ディフェンスのフォーメーションの理解
ディフェンスのフォーメーション理解

 現段階でほとんどのチームがディフェンスのフォーメーションとして4−3ディフェンスを選択しているようです。では4−3ディフェンスと3−4ディフェンスでは何が違うのでしょうか?2001年は1チームを除き全てのチームが4−3ディフェンスを採用していました。私は昨年この項で「最も安定しているから」と書きましたが、どうやら少し意味が違うようです。今年はその辺も含めて話を進めたいと思います。

 まず、オフェンスのフォーメーション同様、ディフェンスのフォーメーションもいくつかのパターンに集約して考えることができます。ディフェンスのフォーメーションはオフェンスのフォーメーションより面白いと私は思っています。近代NFLでは非常に多彩で複雑でしかもダイナミックなディフェンスフォーメーションが開発されています。そのどれもが非常にシステマティックで仕組みを理解すれば、思わず膝を叩いてしまうようなものばかりです。


フォーメーションの前に

 まず、フォーメーションを覚える前に2つの基本的な考え方「マン・ツー・マン・ディフェンス」と「ゾーン・ディフェンス」の考え方を勉強しましょう。

 マンツーマンディフェンスについてはディフェンスのポジションのところでも説明しましたが、基本的に一人が一人をマークするというディフェンスの方法です。この考え方の基礎には元々アメフトは同じ人がオフェンスもディフェンスもやっていたという歴史的事実にあります。つまりサッカーや野球と同じく一人の人がゲーム中、出ずっぱりだったのです。オフェンスもディフェンスもスペシャルチームも同じ人です。

 クォーターバックは恐らくディフェンスの時にはインサイドラインバッカーをキックの時にはキッカーをやったと思われます(もちろん例外はあるでしょう)。いまだにクォーターバックがパントを蹴ることはあるようですし、パンターの中にはクォーターバック出身者という人もいるようです。何よりもパントフェイクでパスを投げるというプレーはクォーターバックが元々行っていたと考えればなるほど理にかなっています。


マン・ツー・マン・ディフェンス

 マンツーマンの考え方はディフェンスのポジションのところでも説明しましたが、基本的には最初から自分の守る相手が決まっていることになります。ディフェンスタックルがオフェンスガードを、インサイドラインバッカーがセンターを、ディフェンスエンドがオフェンスタックルを、アウトサイドラインバッカーがランニングバックを、コーナーバックがワイドレシーバーを、ストロングセーフティーがタイトエンドを、フリーセーフティーがクォーターバックをという具合ですが、実際こんなアホみたいなアサイン(担当)はしません。

 こういう1対1のアサインで勝負を決するのであれば、ボールの行き先を予め知っているオフェンスの方が有利なのは当たり前の話です。しかし例えばコーナーバックとワイドレシーバーのマンツーマンはほとんどが誰が見ても分かる1対1の攻防です。ぴったりと併走してフィールドを縦に走る2人を目撃することはゲームの中でも多いと思います。

 その一方でフロント7人(ディフェンスラインとラインバッカー)のアサインは度々変わるし、もし味方のディフェンスタックルがダブルチーム(二人がかりで一人のディフェンダーをブロックすること)で押さえられていれば、そのとなりのディフェンスエンドかインサイドラインバッカーはフリーになっているはずです。その時にわざわざ自分にアサインされたオフェンスの選手を追いかけたりはしません。誰がボールを持っているか、どこにボールが飛ぶか、クォーターバックをサックできるか?つまりオフェンスはあくまで「アサイン」が仕事ですが、ディフェンスの仕事は「リアクト」(反応)なわけです。

 しかしいかにリアクトであろうとより複雑に、よりスピードを増すオフェンスに対抗するにはマンツーマンでは限界があります。1つには単純に個人の能力で勝負すれば、190センチを超えるようなワイドレシーバーをマークするコーナーバックは180センチ台の身長しかない場合が多く、しかも後ろ向きに数歩走るコーナーバックに対して、エンドゾーンに正対して全力で走るワイドレシーバーとの戦いは圧倒的に不利です。もしバンプがうまくいかなければあっという間に抜かれてしまい、パスが通ってタッチダウンです。

