スペシャルチームの理解
まずはその重要性の理解

 スペシャルチームというのは「キッキングチーム」とか「リターンチーム」とか呼ばれるほんのわずかな時間しか活躍しない人達のことです。しかしこのチームを軽視するチームは絶対に安定した勝ちを望めないし、例え目立たなくとも「オフェンス」「ディフェンス」と「スペシャルチーム」は同格であると認識しないといけないのです。

 とはいえ、それはあくまでもチームを作る上での話で、TV観戦する我々がスペシャルチームのことを深く理解する必要はないかも知れません。

 しかしこのページを読んでいる皆さんは「もっとNFLを楽しみたい」と思っている方だと思います。でしたら「スペシャルチーム」を軽視することはできません。私は実はスペシャルチームが一番好きかも知れません。アメフトのゲームの中で一番ダイナミックなシーンは「キックオフ・リターン・タッチダウン」だし、もっとも緊張するのが試合終了間際の「逆転フィールドゴール」のシーンだからです。

 この項を読んで目から鱗、となることを願って先に進みましょう。


キックオフ(キッキングチーム)

 キックオフです。NFLのキッカーはキックオフの時だけ「キッキングティー」というボールを安定させる小さな台のようなものを使うことが許されています。たまに見ますが屋外のスタジアムで風邪が強い時はティーの上に置いても倒れたりしますので、ボールの上から人差し指で押さえるホールダーがついたりします。しかし通常はティーの上にボールを置いてキックオフです。

 キックオフの時のボールは30ヤードにセットされています。数年前までは35ヤード上だったのですが、キッカーがあまりにぽんぽんエンドゾーンまで蹴り込むのでルールが改正になりました。エンドゾーン(もちろん相手の)でキャッチされてボールデッドになった場合またはエンドゾーンを越えてしまった場合は「タッチバック」といって、リターンすることなくリターンチームは自陣20ヤードからのオフェンスに自動的になります。つまりタッチバックになるとアメフトの見せ場の1つであるリターンがなくなるのでルール改正になったのです。

 それでも例えばデンバーなどのように標高1600mと高地にあり気圧が低いところではエンドゾーンまで届いてタッチバックになることが結構あります。そして何人かの優秀なキッカーは標高などに関係なくどんどこエンドゾーンに蹴り込んでいたりもします。

 キックには2種類あって普通にポーンと蹴り込むキックと、ボールを転がす「スクイブキック」とがあります。スクイブキックは蹴りミスをした時にもそうなりますが、狙ってやる場合は相手にリターンしにくくさせる狙いがあります。アメフトのボールは楕円形ですので、一旦転がるとどこに行くかは誰にも予想できないし、なかなかキャッチしにくいのです。普通に蹴ればボールは綺麗に回転しながら飛んでいくので、それほど大変でもないのですが(それでも変化したりする)転がり跳ねるボールはもっと大変です。確保に手間取っている隙にキッキングチームがカバーすることが狙いです。

 キックオフの時にボールがエンドゾーンに届けばタッチバック。ではサイドラインから出たらどうでしょう?その際は実は「反則」になって、その地点がレシービングチームに有利であればそこからオフェンス開始、不利であれば5ヤード下がって蹴り直しです。覚えておきましょう。それともう一つキックの時の重要なルールがあります。それはボールは10ヤード以上飛べば確保の権利は「両チーム」にある、ということです。

 見たことはありませんが、キッカーが高くボールを蹴り上げて全員がその下に集まればあとは捕まえた人のものです。そのことを利用したプレーに「オンサイドキック」というのがあります。

 通常はキックするとボールは敵チームのものになります。ボールが敵チームに渡れば攻撃権も当然相手チームのものになります。しかし自チームが負けていて時間がない。どうしても「もう1回攻撃したい」時、わざとに10ヤードギリギリしか飛ばないように(しかもスクイブキックで不規則に転がるようにして)加減して蹴ります。そちらのサイドに大人数のキッキングチームを揃えて一斉に飛びかからせます。運がよければ味方チームが確保して攻撃権を得ます。これがオンサイドキックです。

 さて、最初のキックオフはゲームが始まる前にコイントスで決め、第3クォーター開始時には最初にレシーブしたチームが自動的に蹴ることが決まっています。オーバータイムといって延長戦になった時はまた新たにコイントスを行います。

 またキックオフもプレーの1つなので、ボールが蹴られるまではスクリメージラインを越えることができません。越えると「オフサイド」で10ヤードの罰退です。

 キッカー以外のタックラーは左右に展開して全力でボールの落下点を目指します。ボールがリターナーに確保されリターンが開始されたらタックラーは「コンテイン」といって包み込むように包囲網をしき、リターナーを止めます。リターナーを敵陣20ヤード地点以下で止めればキッキングチームの勝ち、35ヤードくらいまでなら引き分け、それ以上ならビッグゲインでリターンチームの勝ちと考えていいと思います。リターナーは平均して20ヤードのリターンで合格です。因みにキッカーの背番号は必ず覚えておくといいと思います。キッキングチームの最後の砦はキッカーです。キッカーが抜かれるとあとは誰もいないのでほとんど「リターンタッチダウン」になります。


