年上の好きな人

1

「…私は、榊さんが好きです。ずっとずっと、榊さんだけを見ていました」

 安っぽいラブホテルの一室、大きめのベッドの上で、下着姿で、物凄く驚いている榊さんの前で、私はそう、はっきりと言った。思い描いていた告白シーンとは、笑えるくらい掛け離れていたけど、言った。

 どうして、こんな事になったんだろうか。
 ていうか、この人は今どんな事考えているんだろうか。

 一瞬前まで考えていた事を次々と忘れて行く。おっかないまでに榊さんを凝視する私に、この人はどんな応えをくれるのか、長い間が、私を恐ろしい早さで壊そうとしていた。



「……はぁ」

 都内にある、不況ながらも細々と生き延びている会社のOL。同じような仕事を毎日繰り返して生きている、どこにでもいる女、日高千歳。それが私だ。

 短大を出て、この会社に就職して早6年、私も親に結婚を仄めかされる年となった。お見合いなんか嫌だ、と先に釘は刺してあるものの、男なんざ3年前に親友に彼を奪われて以来いない。一生許さぬぞ、亜紀も浩次も。

 …かといって、好きな人がいない訳でもない。ていうか、いる。ZOKKONラヴな人が、いる。ただし片思いだけど。

 ちらりと視線をあの人に向ける。勤務時間内だから当たり前なんだけれど、真面目に仕事をしている34歳のナイスガイ、我等が班の主任、榊裕次郎さん(因みに長男)。この人が、私の好きな人だ。誰も同意してくれないけれど、私はこの

人が世界で一番イイ男だと信じて疑いません。


 けして顔がいい訳でもないし、年齢も微妙っちゃ微妙だし、明るくて気配り上手な性格は好感度も高い。なんとなく『いい人』で終りそうな人。そんな榊さんを好きになって結構経つ。けれど、告白はしていない。

 なんでかって言っても、至極簡単。この人、経理課の富永さんって人と付き合ってると専らの噂だからだ。同期の犬飼くんが富永さんを狙ってて、その噂を聞いて、女子のロッカー室で号泣しているのを見た。なんでそんな所にいたのかは謎だ。

知りたくもない。

 奪おうなんて思わない。ていうか、奪えない。富永佐知子さん(31)は美人だわ頭切れるわ巨乳だわ性格いいわ巨乳だわ人に好かれるわ何やらせても器用だわ巨乳だわで、勝てる要素一切無し、戦う前から負け犬宣言をしてしまう程だ。

 それに、私は榊さんの笑顔が大好きだ。あの人が幸せならそれでいい。ちょっとだけ胸は痛むし、好きな人を諦める、というのは中々難しい事だけど…まぁ、その内何とかなると信じてる。信じたい。信じて無理にでも前を向かなきゃやってらんない。

 だからこそ、榊さんで私は癒されている節がある。同道巡りにも程があるけど、
まぁ…どっちかというと好き、よりも萌え、に変更しているような所もあるから、
その内本当に何とかなるだろう。

 勝手に自己完結して仕事に集中し、気が付けばお昼の時間になっていた。私は例の、女子ロッカー号泣事件の男、犬飼くんと約束をしていたので、とりあえず待つ。すぐに犬飼くんはやって来た。

「待った?」
「全然、待ってないよ」
 
 …この人と、その内そういう関係になるのだろうか。


 ロッカーで泣いているのを発見したのは私だし、その後色々とあって慰める羽目になってしまった。その時から、友達みたいな関係が始まっている。

 とはいうものの、私も犬飼くんも未練たらたらだ。お互いに興味は無い。ただ、

行き場の無い思いで傷付いた心を舐め合っているだけだ。まぁ、犬飼くんは私が榊さんを好きな事は知らないけど。

「…早速だけど実は、主任と富永さんが不仲だと言う情報をキャッチした。でもって、今日の昼に屋上で会う約束をしているらしい」

 私の顔が、引き攣る。

「あの、マメなのとストーカーなのは似ているようで全然別物だよ?」

 そんな情報、どこで掴んで来るの?私は本気で溜息をついた。犬飼くんはにやー、と子供じみた笑みを浮かべると、私の手を掴む。

「もしこれで別れたら、俺にもチャンスあるよね。ていうか、絶好のチャンスが舞い降りて来たよね」

 この人の、こういう所がちょっと呆れてしまう。好きな人の幸せを願う事が出来ないのだろうか。それとも、自分こそが一番富永さんを幸せに出来ると確信しているのだろうか。まぁ、そうだったらそのナイスなまでの心意気は買うけど。

「お前だって、別れたら主任ゲッツのチャンスだよ」

 そりゃ、まぁチャンスだよ。私だって結局まだ諦め切れない訳だから。萌えてるけど、好きな訳で。でも、そんなのって。そんなの、卑怯だよ。つけ込むような真似、したく…って。

