読 書 戦 !
山内 克介
読書量において青野さんの右に出る者はいないが、我が会で唯一ロシア・マニアを標榜する会長も、独ソ戦本については一家言もっている。個人的にHGコンザリク3部作とバービィ・ヤール完全版、トレブリンカは、独ソ戦について生涯の愛読書とさえ考えている。
◆H・G・コンザリクの独ソ戦小説3部作(お薦め順)/すべてフジ出版社刊(昭59〜60)
(1)「第6軍の心臓」(原題:Das Herz
Der 6.Armee)
スターリングラード包囲下での野戦病院を主舞台に、様々な人間模様を描く。万国共通の要領のよいグータラ古兵クネーゼルは、あらゆる手段で食料を手に入れ、ナチバカのハーゲン大佐は赤軍火炎放射戦車に襲われて半狂乱で病院に逃げ込む。独軍の良心を象徴するかのような師団長は、師団崩壊後、嫌がるハーゲン大佐を引き連れてT-34戦車に短機関銃で立ち向かう。捕虜となった赤軍軍医長と女医は、独軍野戦病院で独軍軍医と共感し共に働く。動物園から逃げ出し市街を徘徊する象、栄養失調と極度のストレスで引き起こされる心臓マヒ、愚劣極まる独軍兵站部の官僚主義等を極めてよく練り込まれたプロットによって一気に読ませる面白さ。3部作全てに言える事だが、独ソ両軍に魅力的な登場人物がおり、一方的な記述に終わらないところが良い。これを読まずに(国通)スターリングラード・ポケット(または(AD)冬の嵐作戦)をやる者は呪われよ!
(2)「極限に生きる」(原題:Strafbataillon
999)
白ロシアでパルチザンと戦う独軍第999懲罰大隊を舞台に、44年バグラチオン作戦に巻き込まれて全滅するまでを描く。コンザリク小説の素晴らしいところは最悪の状況を描きながらも、滲み出る笑いである。
新開発のワクチンを自らに注射して実験した医師が、兵役逃れと疑われて懲罰大隊に送られ、そこで見る様々な人間模様。負け戦の44年だけに懲罰大隊には、これまでの独軍の縮図と言える兵士たち(今や一兵卒となった元師団長や騎士十字章授与者)が沢山おり、彼らの口からこれまでの独ソ戦が語られる。例によって要領のよいグータラ古兵シュヴァネッケが傑作だ。彼を目の仇にしているナチバカのベーヴェルン中尉は、歩哨中に寝ていた彼を銃殺にできると喜ぶが、逆に気絶させられ塹壕から頭を出されて、森に潜むモンゴル狙撃兵に撃たれて死ぬ。ちなみに西ドイツでは映画化もされ、個人輸入でそのビデオを手に入れて観てみたが、とても1時間半程度の映画で原作の面白さを伝えることはできないと痛感させる駄作であった。この本を読めば、なぜ会長が懲罰大隊ユニットにあれだけ愛着を抱いているかが理解できるだろう。懲罰大隊ユニットを邪険に扱うゲーマーに祟りあれ!
(3)「スターリングラードの医師」
スターリングラード復興に従事させられる元独軍第6軍の捕虜収容所を舞台に、そこで働く軍医を通して見た様々な人間模様。HGコンザリクの小説の中で最も評価の高い、西独でのベストセラー作品。戦闘場面はないが、独ソ将兵の気質を理解できる。何と言っても読んで面白いのが一番。H・G・コンザリク3部作を読まずして、独ソ戦に関して面白い本が無いとのたまうゲーマーは、己れの無知を恥じるべきであろう!
