危ないところだった。 モーニングコールが鳴っているのという事はすぐに理解できて、 そんな思いで着信ボタンを押した。 「いい天気ですよ。」 やさしい、やさしい、松っちゃんの声。 「うん。水着買った。」 まだ言う事を聞かない私の手足口頭で出来るだけ元気に言う。 それにしても、こんなに楽しみなツーリングなのに、なぜ起きれないんだろう。 よかった。モーニングコールお願いしておいて。 シャワーを浴びて、出かける。 お店には15分前に着いた。 モーニングコールのお礼を行って朝ご飯を買いに行く。サンドウィッチ。 食べ終わるとまーも到着。 7:00になったのにまだ出発しない。 松っちゃんに「今日のあやん係は?」って聞くと、 少し困って「まーです。」と言われた。 いや、そうではなくて・・・まーは道順知らないじゃないか。 ウォークマンの調子を見ていると数人の固まりがこちらを見ていて、 どうやら呼ばれているらしかった。ブリーフィングが始まる。 これのことをブリーディングと言ってしまって、 まーが面白がった事を思い出して、また笑いそうになる。 どうやらリーダーは平川君でもないらしい。 そう言えば古谷さんは見当たらない。だから係りはまーなのか。 気が付くと速いチームだった。どうなることやら。 バイクにまたがってもなかなか出発しない。 人数が多いので収集するのも大変なのだ。 リーダーのヒロさんは道をよく間違える。 出発してさっそく一つ目の信号を逆に曲がろうとしてわらかしてくれた。 首都高ツーキングで上がっているはずの腕があれれれれ、 と初っ端から思い知らされる。 健太を乗せた松っちゃんが道の脇から手を振っていた。 なんで、一台だけなんだろう。 前日がとても暑かったので半袖のまま走った。 ときおり、ちりちりする日差しがあるものの、去年ほどの暑さではない。 今度は福田夫妻が道の脇から手を振っている。 なんで、オフチームはてんでばらばらに居るんだろう。 あっという間に京都の町並みにさしかかった。 太秦の映画村に寄る事になっている。 松っちゃん達のオフチームは何処かを走り回るらしい。 映画村よりそっちの方がいいな。 入るとすぐにソフトクリームが売っていたのでGETした。 それを見た人たちが「買お買お」と言って、真似してGETして、 そこで集まった5,6人で見学することになった。 ぞろぞろと江戸時代の町並みを歩いてみても、なんだか各々、あんまり乗り気にはなってない。 誰だ?発案者は。誰が先頭切って歩いてるのかわからないままついていくと、 ベンチがたくさん並んでいる広場があって、あぁ、座れる♪と座っていると、 目の前のセットの火山が燃え出して、家やら木やらが倒れてやぎの魔神が現れて隠れた。 倒れた家やら木やらが元の位置に戻るのがやけにゆっくりした動作だったので、 「さっさと片づけたらいいのにね。」 というとまーが 「油圧シリンダやから」 と答えて、さすが機械屋だ、と感心した。 またぞろぞと歩き出して、お化け屋敷の前で足が止まった。 どーせ、おもしろくないでしょうに。 と、嫌そうな顔を見つけられて、帰って入る気をそそらせてしまった。 鳥目なのだ。みえないのだ。恐いのではない。まーのかばんに掴まってあるく。 案の定、何事もなくあっというまに出てきた。 そのお化け屋敷のそばにあるステージでは「ちゃんばら教室」とやらが始まり出して、 興味がある者はそれを眺め、ない者は椅子に座って歓談した。 ちゃんばら教室は最後まで見たりする事なく、またぞろぞろと歩き出した。 昼食を摂る事になって蕎麦屋に入った。 暑さで汗ばんでいたので冷たい物にしたかった。 出されたお茶がおいしかった。そーめんセットにした。 隣にまーが座り、まーの前には団さん。私の前には森さん。 ずいぶん慣れたもんだな。 初めての忘年会がつまらなくて途中で帰ってしまった日など忘れてる。 そーめんを食べてる内に体が冷えてしまった。 団さんはそこら中の食べ残しを食べてていた。 「食べ物が目の前にあると処理してまうねん」といいながら。 私の残したいなり寿司などは一口で処理してしまった。 外に出ると集合時間まではまだまだあった。 この暑さの中をうろうろする気には誰もなれなくて、 屋内の子供向けのショーの前座を眺めていた。 いざショーの本番が始まると時間が来てぞろぞろとその場を去った。 出発の用意もまた時間がかかった。 みんながバイクにまたがってエンジンがかかっても、車道に出るのにまた時間がかかった。 のどかな日本の田園を駆け抜けた。 田園はやがて坂を登り出し、ついにはワインディングとなった。 先頭の女性はともかく、2台目の女性の丸谷さんは私とレベルはかわらなかったはずなのに、 ひとつひとつのカーブで私だけ置いていかれそうになる。 軽々と着いていってる彼女に少しショックだった。 太秦からは速いAチームと遅いBチームが混ざっていく事になったという気でいた。 ところが、速いAチームの半数がBチームに落第しただけのようだった。 つまり、本当に速い連中はふと気が付くといないのだ。 有料道路の入り口でいない人たちを待った。 「いまごろ楽しんでんでぇ」 と誰かが言っていた。 あんまりこないのでそのうち待たずに出る事になった。 有料というのはトンネルだけでその短いトンネルを出るとすぐに信号で止まった。 有料道路の先の道の駅でちゃんと休憩と聞いていたのになかなかそれが無い。 