「え!?」
 私は顔を蒼褪めさせる。犬飼くんはうわー、というような顔をする。

「まさか、バレてないとでも思ってた?」
 心底呆れたように、犬飼くんは言った。


「え?でも、なんで?私、そんな事一言も…」

 慌てて、挙動不審になってしまう。この言動でもう肯定してるようなもんだけど、そんな事にも気付かないくらい私は慌てていた。

 が、そんな私に犬飼くんは一ミリも興味が無いらしく、冷めた表情で『わかるって』と呟いて行こう、と促した。

 …そんなわかりやすかったかな…私は頭を抱えながら犬飼くんに続いた。


『…どうしてよ!どうしてそんな事言うのよ!!』
「お、ビンゴ」

 本当に、榊さんと富永さんは密会していた。中々の修羅場だ。普段穏やかな富永さんがこんなに激昂してるなんて珍しい。ていうか、こんなん良くなくないかな、私は犬飼くんに『ヤバイよヤバイよ』と連れ戻そうとしたけど、犬飼くんは動かない。

何を狙ってるんだか知らないけど、こんなデバガメ行為、良くないって。

『どうしてもこうしても無い!お前の事を思って言っているんだ!!』

 こちらも、怒ってる声。胸が痛い。悪い事している、という事とこの人が本当に富永さんを心配して怒ってるのが丸わかりだからだ。聞きたくなかった。なのに、結局付いて来てしまった私が悪いんだけど…

 私は犬飼くんを睨む。やっぱり良くない。言うべきだ。

「…犬飼くん、やっぱり帰ろう。良くない。こんなの、絶対駄目だよ。2人の問題だし、私達が立ち入っちゃいけないって。本当に富永さんが好きなら…」

「好きだから、妥協しないんだよ。俺は、絶対に俺があの人を幸せにしたい。だからこうやってどんな手だろうと使ってるんだ」


 …駄目だ。この人も重症だ。ストーカー一歩手前だ。その無駄なまでのエネルギー、他に使えないだろうか。私は無理にでも犬飼くんを連れて帰ろうとした。

「ちょっ…何すっ…」
「いいから、帰ろうって…」
「…もう知らない、馬鹿ぁっ!」

 ばん、と屋上の戸が開く。そして泣きながら走って来る富永さん。しかし、その戸の前には私達がいた訳で。

『あああああああああああっっ!?』

 …4人の声が、一斉にハモった。ぶつかってバランスを崩し、3人仲良く踊り場まで叩き付けられるかと思った。が、しかし。

「っ…富永さんっ!!」
「佐知子っ!!」

 猛ダッシュで走って来た榊さんと、私に手を引っ張られていた犬飼くんが富永さんをなんとか支え、抱き止める。が、犬飼くんを階段を下りるように引っ張っていた私は、犬飼くんに振り解かれ、しかも富永さんにぶつかられた反動で…さて、どうなるかというと。

「きゃああああああああああああああっっっ!?」

 階段を、転がり落ちて行く。昔、ドラマでこれくらい見事な階段落ちを見た事がある気がする。そういえば、それをやったのは…ストーカーだったな。どうでもいい事を考えながら、私は転がり、そして踊り場の床に叩き付けられる。

 気絶する事も出来ず、かといって指一本動かす事も出来ずに私は呻くしか無かった。

「ひっ…日高っ!?」
 …とりあえず、一番に私を呼んでくれたのが榊さんで、ちょい嬉しかった。


「…うぅ…」
「だっ、大丈夫か!?意識はあるか?これは何本に見える!?」

 私の顔を覗き込む榊さん。ああ、指をキツネにしてる。とりあえず2本、と答えておく。意識無いか、指が6本くらいに見えた方が、正直マシだったかもしれない。

 少し遅れて、犬飼の野郎と富永さんが来る。富永さん、泣いてる。

「っ、ごめんなさい…ごめんなさいっ、大丈夫?」

 はい、と一応頷く。私は痛む身体を擦りながら、起き上がる。大丈夫か?と手を差し伸べてくれた榊さんの手を取って、立ち上がる。

「大丈夫か?頭とか…一応検査に行った方が良くないか?」

 一応、犬飼くんもそう言ってくれる。頭は、まぁ痛いし、強打したけど…大丈夫だとは思う。それを伝えると、榊さんは首を横に振る。

「駄目だ…病院には行った方がいい。後で何かあったら大変な事になる。俺が送るから、今すぐ行こう」

「はい!」

 お前極端だなー、とでも言いた気に犬飼くんは私を睨みつつ、今にも倒れそうなくらい蒼褪めている富永さんをしっかり支えている。このちゃっかり者め。

 が、私もちょっとは高揚している。この非常時に気楽だなと思いはするけど、榊さんとドライブ(というと大分語弊あるけど)だ。

 そんなこんなで、病院までの約20分、私は地獄の激痛を味わいながら天国に昇る気持ちで車に揺られて行った。

 いや、本当に痛くてそんな場合じゃなかったんだけど、恋する乙女にそんな情緒は存在しない。なんだそれと自分で突っ込むけど認めない。

 要は、痛いのよりも恋心なのだ。

2


 病院で色々治療して貰って、色々検査して貰って、異常は全く無しという事が判明した。そういえば昔から丈夫だったな。一番凄かったのは、実家の近所の悪ガキの2人組に(悪意は無かったんだろうけど)道端で驚かされて、車道に飛び出てバイクに撥ねられたけど、被害は制服が汚れただけだったアレだな。

