幸せばかり

 むかしむかしのお話です。
ある国に、それはそれは優しい王様が、暮らしていました。
王様は、いつも本気で、国中の人々の幸せを願っていました。
だから、しょっちゅう、お城を抜け出しては、町の人に聞いていました。
「お前は幸せか?」「もちろんですとも、王様!」
王様が聞いた相手は、みんな口をそろえて言いました。
誰一人として、「私は幸せじゃありません」なんていう人は居ませんでした。
あまりにも、みんなが幸せだと言いきるものだから、
王様は不安になりました。
「本当に、みんな、幸せなのだろうか?、もしや、私が聞くから、
いやいやそう答えているのでは…  そうだ!!」
王様は、国中の科学者をお城に呼び、そして言いました。
「私が聞くと、みんなが幸せだと言う。だから、本当に幸せなのかどうかを計る
"計り"を、君たちに作ってもらいたいのだが…」
「かしこまりました。王様!!」
それから、科学者たちは半年の月日をかけて、その計りを作り上げました。
「いかがでしょう、王様!」
完成した計りは、シーソーの片方に人がひとり入れるぐらいの鳥かごのようなものがあり、
もう片方が何やら難しそうな機械の付いた大きな鉄のかたまりでした。
王様は、その鉄の固まりをいとおしそうに、隅々まで眺めながら言いました。
「そうか、ついに出来たか、それじゃあ早速、町に出て試してみよう!!」
さあ、たいへんです。そんな鉄の固まりですから、力持ちの家来10人が引っぱって、
やっとの事で動くのです。

王様一行が町に着いたころには、すっかり、日も落ちていました。
王様は、足早に行き来する人の中から、最も貧しそうで、
最も顔色の悪そうな老人を見つけ、その計りにかけました。
科学者が、質問事項を、順番に読み上げます。
「お前の名は?」「ペトロです。」「ペトロか、占いではペトロという名は"やや悪い"だ。
だから5段階で2だな。」
「生年月日は?」「トロール歴485年7月3日生まれです。」
「485年7月3日生まれと…おっと、占星術によると、7月3日は最悪だなあ…
50段階の7と」
「家族構成は?」
「妻に先立たれ、娘と二人暮らしです。」
「娘と二人暮らし…娘は、いくつ?」「21になります。」
「21の娘じゃこれから悪い男に、引っかかるかもしれない。
結婚すれば、お金は掛かるし…と、100段階の26と」
質問は次々に出てきます「家はあるか?」「収入は?」「食事は?」
50の質問の答えを入れると、機械が難しい計算を行ないます。
(チン、ジャラジャラ、バーン)
「出たぞ!お前の幸せ指数は42だ。えーと、お前に足りないのは
年間138リギングのお金と、奥さん。え、奥さん?どうしましょう王様?」
「それなら、町はずれの後家さんと婚礼の儀を…
そのため、30リギング追加だな、後家さんには、家来から話をするので、
来月まで待つように。」
「あっ有り難う御座います。この上ないしあわせに御座います、王様!!」
老人は呆気に取られながら、思わず答えました。
王様は、この"幸せ計り"を大変気に入りました。
「足りないものまで教えてくれるこの機械は、正に文明のなせる技!」(バーン)
それからと言うもの、王様は、毎日のように"幸せ計り"を、いろんな所に運ばせて、
不幸せそうな人を見つけると、その計りにかけました。
(チン、ジャラジャラ、バーン)
「幸せ指数57。お前に足りないのは…あと84フーダーの土地だ。
この者に、84フーダーの土地を与えるように!」
(チン、ジャラジャラ、バーン)
「幸せ指数53。お前に足りないのは…
病を治す薬、三ヶ月分か、よし、毎月薬を届けさせよう。」
いつのまにか、幸せ指数の読み上げも、王様が自分でやるようになっていました。
もはや誰も王様を止められる人はいませんでした。
さすがに力持ちの家来も、へとへとになっていました。
そんなある日の事です。小さな村に続く道で、みすぼらしく、
膝小僧や手のひらを真っ黒に汚した娘を見つけました。
「おい、そこを歩く娘!」王様が声をかけました。
「はっ、これは王様!何かご用で御座いましょうか?」
「おまえは、見るからに不幸せそうだ。早速なんだが、
この機械で、お前の幸せ指数を計るから、しばし、ここに座ってみたまえ。」
自信に満ちた声で王様は言いました。
「はい、かしこまりました王様!」娘は訳が解らないまま鳥かごの中に入りました。
50の質問が、矢継ぎ早に行なわれ、機械が計算を始めます。
(チン、ジャラジャラ、バーン)
「幸せ指数6。6?嘘だろ、今まで見た事も無いような数字だ。
こんな不幸な者が我が国に居たなんて…これはこれは、かわいそうに。
足りないものも沢山ありすぎてリストが全部出てきやしない!!
これでは、何をあたえていいやら…
まず2350リギングのお金と、145フーダーの土地、家族3人が住める家と、
先祖の墓、それに…」
「あのう王様!」
「なんだ  娘?」
「私、幸せです!!」
「なんと?」
「ですから、私、今、とっても幸せなんです。」
「幸せって…お前の幸せ指数は、100分の6だぞ!  
国中の科学者が作ったこの正確な機械が、そう言ってるんだぞ、壊れたとでも言うのか?」
「機械の事は、私には解りません。ただ…」
「ただ?なんだ?」
「私には、今、好きな人が居ます。その人も決してお金があるわけではありませんが、
何より、私達、愛し合っています。
私は、今は何も持っていないけれど、これからの二人には、
きっと何にも代え難い明るい未来が、もっともっと来ると思います。
王様から何も頂かなくても、私達の幸せは、自分たちで、作っていきます。」
「そんな!幸せだと言うのか?何もいらぬと言うのか?」
「はい、王様!!どんなに物があっても、愛し合う人が居なければ、寂しいだけです。
私は愛し合う人がいる事で十分、満ち足りていますから!!」
娘の顔はキラキラと輝いていました。
王様は、その場に座り込んでしまいました。
「たった今、この計りを壊すように!!」
王様は、立ち上がると、そう叫びました。
「ウオー」家来たちは大喜びです。
何故って、もう、これ以上、こんな重い機械を運ばなくて済むのですから…(ガシャーン)
王様は、今度は娘に向かって言いました。
「ありがとう。私は、大事な事を忘れていたようだった。
機械に頼って、自分で相手の気持ちを見ようとしていなかった。
君に言われなければ、ずっと、忘れたままだったかもしれない。
気づかせてくれて本当にありがとう。
ところで、お礼といっては何だが、どうしても君に上げたいのだが…」
「ですから、何もいりません!」
「いやいや、花だよ、君たちの婚礼の時に、花を贈らせて欲しいのだが、いかがかな?」
「あっ、ごめんなさい、有り難う御座います王様!!喜んで頂きます。」
「それでは、必ず連絡をくれ。私が君たちの元へ持ってくるから…」
そう言うと、王様は家来たちを引き連れて、静かに去って行きました。

それから、しばらくすると、薄汚れた格好をした、不思議な老人が、
国中で目撃されるようになりました。
彼は、会う人会う人に、「この国は、どんなもんじゃろう?」と、聞いていたそうです。
そう、王様が、変装して、国中の声を、聞いていたのです。
こんな王様でしたから、
その国は長い間、とても平和で、みんなが幸せだったと言う事です。     おしまい

                                                                              2002/2/14 M Hishida


*この作品は2002年2月のライブイベントで発表したため、一部効果音が、( )で記されています。

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