5.「うさぎの苦労」

 動物の視線では世界がどんな風に見えるんだろう、と考えたことがありますか?
私はよく、彼等と同じ視点におりて、同じものを観察してみることがあります。例えば、いつもの部屋の天井がとてつもなく高く感じられたり、床の上の小さなゴミがやけに気になって、つい匂いをかいでみたくなります。人間の話す言葉も、頭の上でぺちゃくちゃと聞こえます。そして、いつも視界の中にあるのは、足。見上げなければ人間は足だけしか見えません。
実はこれが、うさぎにとっては大変な苦労となっていたりするものなのです。

 おはなは、私の足が大好きです。
台所に立つ足、椅子に座った時の足、お風呂上がりの足。そんな私の足を見つけると、喜んで駆け寄ってきます。しかし、おはなには数々の試練が待ち受けています。なぜなら、一緒に暮らしている人間の数だけ、足にもたくさんの種類があるからです。
 うさぎが、まずやならければいけないこと。それは、足の持ち主の確認作業から始まります。
目の前で正体不明の足が動いた時、うさぎはその足に向かって一目散にかけていきます。必死で走っていって、それが母の足だったとしても、最初は気がつきません。
「むぅむぅ。」と言いながら、まずは匂いをかぎます。そしてここで初めて「あれ・・・?」という表情になります。しかしすぐには真実を受け入れることができず、「これは何かの間違いかもしれない。」とでもいうように、再度念入りに匂いをかぎます。
それでも、何度匂ってみても足はまぎれもなく母の足です。おはなの嫌いな母の足。そして、それに反応してしまった自分。
うさぎは、落胆の表情でその場に呆然と立ち尽くします。
この時のうさぎの心中は、自分の軽率な行動を責めているものと思われます。
 と、今度は後方で別の足があやしい動きを見せます。
うさぎは立ち直りの早い動物なのでしょうか?
こんな時、決してくよくよと悩みを引きずったりなんかしません。またしても一目散に、新しい足へ向かって元気よく駆けていくのです。それが、また違う人間の足だとも知らずに・・・。
 もっと大変なのは、家に来客があった時です。
ただでさえ見分けのつかない足達が倍以上に増殖したりなぞして、うさぎの小さな頭をより一層混乱させます。
走っては落胆し、落胆しては走り、また落胆しての繰り返し。
しかも人間達は、うさぎが疲労しているのをいいことに、「わぁ、可愛い!」などと言って、ベタベタと触ろうとしてきます。中には、「これ、ねずみ?」などと、たわけた事を言い出す人間もいます。仕方なく、おはなは部屋の隅で石ころになります。しかし、うさぎだとばれているので、容赦なく石ころは捕まえられてしまいます。今、忙しいんだよという顔をしてジタバタしてみても、人間達はおかまいなしです。
・・・うさぎの苦労は絶えることがありません。

 どうして人間の足って、あんなに分かりにくいんだろう。
目印をつけるとか何かすればいいのに。
まったく、うさぎ泣かせだよ。
そう、ぼやかずにはいられない、おはななのでした。



←もくじへ  つぎのお話→