◆忘れられた兵士−ドイツ少年兵の手記−ギイ・サジェール著/三輪秀彦訳 早川書房刊(昭55初版)
ドイツに併合されたアルザス・ロレーヌ地方から、グロスドイッチェラント師団に志願したドイツ系フランス人(フオルクスドイッチェ)の青年が経験する42年秋以降敗戦までの激戦。小林源文の劇画(特に黒騎士物語)に流用された多くの場面、セリフをここに見ることができる。パルチザンとの小競り合いから塹壕戦、クルスク攻勢、その後の撤退戦、東プロイセンでの対戦車戦闘まで、とにかく密度の濃い具体的描写に満ちており、独ソ戦を兵士の目から見てみたい者には無二の戦記本となっている。ただしGAMERS社機関誌オペレーションにおいて、その信憑性を疑問視する記事が載っていた。万一ドキュメンタリーでなくとも、戦記小説としてもピカ一の内容である。
◆雪の中の軍曹
図書館で借りて読んだので著者、出版社とも控えていないが、東部戦線派遣イタリア軍の兵士が辿るスターリングラード戦線からの撤退。日本語でこんな珍しい(ロシア戦線でのイタリア兵の気持ち)戦記が読めるとは幸せである。独軍戦車に寄せるイタリア兵の敬慕、質の悪い伊製手榴弾「赤い悪魔」へのボヤキ、そして吹雪の村落戦闘で飛込んだ民家で食事中のロシア兵と蜂合せ、ご相伴にあずかるシーンなど、文学的でさえある。
◆最終戦−1945年ドイツ−ヴォルフガング・パウル著/松谷健二訳 フジ出版社(昭54初版)
パウル・カレルが焦土作戦以降の巻を出すことなく亡くなったので、これが日本語で読めるドイツ末期戦全体を扱った唯一の本となってしまった。あまり知られていない本だが、ドイツ末期戦に興味を持つゲーマー必読の書である。トーランドの「最後の百日」やコーネリアス・ライアンの「ヒトラー最後の戦闘」で詳しく触れられたベルリン戦などは、当書では簡単に触れる程度で、それ以外のマイナーな戦い(東プロイセン、クールラント、コルベルク、ハンガリー、ウィーン、オランダ)に多くの紙面を割いているのが嬉しい。描写も密なので、読んでいて飽きない。(HJ)戦車戦のシナリオの多くがこの本の記述から製作されているだろう事も容易に想像がつく。
◆バービイ・ヤール−無削除決定版−:A・アナトーリ(クズネツォフ)著/平田恩訳 講談社刊(1973)
キエフに住む少年(著者)から見た独ソ戦下のロシアの暮し。戦記本ではないが、文学的ドキュメンタリーとして滅法面白い。バービイ・ヤール自体はこの世のものとも思えぬ人間屠殺場だが、スターリンとヒトラーの支配を体験した著者は、この地で起きた出来事を人間の本質として捉える。しかし記述自体は全く説教臭いものではなく、占領下の民衆の暮しに密接した感情移入しやすいもの。
こすっ辛い祖父が、最初はボルシェビキを憎む余り独軍を歓迎するが、独軍も負けず劣らず暴政を敷くため「おじいちゃん、反ナチに」なるなど笑える話しも多い。キエフ・バーニング(NKVDによる独軍ビル爆破)も詳しい。この本の記述によると捕虜となった黒海艦隊海兵隊員は皆、銃殺されたらしい。また、この本は亡命した著者が明らかにした原著にもとずく無削除版であり、以前ソ連の検閲で削られた箇所をゴチック太字で印刷しているので、ソ連がどんな記述を恐れていたかという暴露本としても面白い。
◆トレブリンカ−絶滅収容所の反乱− ジャン=フランソワ・ステーネル著/永戸多喜雄訳 河出書房刊(1967)
ユダヤ人収容所と言えば、番号を入れ墨するというイメージがあるかもしれないが、それは囚人(労働力)として生かしておくという事であり、そんな番号さえなく、ワルシャワ・ゲットーから到着次第、老若男女の区別なく即、排気ガス室で殺害した正真正銘の絶滅収容所がこのトレブリンカである。
広範囲のインタビューに基づいて小説形式で書かれた当書だが、バルバロッサ作戦の暗部たるSD特別行動隊によるバルト三国でのユダヤ人狩りから始まって、ガス殺に至るドイツ人ユダヤ人双方の心情的経過、トレブリンカでの様々な人間模様、証拠陰滅のため収容所の撤去破壊が近いと知った囚人による最後の反乱(4輪装甲車を奪い監視兵舎を掃射するラストは喝采ものである)を描く。ホロコースト本は数あれど、著者は本書こそベスト1だと断言する。
◆回想の第3帝国(上・下巻)−反ヒトラー派将校の証言1932-1945− アレクサンダー・シュタールベルク著/鈴木直訳 平凡社刊20世紀メモリアル(1995)
食用油工場の御曹司(でプロイセン貴族の末裔)が、ナチ政権樹立直前の大学時代から、43年にマンシュタインの元帥付副官となって敗戦を迎えるまでの、驚くほど内容豊富な自叙伝。
