東京で広く読まれている英語雑誌「メトロポリス」
2003年5月9日号)に掲載され
た記事。筆者はクリス・ベトロスです
楽しいマジックはいかが?

大人気の“どこでもマジシャン” 
デイヴ・レテンドレー

 人が童心に返るマジックほど、ステキなものはない。アメリカ人のマジシャン、デイヴ・レテンドレーが企業のパーティでマジックを披露すると、彼の近くに集まってくる経営者たちは、まるで8歳の子供に戻ったようだ。そこで彼は客の耳の後ろやポケットから、コインやトランプを取り出してみせる。30年以上、東京のエンターテイメント業界で活動を続けるデイヴには、企業や大使館主催のパーティやチャリティ・
イベントへの出演依頼があとを絶たない。最近では、横浜の「ティキティキ・ポリネシアンバー&レストラン」でも、火曜と木曜の夜にショーを行っている。

「8歳からマジックをやっている」というデイヴは、米国ニューハンプシャー州のロチェスター出身で、コネティカット州育ち。「マンガの裏表紙に載っていたカタログで、マジックのトリックを取り寄せた。練習して家族の前で簡単なマジック・ショーをやったよ。アメリカの小学校には、生徒が好きなものを持ってきて話をする『ショー・アンド・テル』という授業がある。他の子はカエルや切手のコレクション
を持ってきたけど、私はマジックを見せたんだ。先生が私の成績表に『デイヴのマジックは大人気だ』と書いてくれたよ。それが私のマジックに対する初めての批評だった」。

 デイヴがマジシャンという職業を選ぶことに、両親はあまりいい顔をしなかった。しかし彼は夢に向かって突き進んだ。「私はマジシャンと教師になりたかった。その願いは両方とも実現したよ。週末にマジック・ショーをしながら、25年間、日本の専門学校で教師を続けてきた」とデイヴ。「3年前に教師を辞めて、マジックに専念するようになった。今の私はビジネスマンのようだね。本や靴の代わりに、マジック・
ショーを売っているのさ」。

 デイヴにとって日本は外国だ。その日本で有名になった彼の顧客リストには、大企業の名前がずらりと並んでいる。J.P.モルガン証券(株)、インテル株式会社、ワーナー・ブラザーズ映画、ニナリッチ.・ジャポン、ダン&ブラッドストリート・コーポレーション、(株)コーブ・イトウ広告社、ヒルトン東京ベイ・ホテル、在日
米国商工会議所など、数え切れない。さらに10を超える日本のエージェントに登録して、北海道から沖縄まで全国を飛び回り、テーマパークやショッピングセンターでのショーをこなしている。ローリング・ストーンズがツアーで来日した時には、ホテルのスイートでキース・リチャーズにマジックを見せたこともあるという。

「忙しいけど、この仕事が大好きだ」と語るデイヴ。「週末は主にバースディ・パーティ、平日は企業のパーティやレストランのショーで埋まっている」。もちろん売り込みや練習のための時間も必要だ。鏡やビデオカメラを前に、自宅での練習は欠かさない。コインやトランプ、ロープなどを使った彼のショーはいつもユーモアにあふれている。自分のマジックを「ミニ・イリュージョン」と呼ぶデイヴは、レストランで
のパフォーマンスが何より好きだと言う。「私は自分をステージ・マジシャンだと思っていない。お客の目の前で見せるマジックの方が好きだし、皆も喜んでくれる。人をだますのではなく喜ばせるのが私のマジックの目的。トリックはそのための道具なんだ」。

「ソサエティ・オブ・アメリカン・マジシャン(米国マジシャン協会)」の終身会員であるデイヴは、オリジナルのトリックを考案するのが好きだ。「画家は絵を描く前に絵について考える。それと同じで、私もトリックについて常に考えている。レストランで目にしたことや道を歩きながら気づいたことを、マジックに応用できないかと頭をひねるのさ」。マジックは国境を越えて通用する。だが、日本語が堪能なデイヴ
は、その国の文化に応じてマジックにユーモアを織り交ぜている。「マジックはジョークのようなもの。観客をある方向に引っ張り、突然、思いもかけないオチであっと驚かせる。日本人には日本人向きの話題を使うようにしている。以前は、日本人のお客はステージに上がると照れたけど、最近はなくなったよ。私は人をリラックスさせるのが上手でね」と、いたずらっ子のように瞳を輝かせた。

 マジシャンという肩書きの名刺を、初対面の人に見せた時の反応を見るのが面白いそうだ。「テレビに出るマジシャンを想像する人が多い。私をデヴィッド・カパーフィールドやデヴィッド・ブレインのようなマジシャンだと思うらしい」。他のマジシャンのパフォーマンスはあまり見たくないとデイヴは語った。「他のマジシャンのすばらしい演技を見ると、無意識のうちにやってみたくなる。でも人の真似はしたく
ない。私のマジックの大半はスタンダードなものだけど、自分のやり方で、自分だけのマジックを作ってきた」

 悩みの種は、マジックのトリックを売る店や、トリックを暴露するテレビ番組だ。誰もが知っているように、マジシャンはタネ明かしをしない。「当然さ」とデイヴ。「私はタネ明かしをしたことは一度もない。それは、子供が持っている風船を割ってしまうようなものだからね。店で売られるマジックで、皆がトリックを知ってしまう
のは心外だよ。トリックを知ってしまうより、マジックを見て楽しんだ方がずっといい。そう思わないかい?」