2002年2月3日スーパーボウルの感想
「予想外の大熱戦/見落としていたヘッドコーチの実力」

 スーパーボウルというのはいうまでもなく優勝決定戦ではありますが、かといってそのシーズンで一番よいゲームか?というとそんなことはありません。実力差が圧倒的にあって一方的な凡戦になることもありますし、つまらないミスで一方が自滅してしまうお粗末なゲームも少なくありません。

 選手は長いシーズンを戦ってヘトヘトなはずです。そこをむち打って戦うわけですから、酷といえば酷な話です。しかしその先に待つものがあまりに大きいため選手は最後の力を振り絞れるのだと思います。過去にスーパーを目指して、その夢を果たせなかった多くの名選手。スーパーには出たもののあと一歩が足りなかったチーム。ニューイングランド・ペイトリオッツは過去2度のスーパーで共に大敗とまではいかなくとも、実力を発揮することなくあっさり負けています。記憶に新しいところでは5年前に、当時最強のグリーンベイ・パッカーズに、若きQBドリュー・ブレッドソーと名コーチ・ビル・パーセルズのコンビで挑みましたがいいところなくやられてしまいました。

 今回のスーパーはブレッドソーは残っていますが、彼の怪我の替わりにスターターを務めたトム・ブレイディーのあまりの活躍のため、今回は控えに甘んじています。またヘッドコーチはパーセルズの弟子に当たるビル・ベリチックというディフェンス重視の地味なヘッドコーチに替わっています。

 一方のセントルイス・ラムズはこれ又名伯楽ディック・バーミールヘッドコーチにより一昨年のスーパーに初優勝しその時のオフェンスの戦力がほとんど残っており、またオフェンス・コーディネーターのマイク・マーツというオフェンス重視のコーチがヘッドコーチになっています。つまり今回のスーパーはセントルイスのオフェンス対ニューイングランドのディフェンスという図式が成り立つわけですが、元々の戦力では一枚も二枚もセントルイスが上でしょう。

 しかしアメフトは戦力のゲームではありません。もちろんお話しにならないほど戦力に違いがあればそもそも勝負にはなりませんが、一枚や二枚の格の違いはヘッドコーチの頭脳次第ではどうにでもなります。つまり戦略・戦術こそがアメフトの醍醐味であるし、アメフトのチームの本当の強さはコーチの頭脳も加味して考えなくてはいけないのです。ゲームの分析はあとにするとして、まずゲームを追ってみましょう。

 ゲームが始まってまず最初に驚いたのが、セントルイスの最初のオフェンスシリーズです。40ヤード付近までリターンして、好位置を得たセントルイスはいきなり最初のプレーからノーバックの4ワイドレシーバー体型からのパスを選択しました。パスはインコンプリート。私はこの段階で「おや?」と思うと同時にイヤな予感がしました。

 アメフトは戦略のゲームだといいましたが、いきなりのノーバックはいわば奇襲作戦です。そして奇襲作戦を選択するのは「格下のチーム」なのです。もし本当に実力差があるのなら何も奇襲を使わずに自分たちのプレーを押し進めるのが勝利への近道なのです。それをいきなりの奇襲は奇をてらうHCマーツの策略というより、何やら自信がないことの表れのような気さえしたのです。次のプレーでは同じくノーバックで右にレシーバーを3人固める右トリップス体型など奇抜なフォーメーションを敷いてきます。しかも悪いことにRBフォークのランは止められ、結局パントに終わります。

 ニューイングランドのシリーズはシーズンで勝ってきた通りの(セントルイスのお株を奪う)リズミック・パスによるテンポのよいオフェンスです。セントルイスディフェンスを的確に読み、わずか2年目とは思えない落ち着きぶりでオーディブルを出すQBブレイディが頼もしくさえあります。しかしこちらもパントで最初のシリーズを終えます。

 次のセントルイスのオフェンスをFGにつなげ(ニューイングランドが止めたともいえる)ゲームはしばらく膠着します。勝っているのはニューイングランドとはいえオフェンスが思ったように出るわけではないし、相手はセントルイスです。20点くらい勝っていないとセーフティーリードはいえません。

 セントルイスはニューイングランドのキッキングチームがよいことを知ってか、逆にパントの場合フェアキャッチをせずにしつこくリターンしてきます。こういう心理的、物理的プレッシャーは非常に効果があると評価できます。しかしゲームは意外なところから動き出します。

 ある意味ニューイングランドのオフェンスが出ないのは仕方がないでしょう。しかしセントルイスも同様に決め手を欠きます。フォークのランは随所でビッグゲインを産むものの要所で止められ、むしろ印象としては押さえられているようにさえ見えます。そしてニューイングランドディフェンス陣はきっちり丁寧にラインがパスラッシュをし、ディフェンスバック陣はマン・ツー・マンで執拗にカバー。そしてラインバッカー陣はフォークを押さえます。このしつこさが利いてきたのか、激しいラッシュをかいくぐって投げたワーナーのパスをニューイングランドCBタイ・ローがINT。そのままリターンして最初のTDはニューイングランド、しかもディフェンスが挙げました。

 次のセントルイスのシリーズはリズムに乗れず3&アウト。ニューイングランドは時間を消費するため(ロースコアゲームに持ち込むため)のグラウンドアタックですが、こちらも時間を使い切ることができずにパント。セントルイスは次のシリーズで何とか得点をしないと前半が終わってしまいます。火がついた時のセントルイスオフェンスの集中力はただ者でなく、元々タレント揃いのため恐ろしいくらいの迫力があります。しかしここでも運に見放されました。

