バカふたり

1

 好きです。
 あなたが好きです。愛しています。あなたが望むなら、なんだって。


「津田お前、実は俺の事果てしなく嫌いだろ?」
「なんでそう思うんですか?私の愛を信じていませんね?」

 くすくす笑って、この人がきっと、一番嫌いであろう表情をして、本音を吐く。正直な所、この人にウソを付いた事なんて、殆ど無い。

 にこー、と、自分的にはとびっきりの笑顔、この人―――私の恋人、2歳年上の三島大地さん―――的には、ふてぶてしい笑顔で、頬にキスをする。

「…ウソくせぇんだよ、一事が万事、全部」
 ごしごしと頬を拭って、私を押し退ける。あら酷い扱い。

「ウソ臭いですかね。私の心は、こんなにも三島さんのものなのに」

 …物凄く、胡散臭く見えているんだろうなあ、と、自覚はしている。でも、本当の本当。ウソなんて言ってない。どうして、わかってくれないのだろう。どうして、こんな態度なんだろう、私も。直す気は、さらさら無いけれど。

「何度も言わせんなよ、お前、すっげー成功率低そうで高い詐欺師みてぇだもん」
「ひっどい言い様ですね。あーあ、泣いてしまいそうです」
「お前、泣いた事があるのか?」

 …あるじゃないですか。ていうか、見たような気がする。確か、初めてエッチした時…私、初めてだったから、痛くて、怖くて泣いたような…

 首を傾げる。けれど、その仕草は別のものに取られたようで。


「だろ?な?お前ってそういう奴だよなー…なんで俺と付き合ってんの?」

 ううわ、酷い。酷過ぎる。ていうか、私の物言いよりも、絶対に三島さんの方が酷い事言っていると思うんだけどな。でも。

「三島さんの事、好きだからですよ」

 そう言った。だって、理由なんてそれしかない。そりゃ、中途半端に出来のいい顔も、せっかちでうっかり屋で間抜けな所も、口悪いけど、基本そんなに頭が回らないから、たまに悪口が悪口になってなかったりする所も。

一応理由になるけど、結局は二文字でカタが付く。

 それなのに。

「なんですかその、宝くじ1等が当たったと思ったら、去年のだった、みたいな顔」「お前のその例えがもうむかつくなぁあ!」

「きゃー、いたーい」
 ごりごりごり、と、梅干を喰らう。が、その悲鳴は完全棒読み。手加減してくれて

るのかどうかは知らないけど、そんなに痛く無い。その割に凄く必死な顔しているから、多分私に梅干はそんなに効かないのだろう。

 少しだけ優越感を味わいながら、思い切り梅干の手を払い除けて、逆に三島さんの顔を掴む。驚いて目を見開くその顔は、二時間サスペンスの犯人みたい。私は笑ってキスをする。

「っ……!」
 途端に、三島さんの顔は真っ赤になる。可愛い。こんな顔も大好き。全部が大好き。
あはは、なんだか、キスしたらエッチしたくなっちゃった。

 そのまま、私は三島さんを押し倒す。大丈夫だよね、まだ真っ昼間だけど、三島さん一人暮らしだし。結構節操なしだし。

「っ、つ、津田!?」
「はぁい、ふぁんでふか?」


 元気に、慌てた感じでキス攻撃第二弾を中止させる。でも、鼻を掴むのはやめて欲しいな。

「お、お前な、すんのか?なあ、なんでこの状況で!?」
 …心底わからない、みたいな顔をしないで欲しい。

「この状況と言われましても、愛する人と密着したり、口吸いをしたりすれば、身体を重ねたくなるというのが自然の摂理ではございませんこと?」

「言い方だけ古風だな!合ってるかどうかもわからんけど!!」

 更に体重を掛け、結局カーペットの上に寝そべる三島さんの上に乗るような形となってしまった。大好きな人とくっついていられるなんて、こんな幸せな事は無い。私はわざと胸を押し付けるようにしたりする。

「…三島さん、あの…」

 ぎゅっ、と、しがみ付く。したい。エッチしたい。キスしたい。ずっと、抱き締めていて欲しい。そんな欲望ばかりがどんどん増殖していくけど。正直、そのものズバリして欲しい、と言うのは恥ずかしい。だから、なんとなくそういう状況に持ち込む事にしているのだけど…今日は、駄目かな…

