傷ついた彼


「あ〜や!」
いつも呼ぶんだ。何も用事なくても。私もね。
「は〜い」
ってわかってても返事する。彼から見ると私は本当にかわいく見えたんだ。
きっと自分の所から離れたりしないって信じてたんだと思う。
彼の隣で私は不機嫌になることなんかなかった。ような気がする。
おとなしくしてりゃよかったのだろうか。彼の隣で。

浮気をしたことがある。
婚約してることも知ってて誘ってくれる人にいい気になって付いてった。
そして比べて、やっぱり彼がいいんだって、元のさやに納まった。
もちろん彼は知らなかった、と思うけど。

結納の前の日のこと。彼は朝、迎えに来ることになってた。映画か何か見に行こうとして。
30分ぐらい遅れてるんで、電話した。寝坊してた。
そんなことめったにある事じゃなかったけど、
「もう、今日はいい。」
何がそんなに気に触ったのか、そのまま婚約破棄にまで行ってしまった。
泣いてた。彼にしてみれば想像も付かない出来事...。
私はなにか楽しそうな事がある方へ行きたいばっかりに、
彼の寝坊を理由に無理矢理終わらせた。

私はもう彼の隣にはいない。次々と目の前に現れる新しいことに夢中になって、
彼のこと忘れてしまった。相変わらずちょっと波乱よりの普通の毎日。

menu