誕生日の嵐 誕生日の前日は一緒に居てくれるという野洲君の提案に、素直に「わかった」とも言えなかったのは、 「どうせ、キャンセルくらうんだから」と守りに入っているせい。 前にキャンセルくらった事をいつまでも根に持っているんだと言うアピールもある。 「どうせ」という言葉を使うと、子供の頃は母親にしかられた。 何年かして、それの意味を理解してから、その言葉は久しく使ってなかった。 「あやんさん!なんで...」と中村が責めたけど 「他の土日ならともかく、そんな大事な日にキャンセルくらったらもう立ち直れないから。」と説明した。 弱虫なのはしょうがないにしても、その事をこんなに後までぐじぐじと引くくらいなら、 キャンセルくらって泣いても一緒だった。 いや、一緒なんかじゃない。まだマシだったはず。 野洲君以外の人と誕生日を過ごす気にもなれず、誰とも約束をしないでいた。 最近、野洲君以外のオトコといると泣いてしまう。 そうなると、もっとややこしいことにどんどんはまってしまうので、代わりの人を調達することもできないでいた。 その日が近づいても、誕生日を一人で過ごすということはそんなに恐くはなかった。 ただ、野洲君に素直になれないでいる自分がどんどん情けなくなってくる。 去年の誕生日を迎える前はたくさん宣伝して、おかげさまでとてもにぎやかな誕生日となった。 けど、それに集まってくれた人やメッセージをくれた人達にこの一年、なにもお返しをしなかった。 今年、その日が近づいて、やっと思い出してももう遅い。 情けない。 今年は三連休の中に誕生日がある。 何の予定も入れる勇気がなくて。多分、期待していた。 もう一度、野洲君が誘ってくれること。たとえ、当日になってしまっても誘ってくれること期待してた。 連休の、前々日の夜、妹と遊んでいたとき、おそらく妹の裏工作...おそらくでなくて、見え透いていたけど。 だって、どこかに電話を掛けにいった後、 「お姉ちゃん、携帯は?もってる?」 って聞いた直後に白々しい野洲君の電話だったから。 野洲君の電話は 「11月1日にお祝いしようよ。」 って言ってくれていた。 どうしても素直になれない。素直になれないって状態はこういうことなのだと始めて知った。 そして、素直になれてない状態のその場は素直になれてないことがわかってないって言うことも。 「してくれるの?ありがとう。」 という言葉を吐きながら心の中は「どうせ、これは義務なのよね。」 ホントにうれしくなかった。早く、この誕生日が過ぎてくれることを祈った。 嵐が去るのを待つつもりでいた。 去年の誕生日が素晴らしすぎたから、今年はどんなことがあっても泣けないって思ったしと。 妹の裏工作と決め付けて、その電話を終えた後、妹にその事を伝えることを思い付きもしなかった。 その日の馬鹿な行動にはさらにまだあって、その場にいた顔見知りの人たちに 「11月3日はみんな、ここに集まってお祝いするのよ」などとほざいて帰って眠った。 明日から連休、なので仕事もキリのいいところまで済ませたいし、 真紀ちゃんと海の予定も相談しなければならないし。 いよいよ、運命の連休を迎えるなどと意気込んでいたような気がする。 夢中になって仕事をこなしていると智生さんが「ちょっと、」と呼びに来た。 何か問題でも起きたのかと付いていくと、真紀ちゃんと洋子ちゃんもいて、 どこぞのサイトでも不具合かと思った。 「えー、お誕生日ということで。」 とワインらしき包みとカードをくれた。 やばい、また私はそんなことをさせてしまった。 本当に恐縮してしまって、お礼の言葉もわからない。 周りに居た人も 「気持ちだけですが、おめでとう。」 と言ってくれた。 自分の席に戻るとだんだんうれしくなってきた。 来年また同じ事で自己嫌悪に陥らないようにスケジュール帳にそれぞれの人の誕生日を書き込んだ。 8時半頃まで残業して、帰るときにまで「お誕生日の話題」は続いた。 これで20代のあやんは見納めだからね、とか。 野洲君とのことを洋子ちゃんは心配して 「元気だしてね」と言ってくれた。 夜になってとんピーさんから電話が入った。 2日の夜に食事をという誘いだった。 誕生日なのでと。 まだ、野洲君からのお誘いに期待を持っているので少し躊躇したのだけど、とりあえず、お礼を言ってお誘いを受けることにした。 