 駄目、なのかな。じゃあ、しつこくしたくないな。そう思って、離れる。そして、じっと三島さんを見た。

「な、なんだよ」
「いいえ、私に押し倒されるくらいじゃ、コウキには到底勝てませんよ」
 いつもに戻る。ていうか、こっちの方が楽。でもって三島さんは顔を真っ赤にして。

「か、勝てるか!今からボクシング初めて、一生掛けても勝てない自信あるわ!!」 と、本気で突っ込んでくれる。うーん気持ちいい。

「いえ、かつーんの方です」
「言えてねぇよグループ名!ついでに誰だ!ていうかどれだ!?」
「ハゲです」
「ハゲ言うな!それよりも何で、どうやったら戦えるんだよ!!」


 ファファファファファ、と、どっかのボスみたいな笑い声を出す。うん、ちょっとエッチな雰囲気は完全に消し飛んだ。

「嫌ですね、本気で戦う気ですよこの人…きゃー」

 突っ込んだ私にブチ切れたのか、今度は私が押し倒される形となる。元々、結構な体格差もあるから、私がこの人に勝てる訳が無いんだけど。

「こんな時まで棒読みかい!」
 …きゃー、が気に入らなかったらしい。わざとだけど。

「…さかってますねー」
「さかるか!お前如きに!!」
 あらあらあら、酷いお言葉。私を乙女から女にしたの、三島さん本人なのに。

「…じゃあ、私にはもう、興味無いんですか?」
 もしかしたら、と、大分不安になって、聞いてみる。と。

「そうかもな」
 と、意地悪く呟いた。あ、そうなんだ。

「そうですか…」

 なんだか、凄く残念。もう、三島さんとキスとかエッチとか、出来ないんだ。愛して貰えないのか…

 ずーん、と、予想以上のショック。なんだか、悲しい。泣いてしまいそう。

「…津田?」
 私は三島さんの身体を押しやると、じっ、と三島さんのキョトンとした顔を見る。

興味が無いという事は、もう、こんな風に近くで顔を見る事も、お家に来たりする事も無くなってしまう。なら、せめて顔だけでもしっかり記憶しないと。よし。

「帰ります。今までお世話になりました」
「はい!?」
 立ち上がる。あれ?なんでそんなに驚くのかな。


「ちょ、え、ちょ、ちょ、ちょ…」

 なんですか、ちょて。口をぱくぱくさせて、顔色が悪くなって、立ち上がった私の腕を掴む。立ち膝で。うーん、中途半端。

「どうしたんですか?三島さん」

「え、え―――っ、て、だって、お前、ついさっきまでさかってぬとかさかってくとか、言ってたんじゃねぇの?なんで、おま、急に帰るって…」

 あれ?どうしたんだろう?興味無いって言ったばかりなのに。私は首を傾げる。きっと、表情はいつもと変わらない。もう、そういうものだしなぁ。津田家家訓・常に優雅に冷静であるべき、ともあるし。

「だって、三島さんはもう、私に興味が無いって言ったじゃないですか、そのアヒル口で」
「っ、アヒル口は余計だバカタレ!あのな、お前、だから、俺は―――」
 …一人でわたわたと、真っ赤になったり真っ青になったり身体を動かしたり。

 可愛い。ああ、やっぱり私、この人が大好きなんだな、って思う。見る度、知る度、
好きって気持ちが溢れて来る。だから、悲しい。
 もう、この人は―――

「あああああもう、負けだ負けだもう!あーも、わかった!さかってる!さかっとるわ!お前で年中発情しとるわ!これで満足か津田ぁ!!」

 …アレ?
 何故か、何度も瞬きをする。

「あれ?あ、きゃー」

 ぐっ、と、身体を引っ張られ、倒される。倒れた先は、三島さんの腕の中。ああ、びっくりしたぁ。本気でびっくりした。

「…ったく、お前は本気で腹立つのな。絶対俺に勝たなきゃ、気が済まんのか?」
「はい?」


 …ごめんなさい、三島さん。言っている意味が、よくわからない。でも、本当に三島さんって、こんな風に何を言っているのかがわからない時がよくある。今だって、脳ミソフル回転しているけど、意味がわからない。

