インド下院解散へ


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1997年12月3日


日本の新聞でも報じられているとは思いますが、今夕暫定政権を担当するUnited Frontは閣議を開き、Narayanan大統領に対して下院の解散を勧告しました。Rajiv Gandhi元首相暗殺事件の背景を調査したJain Commission Reportに源を発する国民会議派とUFとの政争は、「総選挙」という結論をもたらしそうです。

そもそも今回の一連の騒動の引き金である、UF政権への支持撤回を通知した11月28日付の大統領宛レターの中で、「機会が与えられるのならば、下院において過半数を示し、政権を担当したい」と拳を振り上げてしまった国民会議派(Kesri総裁)は、UFからRashtrya Janata Dal(注1)、Samajwadi Party(注2)、そして、Tamil Manila Congress(注3)を取り込む作戦に出ていた訳で、相当楽観的だったようですが、UFのConvenorであるNaidu AP州首相が大統領に送った「UFを構成する各政党は国民会議派、BJPのいずれに率いられる政府も支持しない」、との11月28日付レターに各党とも連署していたこともあってか(わざわざUFの共同記者会見なども行われた)、結局各政党とも手足が縛られた形になり、国民会議派は多数派工作に失敗しました。

(注)
  1. 前ビハール州首相であり、酪農汚職疑惑で同職を追われたLaloo Prasad Yadavがそもそもみずから党首であったJanata Dal(JD)を分割して立ち挙げた政党。共にビハール州出身のKesri総裁とLaloo Yadhavの密接な関係はつとに有名。因みにLaloo Yadavは汚職疑惑で収監直前に州首相を辞任し、後任に自らの夫人を据えた。
  2. Mulayam Singh Yadav党首。同党首はBJPに選挙で破れた元UP州首相であり、何よりもBJPの中央での擡頭を回避すべしとの立場。また、地元(UP)がBJPに押えられているので選挙は出来るだけしたくない。
  3. Moopanar党首:元々は国民会議派であり、心情的には国民会議派に近いといわれる。今回国民会議派が政権からの除外を求めたDMKとは地元タミルナドゥ州で連立しているが、不協和音が絶えない。Chidambaran大蔵大臣もTMC。
一方で、単一政党としては最大勢力を有するBJP(何とインドの政党の中でホームページがあるのはBJPだけ!)は、Akali Dal(パンジャブ州)やShiv Sena(マハラシュトラ州)等の予てからの友党に加えて、懲りもせずUP州で袂を分かったばかりのBSP等を取り込み、それに加えて、「ラクナウの再来("play another Lucknow")」(UP州におけるBJP-BSP連立の崩壊に続いて行われた、大臣ポスト等を餌にした国民会議派、JD等の切り崩し工作)を謀るべく、国民会議派の一部等に働きかけを行っていたようですが、ラクナウの記憶が未だに生々しい状況で、総選挙になった場合の更なるイメージダウンを嫌ってか、基本的にはローキーの対応を採っていました。結局BJPは今夕大統領に対し、多数派工作が奏効せず政権担当は不可能である旨通知しました。

上記を受けて、全ては大統領の決断次第となりました。

Narayanan大統領は、先立って、UP州のBJP-BSP連立政権崩壊〜BJP新政権の信任投票に至る州議会の混乱を受け、憲法356条で規定されている大統領直轄を導入すべしとするUF政権の勧告を、憲法上の要件に厳密に見合っていない可能性があるとして再考を促し(これ自体前例が無い)、結果として政権側に「大統領直轄制の濫用」を思いとどまらせ、インドの憲法・民主主義を救った大統領として、各方面から高く評価されました。
今回の国民会議派のUF政権支持撤回劇においては、各政党とも96年6月の総選挙で資金を使い果たしていることもあり下院解散・総選挙というオプションは出来るだけ避けたいという事情があるため、UF政権は総辞職(11月28日)に当たっては下院の解散を大統領に勧告しませんでした。そのため、当初、大統領は、
  1. 最も大きな勢力を有する政党を招聘し組閣を依頼しそれが失敗した場合には次に大きな政党を招聘する、
  2. 安定政権を保持できそうな最大政党を招聘し組閣を依頼する、
  3. 憲法86条2項に基づき下院に首班を選出させる、
  4. 上記1)〜3)がすべて失敗に終わるもしくは見通しが立たない場合には下院を解散し総選挙を行う、
という4つのオプションをすべて有していたので、各政党の見解を良く聞きつつ、憲法専門家・選挙管理委員長等の見解も問うなど、各方面からの検討を慎重に進めてきた模様です。憲法専門家の間には、「大統領の判断はsubjective satisfaction of the Presidentに基づくべきものであり、UF政権からの勧告には影響を受けない」とする意見もありますが、憲法上、大統領は内閣の助言により機能するとの規定(74条1項)があるため、暫定政権とは言え、UF内閣が下院解散の勧告を出したこと、そして既に上記のオプションの内、1.〜3.が成り立つ可能性は殆どないことを考慮すると、大統領としては下院を解散する以外のオプションは有り得ないだろう、というのが12月3日現在の状況です。尚、総選挙になった場合には、準備に最低でも2ヶ月を要するといわれており、2月中旬以降に投票が実施されることになりそうです。尚、選挙実施には、国土の広さ、有権者数の多さを反映して、投票用紙準備、重複投票防止のために手に塗られる特殊インキの準備等のために、約150億ルピー(500億円)必要だと言われています。