私たちの前を走る車がやたらセイフティドライバーで、よけいにだいぶある気がしたらしい。 私としてはちょうどいい速度だったのだけど、その道の駅に到着してから、 あの少し前まで私と同じレベルだった丸谷さんまでが「眠くなった」と言っていた。 いろんな人が「眠くてたまらんかった」と言っていた。 駐車スペースに仰向けに寝転がって休憩した。 車が一台入って来たけどそのまま寝転がっていた。 駐車スペースはまだまだたくさんあるから。 入って来た車はわざわざ隣のスペースに止めるので、「関西だなぁ」と思った。 思ったとたんにその車は奥の方のスペースに止め直した。 ここから琵琶湖まで60kmと聞いて、うげぇ、と思った。 600km走れるくせにこういうこともある。 逃走していた連中が合流したので出発した。 またもや、車道に出るのが時間かかった。 右折で入って来たので右折で出るわけで、車がなかなか途切れず、時間かかった。 普段からそのバイク乗りが妙に上手いと感じている女性がさっと出て、 車の流れを止めて、おろおろしている私たちを促した。感動した。 かっこよすぎなのだ。この人は妙に。 60kmはそれほど遠くなく、突然着いた。 「いかにも、ここはキャンプ場」と言ってる場所に着いた。 うれしい。 でも、もうすぐ日が暮れてしまう。 「松っちゃん!水着来てきちゃったんだよ!」 と訴えると 「入りましょう」 と言ってくれた。 他の人はそれどころでなく、タープを張ったり買い出しに行ったりした。 松っちゃんはお風呂があるのだけど、それが4時までだと言った。 「あと10分じゃん!」 入るのはあきらめた。 「お風呂なかったらやですよねぇ」 と松っちゃんも言った。 先日の沖縄で買ってきたオリオンビールが冷えてなかったので冷蔵庫に入れた。 社長は先に着いていて一人でビールを飲んでいたらしい。 けど、私たちの荷物を開けると怒られると言って、 わざわざ買って飲んでいた。 タープが張られたり、コンロが組み立てられたりしているところを、 私とまーはうろうろと見学して回った。 ランプを点けようとしているところを覗き込んで、 加圧されすぎたガスが一気に爆発して驚いた。 何人かの人はすでにビールを片手に働いていた。 まーもそのうち飲み出した。 実は、私と松っちゃんはオリオンビールが冷えるのを待っているのだ。 「もういいかな」と何度も冷蔵庫を開けては閉めて、 「バネは縮めた方がよくはねるんです」と松っちゃんに言われてた。 タープを張るのを少し手伝って、社長の世間話に少し付き合って、 もう待ちきれなくてビールを取り出した。2本、取り出した。 松っちゃんの前に掲げると「よくわかりましたね」と喜んだ。 かんぱーい!とずっとしたかった。沖縄でこれを買った時から、ここでこれがしたかった。 遊びたがりの松っちゃんが「フリスビー、バドミントン・・」と提案するので、 「持ってきたの?」と聞くと、「いえ。でもね、あるんですよ。あそこに」 と売店を指した。 バドミントンがいいなぁ、と思った次の瞬間、フリスビーが始まった。 誰かが持ってきていた。 私の肩を「いこっ」といって松っちゃんが叩いて、それがスイッチのように私が立ち上がった。 ビールがよく回る。 なにが楽しいんだか、けらけらとずっと笑っている。 置いて行かれていたまーが参加したとたん、食事が出来てしまって、 せっかくなので、健太と私と3人でもう少しだけ、と続けた。 長くは続けられなかった。 私の意識はどんどん細切れになっていく。 社長が平川くんに何かを語り、私に向かって 「古谷くん、いなくなるけど、遊びに来てや」 と言った。 悲しいとか寂しいとかいう気持ちは麻痺していて、 (ほらね、いなくなっちゃうんだよ) もう、誰とも仲良くしたくなくなる瞬間。 片っ端からそばにいる人に意地悪したくなる。 いなくなるくせに。 まじめに会話なんて、するのは癪。 こうなるとはっきり思い当たる節が次々と浮かぶ。 「なんか、引継ぎしてるな、って思ってたんですよ。」 かわいげなくそっけなく、言ってやった。 いらいらする。 少しのワインに群がる人達。 花火の中にいる。手渡されるたくさんの花火。 湖の中にいる。口の中に突然入った真水の気持ち悪さ。 いるかのようにはうまく行かないジャンプ。 水草を頭からかぶって女装する団さん。 ヒトの輪のなかで眠る。 運ばれてる。なんだか幸せ。 朝、目が覚めると、隣には松っちゃんもまーもいなかった。 音も聞こえない。 ごろっごろっと壁を見たり、天井を見たり、ずいぶん長いこと経ったようだけど、 だんだん退屈が絶えられなくなって階段をおりてみた。 外に出ると、もう、何人かは起きていて、 でも、しゃべるのはめんどくさかったので、うん、うん・・とうなずいていると、 「もーいっかい寝てこようか?」 と言われた。まさかぁ、あの退屈はもううんざりだよ。 釣りに行く人達が出かけて行った。 松っちゃんも行くなら連れていってもらおうと思ったのに、 行かないと言う。 まーも起きてきた。 さんざん、酔っ払って笑ってあげくに眠って、 目が覚めたって寂しい気持ちはそうかんたんに忘れられるもんでもない。 もうすぐ、ひとりで走らなきゃならない。 ひとりになっちゃえばいいんだ。 そしたら二度と寂しい目には遭わないで済むから。 コーヒーを作ってもらって飲んだ。