さすがにやはり暑い 上着を2枚脱いだ バスに乗り遅れてしまったので5分ほど歩かなくてはならない ちょうどいい せっかく高いお金と貴重な時間を割いて移動してきたのだから ここが沖縄なのだと実感できるくらいの汗をかくのはちょうどいい 待ち合わせている彼とはどのように落ち合ったらいいのだろう 同じターミナルの中での乗り継ぎなら 「せまい空港やから」 といって楽観していた私達の予定はそれほど狂わなかった これから二人で乗り込むJTAはここと違うターミナルから離陸する 彼も一時間遅れてこのターミナルに着陸するはずなのに、 私は 「ここを出ると再入場できません」 を出てしまった 暗い建物の中から光る出口が誘惑した 先にひとりでJTAのターミナルまで歩くことにした 3ヶ月前にここを訪れたときはもっと空気が重たかった 湿った空気と強烈に高い温度が苦しかった 普段暮らしている街はまだ夏になっていなくて たった3時間で真夏に飛び込んだわけだったから 今日は今日でさっきまで秋だったはずなのに、 また夏に舞い戻ってきた 突然時間を飛び越すよりは、少し後戻りするほうが楽なのだな 彼からの到着の連絡まではチェックインを待つことにした 正解 彼はすでに自分の街の空港でここのチェックインも済ませてあったから 席も決められてあった その隣の席を私も取ることができた ちいさな、ちいさな飛行機 羽のすぐ上の席で、窓から見える何枚もの鉄の板が複雑に重なり合うのを見て やけに無邪気過ぎる旅を始めた ここでもまたバスにおいて行かれた 空港の人の説明では飛行機が到着するとバスが来るしくみで 時刻表はないのだそうだ 建ったばかりのようなきれいな建物の前に不思議なオブジェがいくつかあった おとうさんがあぐらをかいている彫刻にすわる のんびりした時間と気温がバランスよかった さらにバランスよい時間が流れた時にタクシーは入ってきた 島の端の空港から反対の端の民宿村まで 草だらけの島だ 草の中に消防署がある 草の中に道がある この草の中に続く舗装されていない道の先に 伊豆諸島の大島で見た景色を想像した 運転手はなにやら説明している 彼はだいじなポイントだけ私に伝えてくれた これが海だとかこれが川だとか 草の向こうにこじんまりとしたホテルが見えて それを過ぎると居酒屋が集まっている村に着いた このなかに宿があった 口数はそう多くないおかみさんに案内されて 私達が泊まる部屋に行った 一戸建てだ 芝生の庭付き一戸建てだ お部屋がふたつ、お風呂もふたつ、おトイレもふたつ 玄関がひとつ これは私達の想像のなかで作られた家か?と思う程、 あつらえられている お腹が空いたので何か食べなくてはいけないのに ご飯を食べるお店が開いていない 「シーズンオフの観光地」 と彼が言った 人とすれ違うということもなかった 村の端から端まで探してもなくて、お土産やとコンビニを兼ねたような店で カップラーメンを買ってお湯を入れてもらった 部屋までお湯を入れたカップラーメンをそぉっと運んだ テーブルがないので畳の上に置いて食べる それぞれの部屋で、水着に着替えた 部屋からは見えないのだけど、 歩いて30秒のところにビーチがあった 誰もいなかった ということは私達が溺れた場合、発見もされないというわけだ 「あやんならなんとか助けられるけど、 俺が溺れたらとにかく人を呼びに行け」 と打ち合わせをしてシュノーケル遊びを始める 遊び半分な私にまじめな彼 沖縄とは思えない透明度の悪いビーチにお魚もいない それでも泳げる幸せは充分に感じた こんな時に見つかってしまったお魚が 岩の中に隠れたところを私達に穿り返される目に遭わされる そいつはなにかにかじりついているらしく、引っ張っても出てこない なにもしないで見ていたら出てきて泳いで行った 20分くらいで寒くなってしまって上がることになった 彼が渡してくれた貝を持って岸まで来ると 「持ってきたらあかん!」