「三島さん、何を言っているんですか?」

 ので、たまにはストレートに聞いてみる。けど、三島さんは苦虫を噛み潰した挙句に飲んじゃったような顔をして。

「うるせ。何が興味無くすだ、お前以上の珍獣なんか、この世にいてたまるか」「そうですか?珍獣具合なら、私よりも三島さんの方…」

 ぐ、と、かなり強引に、強くキスされる。なんだか、攻撃みたい。だけど、嬉しい。
だって、キスしてくれている。大好きな三島さんが。

「……」

 しばらく、ずっと身体を押さえ付けられて、身動きも取れないままキスをされ続ける。時折舌を吸われたり、口の中、色々な所を舐められたりして、どんどん私の腕を握る手の力が強くなって来て。ドキドキする。

「…ふ、は…」
 やっと離れたと思ったら、なんだか挑戦的に睨まれて。

「お前の減らず口止めるの、こうするしかねぇんだからな」
 真っ赤な顔して、本当にこの人、何を言っているんだろう?でも。

「とりあえず、まだ私に興味があって、さかってくれているという事でよろしいのですね?」
 にや、と、口の端だけを上げて、言う。

「追い討ちかい!」
 ずびし、と、チョップされた。

「普通に痛いじゃないですか」
「痛くしてんだよっていうか余裕だな!」


 呆れたように、参った、と、降参のポーズ。何に勝って、何に負けてしまったのかはよくわからないけど。

「三島さん、LOVE」

 親指と人差し指でハートマークを作る。親指を上にすればピーチ。昔、こういうのアニメでやっていた気がする。どうでもいいけど。

 でもって、私の愛を受けた三島さんは。

「俺、何から何までここまでむかつく物体、初めて見たわ」
 と、今にも私を殴りそうな勢いで拳を握り締めているのだった。むかつくかな、私、
これを三島さんにもして欲しいんだけどなぁ。

「…あ」
 また右腕を掴まれ、引き寄せられる。せっかく作ったハートが崩れちゃった。

「三島さん、私のハート…」
「うるせぇな、黙ってろ、もう」

 少しだけ乱暴に押し倒される。覆い被さるような形で、私を見下ろしている。あ、この時の三島さんも可愛い。けど、ちょっと悪戯っぽい感じで笑って―――

「こっから、無しな。余計な事考えて、口に出すな。俺の事だけ考えてろ」
「…私はいつだって、三島さんの事、考えてますけど」
「っ、だから黙ってれ。俺だって、お前の事考えてるから…一々言うな、言わせんな」
 顔、真っ赤。耳まで赤い。

 ―――嬉しいな。言葉で伝えてくれている。私と同じように、三島さん、私の事考えてくれてるんだ。

「はい、嬉しいです」
 …今度こそ、本当に泣いてしまいそう。

「お前は、本当に言葉と面が合ってねぇなあ」


 呆れられながら、言われた。
 シャツのボタンを、ちょっと不器用に外される。
 …エッチも、好き。キスするのも、されるのも、大好き。けど。

「しゃあねぇよな、こんなもん好きになった俺の負けだ」

 恥ずかしい、でも、こんな風に言われたら、従いたくなる。何をされたって構わないと、本気で思う。

 でも、負けだって言っているけど、私の方が先に好きになったのに。恋愛というものは、先に好きになった方が負けるって、そう聞いていたのに。

 ―――たぶん、初めて見た時から好きだった。
 恋愛なんてした事が無かったから、慎重に慎重に考えて、告白した。

 あっさりと許可をいただいて、付き合い始めて、もう一年近くにもなる。時が経てば経つ程、好きになっている。好きだから従いたくて、だけど、好きだからからかいたくて。三島さんがよく言う、勝ちとか負けとか、そういうのじゃなくて。

「…お前、こういう色のブラとか、どこで買ってくんの?」
 ぱちぱちと、指でストラップを弾く。色?と言われても…
「普通じゃないですか?」
「普通じゃねぇだろ。何色だコレ、随分渋い緑だな」