 恐ろしい事にそのバイクの持ち主は悪ガキの兄で、泣きながら菓子折り持って来ていた…正直、悪いの…西田さんだか、岸部さんだか忘れたけど…あの人じ

ゃないのにな。まぁ、どうでもいいけど。

 予想以上に時間が掛かって、全てが終った時にはもう退社時刻だった。一応会社に連絡を入れると、なんと榊さんが迎えに来てくれるとの事。

 私は、神に感謝した。仏教キリスト教イスラム教ヒンズー教ブードゥー教、どれも知らんけど、とりあえず神に感謝した。

「ああ、良かった…どこにも異常無くて」
 貴方を眼の前にすると精神面で異常が発生するけど、それは言わない。言えるか!!
 榊さんは自分の車まで私を冗談交じりにエスコートする。私は助手席に乗ると、
シートベルトを締めた。榊さんも運転席に乗り込む。

「すまなかったな、さ…富永も本当に謝っていた。だから…お詫びという訳でも…いや、完全にお詫びだな。食事でもどうかと思って」

 榊さんもすまなそうな顔をして、そう言った。
 うわ、嬉しい。嬉し過ぎる。こう言うのなんだけど…落ちて良かったあぁあ!!
そう思いながら、私は喜んで頷く。榊さんの顔が綻んだ。

「でも、そんな気を使わなくても…ほら、こうして何も無かった訳ですし」
「…いいんだよ。嫁入り前の女の人に酷い目に遭わせてしまったんだから」


 優しいなぁ。いや、正直、常識内の言葉だけれど、相手が榊さんなら倍率ドンだ。わかっているけど、感動してしまう。

「日高、何食べたい?」
「すっぽん鍋」
「日高、お前に言いたい事がある」
 榊さんは、私を見てにこやかに微笑んだ。

「本気で死ね!!」
「きゃああーー」

 私の首を絞めるフリをした。楽しい。ああ楽しい。こういうひょうきんな所も好きだ。私は平謝りして、オススメの所はありませんか、と聞いてみた。それじゃあ、という事で、行き先はあっさり決まった。

 病院から意外と近い、狭い路地の大分奥の方にあるお店。榊さんの友達が経営しているらしい。妙に立て付けが良く、軽く榊さんが開けたら、物凄い勢いでがん、と音がしてぶつかった。

「へいらっしゃい!!」
「俺だよ」
「へいらっしゃい!!」

 …なんの遣り取りですか、それ。一瞬呆然としながら前を見ると、私は眼を見開く。いや、なんでかって、同じ格好して、同じ顔のあんちゃんが2人いたから。

「おー、中々可愛い子だなぁ、先輩の彼女?」
「…違う。会社の女の子、今日怪我させちゃったから、お詫びにだ」
「いやいやいや、狙ってるんとちゃうの?」
 いいえ、狙っているのは私です。

 そんな事を考えつつ、大分いい気分になってしまう。まだ誰もいないようで、奥の席に案内されると、向かい合わせに座った。


「…悪い、あいつらいい奴なんだけど悪ノリする奴で」
 聞けば、高校の後輩だそうで、榊さんにもぱっと見の見分けがつかないそうだ。
最初にへいらっしゃいと言った方が三男の司さん、次に言ったのが長男の静さんだそう…え?
 ちょっとした違和感。私は蒼褪めながら榊さんを凝視する。榊さんはにやー、と笑って。

「ああ、厨房に次男の透がいるぞ。三つ子だぞー」
 …私は、頭を抱えたくなった。

 色々なものを注文して暫く待っていると、仕事終わりのサラリーマンや女子大生等がどんどんやって来た。結構流行ってるんだな。

「透が、昔ク○キング○パ読んで料理に興味持って…そんで3人で店始めて…凄いよな」

 仲のいい人間の成功はやっぱり嬉しいものだ。榊さんはにこにこしながらウーロン茶を飲んでいた。対する私は運転者の真ん前でチューハイを飲む。あぁ仕事の後の一杯は美味い。仕事してないけど。

 …この人、恋人いるんだよな。改めてそう思うと、やっぱり苦しくなって来る。

好きなのに。この人の事、こんな好きなのに…そう思って一気に酒を飲み干すと同時に、料理が来た。

「はいどーぞー、やたらさっぱりする大根サラダとくどくない鳥のかしわ煮、いくらでも来いと言える串カツ、きっともう1度食べたくなるタコの唐揚げ、湯で加減最高の枝豆でーす」

