吉本ばなな 

吉本ばなな 虹 幻冬舎

うれしかった。
すきなタイプの小説だったから。
ずいぶんと前に、友達と吉本ばななと江國香織の違いって?と話をし
たところ、彼女は「江國香織は考えて小説書いている気がするけど、
吉本ばななはもっと自然に書いている感じ」というようなことを言っ
ていた。どちらがいいとか悪いとかじゃなく、なんとなくわかる気は
した。

旅ものシリーズは、「不倫と南米」から読み始めてただけで、「SLY」
も「マリカ」も読んでいない。
なんとなく「うちわのり」が感じられて、どうも手を出す気になれな
かった。「不倫と南米」も当時、なんとなく小説に飢えていたから手
を出したものの、やっぱりそんなには好きじゃなかった。

でもこれはよかった。
私の好きなムーンライトシャドウ、ハネムーンにつながるものがあっ
たなあ。後半がぐぐっと読ませてくれた。

主人公と「ご主人様」が恋愛をするとしたら、それは世間が言うとこ
ろの不倫関係になる。だけど、ばななちゃんの小説のいいところ。大
地にしっかりと根を張っているような文章。が、二人をきっちりとい
い関係に描いていてとても好きだった。

・・・引用・・・

私はご主人様があの奥様を選んだ理由をなんとなく知った気がした。
きっと、彼女は彼のお母さんに似ていたのだろうと思う。
それはお金のことよりもずっと根深い問題で、たとえ今になって全て
のほころびが大きな破綻に結びつこうとしているとしても、そこには
長い歴史があった。その重みを思うと、気が遠くなりそうになった。
・・・

ここで私はなんだかとっても愕然とした。
ああ、そうなんだって。
思うに、男の人は、自分の母親と似た人をすきになることが多い。
だから、自分の母親といい関係を築けていなかった場合、母親と似た
人を好きになることはとてもつらい。母親に満たされなかった思いを
好きになった女性にぶつけてしまう。どういうふうに愛情をゆだねれ
ばいいのかわからないんだと思う。

恋愛と結婚は違う。延長である場合が多いとは思うけれど、それは恋
愛とはまったく違うステージに進むことを意味する。
いくら、今現在憎しみあっている二人だったとしても、その関係が夫
婦なのだとしたら、それはやはりとても重みがある。一つの家で一緒
に暮らしてきたという重み。
結婚している人と恋愛をするなら、その重みをすべて背負う覚悟がな
いとだめよ、なんてことは思わない。それは人によりけりだし。
だけど、私は不倫はいけないとは思わないけれど、それだけ「きっち
りとした」恋愛がいいなと思う。くさいものにふたをしたり、見てみ
ぬ振りをしたりするのはいや。

江國さんの「東京タワー」や「泳ぐのに安全でも適切でもありません」
「ウエハースの椅子」は、風に吹かれてさらさらとゆれているすすき
のような恋愛だった。弱い、弱いけど強い、ずるい、ずるいけど純粋。
そんな不安定の中の安定がすごく魅力的だった。

ばななちゃんのは、どこまでもまっすぐ。きちんと根を張った関係に
しよう、という意志をきちんとしっかり描いてる。

二人とも好きな作家だけど、私がこれから恋愛するとしたら、ばなな
型だな。(と完全にはまりこんでいるのだった。)

・・・引用

私はその時、ドラえもんやタイムマシンやいつもいっしょにいてくれ
るロボットや・・・そういう物語を考えた人々の深い孤独さえ想像し
た。もうどうやってもつながらない電話。どうしても聞けない懐かし
い声。それを解決してくれる道具やいつも一緒にいてくれて永遠に死
なない友だちを考えずにはいられない、人間の普遍的な悲しみについ
て、しみじみと考えた。

・・・

なんだかねえ。しみじみと私も考えました。

 

ハネムーン 中央公論社 吉本ばなな

今一つ、話題にならなかったという気がする。
次に出た「ハードボイルド/ハードラック」は、結構話題になったの
だけど。
オカルト色が濃い方が、好きな人が多いのかな???
でも私は、この二つを比べるなら、「ハネムーン」の方が断然好き。

海岸で拾ってきたきれいな桜貝をいつまでもオルゴールの中に入れて
おいておくような感覚。
日のあたる庭で、木の枝で落書きしていた日々。
いつまでもずっと大切にしたい感覚がうまくはめ込まれている。
おままごとのような恋愛で、二人ともとても未熟だけれど、
それでも、一生懸命生きている姿を淡々と描いています。

 

ムーンライト・シャドウ 吉本ばなな 福武書店「キッチン」

そこそこばなな好きな私ですが、これが一番好きなんです。
ばななちゃんは、ずっこけるかも。
「なんであれ?」って。

幼い小説だと思います。
雑な面もあるかもしれない。
でも、彼女の一番いい面が一番ストレートに出ている小説なんじゃな
いかしらって思います。
もうこんな小説は書けないでしょう。

あとがきにありました。

克服と成長は個人の魂の記録であり、希望や可能性のすべてだと私は思っています。

これこそ、この小説のよさ。

私はもうここにはいられない。刻々と足を進める。それはとめることのできない時間の流
れだから、仕方ない。私は行きます。
ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。また会える人がいる。2度と会えない
人もいる。いつの間にか去る人、すれちがうだけの人。私はあいさつを交わしながら、
どんどん澄んでいくような気がします。流れる川を見つめながら、生きねばなりません。

生きること。
生き続けること。
克服と成長。
希望と可能性。

大人になんか、なりたくないよって、泣きたくなることが時々ある。
前に進まなきゃ。わかってる、わかってるよ。
このままじゃ、だめなんだよって。
だけどこわいよ。
自分の尻を無理やりたたいているのではないよ。見えない何かを目指し
ているひたむきな自分をいかしてやらなきゃって、臆病なほうの私は、
精一杯背伸びしているの。息を整えて。バランスをとって。

そんな時に、読みたくなる小説。
もう何度も読んだ。
これから、何回読むのかな。

 

キッチン 福武書店 吉本ばなな

衝撃のデビュー作だった。

どのあたりが衝撃だったのか。
学校の作文の授業で書いているような文体なのに、
なぜか、すごくイメージの広がりが持てる文章なのだ。
それは、谷崎潤一郎著「文章読本」にあった

「最も実用的に書くと云うことが、即ち芸術的手腕を要するところなの
で、これがなかなか容易にできる技ではないのであります。

にもつながる、「芸術性」だと思う。

ここには、三編の小説が収められている。
どれも、愛する人の死からの再生を描き、
そしてどれも、人の弱さ、脆さが描かれているけれど、
それをきちんと描くことで、人の強さを感じられる。
かけがえのない瞬間、瞬間を紡ぎながら、一枚の丈夫な布が織り上がっ
ていく。

「幸せになりたい」と願っている人ばかりではないように感じる今の世
の中で、登場人物たちが「幸せになりたい」というまっすぐな思いを秘
めていることにすごく安心させられる。

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