白衣×白衣

1

「…悪いけど、アンタ好みじゃないんだわ。寧ろ嫌いなタイプ。だから駄目。付き合えません」

 そう言って、私―――品川綾の想い人はこれ以上無いって位の冷たさで私を拒絶しました。わかっていました。私、自分が駄目だっての、理解していました。

 身長、176cm…

 普通の女としては聊か高過ぎるこの身長。小さい頃からこれのせいで苛められて来ました。別に太ってはいませんが、物凄く運動オンチです。お陰で色々な部活に勧誘はされたものの、すぐに物凄く失望され、そのせいで必要以上に暗い性格になりました。

今では、こんなんなのに科学教師やっています。

 そんな私が、人生何度目かの恋をしました。

 去年この高校(男子校)に赴任して来た、保険医の桜井先生。歳は26歳、身長は…169cmとやや小柄だけど、綺麗な顔をしたクールな人です。

 ずっと見ているだけでしたが、先日一念発起して告白して、2秒で撃墜。いいんだ、大抵こんなんだったから…だから、今回の恋も、暫くすれば忘れる事が出来る。

 大丈夫。きっと、大丈夫。

 ―――そう、思っていたんだけどなぁ。


「…最悪」
 割と、ショックは大きかったみたいだ。もう2日くらいマトモに寝れていない。
放課後、準備室でうとうとしていたら、あっという間に6時半。
 家に帰るの遅くなるなぁ、と溜息を付きながら帰り支度をした。


 薄暗い校舎の中、私は歩く。
 …私の人生、これでいいのかな。友達も少ないし、これはといった特技も無い。
何か、刺激的な事でも起きないかな…

 少々イタイ事を考えながら、私は職員用玄関に向かう。途中に保健室があるから、毎朝、毎夕と胸が痛くなるんだけど…

 …ん?
 保健室の前を通り過ぎようとした瞬間、中から苦しそうな声が聞こえて来た。
あれ?この学校の七不思議、保健室関連あったっけ?
 幾ら考えても…

 ・中庭の向江学園(この学校)創設者、向江徹の胸像が夜中緑色の涙を流す
 ・音楽室で西暦末尾が6の年の6月6日、一斉に吹奏楽器が3cm浮かぶ
 ・家庭科室に何故かある牛体模型は実は本物の骨
 ・3年3組の教室の右から12列目上から4列目のロッカーは銀で出来てる

 ・この学校には地下室があり壁に『さぷらいずどゆう』と書かれている
 ・職員用トイレで怪死した音楽教師の霊が夜中『十七歳の地図』を歌う
 ・視聴覚室のモニター側の壁で逆立ちすると、必ず右足薬指を骨折する
 うん、保健室関連は無い。

 私は大分怖がりながら、こっそり保健室の扉を開けようとする…って、開いてる。そろそろと、中に入ると、はっきり声が聞こえた。

『…日比谷先生…っ、好き…好きなの…』
 奥の、ベッドがある方から、そんな声が聞こえている。

 日比谷先生って…あの、音楽の、おっとり目の、どちらかというと可愛い感じの…ネックは喜三郎って名前くらいの音楽教師…


 ああ、恋をしているんだな、と思った。けど、解せない部分がただひとつ。
 聞こえて来る声は…どうしても聞き間違いが出来ない、男の人の声。桜井先生の…声…

 私は、その時意識を失っていたのかもしれない。なにをしているのか、半ばわかっていた筈なのに。私は無意識に部屋とベッドの仕切りをしているカーテンをしゃっ、と開いた。

 その瞬間、空気が凍る。
 ―――案の定。

 ベッドの上で、物凄く色っぽい表情で、1人で、あの、自分の、こう、あれ、ナニを握り締め…

「っ…き」
「ちょ、さっ、叫ぶんじゃないわよっっ!!」

 そう言って、絶叫しようとする私の口を塞ぐ、女言葉の桜井先生。ていうか、その手、今の今までナニを握り締めていたんじゃ……!?

「っ!?」

 でっかい私を、いとも簡単にベッドの上に組み伏せる。ていうか、出てる、出てます、あの、その、いきり立ったうまい棒が!!

「…見たわね」
 いや、見られて困る位なら、しまって下さい!しまって下さい!!しまって下さいってば!!!

