3.効率的市場仮説と内部統制

 岩田教授は『会計原則と監査基準』において、財産法から損益法への転換を、「投資家のための会計」8)という会計観から説明されている。国際会計基準の『財務諸表の作成表示に関する枠組み』は、第12節で「財務諸表の目的は、広範な利用者が経済的意思決定を行うに当たり…有用な情報を提供することにある。」と定義している。これは意思決定有用性アプローチといわれる。しかし、第10節で「投資者は企業のリスク資本の提供者であるので、彼らの要求を満たす財務諸表を提供することによって、財務諸表が満たすことができるその他の利用者の大部分の要求を満足させることになるであろう。」としているように、「投資家のための会計」である。また、第15節で「財務諸表の利用者が行う経済的意思決定には、現金及び現金同等物を発生させる企業能力を評価し、それらの発生の時期及び確実性を評価することが要求される。」として情報要求を明らかにしている。そして、この情報要求から資産・負債は将来のキャッシュ・フローの蓋然性と測定の信頼性から定義され、その他の財務諸表項目は資産・負債から定義されるという、資産・負債中心思考になっている。損益法から財産法への再転換が行われているわけである。

 これに対して、効率的市場さえあれば、いつでも公正価格で株式を売ることができるので、効率的市場こそ株主の基本的保護制度になるという考え方がある。効率的市場仮説である。市場の「効率性」とは、市場価格が会社に関する情報を反映していることを指す言葉で、効率的市場とは「価格が、発生した利用可能な情報をすべて即座に反映しうるような市場」である。市場価格があらゆる情報を反映していれば、それこそ公正価格なので、株主が効率的市場で株式を売ることができれば、会社の情報を得なくても、公正な金額を受けることができるようになる。9)

 コーエン委員会は、効率的市場仮説を前提にして、監査の目的をつぎのように説明している。

「年次財務報告書が株価に影響を与えることは、ほとんど、または、まったくないように思われる。しかしながら、監査済財務諸表は証券市場がすでに受け取っている情報を確認または修正するための手段である。監査済財務諸表は、不正確な情報が市場で利用される時間を短縮することにより、また、かかる情報が広範囲に利用されるのを防止することにより、市場の効率性の確保に役立っている。」10)

 これに対応して、内部統制をつぎのように説明している。

「財務諸表利用者は、また、適切に整備された内部統制によって信頼ある財務情報が作成されているかどうかに関心をもっている。財務情報は監査を受ける前に株価に影響を与えることが、調査の結果、明らかにされている。したがって、会計システムに対する統制が不十分であれば、その結果、誤った財務情報が作成され、そしてその誤った情報は監査によって訂正される前に証券市場に影響を与えてしまうことになりかねない。」11)

 その結果、コーエン委員会はつぎのように主張している。

「監査は、ある特定の一組の財務諸表についてなされる監査というよりは、ある期間内に遂行される一つの『職能』として考えるべきである。年次財務諸表は監査対象の中ではもっとも重要ではあるけれども、監査対象の一つにすぎない。最終的には、監査職能は、財務報告プロセスによって生み出されるすべての重要な情報を対象とするように拡大されるべきである。本委員会が提案する枠組みの中核は、会計システムと会計システムに対する統制の監査である。」12)

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Last updated on 9 April 1996
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