目が覚めた時は、夕べ早くから眠っていたので、きっと今は早い時間に違いない、とすぐに思った。 時計を確かめると6:30で、ぜんぜん早くないのが悔しいほどだった。 朝ご飯のことも聞いてないので、とりあえず下に降りよう、フィルムもついでに買おうと思い付いた。 下に降りると誰もいなくて、声を上げるのもはばかるほどの静けさだった。 フロントのカウンターの向こうに人影を感じたので呼んでみた。 フィルムがあるか聞くと、ない、という返事で、朝ご飯までの時間に外に買いに行く事にした。 前日にはあまり町並みを拝見するチャンスがなかったので、こののどかな風景にこの時初めて驚いた。 旅は朝がいいんだな、と。 明るいので写真映えする。頭の中に残る風景も鮮明。 舗装されていない土のままの道を踏みしめる自分の足音が、まるで映画のよう。 教わったスーパーがまた、うれしかった。 きっと、この島にはローソンは似合わないと自分達で気づいていて、わざと作ったような。 こんな小さなお店にならべられるだけの品物だけでだって、人間は、日本人は生きていける。 その割には、何に使うんだろうかと言うものまでそろっていたりする。 ワープロの原稿はさみ。 本州の中なら、スーパーにおいてある品物もたいした違いはないのだけど、さすがに、沖縄は違う。 けど、沖縄の為だけにこの製品を作ってるわけだものなぁ、と思うとそれもそれだ。 この独特の食品たちがお土産にいいと思い、お菓子の粉やら海草やらを買い込んだ。 あまり早く戻っても食事がみんなと一緒はやだからなぁと、その重い袋をぶら下げて港に向った。 くじらがシンクロナイズドスイミングをしている像があって、 草だらけの打ち上げられたくじらの像もあって、うれしくて照れくさかった。 戻ると朝食が始まっていた。 夕べすいかを残したというのがあったので、今朝は食べれるようにと思っていたのに、出なかった。 あまり食が進まなかった。 集合時間やらを確かめたかったのに、よくわからなかった。 昨日、一緒のパーティだった人達を見つけて聞いてみた。 教えてくれたボードをよくよく見て見るとわかった。その人達とは違うチームだと言うのもわかった。 集合場所にはまた一番乗りで、さっそくセッティングにかかるとレギュを忘れている事に気が付いた。 スタッフにそれを言うと原付を貸してくれた。 この島ではヘルメットはいらない。 おまわりさんはいなくても人を殺し逢ったりなんかしないものだ。 戻ってセッティングが無事済むとちょうどいいタイミングだった。 ガイドさんもパーティの顔ぶれも昨日とは違う。 みなさんは常連らしい。昨日のみなさんも常連らしかった。 一人で参加している私にはスタッフが気を使ってくれた。 一本目、潜行して他の人の潜行を待っていると、ガイドさんが何かを教えてくれていたけど、 どれの事を言ってるのかわからなかった。 なにしろ、目に見えるもの全てが素敵で奇麗なのだから。 二本目に移動する間、このガイドさんはいろいろと気を使ってくれたのに、 いざチーム分けをされたら別のチームになってしまった。 とはいえ、ほぼ同時に似たような場所に潜行するものだから、 写真を撮っている内にいつのまにか一本目のガイドさんの後を着いていってしまっていた。 着いてこられてしまったガイドさんは気が付いて教えてくれた。 探されてしまっていた。調子に乗りすぎ・・・ せっかく沖縄まで来たのに4本しか潜らないなんてもったいないと言われた。 そう思う。けど、観光も旅人としては大事な行事なのだ。 ここのガイドさん達はほとんど関東出身で、私もそうしてもいいかな、とも思うけど、 都会で暮らしてたまに来るから素敵なのだということはうすうす感じている。 宿に戻り、シャワーを浴びて、お弁当を食べて荷造りも済んで、船までの1時間ぼうっとできた。 この、「ぼうっとする」ってのは、旅のメニューには忘れずに入れておくべきだ。 ツアー会社が組んだ分刻みのスケジュール表なんて二度と見ない。 船の時間が近づくとこちらも帰るらしい家族連れが来た。 