大好きだったアンへ・・・
<性別> 男の子
<特技> モップとして活躍できる
<名前> アン
アンというのは、物語に出てくる女の子の名前でも、また、外国の知り合いの人の名前でもありません。我が家にいた犬の名前です。本当の名前は、「アントニー・オブ・カザシガソー」というのですが、あまりにも長ったらしいので、略してアンと呼んでいました。
アンは、マルチーズという種類の室内犬だったので、家の中で人間と一緒に暮らしていました。生活のほとんどを共にする、私にとっては兄弟のような存在でした。家族にも話さない秘密も、アンにだけはそっと話していたような気がします。
そんなアンも、残念ながらもう我が家にはいません。
桜の花びらがほんのり色づき始めた頃、この世に別れを告げました。
享年12歳10ヵ月のことでした。
私がアンの死を知ったのは、勤務中にかかってきた、母からの電話ででした。わざわざ電話してこなくてもよさそうなものですが、その時は母も相当気が動転していたようです。アンが死んだ・・・それはまるで、全身の気力が抜けていくような、そんな衝撃でした。
命あるもの、いつかは必ず別れの時がやってきます。私も、日に日に老衰し弱っていくアンを目にしていたので、覚悟はしていたつもりでした。なのに、それは自分の想像以上に大きなショックとなって襲いかかってきたのです。
その頃の私は、人と多く接する仕事についていました。人と顔を合わせるのですから、当然、笑顔をつくらなければなりません。ですが、私にはどうしても笑顔をつくることも、仕事をしようという気にもなれませんでした。長く暮らしてきた、家族ともいえる存在との死。それは、私が初めて体験する別れだったからです。
そんな私を見て、上司はこんなことを言いました。
「犬が死んだくらいで・・・。あなたは、そんなくだらない理由で、仕事をさぼるつもりですか?」
・・・私は今でも、この上司の言葉を忘れることができません。
もちろん、仕事をさぼりたいわけではありませんでした。とめようとしても、涙が後から後からあふれてきて、とても人前に出られるような状態ではなかったのです。
たしかに、犬の死ごときに動揺するなど、社会では通用しない事なのかもしれません。私は・・・甘えていたのかもしれません。
アンがいなくなってからというもの、仕事をする時、あるいは友達と笑い合う時、ずっと演技をしているような気分でした。そして、無理にアンのことを忘れようとしていました。
そんな時です。はなが我が家にやってきたのは・・・。アンの死から、ちょうど半年たった時のことでした。
今、私の生活の中で、はなとゆめが、なくてはならない存在となっています。ですが、いつかはアンのように、別れの時がやってくるでしょう。その時、私はやっぱり泣いてしまうと思います。
絶対に避けられない別れを前にして、それでも私は現実の残酷さを嘆くと思います。
にもかかわらず、はなとゆめは我が家の家族の一員となりました。
一緒に暮らしていた動物との別れを経験した人は、あんなつらい思いはもう二度としたくないと言います。そして、動物と暮らすことをやめてしまう人もいます。
私も、その気持ちはとてもよく分かります。ですが、生を受けとめるには、死も受けとめなければなりません。やがて別れがあるからこそ、その時お互い悔いが残らないように、今を大切にできるのではないかと思うのです。
心の中に残るアンは、私にいろいろなことを教えてくれます。そして、はなとゆめも教えてくれます。
だから私は、この「ききみみずきん」をつくりました。
私と、私の大切な家族と一緒に。
<えぴろーぐ>
アンへ贈り物
私達からアンへの
贈り物