 ネーミングセンスに一抹の不安を覚えながら、美味しそうな料理に涎がどじゃー、と出て来る。全部を運び終えると、司さんだか静さんだかが私の顔を覗き込む。

「さて問題です。俺は誰でしょうか」


 唐突に言われて、私は面食らう。が、榊さんは笑っている。

「サービスサービス。当てたらお好きなお酒、一杯プレゼントです」
 おお、そりゃいいな。が、マジでわからない。誰だ。誰だ…こうなったら適当だ。

「えー、ええと、次男の透さん!!」
 …一瞬の、沈黙。そして。

「…………正解」
 溜めに溜めて、そう呟いた。誰のモノマネだ。ていうか、それずるくないか!?
私はちょっと不満がありつつも、カルアミルクをお願いした。

「ちょっと性格悪くないですか?」
「さぁな、勝手に勘違いして、俺の連れて来た女の子見に来たって所だろう」

 呆れながら、すまんな、と謝ってくれた。いいえ、どんどん勘違いしてくれて結構ですけどね。私はいくらでも来いと言える串カツに手を伸ばし、食べようとした。が。

「…俺みたいなのと付き合ってると思われたら堪らんだろう?」

 そんな事を、自嘲的に言った。私は串カツを皿に置くと、榊さんを睨んだ。ちょっと、むかついた。

「そういう言い方、良くないです。付き合ってる富永さんにも悪くないですか?」
「…は?」

 ちょっと怒ったような声になってしまった。ていうか、そのリアクションなんですか?読めないなぁ。

「ちょ、俺と富永が付き合ってるって…」
「何言ってるんですか、専らの噂ですよぉ」

 この人、バレてないとでも思っていたのかな。だとしたら、可愛いな。萌えだな。でも、本当にそういう自虐的なのは良くない。


 はぁ、と疲れたような溜息をついて、榊さんは私を見る。

「…まぁ、言ってなかったからな。そういう変な噂になるのも…まぁ、な」

 残業した後くらいに疲れた表情。どうしたんだろうか。榊さんはくい、とウーロン茶を飲むと、苦笑して言った。

「富永…佐知子は、俺の妹なんだよ。両親離婚して、そんで苗字が違うんだけど」
 …え?私の思考が停止する。

「え、じゃ、じゃあ…あの、昼間の…」

 しまった、盗み聞きバレる。そう思ったけど、後の祭だ。けれど、榊さんは気にした様子も無く、また苦笑した。

「誰にも言わない?」

 しぃ、と人差し指を唇に当てる。もっ…萌えええええええ!!そのお姿、たった今写真に撮りたいわ!!私は思い切り首を縦に振る。

「…実はな、あいつ専務と不倫してるんだわ」
 いっ、いきなりハードやな。ていうか、専務って、あの…こう、なんていうか、
堀井雄○みたいなオッサンでしょ?それ…ええええっ?

「わかってる、お前の言いたい事は。でもマジらしい」
 ふるふると力無く首を振った。

「…専務はあまりいい噂も聞かないし、どうしたって専務には妻子がいる以上、傷付かない筈が無い…俺は、今の内に止めておいた方がいいと思うんだが…」

 そう本気で悩む榊さん。その表情は、確かに大切な家族を心配しているものだった。

 念の為に、じゃあ彼女がいるかどうかを聞いてみた。いねぇよ、と舌打ちされた。しかし、どうも素直に喜べない。なんとなく、そんな事よりも本気で悩む榊さんの力になれたらなぁ、という思いの方が強いからだろうか。

 …まぁ、でも、嬉しい事は嬉しいんだけどね。


「あの…」

「ま、別に俺もお前も気に病む必要は無いよな。俺は忠告したし、今後あいつが傷付いても知るか知るか!俺は腹が減ってるんだ!!よし喰うぞー!!」

 急に、テンションが変わった。本気なのか無理してるのかわからないけど、まぁ確かに別に私に関係無い。それよりも、表面上楽しそうにしている榊さんに、私が見当違いかもしれない同情寄せたってどうにもならない。

どうせなら…

「よーし、いっただっきまーす!」
 好きな人との食事の時間を、力の限り楽しむ事にした。


「…え?」
 気が付くと、私はベッドの上で転がっていた。起き上がると、頭が痛い。若干、
気持ちが悪い。頭を押さえながら辺りを見回す。

 なんだか安っぽい部屋。ていうか、どう見てもこれって…あの、ラブホ…?耳を澄ませると、シャワーの音がする。あ、止まった。私は怖くなった。幸いベッドの周りに私の服が散らかっていたので、それをかき集める。

しかし、もう遅かった。

「気が付いたか?」

 バスローブを着て、物凄くげんなりした顔で、榊さんは出て来た。私は脅えながら、自分の服で自分を隠す。榊さんは溜息をつくと、その場に座り込んだ。

「…あいつらが料理運ぶ度にお前がクイズ正解して、飲みすぎて、いきなりホテル行きましょうよーなんて言い出すから、本気でびびったわ」

 背筋が凍る。ていうか、私、そんな事口走ったんですか!?私、そんな願望あったのか?告白する前に誘ってどうするよ!!

