中学校の先生


いつしか私は彼のとりこになっていた。
でもそれは誰にも悟られてはならない。絶対に。
先生なんて生徒の敵でしかない。
彼は車で通勤してくる。彼の車を停める所定の場所の前は花壇だった。
花なんて興味あったつもりはない。園芸委員でもなかった。
その花壇に毎朝水を撒きに行く。彼がやってくるまでずっとそこにいる。
誰にも見られるわけないし。って思ってたのは本人だけ。
それは何年も先のクラス会でわかること。
誰にも見られないわけはない。彼は毎朝自分が車を入れると走り去る生徒がいるのだ。
大人になってしまっている彼から見ればこんなわかりやすい生徒もないもんだ。
彼は日増しに不機嫌になるこの生徒に手を焼く。
職員室に呼んであげたら喜ぶだろうな。なんて、呼んでくれたんだかどうだか。
私は天にも昇る気持ちで職員室に入る。
「毎朝、人の顔見て逃げ出して、俺はいい気持ちはしないぞ」
次の日から私は自分に気がありそうな男の子にラブレターを出しまくった。
当然、同級生なんて、相手にはできなかったのにただ、彼に
「あなたはおじさんよ」
と見せ付けたかった。安易に人を振り回してはいけない。
次の春が来て私は見事に彼のクラスから外された。
ただ歩いているだけでも涙する私に彼の言葉は
「人間はな、生まれてくるときも一人、死んで行くときもひとりぼっちなんだ。」
私にはちっとも理解できなかった。
その次の春、彼は同僚と結婚した。その先はもう知らない。

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