子の目も――
スポンという間抜けな音がした。白煙を吹きながら何かが飛んでくる。
花火だろうか。いや、正月にはまだ二ヶ月ばかり早い。
イェルンはテーブルに飛び乗り、目を丸くしているゼロフを抱きかかえると、跳躍した。
カフェのテラス部分を覆う布の屋根を蹴って、さらに高く跳ぶ。
下をグレネードが通り過ぎ、カフェに突っ込んだ。
爆発。
オレンジ色の炎が、丸く膨れ上がる。
イェルンは自らの身体を盾に、ゼロフを爆風から守った。砕け散ったガラスが背中を乱打する。心地よい刺激。
道ばたのホットドッグ屋台の屋根にずしんと着地した。
「あのカフェ、気に入っていたのに」
ゼロフが悲しげに言った。
イェルンは逃げ惑う人々を眺め、発砲地点の予測をつけた。
失業者どもめ、殺気を放ちやがらない。まるで、薬物中毒者と戦っているようだ。戦いの神に捧げるウォー・クライもなければ、恐怖を忘れるための怒鳴り声もない。ただ、奴らは陰鬱な顔に狂気の目を光らせ、迫ってくる。
いまのグレネードは挨拶代わりだろう。
事実、裏路地からぞろぞろ敵が出てきた。市街戦をやりたいわけか。
カフェの瓦礫を振り落としながら、ゼロフのコプターが飛び立った。ゼロフの遠隔操作だ。
「ああ、まずいまずい……。大軍です。イェルンさん、囲まれています。どこに隠れていたのかしら」
偵察プローブの目を通したゼロフが言う。
振り返ると、反対側の道路からも、貧しい身なりの敵意ある一団がやってくるところだった。
ゼロフはコプターのコプピットに飛び乗った。
イェルンも便乗しようとする。無理だ。ゼロフのコプターは、彼女以外の人間が乗るスペースを考慮していない。
やむなく、コプターのキャノピーの上に腰を下ろした。
「……イェルンさん、邪魔。すごく」
「ゼロフ、包囲の外まで俺を運べ。俺は敵の背後を突く。おまえは空から援護だ」
「あら、戦ってくれるのですか」
イェルンは無言で刀の柄に手をやった。
報告書について後悔するのは、また後だ。
コプターは急上昇を始めた。機体から生えたアームの先で、プロペラが勇ましく回転している。
下で銃声が轟いて、コプターが火花を散らした。
「ライフルか。一体、どうやってそんなものを? 反乱軍が流したのか?」
「今のところ、反乱軍と異常失業者の間にコネクションはありません。もしかしたら、大戦中の秘密の武器庫でも見つけたのかも。ライフルや火炎瓶なら可愛いものです。困るのは――」
コプターの計器が一斉に騒ぎ始めた。
「対空ミサイルです!」
ロックオン警報音だった。
平べったいヒラメ型ミサイルが迫ってきた。推進部からは炎が伸びている。魔法駆動だ。速さでコプターに勝ち目はない。
「イェルンさん、掴まって!」
コプターは急旋回を始める。
掴まれと言われても、コプター表面には、手すりなんてものはない。イェルンは機体後部へと滑っていった。
落下の直前、とっさに手を伸ばす。
安定翼にぶら下がる格好になった。
ゼロフ! もっとでこぼこした形のコプターを持ってきやがれ!
危うく、びゅんびゅん回る鋼鉄の刃に、顔の前半分をちぎられそうになった。コプターのテイルローターが鼻先で回っている。
コプター自身も機体を九十度傾け、鋭く旋回していた。
コプターならではの小回りで、ミサイルをかわそうというのだ。
かすめるように、雑居ビルの横を通過する。
イェルンはさっと膝を縮めた。すれ違いざまに、ネオン看板がイェルンの着物を引き裂いた。
ミサイルは?
振り返ると、ミサイルが雑居ビルにめり込むところだった。
爆発。
衝撃波たるや、グレネードとわけが違う。
暴走車のボンネットにぶち当たったようなインパクトを感じ、何が何だか分からなくなった。
ただただ、もの凄い低音が世界を満たしているのが、気になって仕方がない。
その音の向こうから、自分の心臓の鼓動の音も聞いた。ひどくゆっくりと心臓は打っている。
一瞬、はるか遠くに魚影を見た。
コプター。
ゼロフのコプター。
落下しているのか。
あるいは、自分は上昇しているのかもしれない。
白い煙霧が柔らかく、身体を包んでくる。
たちまち何も見えなくなった。
何をするべきだ?
刀だ。刀を掴め。
急がねば。
何か圧倒的なものが近づいてくる。
死か?
たぶん、そういうものだろう。
イェルンは思い切り刀を突き出した。
ぼきんと音がした。銀色の痛みが爆発する。
どこかで白いものが爆砕した。コンクリートの破片が滝のように降ってくる。
「イェルンさん! イェルンさん! 返事をしてください!」
頭を貫く声だ。
たまらない。耳から通信管を引っこ抜いた。
血がぽたぽたと滴り、おかしな模様を描いている。
荒い息をつきながらも、なにかが近づいてくるのを感じる。敵の軍団だ。どのぐらいいるのか分からない。視界が明滅している。
遠巻きに自分を囲める人数であることは、間違いなさそうだ。
激しい苦しみに、イェルンは膝をついていた。
この……苦しみは何に由来する?
報告書だ。
ここに至って、認めざるを得ない。
今朝からイェルンを悩まし続け、苦しみはここまで膨れ上がった。
間もなく爆発するだろう。
それは確かだ。
それは、間違いなく、ゼロフやフュークト、それ以外のUX3隊員に影響を与える。
イェルンは懐から携帯を取り出した。
「イェルン! 貴様、何をやっとる!? まだ報告書を提出していないのだぞ!」
携帯は怒鳴っていた。
ゼロフは感情が電子機器の向こう、ネットを伝わると言っていた。すると、イェルンの苦悩は携帯と、その向こうのネットをも透過するというわけか。
……とすると、司令官どのが欲しがっているのも、それなのだろう。
イェルンの苦悩。三英雄の一人の、ネットを伝わる苦悩で、UX3を変えたいのだ。
リアンが目指しているのとは、また異なったUX3を求めている。
一体、奴は何をする気だ? 今にも失おうとしている、UX3内での地位を固める算段か? それとも、UX3それ自体の地位を上げて、政府に対する発言力を得ようというのか? 何にせよ、ろくな物ではないだろう。
顔を上げて、失業者どもを見る。
何万人分もの負の感情で、ねじ曲がってしまった連中。
三英雄たる俺の情念は、こいつら数万人分より強いのだろう。
俺はどうするべきだ? イェルンは考えた。
そして、ゆっくりと唇を歪めて、笑みを浮かべた。
単純だ。
いつだって、単純な答えはうまくいくのだ。
強く握っていた携帯電話。それを思い切り投げる。
敵の一人が、それを顔に受けて吹き飛んだ。
報告書に関しては、少し荒っぽいことをしよう。
事実の水準に合った報告書を書くことはできない。
だから、報告書の水準にまで、事件の水準を下げることにしよう。
書くべきものが残らないまで。徹底的にやってやろうではないか。
イェルンの刀が叫び、全てのノイズをかき消した。
■あとがき!■
お読みいただきありがとうございます。
中層世界第3時代、カルガニルム共栄圏の物語です。
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