 中央部でも同じ事がいえます。スラントインしてきたワイドレシーバーはインサイドラインバッカーの目の前を通ります。そこにパスが投げられれば「イヤ俺の担当じゃないから」とは言っていられません。ワイドレシーバーをラインバッカーが追いかけるのです。そこでスピードのミスマッチが生まれます、そしてオフェンスは当然それを狙ってくるのです。そこで考え出されたのがゾーン・ディフェンスです。


ゾーン・ディフェンス

 ゾーン・ディフェンスの考え方も基本的にはシンプルです。最も分かり易くは下図のように、4人でショート、3人でディープにゾーンを作りそこを各々が守るという考え方です。基本的にはゾーンを敷くには7人のディフェンダーが必要とされています。パス攻撃が多いNFLでは20年以上前からゾーンが主流といっていいと思います。下図は4ショート3ディープの基本的な守り方です。

 4ショートに対してラインバッカーは3人しかいませんから、通常は体の大きいストロングセーフティーがショートゾーンのカバーに入ります。当然ディープゾーンは身軽なコーナーバックとフリーセーフティーですね。

 マンツーマンとゾーンの一番の大きな違いは「マンツーマンが人を守る」ディフェンスであるのに対し「ゾーンはボールを守る」ディフェンスです。例えばマンツーマンではコーナーバックはボールの行方は見ません。ひたすらにマークするレシーバーを見て、彼がボールを取る動作に入ればその目や動きを見てボールをカットしたりその前に入りボールを取ったりします。そのプレーがランプレーだとしても行動は一緒です。レシーバーがダウンフィールドを走ればそれについていくし、レシーバーがダウンフィールドブロックに行けばそれを抑えます。

 一方ゾーンは自分のゾーンにレシーバーが来るかどうかをチェックするのが第一の仕事です。しかしチェックしたからといってそのレシーバーをマークするわけではありません。マークするのはあくまでもボールです。当然ボールキャリアーが走ってくればそれに向かってタックルに行きます。そしてパスの場合はボールが自分のゾーンに飛んでくれば間違いなくそのボールにリアクトします。つまりボールが投げられた瞬間に全員がボールに向かうのがゾーンの要点といえるでしょう。

 ゾーンの基本は4ショート3ディープであることは上に書きましたが、そのほかにショートゾーンを強調した5アンダー(この場合ショートというよりアンダーということが多い)2ディープ、は共にパスラッシャーに4人が割けますので、より攻撃的であると言えます。

 またパスラッシャーを3人にした場合、5アンダー3ディープや6ショート2ディープなどよりゾーンを細かく割り振ることができますし、ロングパスを警戒する場合は4ショート4ディープなどというディープゾーン重視のフォーメーションも可能です。

 ゾーンの弱点はシーム(縫い目)と呼ばれるゾーンとゾーンの隙間です。優れたクォーターバックはディフェンスが4ショート3ディープで守っているのか、5ショート2ディープで守っているのかなど、ディフェンスのゾーンを読みます。そしてそのシームをレシーバーに走らせるのです。シームを走るレシーバーに二人のディフェンダーが反応すれば開いているレシーバーを探します。場合によっては「あそこはあっちのゾーン」とでもディフェンスが思えばそこにパスをヒットすれば通るのはほぼ間違いありません。


ローテーション

 実はゾーンディフェンスにはマンツーマンにはないもう一つの利点があります。それは「ローテーション」です。マンツーマンといえども、毎回同じ選手をマークしないことは上で書きました。しかしいくらそうだとはいえ左サイドのコーナーバックが右サイドのワイドレシーバーをマークすることはできないわけです。

 しかしゾーンであれば、それと似たようなことができるのです。それがローテーションであり、それを発展させたのが「ゾーンブリッツ(下で解説)」であるともいえます。ではローテーションとは何か?上の図で4ショートのゾーンに対してラインバッカーは3人しかいないのでストロングセーフティーがそこへ入ると書きました。しかし上の図のように右から2つ目のゾーンに入るとは限りません。一番右でも左でもいいわけです。

 真ん中のゾーンにセーフティーがいればオフェンスが目論む「スピードのミスマッチ」の影響は少ないと考えられます。故にクォーターバックはセットした時にディフェンスの誰がどこにいるかをチェックするわけです。また逆にわざと考えられない位置に立ち新米のクォーターバックを混乱させたりもできるわけです。


フロントとセカンダリー

 さてディフェンスの基本フォーメーションは4−3ディフェンスか3−4ディフェンスでしょう。もちろん5-2や特殊なパスディフェンスを無視することはできないし、今でもNFL以外ではそれを基本に使われることがあるでしょう。しかし要はフロント7人の割り振りと考えていいと思います。

