バーチャルな男


貧乏人は嫌いだ。行きたいと思ったときにハワイにいきたい。
食べたいと思ったときに新鮮なシーフードが食べたい。

メールがちょこちょこ入るようになった。知らない人から。
私がそこら中の掲示板にアドレスを書きまくってるから。
全部に丁寧に返事を書く。どうせ主婦は忙しく仕事しなくても生活出来るなら、
楽しいお友達増やすことの方が大事。もちろん私は独身になりきる。
RE:を重ねるごとに中身がロマンチックになっていく。
会いたさがつのり、会う約束をする。
バーチャルと現実のギャップに必ず「げっ」と思う。
それでもここまでの段階ではお互いの気持ちはピタリと合っているのだ。
「げっ」の瞬間まで。

男の方は「今日中にHをしてしまいたい。」と考え、
女の方は「いいけど簡単に許しては軽く見られる」と少しのズレが生じる。

次の日からのメールはどんどん短くなっていく。
1日おきになり、3日おきになり、それでも切ってしまうにはおしみなくて、
だらだらと返事は出し続ける。
この男の場合、特に熱い文章とうらはらな貧乏さがたまらなかった。
ロマンチックが売り物なのだ。このバーチャルの世界は。

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