 ホックを外される。胸、出てるのに…そんなにブラジャーの方を凝視しないで欲しいな…
「クロームオキサイドグリーンファイアリーです。もう―――」
「は!?今なんて言った!?長ぇなぁ!!」
 食い付きいいなあ。更に凝視する。くろ?おきさ?とかぶつぶつ呟いている。

「津田、もっかい。もっかい言って―――ぉぶっ」
「…下着よりも、私を見て下さい。それとも下着愛好者ですか?」


 一言余計だったかもしれなかったけど、でも、なんとなくムカっとしたので、両手で頬を潰してしまった。一瞬、凄く驚いたような顔をして、一瞬ちょっとだけ怒って、

でも、なんだか嬉しそうになって―――くるくる変わる表情が、とても愛しい。

「なんだよ、お前だってちゃんとそういう事言えるんじゃん」

 …何が嬉しいのかは、やっぱりよくわからない。けれど、笑ってくれたのなら結果オーライ…なのかな?

「ちょっと、安心した。お前っていつだってああだからな」

 くくく、と、困ったように笑う。ああ、と言われてもなあ…そんな事を考えている内に、私は裸にされてしまう。面倒臭そうに、三島さんも服を脱ぐ。

「……」
 私は三島さんが脱ぎ捨てた衣類を手繰り寄せ、トランクスを失敬する。そして。

「津田?えーと、津田さん?」

 私はじ―――っと、そのトランクスを凝視する。色は…プルシャンブルー…否、ターコイズブルーかな?に、アイボリーの小花が散っている…随分と可愛い…

「あの、えと、あー」
 じろじろと、穴が開く勢いで見る。見る。そして見る。

「…悪い、俺が悪かった。そりゃ、嫌だな」

 がしがしと頭を掻きながら、投げやりに言われた。はい。誰だって自分よりも下着に食いつかれたら嫌です。当然の成り行きです。ちゃんとそういう事、とかそういう問題じゃありません。

「別に、いいですけどね。ただ、この家以外の…例えばアルタ前等で他人の下着を凝視していたら、ただの変質者ですので、お気を付け下さいね」

「誰がするか!」
 ぺし、と叩かれた。

「…お前さ、俺の事、ホントに好きなのか?」


 何をするでもなく、ただ裸で抱き合う。エッチも好きだけど、この時間が一番好き。
どうも、これを言うとしょんぼりされるけど。

「好きですよ。好きだから、私からお付き合いをお願いしたんです」
「…信じて、いいんだよな?」
 ぎゅっ、と、抱き締める力が強くなる。

「好きなの、俺だけじゃねぇんだよな?」
 少しだけ、弱気な声。

「ええ、当然です。私は三島さんが大好きです。信じて下さい」

 いつも通り、自信を持って、当然のように言う。いつもいつも、本気で言っているのに、確認する必要なんか無いのに…

 でも、今の言葉がとても嬉しかったから、私ももっともっと強くしがみ付いた。

「…布団、行くか」

 そういえば、カーペットの上だった。お布団の方が気持ちいいので、移動しようと三島さんから離れる。立たずに四つんばいのまま移動する。

「それは誘ってるのか?お前なりに」
「何をですか?」
「…だよなあ」

 くく、と笑う。同じように這って来て、2人でお布団に横になる。と、三島さんはいきなりお尻を触って来た。びっくりした。

「どうしたんですか」
「んにゃ、前から思ってたけど、さっき見て、やっぱお前結構いいケツしてんなって」

 さわさわさわさわ、なんだかもぞもぞした動きで触ってくる。さっきって…あ、誘ってるって、そういう事…なのかな。

「ん…じゃあ、こんな体勢よりも、さっきの方がいいですか?」
身体を起こし、じっと三島さんを見る。何度か瞬きをして、うん、と頷いた。よい
しょ、と、身体を起こして、お尻を向ける。


 なんだか、静かな部屋に、唾を飲み込むような音が聞こえた。

「三島さん?」

 何も触って来ないから、不思議に思って声を掛ける。なんだか慌てて『あ、ああ』と言って来た。私は少しボーっとしてしまって、三島さんが触ってくれるのを待った。

「お前も結構、好きだな」
「う…ん、え、何がですか」

 結構、強くお尻を掴まれる。けど、痛くは無い。梅干と同じかな、と思ったけど、どうも気持ちがいい。見えないけど、なんだか物凄くお尻に視線を感じる。ドキドキするけど、なんだか、ムズムズする。身体じゃなくて、気持ちが。

「―――っ」
 指が、触れる。お尻をずっと触っているものだと思っていたから、予想外だった。
そうだ、お尻とあそこって、陸続きだ。あれ、これっておかしい…?

