小学校の彼


とにかく小学校最後のこのバレンタインに誰かにチョコをあげなくては。思い出を作らなくては。
それも飛び切りドラマチックな思い出を。私が一番嫌って見えるあの子にしよう。

明子と二人でチョコを買いに行く。東急ストアが一番おしゃれだね。
どうやって渡すの?誰にも見られたくないから学校では渡せないね。家まで押しかけてピンポン押す?
明子。彼の家知ってる?そっか、近所だもんね。でも一人でいくよ。明子にも見られたくない。

ピンポンは押せなかった。門の前に置いてきた。青いスヌーピーのペーパーバッグ。
翌日の登校は少し勇気要ったけど、何もなかった。あっけなく。
名前も書いてなかったし、まさか私だから...。でも何でわかったんだろ。
今思えば前日彼は言ったんだ。
「バレンタインの日にな、家の門の前にチョコ置いてった奴がいるんだよ。誰か知ってるか?
知ってても言わないよな。でもな、石山に聞けばわかるんだよ。あいつは親分だから。」
私は石山さんとは仲良しじゃないよ。石山さんは知らないよ。
ホワイトデーは私と彼が日直だった。日直当番は掃除の点検をする。
日直日誌に○を書き込んで行く。その日もいつものように彼に無視されたまま点検が全部済んでしまった。
いつのまにか、私は彼を含む3人の男の子に取り囲まれていた。
「おい、かばん出せよ」
何をするんだ、こいつらは。いつもがいつもだから、私も硬い表情で睨み返す。
「あれだよ、あれ」
彼はいやそうな表情で言う。本当に今日は何という日だ?
「ほら、今日は...」
別の男の子がいう。
あっまさか、でもあれはわかるはずがないんだ。想いと裏腹に手はかばんを開ける。
明子、キャンディもらっちゃった。


もしね、あなた、これ読んでたら教えて。あれ、私じゃなかったら、私にキャンディどう解釈させたつもり?


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