「っ…っ…」

 口を塞がれて、簡単に、腕一本で動けなくされて、私は恐怖で完全に泣いていた。ていうか『怖い』って感情で泣く日が、24歳になった今になって来ようとは思ってもいなかった。


「っ…ぐっ…ふ、ぶっ…」

 喋ろうとするけど、出来ない。本気で私を憎んでいるような眼の桜井先生が怖くて、涙が止まらない。

 …殺されちゃうのかな。そんな事を、思った。終わってしまう。全部、私の人生が、全部終わっちゃう…

「…悪かったわね」
 そう、あっさり諦めた瞬間、それ以上にあっさりと、桜井先生は私を解放した。
そして、いつのまにか萎えてた例のブツをしまう。
 …ていうか、ここまでで、わかった事実。

 桜井先生は、ホモで、オカマで、大分短気。私は、溜息を付く。この人の事、1年見続けて何もわかっていなかったんだ…

「いえ、いいんです」

 私は、微妙に眼を逸らしながら涙を拭う。じっ、と桜井先生を見ると、それでも、理解してしまった。私、まだこの人が好きなんだって。

「いい訳無いでしょ、アンタ、アタシの事誰かに言うんでしょ?放課後の保健室でオカマが同僚オカズにして一発ぶっこ抜いてたって」

 …オカマの割に、言葉が汚い。

「え、いっ、いえ、あの、そんな事―――」

 一瞬、物凄く嫌な予感した。逃げろ、逃げろ。そんな声が、頭の中でした。しかし時既に遅し。桜井先生は転がったままの私に再び覆い被さって来る。そして、

え、嘘!?

「どっ、どこからそんなの―――」

 桜井先生は、いきなりガムテープを取り出し、恐るべき速さで私の両手首をぐるぐる巻きにしてしまう。そして、最期に私の口にべった、と貼る。すると。


「…アンタがアタシの秘密を知った以上、アタシだってアンタが何も言えなくなる事をすれば、いいのよ」

 くすくす笑いながら、桜井先生は私に近付く。

「っ、っ…!!」

 シャツと、セーターを一気に捲り上げられる。脱がされるかと思ったけど、身体に比例した邪魔な乳が出る格好で、止められた。それからスカートも、腰まで捲り上げられる。

「ぶっ、ふぶっ、っ―――!!」
「うっさいわね、黙らないともっと脱がすわよ」
 そう言うと、馬乗りになったまま、携帯電話を取り出した。まっ…まさか!?
撮影ですか!?

 そんな事、させる訳には行かない。私はぐるぐる巻きにされてるけど、なんとか動かす事の出来る腕を使って、携帯電話を叩き落す。力の限り、開いた状態のを叩き落としたから、やった!真っ二つ!!慌てる桜井先生の隙を突いて、私は両手に渾身の力を込めて、股間を握り潰す。

 …うまい棒の方じゃなくて、付属物の方を。

「はぁ…」

 口のガムテープを剥ぐと、歯で手首のテープの端を噛んで解く。桜井先生は、まぁ、暫く大丈夫だろう。股間を抑えて、ベッドの上で泣き崩れている。

「…大丈夫ですか?」
「うぅぅううぅぅうっせぇ…」
 あ、余裕が無い。カマ語じゃない。
 本気で痛いんだろうなぁ…でも、私にはどうする事も出来ないし。でも。

「そんなに痛いですか?」
「…聞くか」


 私を、泣きながら睨む。確かに、こうなるとわかっていてしたから…まぁ。

「擦ってあげましょうか?」
「…なによ、アンタ同情してんの?」
「いえ別に。こっちが同情して欲しい位です。あ、謝って下さいよ、それよりも」

 そう言うと、私は立ち上がり、真っ二つの携帯電話を拾い上げる。が、桜井先生…いや、こんな奴に先生、なんて付ける必要は無いだろう。桜井は、私を睨んで来るばかりだ。

「へーぇ、そういう事出来るんですか。いいんですよ、今すぐにでも私、日比谷先生に電話して、桜井先生にレイプされ掛けたって泣き付いても」

 ―――その瞬間、桜井の表情が一気に蒼褪める。
 私は、こんなに性格が悪かったろうか。
 私は、こんなに酷い事が出来ただろうか。

 色々な疑問が頭に浮かんだけど、私は考えないようにした。今はただ、かつて好きだった―――ううん、きっと、今でも好きなこの人を、どうしたらいいんだろうと考えながら、泥沼に落ちようとしている。

「っ…すっ…すいません、でしたっ」
「宜しいです」
 そう言うと、私は電話を取り出す。そして。

「っ、ちょ、アンタ、何を―――」
 私は、ベッドから離れる。電話を掛ける。桜井は、動けない。

「あ、もしもし…私だけど…」

 ちろ、と桜井を見る。あ、這い蹲りながら少しずつ移動して来る。私は更に逃げる。そして、人生初めてかもしれない、泣き真似をする。

「っ…あの、っ…あの、実は」
「―――っ!!」

2

 桜井は、何とか立ち上がろうとする。けど、ダメージはかなり深いみたい。私はもう少し引っ張って、そして落とす。

「ちょっと、生徒が起こした事故で、今日遅くなるの…うん、あ、大丈夫。ごはんは家で食べるよ。じゃね、お母さん」

 ぷち。
 そう言って、私は電話を切った。数メートル先には、脱力して倒れている桜井。
私はくすくす笑って、桜井を抱き上げようとした。が、振り払われる。

「っ…何よ!アンタすっごい性格悪いわね!!アタシが今、どんな気持ちで…」 …アタシが今、どんな気持ちで?