この家族連れが港の方に歩き出したので私もそうした。 道端の猫を写しながら歩いていると宿のお姉さんが車で送ると言ってきたけど断った。 船には今度は真ん中に座った。足元が広いように、固まりの先頭にした。良く眠った。 本島に到着して船をおりると、「空港?」と聞いてくるおっさんがいる。 知らない人にいちいち教えるわけないじゃん、と無視してタクシー乗り場に急いだ。 あの船に乗ってる人たちはほとんどタクシーに乗るはずなのに、 乗り場には5,6台しか見当たらないので急いだ。 急いだけど、急いだのは私だけで苦労することもなく乗れた。 さっき行き先を聞いてきたおっさんのことをタクシーの運転手は「白タクさん」と教えてきた。 出発前にまーが「白タクには気をつけるように」と言いながら「冗談だ」と笑っていたけど、 いるんじゃないか。あの子はどこまでがホントでどこからが嘘かの見分けが非常に難しい。 夜の予定は?とか、いろいろ聞いてきて、白タクでないこの人だって似たようなもんだった。 あそこがおいしい、とかここが良いとか。迎えにくるとか。 実は車あるんですよ、と言うとえらくがっかりして、その後すぐに、 この辺は取り締まりが多いから気をつけて、とまだ言っていた。 ホテルに着く直前にはわざわざ側にまでよせて停めてねばっていた。 結局、あのチャクラにもう一度行きたくてこの運転手の手には乗るつもりなどさらさらなかった。 部屋に戻って、適当にメールチェックなどして、また国際通りに向った。 チャクラの開演には時間があったので国際通りの一番端まで行って、引き返してきた。 お土産屋も覗きつつ。 開演時間を少々過ぎてから入ったのに、お店には誰もいなかった。 8時になったら始めます、と言われてそれまではグルクンを食べて過ごす事にした。 おいしいお魚だった。赤いお魚で、昼間海の中で見たお魚達の中にももしかしたらいたかもしれない。 小骨が多いのが難点だけど。 何人かお客が入って来た。 食べ終わったお魚を「ふっふっふ、食ってやった」と眺めて、写真に撮った。 目の不自由なお父さんをつれた青年が入って来た。 トイレに行くとか、アイスコーヒーを飲むとかいう細々した行動の手伝いをまめにこなしていた。 普通に、偉いなぁという感情を持ってたまに見ていた。 ステージが始まると先日気に入った曲が一曲目にかかってうれしかった。 喜納さんは今日はいない、と言われたけど、この方達の演奏が好きなのだ。 3曲ほどで一旦下がった。 喜納さんのお父さんを含む、いかにも民謡ステージが続いた。ちょっと当て外れ、と思った。 なによりも楽しみはエイサーであの高野さんにそっくりなダンサーの踊りが見たかった。 いよいよ、エイサーです、とアナウンスがあって、これを見たら帰ろうと思った。 すぐに、間違えた旨のアナウンスがあって、しょうもないすてーじがもう一つ続いてしまった。 その次はやっとエイサーだったのに、ダンサーは違った。 あの人ほど元気のある踊りではなくて、お気には召さなかった。 エイサーが終わると店はだいぶ混んできて、相席を言ってきたので一度は断った。 すぐに断れる状態ではなくなりそうなので、帰る事にした。 ちょっとがっかりだったなぁ、と考えながらお土産屋を覗きつつ歩いていると 「はいっこんばんわ」という男が居る。 あぁ、どこかで見た顔だなぁ、誰だっけ??と考えていると、 「さっき、板でしょ」という。居たでしょう?と言っているつもりなのだろうけど、 イントネーションはそうだった。 それで思い出した。目の不自由なお父さんの連れだ。 「ドライブ行くって言ったら行く?」 と聞くので 「お父さんはどうしたんですか?」 と聞き返した。 「お父さんは帰した」といい、「行きません」という私の返事など聞かずに歩き出してしまった。 角を曲がる自信に溢れた背中を眺めながら、 「行くわけないでしょう」と自分に言い聞かせた。 なんだか、たまたま対人拒否モードだからそうだったけど、 そうでない時の私は着いていきそうで恐い。 心の底で「う〜、着いてったら面白い事あったかなぁ」と考えながらホテルに戻った。