ナチが政権をとる前にゲッペルスがベルリンのホールで行なった演説をヤジり、ゲッペルスと口論したり、パーペン首相の私設秘書として務める間に見たナチの内情(ヒトラーが外套の両ポケットに拳銃を入れていたり、ヒトラーが首相に任命される直前には財閥からも見離されかけていてナチ党は破産寸前だったとか)や、ナチ党員にならない為に国防軍に入り、ポーランド戦でSDのポーランド知識人殺害を目撃する。
独ソ戦では第12装甲師団の対戦車砲小隊長としてミンスク、レニングラードと転戦。41年末には最東部のチフヴィン(ヴォルホフよりもっと東部)で師団が全滅し、従兄のヘニング・ォン・トレスコウ(後のヒトラー暗殺未遂事件の首謀者)のコネによって、冬の嵐作戦直前にマンシュタイン元帥の副官(独軍元帥には終生、専用車と副官が与えられる)となる。
それからの記述(下巻まるまる1冊)はマンシュタイン・ファンならずとも、東部戦線ファン全てに読んで貰いたいほど面白い。南方軍集団司令部を訪れるヒトラーには常に怪医モレルが同行し、開口一番「この町に牛の屠殺場はあるか?。子牛の睾丸が必要なのだ!」と尋ねる場面は笑える。ヒトラーと衝突して解任されたマンシュタインが、その後も副官を使って全戦線の戦況を批評したり、セバストポリ占領を最も誇りにしていたらしく専用車の泥避けに大きくクリミア・シールドを描いていたり、元帥夫人がナチバカだったり、元帥はモーツァルト・ファンだったりと他では読めない内容を誇っている。
◆橋−ユダヤ混血少年の東部戦線− エルニ・カルツォヴィッチェ著 平凡社刊20世紀メモリアル(1995)
オーストリアの小さな村の橋にまつわる思い出話を募集したところ、村の肉屋が応募した半生記があまりに波瀾に富んだものだったので本となった作品。ユダヤ人狩りを逃れるため空軍整備部隊に志願した青年が、ロシア戦線の飛行場を転々とし(サポロジュの撤退にも参加)、果ては皮肉なことにアウシュビッツ収容所の部品工場の一員(納品係)にまでなる。そこで見た監視兵の意外な寂しさ。そして最終戦のどさくさで村に逃げ戻った青年は、郷里の橋を爆破しようとする独軍を妨害して、橋を守ったのであった。
◆ヒトラーの戦争(上・下巻) デビッド・アーヴィング著 早川書房刊 *児島襄の同名本とは違うので注意
つい最近のホロコースト歴史修正論争以来、にわかにナチ擁護主義者と散々に批判されているアーヴィングだが、ロンメルの生涯を描いた彼の「狐の足跡」を読んでも判る通り、常に一次資料や原典を明記し、ライフワーク的な長期間に渡る調査研究に基づく戦史本には、相当信憑性があると信じている。この本が批判の的となったユダヤ人虐殺についての責任問題も、ヒトラーが直接指示を下した書類が発見できなかったと書いているだけで、なにもヒトラーに責任がないなんて一言も書いてないのだが。それどころか、この本(題名の通り39年9月のポーランド侵攻からベルリン陥落まで)を読めば、ナチ第3帝国では決して戦争に勝てないと判るはず。
しかし、本書の価値は、そういった点にあるのではなく、戦時下のヒトラーの発言や行動、各戦闘に関する記述にあり、意外な情報に満ち溢れている。44年のクリミア半島陥落の描写など、この本でしかお目にかかれない。ベルリン戦の最中、疲れきったヒトラーがボイラー室の中でたった1人で座っていた(俺を1人にしておいてくれってか!?)記述など笑える(「あっ!総統、こんな所で何を!?」とボイラーマンは驚いたろう)。戦略級SGを独軍でプレイする人には、必ず読んでもらいたい名著だ。
◆史伝−ソ連軍の建設と独ソ戦− 加登川幸太郎著 陸戦学会刊(1997)
知人の自衛官に防衛大購買部で購入してもらった、ソ連の将軍を通しての戦史本。スターリンの友人で後の国防大臣ヴォロシロフと、派手な口髭で有名なブジョンヌイを通してロシア内戦を描き、第2部ではソ連の元帥たちを通して独ソ戦を描く未完の大著(バグラチオン作戦を書いたとこで著者永眠)。目新しい情報満載といった本ではないが、専門書特有の贅沢な紙面で読みやすさ抜群。あくまで通史に過ぎないが、ロシア内戦と独ソ戦を並行して知ることができるのは、ありがたい。
◆捕虜−鉄条網のむこう側の1100万人の生と死− パウル・カレル著/畔上司訳 フジ出版社刊(昭61)
米英ソ・ユーゴに捕虜となった独兵のインタビューによって構成された本。Fred.牛さんによると、西独におけるパウル・カレルの評価は、この著作(本国では10巻以上の大著らしい。日本版はその抜粋!?)あってのものらしい。実際、登場人物それぞれが、どこの戦闘で捕虜となり、その後どうしたかが詳しく書かれているので、違う視点から見た戦記と言える。紙面の3分の1が独ソ戦に割かれている。戦意高揚の為、44年7月にモスクワで5万の独軍捕虜を見世物行進させた際、赤痢の捕虜が失禁し、それを護衛の騎兵が「ドイツ野郎め、教養ねぇな」と叫んだなど、記述が具体的で面白い。ユーゴで捕虜になった独兵が最も悲惨である。反共ロシア義勇兵の末路も哀れだ。独ソ戦からは外れるが、米英の捕虜収容所で独兵が脱走しようとアクション映画並みの活動をしたり、オーストラリア沖で戦った独軍仮装巡洋艦の話が詳しく載っていたりと、題名からは想像できない面白さがある。