 加害者の癖に、そんな言葉を使った桜井に、私は何故か、物凄く腹が立った。
そして、やっと理由がわかった。

「―――え?」
 そんな、間の抜けた声を出したのは、桜井先生の方だった。
 私はがっくりと膝を付いて、また泣き始めてしまったのだ。

「え?え?え、ちょっ、アンタ―――」

 急に、おろおろし始める。そりゃそうだろう、形勢逆転してたのに、いきなり泣き出すんだから。でも、やっと私は理解したんだ。

 ―――押し倒されて、拘束された時、私は人生最大の恐怖を味わっていたんだ。

 最大、というか、感じる許容量を完全に越えてしまっていたから、頭の中のどこかが焼き切れて、逆に冷静になった振りして、私はおかしくなっていたんだ。

だから、あんなに淡々とどえらい事が出来たんだ。

 そんな事に今更気付いて、私は本気で怖くて、さっきの桜井先生みたいに泣き咽ぶ事しか出来なくて。 

 …桜井先生も、どう扱っていいかわからずに、股間を押さえるしかなかった。


「…ちょっ…ねぇ、アンタなんなの?なんで…」
 暫く経っても、まだ泣いている私に、やっと復活出来た桜井先生は近寄る。私に、触ろうと―――
「嫌ぁっ!!」

 怖くて、その手を払い除ける。ちょうど、さっき私がされたみたいに。が、桜井先生は私みたいにムッとはしなかった。それどころか、物凄く傷付いたような顔になる。そして―――

「っ…ごめん」
 本当に、謝られた。今度こそ、本当に私に悪い、と言う気持ちで謝ってくれた。

私は涙、鼻水でぐっちゃぐちゃの顔を上げる。桜井先生は、見た事も無いような切ない表情で、私を見ていた。が、耐え切れなくなったのか、ティッシュを取り出す。反射的に眼を閉じると、桜井先生は顔を拭ってくれた。

「もう、アタシの事なんて軽蔑したでしょ」
「…はい」
 軽蔑、もそうだけど、それよりもどっちかというと恐怖対象になってしまった。
 桜井先生は溜息をつきながら、三角座りをする。

「…言って、いいわよ。どうあっても、アタシがした事は許される事じゃない」 そんな事言うなら、しなきゃ良かったのに。そう思いつつも、いきなりしおらしくなってしまったこの人が、ちょっと可愛くて。さっきのだって、襲おうとしたんじゃなくて、誰にも―――日比谷先生に知られたくなくて、短絡的思考でやってしまったと考えると―――…いや、そこまで好意的にというのは無理だ。

 それより大泣きしてちょっとスッキリして、ある別の事が気になりだしていた。


「…桜井先生はなんでオカマになったんですか?あと、日比谷先生を抱きたいんですか?抱かれたいんですか?」

 ―――絶句する。が、桜井先生は頭をがしがし掻きながら、応えてくれた。

「…アタシが好きな女が、別の女が好きで、だったらその女よりイイ女になってやろうと思ったからよ」

「で、玉砕して男に走ったんですね。じゃ、抱かれたいんですか?」
 私の言葉の端々がむかつくのか、ちっ、と舌打ちしながら溜息。

「逆よ。抱きたいわよ。メチャクチャにしてやりたいわよ」
 そう言った。

「へぇ~」
「アンタ、アタシに悪意しか無いわね?」
 頭をぎりりり、と掴まれる。もう、怖くは無かった。思い出したくは無いけど、
この人が怖い、というのは無くなった。
 暫くお互いに笑っていたが、桜井先生は急にはぁ、と溜息をついた。

「…でも、駄目なのよね。結局アタシは後一歩で足が止まるのよ。本気でアイツが好きなら、乳付けたりち○こちょん切ったりすれば良かったのに、頭のどっかではアイツを男として抱きたいって思ってたし、今だって、拒絶されるのが怖くてこうやって誰もいない保健室でオナニーに勤しむ事しか出来ない」

「家で出来ないんですか?」
「…学校の方が乗るのよ。アンタだって気持ちが乗るのは大切だと思うでしょ?
どうせアタシをオカズにやった事…おぶふっ!?」

 私は、真っ赤になって桜井先生の口を塞いだ。ていうか、こんな事したら、してるってバレバレだ。私は本当に、この人の何を見ていたのだろうか。クールな人だと思ってたのに、蓋を開ければコレ。なんだかなぁ…って。

「え…」


 不意に、桜井先生が…あの、私の胸を触った。あまりの事に、私は反応が出来ない。

「あっ、あの…」
「…いいわね、アンタは」
 そう言うと、桜井先生は私を見ながら、穏やかに笑う。意味が、わかりません。

「アンタはアタシが欲しかった物、一杯持ってるもの。高い身長も、おっきいオッパイも、優しい所も」

 くっ、と胸を触る力が強くなる。私はどうしていいかわからずに、眉を下げる事しか出来ない。明らかに痴漢行為なのに、何故か、傷付いてるみたいな桜井先生が凄く気になって。