キックオフ(リターンチーム)

 リターンチームの目的はなるべく多くリターンすることです。エンドゾーンでボールをキャッチしたリターナーは自分が20ヤードよりもゲインできると思えばリターンを開始し、無理だと判断すればその場で膝をついて(ニーダウン)ボールデットとなり「タッチバック」で自動的に20ヤードからの攻撃になります。

 フィールド内でもリターン放棄の場面があります。例えば20ヤード地点にボールが落下してくる時に目の前にタックラーが迫っていて、あまりゲインできそうもない、もしくはボールをキャッチした瞬間にタックルされてボールを落としてしまうかも知れないという時はボールが落ちてくる前に手を左右に振り「フェアキャッチ」のシグナルを出します。審判はそれを確認するとキャッチした瞬間に笛を吹いてボールデッドになります。

 つまりリターンを放棄するのです。リターナーはルールでフェアキャッチのシグナルを出したら3歩以上は動いてはいけませんし、タックラーはリターナーにタックルすることはおろか1ヤード以内に近寄ると反則になります。また、キャッチ自体をしなくてもいいことになっています。その場合ボールが止まった位置でボールデッドになります。

 逆にリターナーが触ってからボールを落とすとそのボールはフリーボールとなり確保したチームのものになります。跳ねたボールがリターンチームの誰かに触っても同様です。

 さて、リターンチームはルールで、自陣45〜50ヤード以内に5人のプレーヤーがいないといけません(キックオフと同時に彼らは後ろに下がって壁を作らなくてはならない)。つまり残りの6人のうち一人がリターナーになり、あとの5人がリターナーの直前で壁を作って進路を守ります。ですから大まかにいってリターンチームの壁は2段になっているわけです。

 上手く壁を作れて穴が開けばリターナーは大きくリターンできます。私は今まで2回ほど残り1秒からのキックオフでのリターンタッチダウンを生で見ていますが、これほど爽快なものはありません。

 リターンチームはボールを確保した段階で(考え方としては)オフェンスになるのですが、フォワードパスはできません。代わりにラテラル(平行)パスか後ろにピッチすることはできますので、そういうトリックプレーやオフェンスのところで説明した「リバースプレー」などをやって大きくリターンすることもたまに行われます。


フィールドゴール

 タッチダウンで得点することができない場合、フィールドゴールで得点できることはご存知だと思います。フィールドゴールは通常第4ダウンでパントを蹴るかフィールドゴールを蹴るか?という選択の元になされます。もちろん得点した方がいいわけですから、第1にはフィールドゴールが上げられるわけです。

 NFLのフィールドゴールの記録は62ヤードだったと思います。フィールドゴールのヤード数の計算方法は簡単です。ゴールラインからゴールポストまでは10ヤードあります。ボールのある位置からホールダーの位置までは7ヤードです(ショットガンフォーメーションのQBの位置です)から、ボールの位置プラス17ヤードで距離が計算できます。ですから62ヤードのフィールドゴールということはボールが敵陣45ヤードにあったことになります。真ん中まで行けば得点できるキッカーなんて絶対に欲しいものです。

 しかし通常はこんな距離のフィールドゴールはNFLのキッカーといえどもその精度はグンと落ちます。キックオフの時に70ヤード蹴るのとはわけが違うのです。

 フィールドゴールの時はキックティーを使うことは禁止されていますからボールを押さえるホールダーの役割が重要になります。センターが(ショットガンフォーメーションの時と同じく)ロングスナップをしてホールダーにボールを投げます。ホールダーはそれを受け取り、ボールを人差し指で地面に立てます。その際にくるりとボールを回してボールのレースをゴールの方に向けてキックの邪魔にならないようにします。

 因みにこのように地面にボールを置いて蹴るキッカーを特にプレースキッカーともいったりします。これはキックオフのキッカーも同様で、パンターとの区別をする時に使われます。キッカーはホールダーのセットしたボールから7ヤードの地点から3歩下がって、2歩利き足と反対側にずれてセットします。ゴールポストまでの距離や風向きなどを計算して、あとはゴルフのショットと一緒です。ヘッドアップしないようにボールだけを見て足を振り抜くのです。

 キックを蹴ったあとのキッカーはオフバランスになっており、とても不安定です。怪我の確率も高いので彼らを守るルールがあります「ラフィン・ザ・キッカー」です。キックを蹴り終わったキッカーにディフェンダーが触ろうものならキッカーは大袈裟に倒れ(本当に倒れた場合はなおさら)イエローフラッグが出て15ヤードの罰退です。

 このときにもしフォースダウン10ヤードのシチュエーションでのフィールドゴールなら、当然15ヤード進みますから、オフェンスは自動的にファーストダウン、フィールドゴールではなくてオフェンスを続けることができます。また同様にもしフォースダウン5ヤードでフィールドゴールの時に、ディフェンスがオフサイドするようにわざとケイダンスのタイミングをずらしてもしディフェンスが引っかかればオフサイドで5ヤードの罰退ですから、これ又オフェンスが続行できます。フィールドゴールのシーンといえども気が抜けない証拠です。