「あ、ぅ、う…」

 思考が、中断される。指が、中に入って来る。気が付かない内に、易々と三島さんの指を受け入れるくらい、濡れてたんだ…急に、その事が恥ずかしくなって来る。それでなくたって―――

「…あ…ん、んっ、あ、の、三島、さん…」

 私、馬鹿だ。三島さんが喜ぶと思ってこんな事したけど、こんなの、あそこどころか、お尻の穴まで丸見えなのに。

「ん、どうした?」

 っ、意地悪だ、返事しながら、私の中に、もっと深く指を差し込む。ぬるりと、もっとして欲しいと、まるでせがむみたいに溢れた。それが太腿を伝って、きっと、三島さんの指や手まで濡らせてしまったんじゃないかと、余計に恥ずかしくなる。

「あ―――やあ、っ、の、すいま、せん…あの、この格好、やっぱり恥ずかしいです」


 …そんな事を言いながら。なんだか、スイッチが入ってしまったのか、身体はもっと三島さんの事を求めている。わかってる。けど、これはやっぱり、ちょっと―――「ふーん、お前にも恥ずかしいってシロモノ、あんのか」

「…ありますよ。無かったら、大変です」
 からかうみたいに言いながらも、身体をひっくり返してくれる。ああ、良かった。
と、思ったら。

「―――あ、あの、三島さん?」

 脚を左右に開かされる。これはこれで、恥ずかしい。でも、まあ、さっきよりは…まだまし、なのかな。

「んだよ」
 ちょっとだけ、面倒臭そうな返事。

「…なんでもありません」

 まあ、さっきよりは、と納得させる。はむ、と、なんだか食べられるような感覚を覚える。そんな風に、あそこに口を付けられた。温かい舌が、入り口や中を舐め回す。

元々濡れていたからか、わざとなのか、その度に水っぽい音がして、余計に何も考えられなくなってしまう。

「―――っ、ん…ん…」

 恥ずかしい。気持ちいい。もっと、でも、恥ずかしい…なるべく声を出さないように、口を噤む。三島さんは私の身体を…というよりも、腰を抱くようにして、顔をそこに押し付けている。溢れていくものが、全部啜り取られている。

 次第に、頭がもっとボーっとして行く。だらしなく涎が流れて、声も我慢出来なくなる。ふと、眼が合う。にや、と、笑ったような気がした。

「…もっと声、出せ」
 濡れた口唇で、キスして来る。そんな事言われましても。

「そんなはしたない声出すなんて、恥ずかしいですよ」
 最早、病気なのかもしれない。一々言い返してしまうのは。

2

「…言ってろ、ボケナス」

 言葉は、割合酷い。けど、そう言いながら抱き締めてくれたり、頬にキスしてくれるのは、少し反則のような気がする。でも。

「そんな欲望まみれの欲棒を押し付けられたら、私はどうすればいいんですか?」
 …最初から気付いていたけれど、私の質問は、この人には嫌味に受け取れるらしい。
そのつもりは無いんだけどな。

「ふん、どうすればも何も、入れればいいんだよ」

 さらりと受け流したつもり…らしいけど、そのものズバリで、なんだか聞いたこっちが恥ずかしい。三島さんは、やっぱりちょっとアホの子だと思う。

「そう、ですか。入れたいなら、あの、どうぞ」

 …そう言ってから、やっぱりアホの子は自分だなあ、と思った。また考え無しに、脚を開いてしまった。あまりの潔さに、三島さんが吹いちゃった。

「だからよ、お前は結局なんなんだ?」

 それでも、意外に萎える事は無かったようで、コンドームを装着し始めた。やる気は満々みたいです。

「三島さん、それって、サランラップで代用とか出来ないですか?」
「…そんな事を考える人間を、俺は今初めて知ったわ」
 はぁ、と、ため息。出来ないのかな…出来そうな気がするのに。後、ゴム風船とか。
いつもお金無い無い言ってるのに、コンドームってそんなに安いものじゃなかった気がするし。