「正直、飲み過ぎるお前を止めなかった俺も悪いんだけどな…」

3


 私は恥ずかしさで死にそうになりながら、頭をフル回転させる。なんでだ。なんで、こんな事になったんだ。えっと、えええええっと…

『お客さん凄いねぇ。俺等を6回連続で当てた人いないよぉっ…はい、芋焼酎』『あははははは、こんなの朝飯前っすよ!!いっただっきまーす!!』

『おー!一気行け一気!!はい、アンタが飲むとこ見てみたいー!!』

 …思い出そうとしても、なんか物凄く思い出したくないような会話の断片しか浮かばない。泣きそうになっている私から眼を逸らしながら、榊さんは説明を始めてくれた。

「テンションだけがどんどん上がって行って、その内に、お前が俺のベタ褒め始めるから、司がどんどん乗せて言って、お前が俺を好きなんじゃないかって言ったら、こんな可愛い人、世界中どこ探してもいない、あ○やとか上○彩なんか比べ物にならない、とか言い出すんでこりゃやばい、と思って帰ろうとしたら…」 はぁ、と溜息をつく。私は聞き入る他無い。

「…私は本気だ、だからホテル行きましょう、行かないならホテル歌うぞと脅されて…営業妨害になるから出たら、本当に歌い始めて…」

 どんどん表情が暗くなる。それで、暴れ出して、仕方ないから連れて行って、いきなり吐いてスーツを文字通りげろぐちゃにして、寝てしまったと。

「すいません…」
「お前、呂律回って無くて歌詞が『ごめんにゃしゃいね、わたし見ちゃったにょ、
あにゃたの~グ~ロい~えんが~ちょ~ぉ~』って聞こえて、別の意味でショック受けたわ」

 …多分ヘコんでる私を笑わせようとわざと言ってくれたんだろうけど、今の私には効果が無かった。


「…ごめんなさい…わたしっ…」
 ぱた、とベッドの上に涙が落ちる。最悪だ、どういう人間だ、私。

 嫌われる。軽蔑される。好きな人に、そんな眼で見られる。私は怖くて悲しくて、泣いてしまった。

「いい、気にするな。ただ、飲みすぎには気をつけろ…」

 優しく言ってくれるけど、でも、きっともう駄目だ。私、最低だ。普段から心の中で萌えとか叫んでるから、こんな事になるんだ。

「…ごめんなさい…ごめんなさいっ…」

 抑え切れない。後から後から溢れて来る涙。泣いたって、消せる訳じゃないのに。自業自得なんだ。きっと、罰が当たったんだ。

「謝られてもな…なぁ、日高…」
 泣いている私に近付いて、肩に手を置く。

「とりあえず、服着ろ。俺だって、その…一応男だし、お前、可愛いし…な」
 私をなるべく見ないように言う榊さん。一応、女としてはまだ見てくれているみたいだけど…
「けっ…軽蔑、しま、しません、か?」

 つっかえつっかえ、聞いてみる。まぁ、してても、したとは言わないだろうけども…榊さんは、ん?という顔をする。

「…しない。寧ろ、俺がされてないか?俺は、無理矢理にでもお前を帰すべきだったんだ。それをのこのここんな所に連れて来て、お前を傷付ける事になって…」

 違う。悪いのは榊さんじゃない。私なのに。榊さんの方が被害者で、傷付いてるのに。

「本当に、すまなかった。嫌だったろう、こんなオッサンに、あの、そんな格好見られて…犬飼に殴られても文句は言えないよな」

 …犬飼?…思ってもみなかった名を出されて、私は面食らう。


「付き合っているんだろ?お前ら仲いいし、今日だって…」

 はあああああああああっっ!?ち、違う、いや、何も知らなかったら、もしかして、って考えはあったけど、違う。絶対違う。

「違います、犬飼くんはただの友達です!違います、私、好きな人いますっ!それは…」
 好きな人、という言葉で、榊さんの顔が蒼褪めた。

「っ…じゃあ、それなら、余計俺は…」
 違う!!アンタだよ!!好きなのはアンタだから、ていうか言えよ私!!

「すまない、俺は、本当に…」
「違うんです、好きなのは主任なんです!!」
 私は榊さんの言葉を遮るように、そう言った。あ、ポカンとしてる。

「…え?え…あ、え!?う、嘘だろ!?」
 こんな時に、嘘なんか言えないよ…私は、まっすぐに榊さんを見ると、はっきりと言った。

「…私は、榊さんが好きです。ずっとずっと、榊さんだけを見ていました」

 安っぽいラブホテルの一室、大きめのベッドの上で、下着姿で、物凄く驚いている榊さんの前で、私はそう、はっきりと言った。思い描いていた告白シーンとは、笑えるくらい掛け離れていたけど、言った。

 どうして、こんな事になったんだろうか。
 ていうか、この人は今どんな事考えているんだろうか。

 一瞬前まで考えていた事を次々と忘れて行く。おっかないまでに榊さんを凝視する私に、この人はどんな応えをくれるのか、長い間が、私を恐ろしい早さで壊そうとしていた。

 …言わない方が、良かったかな。


「…どうして」

 掠れた声。溜めて溜めた結果の応えがそれか。どうしてもこうしても、好きなんだから。あ、経緯か?

