2004年10月31日


さいたま市教育委員会 文化財保護課 小山 広行 課長 様


(ご参考:さいたま市議会議員 高柳 としや 様 、 岡 まち子 様)
(ご参考:日本考古学協会会長→埋蔵文化財保護対策委員会委員長→委員各位)

日本考古学協会会員
鈴木 正博


馬場小室山遺跡の「発見の届出」及び史跡指定の件(要望書)

先般、馬場小室山遺跡の工事現場を旧地権者及び作業員などのご協力を得て監視し、特に10/21(木)・2
2(金)・23(土)の3日間に集中して保護した資料、及び「残存埋蔵文化財」の現状につきご報告させて頂き
ましたが、その後1週間以上経た、雨上がりの本日も縄文時代中期から後晩期にかけての長期に亘る「有形文化財」
が多数確認されております。
こうした不本意なる状況を現実に見せつけられますと、貴管下担当殿の事業者への指導の在り方、及び貴長の「文
化財保護法」を無視するかの業務遂行姿勢には特に懸念を表さざるを得ません。
事業者への指導の必要性とその強化については、既に10/25(月)に貴管下担当殿にご説明・ご依頼してき
たところでありますが、本日の監視結果によりますと今後多量の「有形文化財」が工事により破壊あるいは移動さ
れる可能性が極めて高く、「発見の届出」に対する具体的な指導内容とその結果につき、11/2(火)までに書
面にてご回答頂きたい。

また、今回の調査は第32次であり、改めて第31次調査までの成果と併せて馬場小室山遺跡を再評価するなら
ば、その「学術上価値あるもの」の重要性は下記の通り、他の国史跡を上回る、驚くべきものであります。
そこで貴長におかれましては、「文化財保護法」に則り、馬場小室山遺跡の「中央窪地」と「盛土遺構」がセッ
トで残されております市有地を中心とした史跡の指定について、文化財保護業務のあるべき姿として邁進頂きたく、
要望します。
  尚、貴管下担当殿が旧大宮市出身のため文化財保護業務引継ぎに懸念があり、念のため申し添えますと、馬
場小室山遺跡の保存対策につきましては埼玉県教育委員会が昭和60年に刊行しました『埼玉県埋蔵文化財調査年
報 昭和58年度』の中で、調査結果として200m×200mの範囲における保存の必要性を明記しております
ので、ご確認頂きたく。


                       ― 記 ―


1.馬場小室山遺跡が「わが国の歴史の正しい理解のために欠くことができず、」かつ「学術上価値あるもの」の理由


  (1)馬場小室山遺跡の土器、石器その他縄文時代の遺物で学術的価値の特に高いものとしては、第51号土坑のような「多埋設土器群大土坑」の群在とその遺物の組み合わせであり、圧巻。


  (2)縄文時代中期集落を基盤とした後晩期「環状土塚集落」の性格を象徴する、形態・構造において特に価値ある遺跡であり、しかも「環状土塚集落」が中央窪地を中心として5つの群として形成されていること。
     ・「環状盛土遺構」は寺野東遺跡以降国指定史跡の対象になってきたが、「多埋設土器群大土坑」の群在とセットを構成する「環状土塚集落」は本邦初の検証成果。


  (3)「環状盛土遺構」の分布としては栃木県と千葉県における典型例が既知であったが、馬場小室山遺跡は分布上、埼玉県において初めて「盛土遺構」が住居址の累積であることを検証した、特に価値ある遺跡であること。

  (4)縄文時代中期集落を基盤とした「環状土塚集落」の形成は、馬場小室山遺跡以外に残存している例は極めて少ない、年代的地方的に限られた、特に価値ある遺跡であること。
     ・遺跡は撚糸紋系土器群から千網式系土器群まで長期にわたっており、略縄文時代全般における土地利用形態が解明可能であり、このような拠点集落は全国的にも希少である。

  (5)馬場小室山遺跡は、(1)に示した特に重要な遺物以外にも、多量の土製耳飾や土偶、あるいは異形土器を出土しており、特に重要な遺物の出土が多い遺跡であること。

  (6)馬場小室山遺跡は弥生時代以降の撹乱が殆どない、保存状態の極めて良い遺跡であること。
そしてその理由が三室地区における特筆すべき歴史的な経緯である里山として長い間保護されていたこと。
                                                   
以 上

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