 ワーナーのパスをキャッチしたWRプロールがファンブル、これをニューイングランドにリカバーされ、絶好のポジションを与えます。前半のこり時間は1:20。このチャンスにノーハドルで挑むニューイングランドは負けじと集中力を発揮し、最後はブレイディからWRバッテンへのTDパスが決まりなんと前半終了時点で3−14の差を付けました。

 後半に入って不思議なムードになってきました。勝っているはずのニューイングランドはセントルイスの追撃に怯え思ったようなオフェンスができません。追う展開になったセントルイスは断続的には進むものの、コツコツとしたニューイングランドのディフェンスの目に見えない壁に阻まれます。

 3Q半ばワーナーのパスがまたしてもINTされました。WRがスリップしてルートを走れなかったためとはいえ、このゲーム3回目のターンオーバーでしかもきっちりFGにつなげられこれで2TD差になりいよいよセントルイスのケツにも火がつきました。

 3Qの終わりから始まったセントルイスのオフェンスシリーズは4Qに入り敵陣4ヤードまで迫ります。しかしここで何故か2回続けてパスを選択。しかも2回ともあわやINTというお粗末なパス。しかも残り10:29というところで後半3回目のタイムアウトを早々にとってしまいました。私は効果的なタイムアウトなら時間帯は関係ないと思いますが、追いかける方がタイムアウトがないのは痛いものです。

 結局このシリーズはディフェンスの反則にも助けられ最後はワーナーのQBスニークでTD。10−17の1TD差になりました。残り時間はまだ8分以上あり、セントルイスならこの時間で2TD挙げることも簡単なわけです。ゲームは妙な緊張感を帯びてきました。そして次のニューイングランドのシリーズは3&アウト。お膳立てはできたも同然です。

 残り7:44で始まったセントルイスのシリーズはつまらない反則で自陣7ヤードからのスタートになりました。自陣深くからサイドライン際へのパスは御法度です。何故ならINTされたあとリターンTDされやすいからです。しかしタイムアウトのないセントルイスはそんな御法度も何のその、右に左にパスを投げては前進していきます。ああこのまま行ってしまうのかと思った時にニューイングランドのディフェンスがワーナーをサックし必死の抵抗を図ります。パントでニューイングランドがボールをもらって残り3:44で自陣20ヤード。残念ながら指して時間も使えず2ミニッツワーニングを迎え、4ダウンでパント。セントルイスの最後のシリーズは残り1:51自陣45ヤードとタイムアウトがなくとも必要にして充分な時間があります。これだけの集中力があるなら最初からやっておけよといいたくなるようなワーナー渾身のパスアタックにより、わずか21秒で55ヤードを進みWRプロールにTDパスをヒットし同点としました。

 誰もがオーバータイムを考えました。そしてオーバータイムになれば地力に勝るセントルイスが有利なのは自明の理でしょう。しかしこのゲームをずっと支配していたのはセントルイスの地力や、気まぐれなモメンタムではなく、コーチ・ベリチックの冷静な頭脳だったことに我々は(少なくとも私は)まだ気が付いていなかったのです。

 セントルイスのキックオフでニューイングランドは自陣17ヤードからの攻撃。セントルイスはプリペンド・ディフェンスを敷き、ある程度の距離は許すが一発で抜かれることを警戒した緩いディフェンスを敷きました。まさにベリチックの思い通りです。

 この土壇場にコーチの期待に応える男がいました。そう恐れを知らないQBブレイディとプレッシャーに強いKヴィナティエリです。ブレイディもこれまでのスタッツが嘘かと思うほどの集中力を見せてオフェンスを進め、残り時間7秒、敵陣32ヤードのところでボールをスパイク。ブレイディはきっちり自分の役目を果たしあとはヴィナティエリに全てを託します。

 私の記憶ではキックにより勝敗が決したスーパーボウルはこれまでに2回ありました。第5回のボルチモア・コルツ対ダラス・カウボーイズのさよならキック(コルツが16−13で勝つ)。第25回のニューヨーク・ジャイアンツ対バッファロー・ビルズのゲーム(ビルズのキックが外れ20−19の最小得失点差ゲームに敗れる)。そんな歴史を知っていても、いなくても47ヤードのFGはいくらドームスタジアムとはいえ簡単に入るものではありません。ましてや勝敗を決めるキックです。そのプレッシャーたるやもの凄いものでしょう。しかしヴィナティエリはこれを決めました。ボールは美しい弧を描きど真ん中に決まりました。そしてタイムアップです。

 このゲームのMVPはQBブレイディに与えられましたが、私は間違いなくヴィナティエリだと思います。

 さて、このゲームのポイントですが、例え戦力的に見劣りがしてもきっちりと対戦相手を研究して、相手が何をしようとも自分たちの形で勝負に挑んだコーチ・ベリチックの作戦勝ちでしょう。オフェンスのがっぷり四つではどうしても勝ち目がない。だから、有利なキッキングゲームを最大限に生かし、しつこくディフェンスプランを守り、ラインはプレッシャーをかけ、ラインバッカーはランを止め、バックスはタイトにマークする。勝負において「自分たちの形」にこだわるというのは決して悪いことではないのです。

 考えてみれば、ベリチックはビル・パーセルズの弟子でパーセルズがまずディフェンスからチームを作り2度もスーパーを制し違う2チームでスーパーに出たたった2人のヘッドコーチのうちの一人なのです。ベリチックはその教えを忠実に守ったといえるでしょう。

 私はどうしてもセントルイスのオフェンスに目がいきそのことをすっかり忘れていました。また、セントルイスは結局正面からぶつかる横綱相撲ができなかったことが今回の敗因でしょう。3回のミスはセントルイスのミスというよりも、ニューイングランドの地道なプレッシャーのたまものといえるからです。

 それにしてもドラマティックなスーパーでした。決して好ゲームとはいえませんが、忘れられないスーパーになりました。


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