 因みに下図は3−4ディフェンスです。NTと書いてあるのは「ノーズタックル」のことで、NGと書いて「ノーズガード」ともいいます。2人のディフェンスタックルの代わりに入ります。その代わりラインバッカーが4人になっています。外側のラインバッカーがアウトサイドラインバッカーであるのは一緒ですが、ミドルラインバッカーの代わりに二人の「インサイドラインバッカー」(ILB)が入ります。

 お気付きのように4-3も3-4も5-2もポイントはフロント7の人数の割り振りです。5−2というフォーメーションはランニングバックが3人いたようなラン時代の名残でもありますが、いまでもゴールラインディフェンスやショートヤーデージのシチュエーションでは見られるフォーメーションです。しかし近代NFLにおいてはディフェンスラインの役割はランのストップということよりとにかくクォーターバックにプレッシャーをかけるパスラッシャーの役割の比重が大きいわけです。

 どんなにマンツーマンできっちりレシーバーをカバーしていても、クォーターバックにレシーバーを探す余裕があれば、かなりの高確率でパスは通ってしまいます。パスを防ぐ最大のポイントはクォーターバックに投げさせない(サック)、ノックダウンさせる(投げ終わったあとにタックルするとラフィン・ザ・パッサーの反則になるので、投げ終わる前か、同時にタックするして、肉体的ダメージと恐怖感を与える)、(そしてその結果怖がって)投げ急がせる(ミスの元)、カットする(はたき落とす)ということになります。


4−3か3−4か?

 ではチームはどうやって4−3と3−4を選択するのでしょうか?答えは割と簡単です。優秀なディフェンスラインが4人いれば4−3、優秀なラインバッカーが4人いれば3−4ということになります。昨シーズンまで4−3がほとんどでしたが、それは優秀なディフェンスラインが多いということと優秀なラインバッカーが少ないという両面からの選択なのです。

 そしてヘッドコーチなりディフェンスコーディネーターがどういう考えを持っているかという点もあると思います。あなたがヘッドコーチならディフェンスをどう組み立てるでしょうか?とにかくでっかいデブを真ん中に3人立たせておいて、小柄だけどスピードのあるラインバッカーを4人揃えた方がいいと考える人もいるでしょう。いやいやそうではない、クォーターバックへのプレッシャーのために機動力のあるラインを4人並べ、3人のラインバッカーでアンダーニースを固めると考える人もいるでしょう。

 チームによって事情は様々でしょうが、ほとんどの場合この両方のシステムを併用することはありません。オフェンスはTフォーメーションもIフォーメーションも1ゲームの中で使いますが、何か理由がない限り4−3と3−4を併用することはありません。

 そしてこの選択が大きく意味を持ってくるのがブリッツというディフェンスの攻撃によってなのです。


ブリッツ

 ブリッツは元々「電撃」という意味で軍隊用語で「奇襲」という意味です。ディフェンスラインのパスラッシュはブリッツとは呼びません。ラインバッカーとセカンダリーがスナップと同時にスクリメージを越えてラッシュにいくことをブリッツといいます。オフェンスは元々「誰をブロックするか」決まっています。しかしブリッツが入ることによってそのアサインに混乱をきたすこともできるのです。

 ブリッツはギャンブルであると同時に本来は受動的であるディフェンスを能動的に動かす策なのです。つまりブリッツが入るということは基本的にはマンツーマンディフェンスのはずです。上で勉強したようにゾーンには7人必要です。フロントは4人。3−4ディフェンスなら1人ブリッツに入れますが、4−3ディフェンスなら人数が足りなくなってしまいます。そしてオフェンスは身長差のミスマッチを狙うのか、スピードのミスマッチを狙うのか、そこにランを展開するか、選択を迫られます。相手にヒントを与えるということは逆にディフェンスの思うつぼでもあるのです。

 その面白い例がまずブリッツに行くということを予め見せておいて、オフェンスをコントロールする考え方です。ものすごく単純にいえば、ブリッツを見せればオーディブルで必ずランをコールするクォーターバック(こんなアホはNFLにはいませんが)がいれば、ブリッツを見せるだけでディフェンスの意図通りのオフェンスになり守りやすくなるわけです。まぁ、ここまでの例は極端だとしても、ブリッツが入ることによりパスプロに破綻をきたすことが期待できます。つまりオフェンスのアサイン以外の人間がスクリメージに割って入るわけですから、当然アサイン漏れがでてきます。そのディフェンダーがクォータバックに襲いかかるのですから、パスのミスは起きるでしょうし、ランの場合もブロックのミスがでます。