「…悪かったわね、こっ酷くフッちゃって」
「あ…」
 言われて、さっくり撃墜してくれた時を思い出す。

「嫌いなタイプっての、嘘よ。アンタが、アタシが男としても女としても欲しかったもの、みんな持ってたから、腹立ったのよ。だから―――」

 だん、と床を叩く。私は、こんな時なのに、こんな状況なのに、こんな顔をさせているのに、私は―――

「私も、貴方に憧れてたんですよ…?」
 この人を、好きになってた。
 好きな理由は、前までと180度違うけど、でも、確かに。
 …この人を、好きになってた。だから、慰めたかった。そんな悲しい顔、させたくなかった。

「っ…品川、先生?」
 私は、胸を触ってる桜井先生の手を、握った。そして、もう一度、告白した。


「…桜井先生、好きです。好きになった理由は変わってしまいましたけど、好きです」

 瞬間、桜井先生の顔が、真っ赤になった。そして、私の手を振り払うと座ったまま後ずさった。桜井先生の反応も、180度違っていた。

「え、え!?ちょ、え、嘘、え!?アンタ、え!?」
「いいんです。伝えたかっただけです。結果は聞きませんよ、わかっていますし。
けど」
 どっこいしょ、と座ったままの桜井先生の手を取り、立ち上がらせる。

「好きになってしまいました。前よりも、本当の貴方を知って、ずっと好きになってしまいました。一度、軽蔑しました。恐怖対象にもなりました。でも、好きになってしまいました」

 好きになってしまいましたと3回言った。私はにこー、と笑う。
 好き。一種、清々しさを感じる位、好き。だから。

「ですから、協力します。日比谷先生もどっちかと言えばそっち系ですから、ある程度行ってしまえば、行けるんじゃないですか?」

 そう言うと、物凄く驚いた顔をして、桜井先生は私を見る。が、その表情がどんどん険しくなって行く。そして。

「痛っ!」
 ぐ、と胸倉を掴まれる。え、なんで!?

「っ…なんでよっ、なんでアンタ、そんな事言えるの!?アタシが好きなんでしょ!?なのに、なんでアンタはそんな…アタシの茨道けもの道みたいな恋応援しようとすんのよ!よく考えなさいよ、パンピーホモにするより、男の機能付いてるオカマ振り向かせる方が簡単でしょ!?」

 一息に、物凄くキレながら言う。けど…
「え、でも、桜井先生は日比谷先生が好きなんでしょう…?」
「アンタはアタシが好きなんでしょう!?」


 一喝される。私ははい、と答える。そりゃ、ちょっと辛い。けど、こんなに馬鹿で一途なこの人見ると、応援してあげたくなる。それだけの話なんですけど。

「でも、桜井先生は…」

「なにこの無限ループ!!アタシじゃないのよ!アンタなの。アンタはアンタの好きな人がいるんでしょ!?手に入れたくない訳!?」

 なんでだろう。なんでこの人、こんなに怒ってるんだろう。私は、本気で不思議でならない。まぁ、言いたい事はなんとなくわかるけど…これは多分考え方の違いだと思うけど…どっちがいいとかじゃなくて。

「落ち着いて下さいよ…要は私と桜井先生では基本方針が違うんです。多分、桜井先生は好きな人に好きな人がいても、諦めなかった。私は好きな人が好きな人と結ばれる応援をしたくなった。それだけです。貴方が幸せになって欲しいだけなんです」

 言って、合わせなかった視線を合わせる。釈然としない顔。せめて、身長が逆なら。私だって、一度は好きになった人を見上げてみたい。けど、それは叶わない願い。この人が私の方を振り向いて欲しいというのも…叶わない願い。