いずれにせよ、インドの政局からは当面眼が放せそうにありませんが、私なりに今後インドの政治を見ていく上で注目すべきと考えているポイントは以下の通り。

  1. そもそも今回の政争は、Kesri総裁自身が首相の座を狙って今年4月のGowda首相辞任劇に続き2回目の勇み足を踏んだというよりは、政権への返り咲きを求める国民会議派内の強硬派をKesri総裁が抑えられなかったのが原因と見られ、同総裁のリーダーシップ不足は明らか。(Jain Commission Reportは飽くまでもダシに使われているに過ぎない)
  2. そのような状況下で総選挙に臨む場合、国民会議派が採り得る戦略は、1)Kesri総裁体制のままで臨む、2)Rajiv Gandhiの未亡人Sonia Gandhi(元イタリア人)を担ぎ出す、3)国民会議派内の世代交代を図る、といったものが考えられるが、Sonia Gandhiは(少なくとも表面上は)非常に慎重なスタンスを採っていることもあり、2)は考えづらく、3)は時間がかかるので、結果として国民会議派は、a)選挙後にSecularismを看板として掲げるUFと連携して、UFとの連立政権(もしは閣外支持)、b)BJPに蚕食され勢力が一層弱まる、といったシナリオをたどる可能性が高い。(しかし、a)の場合は、結果として一体何が変わるというのだろう?)
  3. Gowda首相辞任劇及び今回の総辞職に共通して見られるUFの予想外の結束力は注目に値する。総選挙が行われる場合でも、UFはまとまって選挙運動を行う可能性が高い。また、今回の一連の流れの中で、Chandrababu Naiduアンドラプラデシュ州首相(TDP)、Harikishan Singh Sujeet CPIーM書記局長(彼を通じてJyoti Basu西ベンガル州首相(CPI-M)が隠然たる影響力を行使)の2名がUF内の結束を固めるために積極的に運動してきていることも今後のUFの方向を占う上で注目すべき。一方で、TMC及びSPについては、最終的にはUFを離脱し、国民会議派と連携を深めていく可能性が高く、この2党の動きも要注意。
  4. UFの結束力の一つの源として、今回国民会議派が政権からの除外を求めたのが地方政党の一つであるDMKであったことが挙げられる。実際、UFの構成政党は、TDP(アンドラプラデシュ州)、TMC(タミルナドゥ州)、DMK(同)等、有力地方政党を多く含んでおり、国民会議派から求められた「DMKハズシ」の動きについては、他の地方政党を中心に反発が強かった。その結果が今回の内閣総辞職〜下院解散につながっている。言い換えれば、インド政治の重心が国民会議派を始めとした全国政党からが地方寄りに移動しつつあることの一つの結果が今回の政争である、ということができる。
  5. 本来、11月19日から、インド国会のWinter Sessionがもたれ、経済改革の根本となるいくつかの法案が審議される予定だったが、どのように転ぼうとも今回の政争でこれらの法案(Central Electiricity Regulatory Commission Bill, Insurance Regulatory Bill, Foreign Exchange Management Bill, 「小企業」の定義変更、etc)の上程・審議が遅れることは必至。経済改革の促進のためには、何よりも安定した政権が求められるが、選挙の結果、それは可能になるのか。(多分ムリ?)


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尚、Asahi.com程の頻度ではないかも知れませんが、インドの政治経済に関するニュースを(1日の内で)比較的頻繁に更新・掲載しているサイトして、India Todayのページがあります。