しらないおばあちゃん


突然なのは当たり前なんだけど、裏のおばあちゃんが亡くなったって町内の班長さんが言ってきた。
そうは言われても、どのおばあちゃんなんだかも思い浮かばない。
次の日のお通夜に手伝いに出る。ここの近所でこんな事は始めてだった。
大きな工場跡ににわかにできた住宅地なので、古くからのご近所関係が出来てない街なのだ。
集会所には、誰も来てなかった。
棺が置いてある。この中にまだおばあちゃんがいてはる。

隣町の古くからある町内会の会長さんが来てくれた。
「こういうことはね、なれてないとわからないからね。」
しきってくれるらしい。
ただ、釈然と言われるままに、買い物に出たり、座布団ならべたり。
誰もこない。
17件の家が並んでる。これが、ここの町内会。

夕方になって、勤めを済ませたMさんが来た。
誰も来てない事にえらく憤慨してる。
とはいえ、とても小さな通夜だ。人手が足りない事もない。
「Aさんが、さっき犬つれてそこ通ってったで。よう挨拶せんかったわ」
わたしも少し(え?)って思った。
人が死ぬ時、例えば私だとして、
その直後こういった形で多くの人の生活を一時惑わしたりするのはいやだなぁ。
と感じてた。
棺のそばにはごく近い親族がつきっきりで悲しんで、
その周りをばたばたとお花はここにいくつおいて..とか。
さらにその周りを私を知らない人がお茶を配ってまわっていて。
けど、このおばあちゃん、かわいそう。
私、おばあちゃんのこと全然知らないし。だから、こうして手伝ってるのだけど。
誰もいないよ。

通夜も終わりに近づいた頃、Aさんが、びしっと喪服をきめて歩いてきた。
エプロンをしてる私を見て少し戸惑い、お愛想で
「なんか手伝おか?」
って言ってきた。
「受付を..」と返すと
「そんなんすんの?」
って返って来た。Mさんの目が「きっ」てなった。
私も、Mさんも、Aさんもおばあちゃんの事は知らない。
なんか、いやぁな気分。

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