「じゃあ、今度の誕生日、楽しみにしてて下さい」

 三島さんは全くわかっていないようで、一応、空返事だけはしてくれた。そのまままた、私の脚を開かせる。見た目は、ラップとそんなに変わらないような…やっぱり違うかな…まあ、そういったものに包まれている三島さんのが、押し当てられる。

 …なんでだろう、割と慣れたのに、この瞬間だけは少し怖い。


「―――あっ」

 濡れて滑り、一番感じる場所に、擦れる。私の出した声が面白かったのか、先に進まずに、そのままでいる。

「…あのさ」
「はい?」

 可愛いな、こうやって見下ろしている時の、ちょっと照れたような表情、一番好きかもしれないな。そんな関係の無い事を、考えてしまう。

「お前、結局どっちなんだ?恥ずかしいとか抜かす割に、簡単に脚開いたり、ケツ向けたりする訳だけど」

 …それは、ただの何気ない質問だと思う。けど、なんだか、言ってはいけない言葉のような気もする。後で、失敗したかもしれない、と思った。けど、今は。

 今は、ボーっと具合も最高潮で、そして、また悪い癖が出て。

「…好き、ですから」
「は?」

「好きですから、三島さんの為に、望むようにしたいんです。だから、考えるよりも先に行動しちゃうんです。後で、恥ずかしいって気付くのですけどね」

 言ってしまった後に、また気付いてしまった。けど、出てしまったものは仕方が無い。それに、嘘なんて言ってない。100%本当の事だから。

 照れ隠しに両手を伸ばして、三島さんの頬を包む。元々少し熱かった顔が、また熱くなったような気がした。三島さんは、あー、とかうー、とか呻いて。

「…まあ、あのさ、突っ込む寸前にこんな質問した俺が悪ぃんだろうけど」
 頬に当てた手に、手を添えてくれる。温かい。

「お前さ、そういうの、どこで覚えて来んの?そういう、あの、殺し文句的な」「覚えるとか、そういうものですかね?」


 …また、訳のわからない事を言う。でも、真っ赤な顔が、どうしてか、可愛いというよりも、かっこよく映った。やっぱり、大好き。

「思った事を言っただけです。いつだって、私はそうで―――」

 最後まで、言葉は言わせて貰えなかった。三島さんは、今までで一番乱暴にキスして来た。それから、滅茶苦茶に髪の毛をぐしゃぐしゃにされる。

「み、三島さん?」

 びっくりして、呆気に取られていると、また何度もキスされる。何十分か前まで、物凄く望んでいた気もするけど、実際されると…やっぱり、嬉しい。

「ああもう、お前って本当にお前だな!!」

 …意味はわからないけど、とりあえず気合いだけは感じ取れた。何故か凄く嬉しくなって、視線を下げる。と、脱線に脱線を重ねたけど、まだまだお元気なようで。

 三島さんもそれに気付いたのか、改めてお布団に転がる。

 ―――けど。

「…あれ」
 三島さんはすぐに身体を起こして、私を四つんばいにさせる。もしかして。

「また、お尻ですか?」
「違う、こっち」

 こっち?ああ、と、納得する前に、三島さんが私の中に入ろうとする。いつもと違って、少しきついような気がする。

「っ、み、三島さん…あの、なんで…んっ」

 ずる、という感じで、私の中に収まる。最初さえ入ってしまえば、後はなんとかなる。ちょっとだけ引きつるような傷みを感じた。それも、すぐに消える。

「…わっ」

 入ったと思ったら、身体を浮かせられる。たまにしてくれるような、後ろ抱っこのような体勢になる。違うのは、裸で、繋がっている、という所。


「恥ずかしいの極致ですね」
「その割に冷静だな」

 太腿の裏側を掴まれて、くすぐったい。でも、そんな事、言っていられない。誰かに見せ付けるみたいな格好で、凄く恥ずかしい。

「―――ん」

 いつもと、なんだか当たるところが違う。どちらにしろ、こんな体勢じゃ私は満足に動けない。頼りになるのは三島さんだけなので、身体を預けた。

「あ…はぁ…」

 なんだか、呼吸がし辛い。ドキドキして、どうにもならなくなる。時折三島さんが私の身体を動かす度に、指を入れられている時よりもいやらしい音がする。私の中から、あんな太いものが出たり、入ったりして、最初は少し擦れるみたいだったのに、

