船の時間がよくわかってなかった。 9時、と書いてあるのだけど、予約もいれてあると言われてるのだけど、 何時に何処へ申し出ればよいやら。 もしかして、この9時って座間味に着く時間?とかめちゃくちゃだった。 座間味に持ち出す荷物を始めはリュックに詰めて、 パソコンが入らない、という事になってスーツケースで持ち出そうと、 今詰めた物とここに残す為にスーツケースに入っていた物をベッドやら床に広げたりして、 それでもべつにあせって取り乱してるわけでもなかったが。 車は2日も停めておける場所が有るかわからないので、タクシーで行くことにした。 泊港ってのは「とまりこう」でいいのか不安だった。 沖縄って普通の読み方はしないみたいだから。 でも、旅の恥はかき捨てた者勝ち、ということで、「とまりこうまでおねがいします」 と言ってみた。返事がなかった。 けど、走り出した方向はあってそうだし。私も黙っていた。 そろそろ着くなぁという頃に「泊港はぁ、何階?」と聞くのでほっとした。 しかし、何階?って聞かれてもなぁ、立体になってる港ってのは?? 「座間味に行くんです」というと、「はい。」と言ってくれて、とりあえず、会話は成立した。 港の奥の奥の奥の方に車は入っていって、ほぼ先端のところの 「クイーン座間味」と書いてある船の前で停まった。 「これが、クイーン座間味」と言われてドアが開いたのでお金を払っておりた。 風が吹いていた。髪が顔に絡み付いて困った。 困ったのは髪のせいでなく、船の乗り方がわからなくて、の方がほとんどの理由だった。 誰もいないし、何もない。 もしかしたらターミナルかもしれないような建物のシャッターは降りていた。 そのシャッターの前に腰をおろし、波に揺れるクイーン座間味を見ていた。 相変わらず髪が絡み付いて困った。 土木作業員のようなお兄さんが5m程はなれたところに腰を下ろした。 真っ黒に日焼けしたおじさんがそのお兄さんの隣に腰を下ろした。 おじさんはたばこを一本吸い終えると 「8時にあくんだろうなぁ、」らしき事を言った。と思う。 7時20分だった。散歩をするには風が強くて気温と湿度が高かった。 タクシーが一台来て、絶対島の人だ、と確信してしまうようなおばぁさんが降りた。 トランクから「おおさか」と書いた麻の袋を含むたくさんの荷物を降ろして、 船の前に並べた。 もう一台来て、絶対島の人だ、と確信できるおじぃさんが降りた。 荷物はなかった。 まだ7時半なのに、シャッターがあいた。 その小屋の中に入ると風を避ける事が出来た。 「一時間前から受付け」とあったので、椅子に座って人々を観察した。 どうやら、おばぁさんとおじぃさんは夫婦らしい。 夕べの披露宴がどうとか話していた。おばぁさんばかりが話していた。 島というのは人口が少ないからこのおじぃさんとおばぁさんという組み合わせは、 私が求めている原子が手を繋ぐ関係では絶対無いはずだと思った。 窓口に係員が座るとそこにみんなが群がった。 それぞれ、「キャンセル待ち」と言われてカードを受取っていた。 乗船カードに名前と住所と予約N0.を書いて出した。 切符を受取るとひとまず落ち着いた。 朝の静けさはすっかりなくなって、若い都会の人から島のおばぁさんまで、 ありとあらゆる老若男女であふれていた。 乗船が開始されて船内に入ると席はそれほどうまっていなかった。 一番前の窓際に座るととたんに眠ってしまった。 ものすごい下降Gを感じて目を覚ますと席ではない場所にも女の子が座り込んでいて、 その上下するGに大騒ぎだった。 ひとりの女の子はかなりギリギリまで来ているようで袋を持っていた。 ここは船の前の方なので、上下の動きが激しい。 後ろに移動すれば嘘のように静かなのに。 きっとその子は島に上陸しても、今日一日は楽しく遊べない。 私は私で下降するときのGが楽しくてけらっと笑ってしまうのが決まり悪かった。 眠ってごまかそうにも、もう楽しくてどうにもできなかった。 島に着くと私が泊まる宿の名前を書いたフリップを持ったお姉さんがいた。 