もし、パーティのノリで2日はめでたく野洲君と過ごせたとしたらそこからとんピーさんには電話でお断りしようと思った。 その後、野洲君からも電話が来た。 明日、何時に来るのかと聞かれた。何時とも決めていなかったので答えにつまると、じゃ、来る前に電話してと言われた。 楽しみにしてるからと言われ私も同じように答える。 かなり、緊張しているので電話だと会話にならない。 結局、なんだかんだ心配した割に、一日目は海。その夜にお祝いパーティ。 二日目はもしかしたら野洲君と。その夜はとんピーさん。 三日目もお祝いパーティときちんと予定が入った。 海は3週ぶりだった。行きの車の中で真紀ちゃんに野洲君のことを聞いてもらった。 素直になって、野洲君と仲良くしなさい。と励まされた。 一宮までの裏道を説明されつつ。一宮は10年ぶりくらいなので、海岸の周りのことも忘れていた。 サイズはそれほどあがっていなかったので、ほっとした。 キャリアだけは長いのであまりへたくそなのがバレるのも嫌だったのでほっとした。 それでもいきなりショートボードはやめて、ボディボードで様子見をすることにした。 真紀ちゃんは念入りに準備体操をしていた。 アウトにでるとすぐに私の一本目が来た。 あっけなくカンタンにテイクオフできたものの、前で乗ろうとしているショートボーダーがいて悲鳴をあげた。 「ごめんなさい!」とえらく恐縮してるその人に、「少し大袈裟に叫んでしまったろうか?」と思った。 とはいえ、ぶつかってしまうのでワイプアウト。 戻ると真紀ちゃんはどう?とOKサインを見せた。 OK!という意味をこめた同じサインを返した。 それから何本かトライするものの、なかなか割れない波で思うようにテイクオフができない。 こんどこそグッドタイミング!という波が来たとき、気張りすぎて足を攣らせてしまった。 しかたないので、板をショートボードに替えに行く。 替えてから一本目、行こうと言うときに板を又の下に突っ込むとすぽっと抜けて前に飛び出してしまった。 一瞬、あっけにとられるだけだった。ワックスが効いてなくて滑ったのだと少し後に気付いた。 それからしばらくそのままいたのだけど、どうしても滑ってしまって、 テイクオフどころかポイントを移動するだけのパドルもできない。 また車までもどってワックスを上塗りする。 再びゲッティングアウトの時、どうやらセットが入っていたらしい。 どうしてもポイントまでたどりつかない。あと少しなのに、あのポイントまでたどり着かない。 その日の海では始めて野洲君のことを思い出した。 もう、3ヶ月も進展がない私達のことを思い出した。 一度、岸まで引き返して、ピークとピークの間からもう一度進んだ。 セットも入っていなかったのですぐにたどり着いた。 何度かトライしても思うような満足の行く一本がなかった。 そろそろお腹が空いてきたのでその満足の一本が出たらあがろうと思った。 真紀ちゃんもそうしようと言ったすぐ後、だいぶインサイドで、しかもバックサイドで、 とても満足とは遠いものだったけど、それであがった。 あがって、着替えをちょうど済ませた頃、真紀ちゃんもあがってきた。 なかなかおしゃれなアメリカン調の店を教えてもらって、ビールとハンバーガーを頼んだ。 海で遊んで、ビールをがーっと流し込み、 「男なんていらないね」と言った。 強がりではなく、心底そう思う。 野洲君を思う気持ちなんか覚えずに、毎日の仕事もそれほど苦痛でなく、海で遊んで、たまには飲みに出て。 そうしてずっと過ごせていられたら。 男を好きで居るという気持ちは、例えば野洲君がこの世に存在していなくても、 いつも必ず誰かに向けられているものであるから、これはあきらめるしかない。 真紀ちゃんはビールですっかりだるくなってしまっていた。 少し流すから眠っていてと言って車を南下させた。 太東では多い数の人たちが入っていた。御宿ではフラットで、部原もまさかのフラットだった。 もう日がだいぶ傾いてしまっていて、今から一宮に引き返しても一時間も入れない状態だった。 とにかくもどって入ろうと思った。 道は空いてはいなくていらいらした。 一宮に帰った頃には太陽は姿がなかった。あとは波が見える限り。 一宮の波は好きでなかったことを思い出した。 