 諦めてばかりなのも悪くない。それが良い方向に向かう事だってある。それに、
応援したいのも私の意思だ。けど、どうも納得してもらえないようだ。顔が怖いし。

「…アンタ、ほんっとにむかつくわ」
「え?」
 そして、紡がれたのは予想外の言葉。桜井先生は、溜息をついて私の肩を叩く。
当然痛い。

「なんでなのよ…なんで、アンタはそうなのよ。なんで、アタシがそうしたい事を普通にやってのけんのよ…なんで、アンタは全部持ってんのよ…」

 …困る。そういう言い方、凄く困る。だって、私だってそういう友達いるもん。
何でもはっきり言えて、背が小さくて、明るい友達。羨ましいって思う。

3

 全部、欲しいって思う。けど、土台無理な話。私は私でしか行動できないし、この地味顔で生きて行くしかない。そういうとこ、わかって欲しい。

「っ…!」
 私は、ぎゅっと桜井先生を抱き締める。

 本当は、私がそうされたいんだけど…無理だし、そういう気持ちで抱いた訳じゃ無い。不安定なんだ、今のこの人。だから、こうした。

 わかってくれたのか、桜井先生は素直に泣いてくれた。私の胸の中で、可愛く、

子供っぽく、わんわん泣いてくれた。私は頭とか背中とかを撫でてあげる。そうすると、また桜井先生は泣いてしまった。

「……んっ」
 不意に、泣きながらキスされた。ちょっとしょっぱい。え、ていうか、キス…「え」

 私は、状況が把握出来ずに何度も瞬きをしてしまう。すると、桜井先生は鼻水を袖で拭ってからまた。びっくりし過ぎて、されるがままになっている。その内、

触れるだけだったキスが、舌まで入って来て…
「っ、ちょ、さく…」

「うっさいわね、アンタ、アタシが好きなんでしょ!?女はねぇ、一番好きな男より、一番愛してくれる男といた方が幸せになるのよ!!」

 そう言われて、一瞬考える。

「…桜井先生、女で無くてオカマで、私は男で無くて女です」
 物凄く抗議したくなって、突っ込んだ。が。

「せめて、オカマでなくて男って言いなさいよ!踏ん付けてやるわよ!!」
 そう、怒られた。とっても理不尽。そして、桜井先生は強引に私を抱き寄せる。
さっきとは逆。私が、望んでいた―――
「あ…」
 自覚してしまうと、耳まで熱くなって来る。あまりの急展開に付いて行けない。


「え、えっ!?あの、桜井先生…」

 さっきと同じ体勢。けど、さっきとは全然違う優しさで、私はベッドに押し倒される。で、またキス。そのままぎゅっとされる。

「怖い?さっきの、思い出す?」
 言われて、さっきの事を思い出す。怖い…かもしれないけど、それよりも。

「…ドキドキ…します」
 胸を押さえる。なんだろう、なんで、こういう事するんだろうか?

「怖い、けど、でも…私、好き、ですから…好きな男の人にこんな事されて、どうしていいか…」

 別に、初めてじゃない。けど、こういう状況下は初めてだから、戸惑っているのだろう。とにかく、不快じゃない事は確かだった。

「なにするんですか…」

「なにって、ナニよ。言っとくけど、アタシまだスッキリしてないんだからね」 にやー、と完全に男の人の顔になってそんな事を言い放つ。

「えっ…ちょ、やだっ、やです、私、いくら好きでもそういう公衆トイレみたいなのは、凄く嫌です…」

 またキスしようとする桜井先生の顔を掴んで、私は起き上がろうとする。けど。

「ちょっ、アンタ何て事言うのよ。いつアタシがアンタを肉便器にするなんて言ったのよ。あのねぇ、さっき言ったじゃない。アタシの本命、たった今からアンタなのよ。だから、あの、優しくするから抱かせなさいよ」

 …肉便器って単語に聊か興味を引かれながら、私はじっと桜井先生を見る。今言われた事、全然前の言葉から読み取れなかったけど、それって―――

「あの、その言葉を世間一般の表現で言っていただけませんか?」
 言われて、桜井先生は真っ赤になる。そして、けして目線を合わそうとせず。

「…アンタが好きよ。アタシのものになって」


「…はい、喜んで」
 神レベルの切り替えの早さに心から感謝しながら、私は桜井先生を抱き締めた。


「桜井先生…恥ずかしい」

 辺りはすっかり暗くなって、月明かりが差し込んでいる。そんな中、私は保健室ベッドの上で全裸で正座してる。なんでこんな事になったかと言うと…なんでだろう。

 桜井先生、実は女の子抱いた事そんなに無いみたいで、だから、じっくり私の身体が見たい、なんて言ったけど…恥ずかしい。正直、大きい訳だし。

「いいわよ、アタシはアンタの身体羨ましいんだから」

 そう言いながら、桜井先生は立ったままじーっ、と私を無遠慮に見る。恥ずかしくて、じわ、と涙が浮かんで来る。

「桜井先生…」
「うっさいわね…アンタそういう顔すんじゃないわよ」
 そんな事言われても…そんな風に見られたら、こんな顔になってしまう。

「乳のでかさの割に乳首小っさいわね」
「っ…!」

 いきなり、右の乳首を摘まれる。私は素直に反応してしまい、顔をもっと赤くしてしまう。桜井先生は笑いながら私の身体を強く抱き締める。

「やっぱ、女の子の身体ってのもいいわー。やらかいやらかい。アンタ、いい身体してるじゃなーい」

 …桜井先生は服着たままだから、余計恥ずかしい。でも、服の感触が何とも言えない。あったかい…裸だと肌寒いし…

「桜井せんせ…」
「操でいいわよ」


 さらっ、と言ってくれる。じゃあ、私も…
「…私の事も、綾って呼んで下さい…操先生」
「何かが根本的に違ってる事に、早々に気が付いて欲しいわぁ」
 溜息を付きながら、言った。意味はちょっとわからない。