今は易々と行き来してる。濡れて、光って、溢れて―――全部、自分の事だって、わかっているのに、再確認して、また―――

「…やっぱ、好きだろ、お前。さっきから締めっぱなしだぞ」
 いつもと、違う。いつもより、変。ゆっくりなのに、もっと感じる。変。

「あっ…あああぁ…ん、そん、な、こと……」

 嫌味のような言葉なのに、三島さんの声だってだけで、余計にまた、感じる。こんな声、出した事、無いのに、こんなの、今日に限って。

「三島、さ、っ、駄目、だめなの、もう」
「は?何が?駄目ってなんだよ」

 私にだって、わからない。何が駄目なのというのもわからない。それも、わかられているんだろう。元々、私はこの人しか知らない。けど、三島さんは。

「ふぁ…っ、ん、や、そこ―――」

 三島さんの手が、私の腕を掴む。その手を、繋がっている場所に触れさせる。ぬるぬるして、熱い。

「自分で、触っとけ。もっと良くなるぞ」


「ん…それ、は、はぁ、半分、自家発電行為と…んっ」 

 苦しそうな声。自分で聞いてて、そう思う。なのに、三島さんは楽しそう。うん、三島さんが望むなら―――

 指が、勝手に動く。気持ちのいい場所を探って、擦る。その度にお腹が熱くなって、
もっと、もっとして欲しくなる。だから、指を動かす。

「あっ…ん、みし、ま、さん…ん」

 今日初めて、胸を触られる。私が下半身を指で弄っているのと同じように、両方の乳首を摘む。冗談みたいに引っ張られたりしているのに、それでも今は感じてしまう。

「―――ぁ…」

 びく、と、身体が妙に反応する。勝手に、もっと感じようとして、三島さんのを締め付ける。終わりは、意外とあっけなかった。身体中が気持ちよくなって、震えて、すーっと力が抜けた。

 後は、荒い呼吸だけが耳に響いている。まだ、少しだけあそこがひくひくしている。

気持ちいい。三島さんの身体にもたれ掛かる。後ろから抱き締めてくれるのが、やっぱり嬉しかった。

 ―――けど、それは、束の間の夢のようなものだった。

「あ、え?」

 人生で一番、驚いた声だったと思う。なんとなく、違和感はあった。私は最後までいっちゃったけど、三島さんのは、私の中でまだ元気だった。私を下ろそうとしたのかと思ったら、それは大違いで。

