Get wildness and hang-up
降るような星空だった。
「ねぇ、カイン」
ふと、隣で寝転んでいる ユミリアの少女が声をかけてきた。
「ん、なに?」
「どうしてカインは 剣を使うようになったの?」
その言葉に カインは一瞬つまる。
「・・・どうしてかな」
少し昔を思い出した。
・・・たまには昔話もいいかも知れない。
体に巻き付けていた毛布を剥がし、近くの木にもたれるように座る。
すると、ユミリアの少女も同じように 木にもたれかかった。
その目はじっとこっちも見ている。
「たしか・・・」
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はじめたのは兄の影響だ。
・・・たしか、そうだったと思う。
兄のアイクが ある剣道場に通っていた。
時々、母と一緒に連れられて 兄の試合を応援に行った記憶が微かにある。
試合の後、汗で顔を濡らした兄の姿が5歳の子供に どんな感想をもたらしたのか、
兄の勝利を無邪気に喜んでいるカインに 一人の男がこう言った。
「坊やも もう少し大きくなったらおいで」
・・・たしか、その人が師匠だったと思う。
その言葉を言われてカインは ふと気がついた。
自分も活躍できるのだろうか、
兄のように 応援してもらって みんなの前で活躍を見せられるのだろうか。
・・・やりたい。
僕もやりたい。
カインは自分の隣で手を繋いでいた母に そう告げた。
道場では8歳から入門を受け付けていた。
当時、5歳のカインにとって 3年は余りに長い。
「嫌だ。待ちたくない。僕は今日からでも入門したい」
当時のカインに ここまで明確な 思考はなかったと思う。
しかし、それに似た「感情」を 知ったのは事実だった。
それが、最初の我侭だった気がする。
−−−もっとも、次にカインが我侭を言うのは 10年後だが。
5歳のカインのために、師匠は特別な修行コースを組んでくれた。
まだ身体ができあがってないから、と。
激しいトレーニングは控えてあり、その代わり型の指導が増やしてあった。
8歳になると それまでについた体力を活かし、
すでに10歳〜15歳までの子供と同じ鍛練ができるようになっていた。
・・・10歳の時、
門下生同士の練習試合で 兄を超えた。
手加減してくれたのかも知れない。
しかし、10歳のカインは16歳の兄アイクを打ち負かした。
この後、アイクは剣を辞めた。
後で聞いた所、元々辞めるつもりだったらしい。
最後にカインに自信をくれて剣を辞めたと悟ったのは
それからしばらくしての事である。
今では兄は すっかり柔和な人柄になり、
気弱とさえ思える程に 優しくなった。
14歳。
カインの剣才は 道場でも1.2を争うようになっていた。
師範代とやっても 3回に1回は一本を取れる。
門下生が相手なら 5回に4回は カインが勝てた。
そして、カインは自らの師に挑んだ。
それまで、胸を貸してもらっても 一度も勝てなかった師に。
・・・完敗だった。
何度やっても勝てなかった。
朝一番に勝負を挑み、夕暮れまで勝負を続けた。
しかし、カインに一本を取る事は一度もできなかった。
「カイン、確かにお前の剣は狼の牙だ」
夕暮れ、床に倒れて静かに泣いていたカインに師は優しく声をかけた。
「スピード、技、力。……多分、あと数年で わしを超えるだろうな」
しみじみと感嘆したように 師は呟いた。
「だが、まだ野生ではない」
「?」
「大人になったら世界へ飛び出せ、自分の生きたいように生きろ」
師がカインに こういう事を言ったのは初めてだった。
困惑するカインに 師は最後に こう呟いた。
「お前がこれ以上強くなるには『生きる』と言う本能が必要だ。
・・・それを知った時、お前はもっと強くなる。
その後は・・・。そうだな、一度悩め」
これから1週間後、
師は薬の量を間違えて 急死する事になる。
この言葉は カインの脳裏に しっかりと刻み付けられる事になった。
間近に控えた15歳の誕生日を機会に、
旅立ちを決意したのは この時だったのかも知れない
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「旅に出てから、俺は『生きる』と言う本能を身につけたと思う。
・・・だけど、その後の『一度、悩め』と言われた意味が分からない」
カインは 一つ溜め息をついて そう言った。
思索に耽るカインの顔を メグが不思議そうにのぞきこむ
「明日も いっぱい飛ばさないと…。俺は寝るよ。見張りよろしく」
「うん。おやすみなさい。お話し、ありがとう。」
メグはぴょんと立ち上がり 微笑みながらお話しのお礼を言うと
「じゃあ、いってくるね」
と見張りにつくために クレムのところへと駆けていった
・・・そう言えば 誰かに自分の話をしたのは 何ヶ月ぶりだろう。
降るような星空だった。
カインはもう一つの言葉を思い出していた。
『カイン、何十年か経ったら あっちで会おう。…いい男になれよ』
死ぬ間際に 師がカインに言った言葉だった。
「いい男に・・・か。なれるかな」
愛用の剣を 少し撫でて、
声には出さずに呟いた後、カインは再び毛布にくるまった。