今度は嫌いな波などないようになるのだと決めた。 あがって着替えるときには暗くて寒くて。真紀ちゃんがいろいろ世話をしてくれた。 お昼ご飯を3時に食べたので夕飯は抜くことにした。 遊んで機嫌がよくなって私のまわりのことがすべていい方向に思考回路がまわる。 「なんだか楽しみになってきた。今夜。」と言うと真紀ちゃんもうれしいと言ってくれた。 「あさっても海、行こうかと思ってる。明日の夜、電話するね」と言って別れた。 家に戻って、私はそれまで妹は今夜の準備はあるものだとばかり思っていた。 どうやら、私の勘違いで、妹に電話して「今日、お誕生日しようって言ってくれてるんだけど」と言うと驚いていた。 私の方が驚いた。自分の自己中心的思考回路に。 それでも来てくれる気はあるらしくて、そこだけほっとした。 ただ、お金がないというので私のお金でパーティをする。なんとも言えない気分だ。 お風呂に入って化粧をして、再度妹に電話して。 来る前に電話してと言われてたのに、すっかり忘れて六本木まで来てしまった。 しないよりましなので車の中からかけると中村が「僕ひとりなんですよ。」という。 お店に着くと本当に中村だけだった。 雑談をしながら、またあの、嵐を過ごす気分がよみがえってきた。 店の電話が鳴って、それは野洲君で、今から来るという伝言を中村が伝えてきた。 そのうち、奥ちゃんや店長も来て人はだんだん増えてきた。 今年のお誕生日は自分から騒がなかった割にはみんな気を使ってくれて幸せだよな、って考えてた時、 ドアが開いて野洲君が入ってきた。「ごめん!」ってまっさきに私に言う。そのうしろに女の子が居た。 誰もフォローのできない空気がバリアとなって私を包んでしまった。 その女の子は私をちらちらと気にしてる。考えすぎと思えるのなら思いたい。 店長は絶対、野洲君のことに触れず私に話し掛ける。 居眠り運転の話になって「あやんちゃんはがんばりやさんだから」という、本当は深い意味などない言葉に反応してしまった。 がんばりたくない。今すぐ泣いてしまいたい。 「根性無しだよ。居眠りするんだから根性無しでしょうが。」 と反撃していた。 野洲君が隣にきて、「個人的にお誕生日のお食事しよう。」と言った。 このシチュエーションでは素直にならなくてもしょうがない、と自分に判決を下して、首を横に振る。 最低な誕生日。 なんども頭の中で繰り返される。サイテイ。 誰も「元気ないね」などと白々しい言葉など掛けられない。 野洲君だけはいろいろと話題を提供してくれるが、どうもまともに会話できない。 「こないだの電話、冷たかったし」と言われてむっとしてしまった。 「冷たくなんかないです」と冷たく言った。 お誕生日のお約束のステージが始まる。 ポーカーフェースを作りながら嵐が過ぎるのを待った。 お酒を飲んで、酔っ払って、なにもわからなくなろうとした。 ラムのロックなのでカンタンにそれは出来る。 すぐに気分が悪くなって、「烏龍茶をそのままで飲む」と言った。 まだ意識がはっきりしてるのがもどかしかった。 お客が増えてきて、店長も野洲君もこのテーブルから居なくなったとき、 妹に「もう帰りたい」と言った。 きっと、最初で最後の「帰りたい」だ。 お誕生日、と形どった花束とケーキを持って車まで野洲君は送ってくれるけど、 もう一刻も持たない。車が出ると振り返ったりはしなかった。 泣いて、眠った。 目が覚めると11時だった。 そうじと洗濯。頂いたお花の世話。するべきことはすぐになくなってしまって、実家に行った。 1時になっていたので、妹達の食事は済んだ後だった。 「つくって」と甘えると妹は作ってくれた。 悲しいときはラーメンを食べてることが多いな、と思った。 何年か前に別れそうな男とラーメンを食べたことを思い出した。 実家にいても悲しい気持ちをもてあますのでまた部屋にもどった。 先月に妹がもらった花束をドライフラワーにしてあったので、それを包んだりして過ごした。 不思議と泣いていなかった。夕方になる頃には悲しくもなくなっていた。 夕べは二度と会わないって思っていたような気がする。忘れた。 また行くことも有るだろうとなっているのが不思議でしょうがなかった。 とんピーさんが夕食に連れ出してくれるはずだ。よかった。