「操先生、私、あの…」
 そんな事より、もっと気になる事が。

 実は、さっきからなんだけど、私を抱き締める操先生の、あの、下半身…なんだけど…あの、こうぐりぐり押し付けて来る感じで…あの、凄く困るんですけど。

「っの、あの、あっ、あの」
 言うより先に、操先生は私の手を握って、自分のを触らせて来る。

「溜まりっぱなしなのよねぇ。アンタ、責任取ってよ。もう少しで出せたのに」 ちー、とズボンのファスナーを下ろす。変質者みたいな顔をして、操先生はご自慢の波動砲を出す。間近で見るの、私も初めてなんだけど…

「ねぇ、アンタ乳どんだけあるの?」
 不躾な質問。私はちょっと苦い顔をしながらEです、と答える。あれ?という顔をする操先生。

「あー、なんだ、そうなの。アタシ、Gカップくらいあるかと思ってたのに…はー、でもEでそんだけあるんだぁ」

 べたべたべたべた触って来る。変な気分になってしまうんですけど、あの、操先生…
「ねぇ、綾」
「あっ、あ、はい!?」
 唐突に呼ばれて、慌ててしまう。感じてるの、バレないといいんだけど…
「アンタ、今物凄いエロい顔してるわよ」
「うぐっ…」
 …思い切りバレてました。


「そりゃそうよね、そういう風に触ってるんだもの。胸でかいと感じにくいって聞くけど、まぁ、普通よねぇ。こんな固くしちゃって」

「やぁっ…!」

 今度は、舌で突付かれる。びっくりして、倒れこんでしまう。私に覆い被さって、操先生は尚も私の胸に口を付ける。あったかい口の中で嘗め回される感触が、

気持ちいいのか悪いのか…そう思いながらボーっと押し付けられるような感触を享受していると、不意に―――

「あ…」

 操先生が体勢を変えて、またさっきみたいに馬乗りになる。すると、私の胸を両方掴んで寄せると…ぅえええええっっ!?

「ちょっ…いやっ…やですっ、いやぁっ…」

 操先生の唾液でヌルヌルになった胸に、あの、挟んで…あの、先、顔に当たるんですけど…あの、舐めろって事…ですか?

「…ホモなのに、なんでこんなプレイ考え付くんです?」
 一生懸命、ちろちろ舐めながら普通に疑問に思った事を言う。

「うっさいわね、ちゃんとこういうのはメニューにあんのよ」
「だから…」
「…アンタ、だまんなさいよ」

 両手でつかまれた胸を、痛いくらいに揉まれる。あの、そういう事されると、声は余計に出てしまうんですけど…それに、私…こんな事した事無いから、先の方を舐めるしか出来ない…

「んっ…にが」
「良薬」
「違います」

 寒い事を言う前に、制する。私はとにかくこの現状をどうにかしたくて、こうなったら、と聞いてみる事にした。


「…操先生」
「なに」
 楽しそうなお顔。でも、正直私は…苦しい。

「どうすれば終わります?」
「…やなの?」
 首をかしげる操先生。喜んでする女の方、いるんでしょうか。

「だって、私やり方わかりませんし、このまま延々やり続けなきゃいけないんですか?」
「へー、なによ、やり方わからな…」

 意地悪な笑顔で、途中まで言う。そして、途端に顔が蒼褪める。そして、カタカタ震えながら挟んだうまい棒を抜く。あー、ぬらぬらしてる。

「…あの、処女?」
 その質問には、首を横に振る。あ、安堵の溜息。

「なんで、怒らなかったのよ」
「…あまりの事で思考停止してたんです。初めてですよ、あんなの舐めるの」

 あんなの、という言葉に一瞬カチン、と来たようだけど、それよりも罪悪感の方が強かったのだろうか。

 ちゅー、と吸われるようなキスをされた。それでもって、私を優しく抱き締める。ごめんね、と一言。

「ちゃんと聞けば良かったわね。なんか、雰囲気でなんでもアリみたいに思って」
「…なんでもって、なんですか?」
 その言葉に今度は私がカチン、と来たけど、一応我慢した。操先生は笑って。

「え?縛るのとか、叩くのとか、色んな道具とか、アナ…」
 ぱちーん、と叩いた。

「ちょっ…なにすんのよ!言っとくけど、アレだって慣れれば気持ちいいんだからね!?第一男と男ってどこでセックスすると―――」

4

「…私は女です。で、操先生は男の人です」

 ちょっと冷たく突っ込む。うぬぬ、と歯軋りする。でも、私が睨むと溜息をついた。また頭を掻くと、気を取り直したように笑う。

「まぁ、この件に関してはアタシが悪かったわよ。ちょっとルール違反だったわ。でもね」
「ひゃっ!?」
 私の股座に手を突っ込んでくる。そんな事して、どうするのかというと―――
「アンタだって、濡れてんじゃない」
 くすくす笑って、指を舐めた。