お姉さんの前に進むと私の名前を尋ねてくれて、車に案内された。 宿は港の真ん前だと聞いていたのに車で連れていってくれる。 ホントに道を渡るだけ車に乗っていた。 フロントで挨拶すると、ダイビングの予定の説明を受け、 5分後の集合時間を言われた。 朝から水着を着ていたので割と早く用意は出来たはずなのに、 15分もオーバーしていた。 他の人たちはさらに遅れていたので問題はなかった。 ガイドのしんすけさんは梅雨が明けたと教えてくれた。 5人の女性グループが来て、機材のセッティングにかかったけど、 一人だけおたおたしている人がいた。 ご本人も「もうブランクが長くて忘れてしまっている」と言っていた。 ボートキャプテンが女性でかっこよかった。 ポイントに着いてタンクをしょって、他の人がエントリーするのを待った。 陣取った場所を失敗した。一番最後になりそう。 「こっちから行っちゃっていいですよ」 と言われてやった!と後ろに倒れた。 ずいぶんと浅いところでエントリーした。 ちょっと試しにフリー潜行を試みた。だめっぽかったのでアンカーロープまで泳いだ。 ロープで少しだけ降りるとストンと海底に落ちていく感じがした。 海底を見ていた方が潜行しやすいらしいと気が付いた。 もしかしたら、いまさら、こんな事を言ってるかもしれない。 4人の女性達は慣れた様子だった。 一人の女性がやはりおたおたしていた。 その人と競り合ってガイドに着いていった。 グアムで見たより色のない珊瑚だと思った。 グアムでは珊瑚は丘と言う感じであったけど、ここのは岩という感じで置いてある。 お魚がどれもきれいで、私にとっちゃどれもめずらしくて、 どれを写真にして見せてやったら自慢できるのかわからないほどたくさんいた。 奈良の大仏様のいるところにある柱の穴ほどのトンネルをくぐると、 海底にスポットライトがあたったような場所があるので、 上を仰ぎ見ると、どうやら私は穴の中にいるらしかった。 その光が射し込む藍の様子を撮った。 お魚よりもこういうのがご機嫌だ。 いまいち、カメラの操作が良くわからない。 シャッターの感覚がある時とない時がある。 そのトンネルになっているエリアを抜けてすぐのあたりに、 その辺は水深が20m近くなっているらしく、 ほとんどが青い世界なのに、やけに黄色いふわふわした物体があった。 ガイドのしんすけさんが棒でそれをめくり、 ボードに「超ミニサイズのクマノミ」と書いた。 米粒ほどの大きさだった。水中でこの大きさなのだから、 空中で見たら見えるだろうか。よく君は生きていられるな。 きっと、近づいて写真にしてもその小ささは写せないだろうし、 それよりもその黄色い物体の方が興味あった。 クマノミがいるわけだから、毒のあるいそぎんちゃくなのだろうけど、 素手でめくってみたくてしょうがなかった。 遠くを見るときれいな珊瑚礁だった。 どうもフィルムが終わってしまったらしい、のが惜しかった。 カメラがなければないで、肉眼で楽しむ景色がまたよかった。 アンカーロープが視界に入ったのでそろそろ上がる時間だと思った。 これはあがるにはもったいなすぎる海なので、 なるべく後ろに回り込んで一番最後に上がろうと思いついた。 似たような事を考えてる人がもうひとりいて、 ボートのはしごの側でガイドのしんすけさんはえらく遠くにいる私たち二人を、 不思議そうに眺めてた。 ここでまた変な発見があった。 パーティの先頭でガイドをぴったりマークするよりも、 一番最後から着いていった方が余裕が出る。 なぜかはわからないが、そうらしい。 一度ご飯を食べに陸に上がる。 キャプテンの女性がかっこよすぎて、 そうだ、船の免許も取ろう、と思い付いた。 てっきり、スタッフも一緒にご飯を食べるものだと思っていたから、 ひとりで参加してもなんとかなるだろう、と踏んだのに、 一緒には食べてくれないシステムだった。 5人組の方々が、 「一緒にビーチで食べますか?」 と聞いてくれて助かった。 ビーチまではスタッフが軽トラで送ってくれた。 