エレクトーンの先生


不思議と先生の前では声がでない。
いつも笑顔でいるのだけど、返事は肯くだけ。

まず、レッスンに入るとき、「こんにちは」が言えない。
戸を開けたときの音で、私が来たこと先生に気付いてもらう。
もし、1回で気付いてもらえなかったときはそっと出直して、
数分後に大袈裟な音をたてて再びはいる。
奥の部屋から先生がやってくる。
「今日は寒いねぇ。」
せっかく話し掛けてくれてるのにまた、肯くだけ、どうしても声がでない。
たまたまその週は練習してなかった。
毎日エレクトーンの前には座るのだけど、この曲が気に入らなくて別の曲ばかり弾いて暮らしてしまった。
しまった..とおもいつつ、つっかえつっかえ弾く私に、先生は見かねて
「練習してきた?」
と容赦なく聞いてくる。
また肯く。たとえうそになってしまっても、肯くしかしない。
首を横に振る事も出来なかったのだ。
「この曲はあやのちゃんには似合わないね。こっちの曲にしようか。」
先生はやさしかった。

レッスンが終わるとカルピスとかクッキーとかもらえる。
その時も「ありがとう」って言わない。

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