「…サイテーです」
 私は、顔を隠して呟いた。

「なによう、拗ねないでって。今度はアタシがしてあげるから」
「………………はい」

 何度も、色々な所にキスされる。その度、笑ってる眼が、なんだか本当に私を好きでいてくれるみたいで、それだけで、なんとなく…許してしまう。惚れた弱みって、恐ろしい。

「しかし、アンタ無意味に柔らかいわね」
 つー、と意味無く手首に舌を這わせて来る。反論したかったけど、鳥肌が立って言えなかった。

「ほら、も少し脚開きなさいよ」

 …全体的に、この人はデリカシーに欠けてる部分があると思う。まぁ、この辺は仕方無いだろうけど…

「恥ずかしいで…ひょえええっっ!!」

 ムードもへったくれもなく、がっぱり脚を開かされる。確かに、こういう遣り取りあったって、最終的にする事は変わらないだろうけど…


「ちょっ…え!?」

 なんか、下半身が明るい。というか、光ってる。よく見てみると、将棋の駒みたいな物を持ってる。それが光ってて―――

「なっ…なにしてるんですか!なんですかそれ!!」
 流石に切れそうになる私に、操先生は。

「見たいのよ!自分に無いモン、見たいのよ!!ついでにこれは新しい将棋の駒よ。試合中は関係無いんだけど、夜家帰って鍵開ける時にボタンを押せば光って鍵穴がわかりやすくなる、キーホルダーとかにすると最適!!」

「それは単なるキーホルダーじゃないですか!!」
 そう言いながら、奪おうとする。が、出来ない。逆に、両手首を、両手で掴まれる。

「…だから、見たいのよ。自分に無い、綺麗な身体が。欲しくて、羨ましかったけど、見れば見る程手に入らないってわかるのよ…だから、その分愛しく感じるのよ…今は。不思議よね、さっきまで憎たらしかったのに」

 笑った操先生の笑顔は、なんだかとても…男の人みたいだった。でも。

「それは操さんの言い分であって、私が納得する要素が何ひとつ無いんですけど」
 …操さんの表情が、一気に変わった。

「もうっ、アンタ、ホント腹経つわねぇえええっっ!!」
「えっ…え、きゃああっっ!?」

 おもいっきり押し倒されて、そのまま、一気に…操さんが入って来た。びっくりして、仰け反ってしまう。痛みは感じなかったけど、とにかくびっくりした。

「やっ…みっ、みさ…っさぁ…」

 私の腰を掴んで、私の中を抉るみたいに抜き差しして来る。今は、快感というよりも―――なんだか、自分の中に、男の人が入ってるっていう事実の方が大きくて…そうなった経緯を考えると、急に身体が反応してしまう。


「…っ、操、さん…」
 私は、何故か両手で自分の頭の横ら辺のシーツを握り締める。

「…アンタの中…気持ちいい、わよ…」
 酷く意地悪く、言ってくれる。でも、さっきもそうだったけど、そうやって意地悪くされると…

「アンタ、可愛いわねぇ…んな言葉に一々反応して。キム○クと身長同じなんでしょ?それがねぇ…」

 そういう事を言われる度に、私は、操さんのを、自分でも恥ずかしいくらいに締め付けてしまう。してる本人がわかっているんだから、されてる方だって…現に、言われてるし…

「あっ…ん…んっ」

 必死に声を出すまいと、私は唇を噛む。けれど、操さんはとてもおかしそうに私を犯す。わざと卑猥な音がするように、ギリギリまで抜いて、深く突き入れる。

奥を突かれる度に、私の抑えも効かなくなる。

「イイでしょ?アンタやっぱこういうの好きでしょ。中、グショグショに濡れて」
「あっ…やぁあっ…!あっ!?」

 急に、身体を抱き起こされる。正面から抱き締められる。正直、これ、好きじゃない。私の方が大きいって思い知らされるから。わかってくれたのか、今度は操さんが寝転がる。眼で、私に『キスしなさいよ』と訴えている。

なんでアイコンタクトまでカマ語なのかは考えないようにして、望み通りにキスをする。と。

「ふっ…!?」

 密着した体勢で、腰を掴まれる。そのまま、腰を使って私を突き上げるように激しく攻め立てる。歯がぶつかったけど、そんなの、気にしなかった。夢中で、操さんの唇を求め、もっと快感を貪るように腰をくねらす。

 静かな保健室に、激しい息遣いと、ベッドが軋む音と、淫らな水音が響く。

「ん、いたっ…」


 操さんが、下から私の胸を思い切り鷲掴みにする。指の間で、堅く尖った乳首を挟み、上下に揺らす。少し痛かったけど、それが、自分の中で快感に変わって行く。もっと痛くしても、構わないのに。

