鈴の音
鈴の音 私が住んでいた古いアパートでは、毎日決まってある音が聞こえた。 それは、深夜4時ごろ、目の前の路地を抜けてゆく鈴の音だった。 「チリン チリン・・・」 晴の日も、雨の日も、決まった時間に、その鈴の音はきこえてきた。 普通、例えば犬の散歩なら、雨の日は行かないだろう。 ならば、この音はいったい? 私は、疑問に思いながらも、窓から外を見る事はしなかった。 8月の熱帯夜が続くある日、あまりの寝苦しさで、ずっと起きていて、 睡眠不足の苛立ちもピークに達していた。 「チリン、チリン・・・」 そのとき、あの音がした。 私は、今日こそ、その音の正体が知りたいと思った。 寝苦しい夜に、正体を知らず不気味がるより、 はっきりさせて、安心したい。そんな思いが強まっていた。 窓を開けると、そこには、何人もの黒い人影が、一列に歩いていた。 先頭は、鈴を持ち、袈裟を着た坊主、その後ろは、喪服を着た老若男女。 明らかに葬儀の列だった。 先頭の坊主が私のほうを向いた。 「さ、あんたも早く・・・」 黒い顔に、白目だけが光っていた。 私はすぐに窓を閉めた。 見てはいけないものを見てしまったと言う、後悔の念でいっぱいになった。 背後から鈴の音がした。 「チリン、チリン・・・」 後ろを振り向くと、 部屋の中に、今いた坊主が立っていた。 「さ、あんたも早く・・・」 2006・7・31 Mご意見、ご感想をぜひメールでお寄せ下さい。hishida@gol.com
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