◆収容所群島:第5巻(ソルジェニーツィン著/新潮社)と、発掘された秘蔵写真が語るロシア百年の真実(ブライアン・モイナハン著/同朋舎出版)
独ソ戦だけを扱った本ではないが、独ソ戦に至るソ連の歴史とロシア人の気質を知るには受ってつけの本がこれ。収容所群島の方は、ノーベル文学賞作家の手になるものだけに極めて面白い。著者自身が砲兵将校としてクルスク戦以降、ケーニヒスベルグ戦まで従軍しているだけに、独ソ戦のサイドストーリー的な趣さえある。特に第5巻の冒頭「死を運命づけられた人々」では、なぜ独軍がソ連に侵攻した時、ロシア住民の多くか熱烈に歓迎したか、また百万以上のロシア人義勇兵が独軍に加わったかが判りやすく説明されている。ここを一読すれば、今後SGでオスト大隊を邪険に扱う事などできはしないだろう!。題名から「収容所もの!?どうせ陰惨な話だろ?」と思うかもしれないが、ソ連の歴史から人間の本質にまで迫る、驚くほど広範囲に渡る記述は読み手を全く飽きさせない。20世紀を生きる歴史ファンとして、この本を読み逃す事は生涯の痛恨事となるだろう。全6巻の大著だが、まず5巻を読み、その後3、4、6巻、その後1、2巻を読むのがコツだ。
次の「ロシア100年の真実」は、大判の写真集といった感じの大作だが、手っ取り早くソ連の歴史を読み通したい向きにお薦めである。初めて見るような貴重な写真もさることながら、その記述の巧さ、面白さには舌を巻いた。この本こそ2冊買って、1冊は保存用にビニールにでも入れておきたい名著である。
なお「私はスターリンの通訳だった」という本もお薦めである。
◆グロースドイッチュランド師団写真史−東部戦線におけるGD装甲擲弾兵師団1942-1944−トーマス・マックギール著 大日本絵画刊
最新の本も紹介しておこう。写真の多くが兵士のプライベートフォトで、今まで見たことのない写真の数々は地味ながら貴重である。44年秋にルーマニアに撤退したGD師団の写真にみるルーマニア兵など珍しい。よくSSトーテンコプフ師団と一緒になるのも可笑しい。しかし本書の価値は記述の豊富さにある。師団創設の歴史(フリードリヒ大王時代からナポレオン戦争にまで遡る)から、大戦中に師団が参加した全ての戦闘の記述。更に師団長から一兵卒の個人的戦歴にまで言及されており読んでいて飽きない。GD師団は様々な組織から優秀な人材が志願してくる為、中には帝国労働奉仕団で労働少佐だった大隊長(その後45年3月に帝国労働師団
F.R.ヤーンの連隊長となる)で、敵戦車殺し(パンツァーナッカー。SF3Dとはちゃうで)の異名を持つ者とか色々いて面白い。他にもミュンヘン一揆で鎮圧側だったのにナチ党の一揆参加勲章を貰ったエピソードや、独軍のヘルメットには被弾傾斜角に難点があり、戦前に4種の新ヘルメットが総統に提示されるも「石炭バケツ型こそ独軍のシンボル」と主張して却下されたエピソードなど、師団史とは関係ない話まで触れられている。この内容で3300円程度なら迷わずゲットだぜ!。
他にも、大日本絵画から出ている戦記本は総じて面白いものが多く、もし敬遠(マニアックだとか、値段が高いだとか)して読んでいないゲーマーがいるなら、それは間違いである。意外に図書館に置いてあるので、一度捜してみるべきだ。特にオットー・カリウス著「ティーガー戦車隊」(上下)は戦記としてだけでなく、読み物としても優れている(性悪な中隊長との確執など、戦争のはらわたを地でゆく面白さ)。戦術級ファンなら「SS戦車隊」も必読である。「重戦車大隊記録集(1)陸軍編」(米国で遂に待望の(2)武装SS編が出たらしい)も、決定版である。毎月出ているグランドパワー誌といい、アーマーモデリング誌のSS最貧師団史といい、戦史ファンにとって昨今の出版状況は喜ばしい限りである。後はこの夏に出る宮崎駿監督の「妄想ノート」(最終戦の4号戦車を扱った「ハンスの帰還」3話と、カリウスのナルヴァ戦線での戦い「泥まみれの虎」6話を収録!)と、高橋慶史氏の「ラスト・オブ・カンプフグルッペ」「ヘルマン・ゲーリング師団史」「突撃砲旅団史」が待ち遠しい。

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