「ふふっ…アンタ、今だらしない顔してるわよ…」

 カマ語なのに、汗が流れる顔は、綺麗なのに、今はもう完全に男の人の顔になってる操先生が、また言葉で私を苛める。私は汗を舐めた。全てがいとおしくて、

もっと滅茶苦茶にして欲しくなる。

 だらしない顔、してるんだろうな。そう思ったと同時に、つーっ、と涎が流れた。操さんはそれを拭うと、ぎゅっと抱き締めて、キスしてくれた。

 ―――同時に。

「イッちゃいなさいよ」
「っひ―――あぁああっ!?」

 感じて、膨らんだ一番感じる場所を、指で強く摘まれる。私は、引き攣ったような声を上げながら、自分の中の操さん自身を、締め上げる。同時に、操さん自身ももっと大きくなったような気がした。完全に快感に自我を奪われて、倒れ込みそうになる私を、操さんは仰向けにさせる。

 途切れそうな意識を辛うじて押し留めたのは、身体に掛かる熱いものだった。


「……」
「……」
 お互い無言で、校舎を出る。既に真っ暗で、月がとても綺麗だった。

「―――すいません」

 何故か、私は謝ってしまった。当然操さんは訳がわからず、怪訝そうな顔をしている。が、すぐに気を取り直して。


「意味わかんないわよ。アンタ」
 何故かそっぽを向いて、舌打ちした。

「行くわよ」
「あっ…」

 操さんは、私の手首を掴むと、一直線に歩き出した。あまりに早くて、私は付いて行くのに精一杯だ。そして、あっという間に私の家に付いてしまう。別に、操さんが道順を知っていた訳でなくて私がナビった訳ですが。

「ありがとうございます…」
 あまりに短い道のりに、ちょっと不満はあったけど―――
「うっさいわね、男が自分の女を送り届けるのは常識でしょ」
 はん、と鼻で笑うと、ちょっと陶酔した操さんは私を見る。そして。

「……真っ赤になってんじゃないわよ!!」
 叩かれました。けど、キスしてもらいました。



「……遅いなぁ」

 次の日は休日だったので2人で遊ぶ約束をしました。ボーリングをしてからごはんを食べて、ボーリングをした後スコアが72以下ならもう1ゲームだそうです。その後スコアが90以下なら、私はどうやら操さんの要求に何でも答えなければいけないそうです。

 因みに、私の最高スコアは27です。それが先生方の親睦会の時で、操さんに見られています。今日、私は何をされるんでしょうか。

「あ、操さ…」


 1時間半遅れたにも拘らず、操さんは偉そうにずんずん大股で歩いて来ます。
ちょっと可愛い髪形に可愛い服装。私、ぶっちぎりで負けています。

「…悪かったわね、遅れて」

 今にも死にそうな形相で、搾り出すような低い声で言いました。そして、昨夜みたいにがっし、と腕を掴まれます。

「行くわよ」
 そのまま、ボーリング場とは逆方向に連れて行かれます。

「あ、あの、どこへ行くんですか」
「も少し奥まった路地にあるアダルトショップ!!!」
 ―――え?
 私は一瞬思考停止した。そして、すぐに我に帰る。

「ちょっ…私、まだスコア90以下じゃ…」
「うっさい!!悪いけど、今日明日とアタシん家に監禁だからね!!」

 私をズルズル引っ張って、本当に奥まった路地に行く。いや、理由がわからない。肉欲はわかるけど、その今の経緯が…

「みっ…操さ…」
「…今日、告られたのよ」
 既に、鼻声だ。ていうか、え?誰にですかい?まさか―――

「…物凄く可愛いアタシ好みの格好した日比谷先生にさっき呼ばれて校舎裏で告られたのよ!!」
 ―――蒼褪める。という事は。

「ちょっ…操さん、という事は…」
「うっさいわね!わかんでしょ!?」
「さっき、という事は起きたの一体何時なんですか!?」
「聞くとこ、どっか違わないかしらぁああああああああああっっ!?」


 ヤケクソ気味に絶叫する。あ、そっか。

「操さん好みの格好って、どんな…」
「違うわあああああああああああああああああああっっ!!」
「あ、私捨てられ…」

「うっさい!!アンタは捨てないわよ!!ノンケの振りして優しく振ってやったわよ!!アンタのせいだからね、アンタさえいなきゃ、アタシ幸せになれたんだからね!!」

 ずるずるずるずる、引っ張られる。

「じゃあ、別れます?」
 本気で泣いているから、なんだか可哀相で。

「…うるさい、アンタ黙んなさいよ」

「だって、今なら間に合いますよ?放課後独り寂しく自家発電するくらい好きだったじゃないですか。ダッシュで行けば…」

「うるさい。お前黙っとけ」

 物凄―――く低い声で、言われました。ので、素直に黙った。ていうか、無理する必要は無いと思うのに。

「…俺が今一番調教したいの、お前だから」
 ぽそ、と呟かれた。
 そして、お互い無言で歩き出す。

 ―――その言葉の意味は凄く嬉しいけど。

「その言葉自体は、なんだかとても嬉しくないです…」
 私は今日明日何をされるのか不安になりながら操さんに付いて行ったのだった。

          終