田辺聖子 

うたかた 田辺聖子 講談社文庫

短編集。初期の作品5編を収録。
私は、この中の「虹」が好き。
これは、昭和32年の作品で、田辺さんの小説の中で、
最も早く活字になったものだそう。
失恋相手に、幸せになってほしいと願い、それと同時に、私も
幸せになりたいと考える主人公の前向きさに強くひかれる。
”イヤな世の中だったがそうとわかればだれよりも強靱に生き
ぬいてやりたかった。”
私もいい大人のくせに、いつまでも自分の将来に明るい展望を
持っているタイプだけど、迷ったり傷ついたりすることもしょ
っちゅう。
でも、そう。イヤな世の中だろうが、思い通りにならない人生
だろうが、精一杯自分なりの生き方がしたいもの。

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愛の幻滅 田辺聖子 講談社文庫

28歳のOL(小説中では「ハイ・ミス」)と妻子ある男性と
の恋愛小説。
タイトルの通り、楽しかった、あんなに楽しかった恋が、愛に
変わり、そして幻滅していく様子を描いている。
会っても前ほど楽しくない、会う回数が段々減っていく、でも
自分の心変わりに一番戸惑っているのは、自分自身。
修羅場はないけれど、そこがかえって、一番どうにもならない
のは人の気持ちだなと思わせる。
女の立場からは、あそこで家まで送ってくれていたら、あそこ
でもっとしつこく誘ってくれていたら、という場面がある。
でも、そういうことも含めて、恋愛というのは進んでいくので
しょう

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私的生活 田辺聖子 講談社文庫

田辺さんの小説のタイトルはどれも、小説のモチーフとなる言
葉が当てられている。
これは、お金持ちのぼんぼんと結婚して、仕事を辞めて、のん
きにそれでいて籠に入れられたような生活を送る乃里子が主人
公。
「私的生活」を失い、これってしあわせなんやろか、との問い
かけが日を追うごとに心を覆う。
そんな気持ちの変化がじわじわと押し寄せくる様子をじっくり
と描いている。

”私は思った、私の私的生活は、みんな剛に吸収されてしまっ
て、私自身の存在すらなく、剛の私的生活の一部分として私が
わずかに生き残ってるだけだって。”

田辺さんの小説には、決定的な瞬間というのは出てこない。で
も色んな出来事が重なって、何かの拍子で、自分自身の気持ち
に気付いたり、決心が付いたりする。
それが小説としての面白さというか、読んでいてじーんと心に
しみてくる部分。

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