上の住人


添い寝してる夢まで見てしまった。

引っ越してきたマンションの上の部屋に住んでいた人は同じ会社の人だった。
このマンションに決めた、というか、決められたエピソードはまた、別の話なのだけど、
その上、こんな話まであるなんて、良く考えたら出来すぎた人生だ。これは。
本人はこんなの、「ありえるだろうな」ってなもんだった。

会社では姉ちゃんって呼ばれてた。姉御肌?なわけない。世話の焼ける姉ちゃんなのだ。
年下の子は「姉ちゃん」上司達は「お姉ちゃん」。
上の住人は「姉ちゃん、、飯食った?」ってよく電話してきた。
ご飯の時間の度にベランダから下を覗いて、電気が点いてると電話する。
「まだだけど、おでん煮たよ、おいで」
「おー、今すぐいく!」
ほんとに30秒もしないで来るのだ。
おでんの中にゆでたまごを入れてあったのだけど、それが崩れて気味が浮遊してた。
「チーズ?関東じゃチーズいれるんか?おでんに」
さみしがりだから、こんな会話にすごく幸せを感じてしまった。

さみしがりは自己防衛手段で、うざったがりを同居させてる。
これは結果論になるか。そうじゃない。
さみしがりは、裏切りに敏感になってるうちに、期待しなきゃ裏切られないってこと覚えて、
ひとりになりたがる。ひとりはほんとに気持ちいいのだ。
自分以外のひとの分まで、お腹空いてるかな?とか眠くないかな、寒くないかな?
なんて考え続ける時間ってのは結構パワーが要る。
これをずーっと続けてれば慣れてわからなくなるのだろうけど、
さみしがりは、ひとりになりたがってひとりになってるうちに、
いざ、このパワーの要る時間になると、かなりうざったい。

上の住人には、愛情なんぞお互い芽生えたりはしなかったのだけど、
だからこそ、そんな人がいつでも手の届くところにいるというのが、便利だった。

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