「どうして、ですか。私にもわかりません。でも、私は貴方が好きだってはっきり言えます。ずっと、好きだったんです」

 もうどうにでもなれ、と言わんばかりの勢いで、私は榊さんに抱き付いた。

「っわ!?」

 なんですかその反応。とは言うものの、逆で考えれば私も似たような反応しか出せないだろう。予想を裏切り大分逞しい身体を抱き締めた。

「ちょっ…ま、ひっ、日高?おい、冗談はよせ、日高、なあ…」

 慌てながら、私を引き剥がそうとする。服はもう持っていなかったから、モロに私のセミヌード(最近この言葉聞かない気がする)を見て、眼を逸らしてしまう。

「冗談じゃないです、好きです…主任が…榊さんが好きなんです」

 バスローブを掴み、大分必死に主張する。困惑している榊さんは、正に隙だらけだ。私はえいやっ、とキスをしてみた。驚いて、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。即ち、私が押し倒す格好となる。

「…榊さん…」

 本気で恥ずかしいのと、ちょっと計算が入ってるのとが綯い交ぜになって、私は大分もじもじしながら榊さんにまた口付けた。抵抗は無い。私は立ち上がると、

バスルームの方に向かった。

「シャワー、浴びて来ます」

 私は、物凄く怖くなりながら、バスルームに入った。中に入ったら榊さんのスーツとかシャツが洗って干してあったから、逃げられる事は…多分無いだろう。


 …嫌な女だな…
 そう思いながら、私はシャワーを浴びていた。

 焦り過ぎて、どうしても手に入れたくて、あんな行動に出た。私も犬飼くんと変わらないじゃないか。

 きゅ、とシャワーを止める。さっぱりして、考えがまとまった。

 …断られたら諦めよう。
 考えに考えた末がそれか、とちょっとお馬鹿な自分が嫌になった。

 下心はあるから、とりあえずタオル一枚でバスルームを出る。さっきと同じような体勢で、榊さんはその場に項垂れていた。

「…あの、榊さん」
 私はちょこん、とベッドに座り、榊さんを突付く。反応は無い。

「榊さ…」
 顔を上げた榊さんを見て、絶句する。この世の絶望見て来たみたいな顔してる。
どうしたんですか、と私は榊さんの顔を覗き込んだ。

「本当に、俺でいいのか?」
 この期に及んで、何を言っているんだろう。不安なのかな…私も、不安だけど。
榊さんに抱き付くと、私は今度こそ変な言葉にならないように考える。

「…俺でいいのか、じゃないです。榊さんじゃなければ駄目なんです。もう1度言います。榊さんが、好きです。差し支えなければ…抱いて下さい」

 最後余計だったかな、と思いつつキスをした。私からばかりの、キス。榊さんは優しく私を抱き締めてくれた。

 脈あり…ていうか、差し支えなかったんだな。ちょっとだけ、嬉しくなった。
なんか間違っているような気もするけど。


「榊さんは、私の事…好きですか?」
 怖いけど、聞いてみる。差し支えないんだから、嫌いじゃあないとは思うけど、
本当に差し支えないだけかもしれない。そういう人じゃないとは思うけど…

「…日高は可愛いと思っていたし、今、俺はお前を抱きたいとは思う。今後も大事にしたいとは思っている…だが」

 言葉を切る。ていうか、その言葉だけで個人的にはもうオールOKなんだけどな。嬉しいんだよ?物凄く。

「そう思ったのは、ついさっきからだ…それまでは、会社の同僚の女性としか思ってなかった訳だし…俺は、今物凄くいい加減なんじゃないかって…」

 自信無さ気にそう言う。つまりちゃんと考えてくれているって事なのに…
「いいんですよ」

 説明はめんどくさいから、そう言って私は榊さんのバスローブを脱がせようとした。榊さんは私のタオルを剥いだ。

「綺麗だ」

 照れたように言うと、もたもたしていた私の手を制し、自分でバスローブを脱いだ。さっきも思ったけど、この人意外とイイ身体してるのはなんでだろうか。

「榊さんも、綺麗です…」
 どういう事だろう、この会話。榊さんは苦笑すると、初めてキスをしてくれた。
それからぎゅっ、と私を抱き締める。私も榊さんを抱き締める。

「…千歳」
 うっわああああああああああああああああああああ!!