 また試合を決める重要なフィールドゴールのシーンの時はディフェンス側がわざとにセットしてからタイムアウトをとることがあります。「プレッシャータイムアウト」などと呼ばれ、キッカー、ホールダー、センターにプレッシャーをかけるのです。センターがロングスナップをミス、ホールダーがセットミス、キッカーが蹴り損なうなど、落とし穴はいっぱいあるからです。

 最近ではフィールドゴール用のキッカーとキックオフ用のキッカーを分けるチームもあるようです。フィールドゴール用にはベテランのプレッシャーに強く正確なキッカーを、キックオフ用には若くてとにかく飛距離の出るキッカーをという風にです。チームによってはキッカー専門のコーチもいるくらいです。


パント

 プレースキッカーに対してパンターはボールを地面において蹴りません。パンターはセンターから14ヤード後ろにセットします。ロングスナップでボールを受け取るとボールを自分の少し前に放り投げてステップをして空中にあるうちに蹴ります。その時に予めボールには回転を与えてレースが足にあたらないようにします。

 パンターの仕事は非常に繊細です。キッカーのようにとにかく遠くに蹴ればいいということではなくて、様々なシチュエーションで様々な蹴り方が要求されます。パンターは大体40ヤードから60ヤードくらいの距離が蹴れれば1流のようです。しかし単に距離を蹴ればいいということではなくて、高さが必要な局面もあります。

 パントを蹴るとTVの画面に「Hang Time」というのが出ます。滞空時間ということです。大体4秒を超えれば合格です。つまり距離が出てもライナーで相手に素早く届けば味方のコンテ院が間に合わなかったりして、それだけリターンされるわけです、それよりは高く蹴ってハングタイムを稼ぎ、タックラーがリターナーに届くことの方が重要だったりもするわけです。

 もちろん自陣10ヤードから蹴る時は距離が欲しいです。そういう時は思いっきり蹴る力が要求されますし、逆に敵陣35ヤード、先ほどの計算でフィールドゴールだと52ヤード、確率からいうと結構厳しいし、何よりも失敗するとボールがあった地点ではなくて、ホールダーのいる42ヤードから敵の攻撃になる。そこでパントを蹴るとたった(!)35ヤード蹴っただけでタッチバックになり、そこから15ヤードしか蹴っていないことと同じになってしまいます。

 そういう時は先ほどのように高く、距離を調節して蹴ります。コフィンコーナー(棺桶の隅)といってエンドゾーンの手前を狙い例えば5ヤードラインでサイドラインに出れば、敵はリターンすることができずに5ヤードからの攻撃になります。ディフェンスにとってもの凄く有利です。もちろん5ヤードを狙うようなパントですから少し間違うとすぐにエンドゾーンに入ってしまいます。つまり紙一重のコントロール(と運)が要求されるのです。

 因みにキッカーのところで出てきた「ラフィン・ザ・キッカー」はパンターにも適用されます。丁寧に「ラフィン・ザ・パンター」という審判もたまにいます。

 それとパントリターンチームにもフェアーキャッチは適用されることを付け加えておきます。


フェイクプレー

 最後にフィールドゴールの際とパントの際に行われるフェイクプレーについて説明しましょう。フィールドゴールもパントも基本的には攻撃です。自分の第4ダウンを(大抵は)使って行う攻撃なのです。

 ですからフィールドゴールのふりをしてパスとかパントのふりをしてラン、というのはありなのです。フィールドゴールフェイクはセンターのスナップ後ホールダーがボールを受け取りおもむろに立ち上がります。そして自分で走り出すか、パスを投げます。ですからホールダーは大抵控えのクォーターバックがやります。

 またパントの時もスナップのあとパンターがおもむろにパスを投げたりします。またはパンターの斜め前にセットしたランニングバックがスナップと同時に横にスライドしてボールを横からかすめ取り(表現が変ですが)走り出したりもします。

 こうしたフェイクプレーは第4ダウンに行われるだけに失敗すると即「攻守交代」です。非常にギャンブル性が高いのでこれをコールするコーチはアグレッシブなコーチに限られます。ですからやるコーチはたまにやるし、やらないコーチは全然やりません。ピッツバーグのカウワーコーチなどはこのフェイクプレーを好んでやるので、私はピッツバーグの試合はキックといえども気を抜かないことにしています。

 最後にフィールドゴールをしようとしてホールダーがちょっともたついてその1秒くらいの間に「無理だ」と判断するとホールダーがボールを持ってどうにかしようという、いわゆる崩れたプレーというのがあります。フェイクプレーのように予め狙っていないだけに、本当にたまに成功しますが、大抵は見るも無惨に失敗します。特にパンターが蹴るのを諦めた時(ディフェンダーがオフェンスラインを破って素早く進入してきた時など、蹴ったらすぐにブロックされると判断した時とか、スナップが高すぎてキャッチするのにジャンプして着地したら目の前にディフェンダーがいる時)は惨めです。後ろでそんなことが起こっているとは知らないラインマンはもうダウンフィールドに出てしまっているのでパスはできません。走ろうにも目の前にはディフェンダー...。諦めてもがくしかないのですね。


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