って怒られた そうとう、遠くになげなあかん・・とぶつぶつ言いながら投げてくれた 冷え切った体でふたつのお風呂にそれぞれで入る これはすばらしい 夕食は居酒屋で摂る 季節はずれの観光地でお客はいない 島かまぼこという、海藻を練りこんだかまぼこがおいしかった ガイドさんは3人もいた そして、3人とも喋らない人だった 多分、島の人ではないのだろうな、と言葉で感じた 元気のないガイドさんというのは始めてで、 でもすごく好感が持てる やっぱり潜行できなかった 彼に二回ひっぱってもらって海底に着いた 3人のガイドに私達ふたりとはなんと贅沢な・・ 何にも頓着せずにカメラに夢中になってしまった 上がるサインもなしに彼が上がる エアがなくなった者から勝手に上がるシステムだ 海水浴の為だけにあるような島で昼食を摂る 船から島に上がるとき、波打ち際で転がる貝をすくった あまりにできのよい形と色の収穫にはしゃいだ 貝にあんまりよろこぶとガイドさんに変な人ってばれて 彼に叱られたらやだなぁと思っていたのに ガイドさんはとくに気になるようでもなかった 砂浜だけの島のまんなかにトイレが建っている 貝殻を集める為に少し歩き回った ガイドさんのうちの二人は仲良くよりそって話をしている もうひとりは私達とは違う方向で貝を拾っている 彼ははだしで痛がりながら歩く 私は貝を拾うのに夢中 内地ではこんなにきれいな貝は拾えない ガイドさんは私を変と思うまでもなく一緒になって拾ってくれた ほら、やっぱりいい人達だ ご機嫌な私は二本目のダイブで大変なショックを受けた その日はとくに珍しいお魚がいたわけでもないけど 内地とは比べ物にならないほどカラフルなたくさんのお魚達は はじめ、それほど変だとは気がつかなかった 茶色くはばかる大き目の根に近づくとはっとした これは、珊瑚の死骸? 真っ白なテーブル珊瑚の半分以上が藻に覆われている 珊瑚は白だったか? 赤や、青や、黄色・・・ どういうこと?そんなに地球は大変なことになってるの? 人間が悪いの? もう、海はきれいじゃなくなるの? こんなに茶色くなってしまったら 今さらみんなで車に乗るのを止めたってもう遅いじゃない 嘘?幻想? 彼はちゃんと会話ができる 「あの、珊瑚、すごかったですねぇ」 ガイドさんにそう言っていた そうか、やっぱり思い違いでなくて、ホントに死んでたんだ ガイドさんが何かを説明している様子はそれほど慌ててもいないし、 興奮もしていない 復活するなら復活する、滅びるんなら滅びると 私も落ち着いて地球の歴史のひとつなのだ、と納得できた 彼がエルニーニョ現象は温暖化がなくても起こった特別気象だと教えてくれた 人間は無力なのだ 例えば珊瑚を救うだなんて言ったって ぜんぜん、太刀打ちできない大きな力の世界の話で それは自然という名前 人間が作られたも自然の中のひとつ もし、人間が自然を壊したと言うなら、自然が自然を壊したのだ あぁ、生かされているんだったんだな そろそろ、帰る予定を立てなければ、と飛行機の予約を入れた日 この滞在の中で同じ居酒屋に2回目に行くことになった店で、 「いつまでここにいるのですか?」 と聞かれ、 「あさって、帰ります」 と彼が答えると 「長いですね」 と言われた ガイドさんは実は貝のすごい人だった 一本潜るたびに素敵な貝をひとつ拾っては私にくれて 私も拾っては見せびらかしていた 雨の中でガイドさんの家の縁側でたばこを吸っていると 「久米島の貝をみせてあげる」 と言う すごい、おびただしい数の貝たちだった それらを加工した小物もすごかった 貝の論文を書いていた 神様しか知らなかったこのめぐり合わせを 友達に聞かせたら驚くだろう なんて素敵な旅なのだ! What a beautiful tour! 最後の晩、ガイドさんは夕飯を食べている私達を訪ねてくれて 絵葉書を二枚 「おみやげ」 と言ってくれた また来ることはあるのだろうか 私は旅人だからあまり同じ所になんども来たりはしないのだけど