パス守備

 とにかく近代NFLのディフェンスコーディネーターの苦悩はいかにパスオフェンスを止めるかにあったといっていいと思います。オフェンスの側に3ワイドレシーバーや4ワイドレシーバーのフォーメーションがあるように、ディフェンス側にもそれに対抗するディフェンスフォーメーションがあります。

 まず3ワイドレシーバーに対抗する「ニッケルディフェンス」です。これは5人目のディフェンスバック(彼を「ニッケルバック」と呼びます)を入れて守ります。下の図のNBがニッケルバックです。ニッケルバックを入れるとフロントは6人になります。パスラッシュを維持したい場合はラインバッカーを2人にして、パスラッシュを減らす場合はディフェンスラインを3人にします。ニッケルというのはアメリカの5セント硬貨の愛称がニッケル(ニッケルでできている)だからついたのです。つまり意味は5という意味です。

 同様に4ワイドレシーバーに対抗するには6人目のディフェンスバック(ダイムバックと呼ぶ)を入れます。つまりダイムディフェンスです。下図のDBは(ディフェンスバックもDBですが)ダイムバックのことです。ダイムは10セント硬貨の愛称です。5セントの次だから6人目はダイムという(ちょっとこじつけっぽいですが)わけです。ディフェンスラインを4人のままにするなら、ラインバッカーは1人ですし、ディフェンスラインを3人にするなら、ラインバッカーは2人です。

 ニッケルディフェンスもダイムディフェンスも考え方は同じです。マンツーマンにおいてはミスマッチを減らすためにパスカバーのスペシャリストの投入ですし、ゾーンにおいてもディープゾーンをより快速で小回りの利くセカンダリーにカバーさせようというものです。いくらNFLの選手が優秀だといってもラインバッカーにディープゾーンをカバーさせるのは辛いものです。

 因みに見た目で最も分かり易いのはオフェンスがハッシュマークの狭い側にワイドレシーバーを3人出した「トリップス」というフォーメーションを取った場合、ディフェンスはゾーンを敷けません。自分の守るゾーンに2人以上のレシーバーが入ってきたらマークしきれないからです。この場合ディフェンスにニッケルバックかダイムバックが入っていないと必ず一人はミスマッチがおきます。


ゾーンブリッツ

 どんなフォーメーションにも流行廃りがあって、新しいフォーメーションが考案されれば必ずそれをうち破るディフェンスが考案されます。何よりもウエストコーストオフェンスが全盛になり、より進化したディフェンスが考案されました。

 それがゾーンブリッツです。ゾーンブリッツの最もわかりやすい点はラインバッカーやセカンダリーがブリッツに入ると、代わりにディフェンスラインがアンダーニースに下がるということです。つまりラインバッカーがブリッツに入れば当然彼らの守るアンダーニースは人がいなくなるわけです。クォーターバックもそう勉強しています。そこへタイトエンドがまたはランニングバックがスルリとそのゾーンに走り込めば5〜7ヤードはいただきです。

 しかしゾーンブリッツはそこにいない人がいるのです。ディフェンスラインです。パスプレーと見るや彼らはショートゾーンのカバーにはいるのです。もちろんスピードの点では劣りますが、それでもいないはずのゾーンに人がいるのです。

 一方そんな理屈よりももっと単純な驚きがあります。つまり基本的にアメフトではライン同士の攻防はボールの行方を抜きしにして毎プレー行われます。ほとんど相撲の出稽古のようなものです。そしてオフェンスは常に「自分がブロックする選手」が決まっているのです。それがゾーンブリッツでは自分の担当は後ろのゾーンに下がり、変わって知らないディフェンダーがスクリメージを割ってこようとするわけです。当然アサインメントに混乱が生じます。

 この結果クォーターバックに迫る危機は増大し、オフェンスの意図はもろくも瓦解します。このゾーンブリッツは90年代後半から隆盛を極め、現在でも多くのチームが取り入れています。


Copylight NO TIMES NETWORK INTERNATIONAL INC.1997・2001