断ったりしないでいて。 それでも、このまま一人で野洲君のことを考えているほうがいいともまだ思っていた。 少し、遅くなってやっと迎えに来てくれた。 この人と過ごしていた時間が前にあって、その時は二人の将来を夢見たりしてたこともあって、 別れたときはそれなりに嫌な思いもお互いして。 今夜はなんでこうしていられるのだろう。これも私が一生で何個か与えられる幸運な出来事のうちのひとつなのだね。 ひどいことしたのに。 車を停める場所に困ってさらに時間が遅くなってしまった。 ゴルフの帰りそのままでお腹がすいてるとんピーさんはめずらしく機嫌が悪そう。 30にもなってしまう私はそんなことでは動揺しないでいられた。 くるくると同じ所を回っているこの人にさっき通ったところのなかの停められそうだった場所を教えた。 やっと車を納めると焼き肉屋の場所に迷い出した。 もっと頼り甲斐のある人だったような、と思いつつ、 別に私の人生に何の影響を与えるわけでもないのだからいいがと冷たく考えていた。 焼き肉はおいしかった。私の髪がタレにつきそうになって、とんピーさんは正面からその髪を触った。 私にとってもこの人にとってもなんの感情もすでになくなっていることに安心した。 愛情も、憎悪も。 この後にお酉様に行くことにした。こうして、いろんな所にでかけていた。昔。 いい時代を過ごしたと思う。 私と言う人間は目の前に居る人が一番好きなのだとずっと思っていた。 それは間違いだったのか、私がいつからか変わってしまったのか。 とんピーさんと一緒にいるのも楽しいのだけど、野洲君を忘れさせたりはしてくれない。 真紀ちゃんに電話するのをすっかり忘れていた。 真紀ちゃんから掛けてもらってしまった。ベルが鳴ったとき、野洲君?って期待した。 12時が近づくと神社の前には人がたくさん集まってきた。 何が始まるのかわからないのだけど、私達はなにかわくわくして12時を待った。 人がたくさん押し寄せているのに、なぜか私の前だけ空間ができていた。 「どうして、ここだけ空いてるの?」って聞くと、 「お誕生日だからじゃない?」と答えられて、楽しくなった。 私が30になる瞬間をみんなが待ってるような気分に置き換えたりして遊んだ。 その瞬間がくるとたくさんの頭の上にたくさんのコインがふわっと噴水のように舞い上がった。 とても幸せな気持ちだった。 今日がお誕生日なのだけど、すでにだいぶ疲れていた。体力でなくて、お誕生日というモノに。 思いもしなかったところですごくうれしい思いをさせて頂いて、期待していた唯一のところでどん底に悲しまされて。 チャットを覗くとメッセージが入っていた。斉木さんから。今回、何度目の「うれしい!」だろう。 けど、いつものメンバから何もないことがなんだかさびしかった。 そんな風に思った自分は情けないとまた思った。 真紀ちゃんと海に出かける。普段と変わらないことをするこの日はあまり誕生日がどうとか考えることもなさそうだった。 天気図は二日前と変わってなかったので波情報も見ずにでかけた。 先日の夜の話を真紀ちゃんにした。 「なに〜!」と憤慨した。真紀ちゃんとお友達になれてよかったと感じた。 話しながらまた悲しくなってしまって私が言葉が少なくなったものだから、真紀ちゃんは自分の一年前の失恋の話をしてくれた。 海に着くとやはり波は二日前と変わらなかった。 ショートボードのパワーコードとボディボードのソックスを忘れていた。 パワーコードは買いに行き、とりあえず、はだしでフィンをはいてボディボードをした。 入ってすぐに気のせいかサイズが上がってきたように感じた。 気のせいだと思ったままテイクオフしてうまく行ったところを真紀ちゃんが正面から見ていた。 「あやん、うまーい!」と言っていた。 調子に乗って来た。次の波もうまく乗れた。テイクオフの瞬間目をつぶるほどサイズがあった。 ゲッティングアウトの時、はっきり気付いた。 keithが到着したのだ。 今年、最高の誕生日プレゼントだと思った。 お腹空いたし、気分がいいうちにあがるのもいい、と考え出したとき、片方のフィンを波にさらわれてしまった。 素直に上がって車に向かう時、右足の中指が痛いのでみると血がにじんでいた。 どこで何が遭ったのか思い付かなかったけど、とにかく痛かった。 