 背中、ゾクゾクした。名前呼ばれるだけで、こんなに興奮するなんて思いもしなかった。私は武者震い(絶対使い方間違ってる)をしながら、もっと榊さんにひっついた…が、すぐに剥がされる。もう1度軽いキスを落とすと、耳朶に舌を這わせて来た。

背中がまたぞくっとした。ごつごつした手が、私の身体を撫で回す。私は、何故か身体を強張らせてしまっていた。

4

「はぁっ…ん、あ、あ…」

 声が出てしまう。くちゅ、と音を立てて耳朶を舐る。力が段々抜ける私を優しく横たえると、榊さんは覆い被さって来た。

「ああっ…ん、さか…き…さん」

 両方の腕が身体を撫でる。なのに、肝心な部分には一切触れて来ない。もどかしくて、でも気持ち良くて…どうしていいのかわからない。触れて欲しいとは思う。けれど、言えない。ホテル誘っといて、抱けと言っておいて、それなのに。

 私の表情でわかったのか、物足りないと、もしかして無意識に言ってしまったのか、榊さんは急に止まり、私の顔を覗き込んで来た。

「榊さぁん…」

 手を伸ばし、触ろうとするけど、なんだかだるい。私の身体、どうなったんだろうか。不敵な笑みを浮かべ、榊さんはいきなり私の脚を開いた。

「…あ」

 見られている。明るい部屋で、まじまじと見られている。つっ、と熱いものが流れて行くのがわかった。

「触ってもいないのに濡れているのか」
「っ…ん…」
 言葉で、嬲られる。そしてその度にまた感じて行く。私、こんなんだったっけ?
こんな…いくら、セックスするのが久々だからって…
「…嫌、ですか?」
 急に怖くなって、聞いてしまう。そしたら榊さん、焦ったような声になった。

「あ、嫌じゃない…すまない、傷付けたか」

 すぐそんなになるなら、言わなきゃいいのに…意地悪、しなきゃいいのに。私は首を振ると、脚を閉じようとする。それは許してくれなかった。

「傷付いてはいないですし…あの、意地悪なのも、あー、嫌い、じゃないです。
榊さんがするなら…」


 それは、本音だった。そういうのはプレイの一環としてアリだとは思うし。安堵の溜息をつくと、榊さんは頭を掻いた。私は起き上がると、そんな榊さんの前に座り込んだ。

「…榊さん、今度私がしましょうか」
「え、いいの?」

 思わず嬉しそうな顔をする榊さん。はい、と頷く。別に好きな訳ではないんですよ?榊さんが喜んでくれるなら、と思ってるだけですよ?断じて大好きっ娘じゃないんですからね?そんな事を眼で訴えて、私は恐る恐る触れてみる。

 熱い。私を触って興奮してくれたのか、大分かたくなっている。両手で扱いてみると、さっきの私みたいに先端から透明な液体が滲んで来た。

「榊さん」
「…そっちに話し掛けるの、是非止めて欲しいんだが」

 私の頭を撫でて、髪を梳く。ちろ、と榊さんを見ると、眼を逸らされた。私はおっきなそれを少しだけ口の中に入れてみた。ちゅっ、とさっきの液体を吸ってみる。相変わらず、形容し難い。唾液を溜めて、滑らせるように唇を動かす。

最近ちょっと唇荒れてたけど、気を付けてれば良かったなぁ。

「うっ…」

 呻くような、少し苦しそうな声。感じてくれているのかな、嬉しくなって私はもう少し奥まで飲み込もうとした。両手も使って、痛くならないように気を付けて擦る。好きな人のだから、していて楽しい。感じてくれると、嬉しい。

一旦口の中から出すと、先端から、つーっと舌を這わせた。

 ちょっと眼が潤んで来て、そんなに楽しいか自分、と思いながらまた口に含む。

 好きなのかな、私。榊さん喜んでくれるなら、確かに好きかもしれない。ずるっ、といやらしく唾液が口から垂れた。榊さんのものを伝って、落ちて行く。

 いつの間に夢中で私はしゃぶっていた。榊さんの為、というよりは…楽しくて。
でも、結構続けているのに中々達さない所を見ると下手なのかな、と不安になる。


「ひゃかき…ひゃん」

 もう1度、榊さんを見た。真っ赤な顔で、私を見下ろしている。感じてくれてるん…だよね?私は顔を上げて唇を拭うと、意を決して聞いてみた。

「あの、私…下手ですよね?あんまり、感じない…」
「い、いや、あ…あー、あ、その…気持ちいいけど、まぁ…」
 じっと見る。おっきくなって、私の唾液で光ってる。けど…技術不足は否めない、ってか…
「すいません、も少し上手になります…」
「いや、そうでなくて…まあ、あれだ…な?」
 全然わかんない。まぁ、何が何でも口だけでイって欲しい訳じゃないんだけど。

