顧問ちゃん


「顧問ちゃん」と呼ばれている人がいた。
もう既に私はそこの席で3年も座っていたのに、
顧問ちゃんは彼の秘書に突然聞いた。
「あの子は新入社員かい?」
ちょっとした事件があって、2000人程いるその会社の管理職で、
私の名前を知らない人はいなかったはず。
(とぼけたやつだ。)と秘書の彼女は思い、
「もう、3年ほどおりますが。」
とだけ答え、2、3日後に私に報告した。
「姉ちゃんな、新入社員か?って聞いてたで。」
私も突然のことでびっくりした。二人でお茶室で笑いころげてしまった。
その2、3日後また秘書の彼女は顧問ちゃんに
「あの子はな、さびしいんか。」
とたずねられた。秘書の彼女は返答に困り、
「さびしい事はないと思いますが...」
そして、私に
「姉ちゃん口紅つけや。顧問ちゃん、心配しよるで。」
と報告してきた。
そう言えば今日は口紅忘れてる。あわてて化粧直しをした。
いや、それにしても顧問ちゃんはなんでそう私を気にする...。
それからというもの、顧問ちゃんは私の席を通りかかるごとに、
うれしそうに「心配ないで」という笑顔をこちらにむける。
ま、とりあえず、仕事しよ。

半年位、そんな状況も慣れて過ぎた頃、私は結婚がきまり、
社内でもそんな噂は広まりだしていた。
秘書の彼女が「顧問ちゃんが呼んでいる」という。
私は顧問ちゃんとは仕事の接点はなく、会話する理由が無かったので、
秘書の彼女も私も訳がわからなかった。
とりあえず部屋まで行って見ると、
「おめでとう。結婚されるんだね。」
と言われた。そして、とても高そうな壷をお祝いだと言って私にくれた。
秘書の彼女は「姉ちゃん、顧問ちゃんとなんかあるん?」
と不思議がっていたが、ま、人生には解らない事の方が多いのかもしれない。


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