車に着いてすぐにその血の所を洗うとフィンで靴づれのようなものを作ってしまったのだとわかった。 なぜ、海の中ではなにも感じなかったのか、その傷にあたるお湯は息を止めてしまうほど痛かった。 ショートボードは一度も使わずに帰らなければならなくなった。 連休に入る前に、「3日の夜はみなさんあつまりなさい。」などと余計なことを言ったせいで。 パワーコードは買わなくても済んだのだと、ちょっとくやしかった。大した事ではないのだけど。 連休の最終日なので渋滞を予想して下道を使った。真紀ちゃんが地図を見て指示してくれた。 指示しつつ、野洲君とのことを励まし。 運転しながら、何より真紀ちゃんと友達になれたことに感謝した。 美紀が電話をくれた。「お誕生日おめでとう!」って。 15年もの付き合いの美紀にまで...うれしかった。もったいなかった。 東京に着いたのは5時で、ちょうどいい時間だと思った。 確か店には5時にと言っていたような気がしたが、妹がのんびりかまえているので、それにまかせた。 夕飯を食べてもまだのんびりしていた。 7時半頃やっと「行きますか」と言ってくれて出かけた。 案の定、誰も居なかった。ケーキが買ってあった。申し訳ないことを結局したのだ。 ママからメロンを頂いた。和ちゃんから焼酎をいただいた。 妹はあまり機嫌がよくない。 和ちゃんが「ハッピィバースディ」を歌ってくれた。 ばちあたりな私は喜びが少なすぎた。 2時間ほど、妹は我慢(想像だが)した後、「帰りますか」と言って私の誕生日を締めた。 家に帰ってチャットを覗いてもあいかわらず何もなかった。 メールが一通あった。柚木崎さんから。うれしかったけど、やはり「やばい」と思った。 柚木崎さんのお誕生日が、ついこの間の日のはずだったから。 お返事をすぐに書こうとしたのだけど文面が思い付かず、柚木崎さんの出入りしているチャットに 「ありがとう、ごめんね。」と発言しておいた。 なにかされると「やばい」と思うくせに、誰か何か言いに来ないかと待ってしまう自分に自己嫌悪を感じるのに疲れて、 ソファで眠った。 目が覚めると1時を過ぎていて、またチャットを覗いたけど誰も来ていなかった。 悲しむわけにもいかないといいわけのようなことを考えて布団に入った。 野洲君に電話しようと思い付いた。電話したけど誰も出なかった。 今日は休みなのか?と思いつつまた布団に入って目をとじた。 30分程、眠れなかったのでまた電話してみた。 聡司が出て、野洲君に取り次いでもらった。 「あやんです。」 というと 「おー。まってたよ。」 と喜んでいた。これはまた思いもしなかった展開だった。 酔っ払ってるのかと疑った。 「12時前にかけて欲しかったなぁ」 と言う。掛けたけどとは言わなかった。 なんとか吃りながら先日の不機嫌を謝った。 「大丈夫だよ。」と言っていた。 不機嫌を謝ったとは言っても 「不機嫌でごめんなさい」とは言わなくて、ただ、「あの、あの、あの...」と吃るので 「なんだよ、どうしたんだよ!」と言うのに、 「ごめんね。」と言っただけだから、その不機嫌は大丈夫だと言ってくれたのではないかもしれない。 言いたい言葉は山ほどある。なにも言わないうちに 「また、あしたかあさってにでも電話頂戴」と言われてしまったので、 電話を切った。 ゆっくり眠った。 連休をやり過ごし、仕事に出かける朝、2個の丸いケーキに途方に暮れた。 去年の素晴らしい誕生日のフォローが出来なかった私に自分で今年はいいことがあってはならない、と言い聞かせてきたのに、 今年の誕生日は輪を掛けていいことがありすぎた。 ケーキを捨てられない。 朝ご飯に一個のケーキの三分の一を二切れにして食べた。 さすがにすごいものがあった。 2個のケーキを一人分づつに切り分け、実家の工場の3時に食べてもらおうと思い付いた。 自分でもなるべく食べなければと思い、4切れ残して箱に詰めた。 駅とは反対の方向の実家にケーキと、おととい作った妹のドライフラワーを持って行った。 母親に、夕べ頂いたものを報告し、ドライフラワーの説明をして駅に向かった。 職場に着いても二きれのケーキが体に残っていた。 そのケーキの甘ったるさが今年の誕生日の嵐をひとつひとつ思い起こさせた。 幸せな、幸せな私の人生にぞっとした。