「…そろそろ、私、欲しいです…」

 言ってから物凄く後悔した。ちょっと夢見心地なままだったから、自分の思うままに言っちゃったけど…うわぁ。榊さんもちょっと笑ってる。

「ううっ…すいません…」
 死にたいくらい恥ずかしい。私は頭を抱えてしまった。が、後には引けない。

多分ここらかなー、と思いながらベッド脇の引き出しを開ける。案の定コンドームがあった。包みを破ると、ここまで来たら、という感じで自分で被せた。

「サービス満点だな」
 意地悪く、言った。

「無い方がいいですか?」
「…あった方がいいが…無理はするな」

 ぽん、と頭に手を置かれて、撫でられた。私はそれがなんとなく嬉しくて、にやけながら仰向けになった。

「榊さん…」

 優しくキスをしてくれると、榊さんは私のそこに指で触れた。さっきまでの行為で私も興奮していたのだろうか、蕩けそうな程に濡れていた。


「…千歳」
 名前を呼ぶ。それを合図に、私の中にゆっくりと入って来る。

「あっ…あう…うっ」

 いやらしい音を立てて、少しずつ、榊さんが私の中を満たす。榊さんが不意に唇を舐めた。驚いて口を開くと、そのまま舌が入り込んで来た。

「ひゃ…う、ふっ…ぅっ…!」

 最奥まで、辿り着いた。キスしたまま、榊さんは私の一番感じる所を弄って来た。既に流れた液で濡れて、大きく膨らんでいたそこを、また濡れた指が擦る。

腰を捩じらせてしまう度に、また快感が大きくなる。

「あっ、ああっ…さか…あぁんっ…!」

 私の中の、榊さんを締め付けると、急に榊さんは動き始めた。ギリギリまで引き抜いて、また一気に奥まで。私は大きく身体を反らし、声を上げる。

「はぁっ、あっ、あ…ん…んっ!」

 いきなり、乳首を吸われた。不意打ちのような攻撃に、私はまた甲高い声を上げる。大きく反応してしまったせいか、もう片方も摘み上げられる。それが良くて、私はもっと声を上げた。

「いっ…う、っあ、榊…さ…ひぁ…あっ…」

 私は泣きながら、榊さんを求める。手を伸ばすと、強く抱いてくれて、それが嬉しくて、私は余計に泣きそうになってしまう。榊さんの唇を貪って、恥じらいも無く腰を振る。気持ち良くて、身体がまたそれ以上の快楽を求める。

「う…?」

 不意に、榊さんが私の身体を持ち上げる。座ったまま繋がる格好で、私は思わずしがみ付いてしまった。ついでに、ある程度身体も自由になった。

「榊さん…」

 私は、自分で腰を動かし始めた。もしかして、それが狙いだったのかな…一瞬そう思ったけど、それも眼の前の快感に消えて行った。


「あっ…あ…ん、あ…くっ、ん、駄目、です…わたし、もう…」
 好き勝手に、自分のペースで動いていると、すぐに限界が来た。

「…っあ、ああっ…さか…きさん、すき…あっ…あ…!!」

 びくん、と大きく震える。小刻みに痙攣しながら、私は達した。力が抜け、榊さんにもたれ掛かる。

「イったか?」
 わかり切っている事を、聞いて来る。反論する力も無くて、私は素直に頷いた。
けど。

「…俺は、まだだ」
 え?…質問する暇も無く、また私は仰向けにされる。

「ぅあ…やっ…やあああっ!」
 達したばかりで、まだ敏感な中を、今度は…さっきよりも激しく突かれる。

「ひっ…い、ああっ!…う…あっ、いっちゃ…!またっ…」

 2度目の、絶頂。それでもまだ榊さんは私を攻め続ける。両方の胸を掴んで、寄せる。痛いくらい勃った乳首を舐め回す。私は汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、嬌声を上げ続ける。

「千歳っ…!」

 …最後は、もう声も出なかった。今日の階段落ちみたいに、気絶する事も出来ずに、脱力して動く事すら出来なかった。大きく脚を広げたまま、さっきよりは小さくなった榊さんのが引き抜かれた。

「…あう…」
 汗びっしょりで、動けない私。同様に汗かいてるけど、ぴんぴんしてる榊さん。
物凄く悔しい気分になりながら、それでも私は何かを言う事すら出来なかった。

 …もしかして、これから先も、こんな激しいのかな…
 ちょっと恐ろしくなった。


「…千歳、お前誘ってるのか?」

 いいえ、動けないんです。眼で訴えると、苦笑した。榊さんはよっこいしょ、と私を普通に寝そべった格好にしてくれた。そのまま横に寝転がって、掛布を掛ける。そういえば、榊さんと…言ってしまえば恋人になったんだな。

順番、色々違うけど。

「榊さん…好き」
「ああ、俺もな」

 どうしようもない子供をあやすみたいな口調で言わないで下さい。私は疲れているけど、眠れない状態で、暫く黙って幸せに浸っていた。

「なあ、千歳…起きてるか?」

 暫くお互い無言でいたら、ふと榊さんが話し掛けて来た。返事をすると、榊さんは少しバツの悪そうな顔をしていた。

「さっきの話だけど…お前、下手くそなんかじゃないからな」
 一瞬わからなかったけど、私はすぐに赤くなってしまった。いきなり何を…

「ごめんな、おじさん最近年のせいか…あんまイきにくいんだわ。だからああもしつっこいのになったんだ…ごめんな」

 …あー、あー…妙に納得しながら頷く。

「昔と違って1回で満足しちまうし…そっち方面は苦労掛けるかもな」
 きゅっ、と私を抱き締めてくれた。

「…はい」
 ていうか、私も1回で満足ですて。これ以上されたら壊れちゃうよ…
 これからの事を考えながら、とりあえず私は榊さんにくっついたのだった。

          終