歩き続けた男

男は、体の周りに着けていた様々な道具を
一つ一つ捨てながら、ゆっくりと歩き続けた。

一番始めに捨てたのは、武器だった。
この先、誰を傷つけるというのだ  そう思いながら、
次に捨てたのは、よろいだった。
もう誰も老いた私に向かってくる者は、いないだろう。
三番目に捨てたのは、ペンやインクといった道具だった。
もはや彼には手紙を送る相手は、いなかった。
その次に捨てたのは、毛皮の服だった。
彼は、下着と杖と、ほんの少しの干し肉だけで歩き続けた。

男は歩き続けながら思った。
これだけで、生きてゆけるんだ
それまでの道具は、本当は、さして必要な物では
なかったのかも知れない  と
むしろ、体が軽くなった分  自由だった。

どれぐらい歩いたのだろう
気がつくと、彼の足は地面から離れ
ふわりと体が浮いていた。
そう、彼は、一歩神に近づいたのだった。


カルマ


人間のカルマは、 苦悩という名の教育係 生きる事を全うするために いつも傍らに居て 私達を励ましつづける

ゲームセンター


その女は、繁華街のゲームセンターに、一人で現れた。 彼女は、買い物に来たのにゲームに はまったと、 聞くでもない態度の店員につぶやいた。 誰でもいい、きっと誰かと話がしたかったのだろう。 そういう自分も、同じ気持ちだったから そのゲームセンターに居合わせたのかもしれない。 ある金曜の赤坂での出来事。

一番難しい事


一番大切な人に 一番解って欲しいと思っても もしかしたら それが 一番難しい事なのかもしれない

優しくしないで


こわれている私に どうか 優しくしないで下さい うれしくて うれしくて 涙が出そうになるぐらいうれしいけど 優しくされると 今の私は もっとこわれてしまうから だから あなたが優しくしてくれた時 拒んだのでした その優しさに身を委ねてしまったら 生きる力も失ってしまいそうだから 疲れている私に どうか 慰めの言葉をかけないでください これ以上 もう 落ちたくは ないから

静かということ


静かという文字 青い争い 争いは 色としたら赤なのに それが 青いという事 赤い争いが 表に出ている争いだとしたら 青い争いは 表には出ない争い もしかしたら 人もしくは人の周りのすべてのものは 争う心を本能として持っていて それを表に出さない事で 静かなのかもしれない

永遠の魂


悠久の時の流れに 永遠の魂を求めし者達よ それを成就することが もし在るとするなら それは 神のみであろう 文明は盛衰を繰り返す 皆永遠の繁栄を祈りながら 人とて同じ事 残す事が出来るのは 営みの残像 形を成すものは 何時しか消え去り 形を成さぬものは 伝承の間に 何時しか変化し 本質より遠きものとなる

天使のふりかけ


人が恋に落ちる時って きっと天使が二人に ふりかけをかけるんだ 恋が終わる時って きっと小悪魔が二人に ふりかけをかけるんだ

ポケットのいし


そのいしは、はんぶんつちにうまっていました。 みつけたときは、ぼくは「おや!」とおもっただけでした そのいしにさわってみると、なんかあたたかく そしてほわっとひかっていました ぼくは、そのいしがすきになりました つちをほりかえし、もちかえりました そして、まいにちそれをみがくことにしました だいすきでだいすきで、いつもポケットにいれて そのなかで、てでみがいていました。 いしは、すこしずつひかりをましてきました いや、ましたとおもったのはぼくだけかもしれません ぼくはとってもだいじなことをわすれていました いしのきもちでした あるときいしにきいてみました いしはしずかにこたえました 「わたしは、つちのなかではんぶんうまっているほうが すきなのです。はんぶんうまって、ありや、はなをてらして いるのがすきなのです。だからおねがいです、もとにもどして」 ごめんなさい。ぼくはぜんぜんきがつかなかった ぼくのかってなおもいで、みがこうとしてしまって・・・ なんぜんねんもつちのなかにいる、こうかなほうせきだって ほんとうは、そのままつちのなかにいたいのかもしれない ぼくは、そっとポケットのいしを もとあったばしょにもどしました。 「それじゃあ、もっともっとひかりたくなったら、ぼくを よんで、いつでもくるから」 そういってぼくは、いしとわかれました。 さびしくなりながらかえるみちで、いいことをかんがえました。 「なんだ、あいたくなったらいつでもここにくればいいんだ」 そうおもったらげんきがでてきました。 いまでもぼくは、ときどきいしにあいにきます。 きのせいかもしれないけど、いしはぼくのポケットの なかにあったときより、すこしだけあかるくひかってるような きがします。

ご意見、ご感想をぜひメールでお寄せ下さい。hishida@gol.com

Back to MainPage