ビーチにもスタッフは実はいて、パラソルと茣蓙の用意をしてくれた。 お弁当を半分食べて寝転ぶと眠ってしまった。 真剣に眠っていて、スタッフの 「もう、車、来てますから」 と叫んでいる声で目が覚めた。 青い空、白い雲、青い海、白い砂浜にパラソル。お昼寝。 二本目もとりあえず、フリー潜行をトライした。 簡単に出来た。簡単すぎる・・・ 私の目指す先に海蛇のようなうつぼのような生き物がいた。 絶対、あんなものふんずけてしまってはただじゃ済みそうにない。 慌ててBCにエアを入れて中性浮力を取った。 それからそいつをカメラにおさめた。 さっき、気づいた通り、パーティの後ろから着いていくととても楽だった。 砂場をはいつくばる、ミノカサゴのような形の魚が何種類かいて、 あんまり興味あるもんでもないのに、 陸に上がったらなんとなく自慢できる写真になる気がして、 それに、彼らは大人しくてじっとしていてくれるから、 とりあえず、そんなモノばかりをたくさん撮った。 とはいえ、相変わらず、シャッターの感覚がある時とない時がある。 きれいなお魚は誰でも撮る構図な気がしてあまり撮る気になれなかったけど、 いや、動いているから撮れなかったというわけではないが。 けど、動いているから、 「あぁ、これ、いい構図だなぁ」 なんて思う瞬間もあまりないし。 そういえば、あやんはじっとしているものを撮らせたらすごい、とよく言われる。 大きく出させてもらえば、あやんは被写体は選ばない。例えば空缶だって撮れる。 じっとしていてくれれば。 プロから言わせりゃ、あたりまえなのだろうが。 だから、海の中も珊瑚や岩や差し込む光を撮っていたい。 それには自分もじっとしてなきゃならない。 ファンダイブでは難しい。 ところで、動くきれいなお魚に関しては、つがいのものに関しては撮った。 どうして自分達は同じ種類のお魚どうしだとわかったんだろう。 って、いつも考えてるけど、不思議だ。 目玉のおおきい赤いお魚の群れがあった。 前に水族館で見掛けていたく気に入ってる子達だった。 写真に撮るとフィルムがそこで終わってしまった。 アンカーロープのそばまで来てしまうと、 まってろという合図をしてガイドのしんすけさんがあの、 おたおたしている一人を連れて浮上した。 すぐに戻ってきて案内された先にクマノミの家族がいた。 すごかった。フィルムはなかったけど、感動した。 地球ってヒトのものじゃないんだなって思った。 なにが、所有権だ、登記登録だって思った。 しばらくそこにじっとした後、いよいよ上がる時になった。 またもや、一番後ろに回り込んで一秒でも長くこの無重力な世界にとどまろうとしていた。 同じように、ふたりで見え透いたずるい事をするのもまたなになので、 今回は私が折れて先に上がってやった。 帰りのボートで今日のログ付けを9時からラウンジでやる、と言われた。 機材を軽く洗って、部屋に戻り、シャワーを浴びて、メールの返事を書いたりして過ごした。 夕飯の時間がすぐに来て、食堂に降りた。 ひとり旅ではこの時間が一番、つらい。 つらいのでほとんど食べる事ができなかった。 確か、まずかった。 けど、どんなメニューだったのかも忘れたのでホントはまずい事もわからなかったはず。 最後のすいかくらいは食べれたはずなのに、となりにヒトが座ったので思わず立ち上がり、 その後いつまでも悔しがっていた。 南国に来たのに、フルーツを食べないなんて! 部屋に再び戻って、散歩ができるほど外は明るくないので、 ログ付けの約束までの1時間半をどうしようか、 マニキュアを塗っりながら考えた。 乾かす為に、じっとしていなければならないのでベッドに寝転んだ。 電話の音で目を覚ますと、約束の時間を45分も過ぎていた。 少しだけ、すっぽかすことを考えた後、すぐにラウンジへ向った。 ラウンジではクロアチア戦を観る人たちで大変な騒ぎだった。 ちょっと見渡したところ、目的のメンバーはいないので部屋に戻った。 頭が覚めてないままなので、ひきつづき眠った。