「三島―――さん?」

 私は、お布団に両手を着く。ぐちゃっ、と音がして、引き抜かれる。そのまま背中を押され、また四つんばいの格好に。


「あ―――っ?」

 腰を掴んで、また、入れられる。あそこはぐちゃぐちゃになっていたから、すぐに受け入れた。そのまま、乱暴に何度も突かれる。

「っ、あ、あ!?ひ、あ、あああっ」

 がく、と、腕が身体を支えられなくなる。さっきよりも、もっともっと、感じている。乱暴にされてるのに、気持ちいい。声が、出てしまう。

「…津田、悪ぃけどな、マジで今日は泣かす」

 …背筋に、冷たい汗が流れたような気がした。きっと、その顔は、予想も付かないくらいに意地悪で―――

 多分。

 …可愛いんだろうなぁ。
 と、余裕が無いのに思ってしまった。





「…可愛い」
 ぷに、と、ちょっと地獄の形相でお布団に倒れる三島さんの頬を突付いた。

 あれから、何時間経ったんだろう。身体は疲労感でいっぱい。見たいテレビがあったような気がするけれど、どうでも良くなっている。

 何度も何度も抱かれて、幸せいっぱい夢いっぱい。今日は紛れも無く人生最良の日。
だけど。


「…やっぱ、お前可愛くねぇ」
 と、呟く三島さん。

 ええ、何度も達しましたけど、別に泣きゃあしませんでした。最後は、私が上に乗って、三島さんを泣かせました。あはは。

「ていいますか、なんでそんな事しようと思ったんですか」
 ぷにぷにと、両指で顔を突付く。それを鬱陶しそうに追い払って。

「っるせぇな、別に泣かそうなんて思ってねぇよ…限界までやりたかっただけだ」
 ぷん、と、やっぱり訳のわからない事を。

「で、限界記録は…えーと、ひーふーみー…7回ですか」
 ゴミ箱を手繰り寄せ、数える。

「新記録ですか?」
「…だから、黙れお前…そういう意味の限界じゃねぇよ…」
 ったく、と、舌打ちされる。まあいいや。私は裸のまま、もう一度抱き付く。

「もう、出ねぇぞ、なんも」
「別に、出さなくてもいいです」
 ぎゅっ、と、しがみ付く。離れないように。

「出さなくていいですから、こうさせていて下さい」
 

 ―――いっぱいキスして、エッチして。残るはこうして眠るだけ。望みは全て叶ってしまった。こんなに幸せで、いいのかな。

「…津田…」
 広い背中。すりすりと、頬擦りする。

「前言撤回。可愛いよ、お前は」
 しがみ付く私から離れて、私の方を向く。

「―――普段からそう素直だと嬉しいんだけど」


「…何をおっしゃるんですか、私は常に素直ですよ」
 あれだけ言ったのに、まだそんな事を言うなんて。やっぱりアホの子です。

「どこがだ」
「素直=津田という言葉、知りませんか?」
「…ねぇよ。じゃあ俺=は何だ」
 変な所に食いつくなあ。えーと…
「三島さん=…なんでもいいです。飽きました」
「2秒足らず!?」
 びくっ、と、妙に動揺する三島さん。いや、本当にどうでもいいですし。

「もう、そんなのなんていいんです。変な事言い出さないで下さい」
「言い出したのお前だよねぇ!?」
 ぐりぐりと、梅干。やっぱり、痛くない。

「…三島さんは、私にする梅干は、手加減してくれてるんですか?」
「するか!!」
 ぐりぐりぐりぐり。やっぱり、痛くない。

「…三島さん、もう眠いです…今日はたくさん愛し合いましたからねー」
「この状況でそれか!?」

 ぺし、と叩かれる。ため息をついて、どうしようもないものを見るような眼で、私を見た。そして。

「―――なんで、こんなんに惚れたかな…」
 と、当人を眼の前に言ってくれました。

「ほらあれですよ、運命というか、デスチニーというか」
「…お前、英語駄目なんだな」
 ふぁ、と、大あくび。ちんこが丸見えです。喉の。

「専門はスワヒリ語ですから」
「お前、嘘か本当かわからない上に興味も湧かない事言うな…」


 因みに、大嘘です。

「…明日、なに、する」
「あ、出来れば家の倉庫の整理手伝って下さい。ご褒美出ますよ」
 少し考えて、やだ、と、断られる。そうだろうなあ。

「…三島さんの、ケチ。童貞」
「今しがた俺ら何してた!?」
 即、突っ込んでくれる。

 すふー、と、深呼吸。ああ、本当に疲れた。

「―――津田?」
 返事、しようと思ったけど、出来ない。もう一度呼ばれるけど、やっぱり出来ない。
瞼も、とっくのとうに閉じている。でも、三島さんの声はよく聞こえる。

「…あのさ、津田、俺、お前の事―――もっとよく知りてぇと思うんだ」
 眠っていると思ったからなのか、何故か、口調が柔らかい。

「今日一日で、お前が俺の事すっげー好きでいてくれてるっての、わかったし」 優しく、髪を梳いてくれる。その手が、不意に止まる。

「だからさ、いい加減お前の下の名前、知りてぇんだけど」

 ―――あ。

 忘れてた。そういえば、最初に津田って名乗っただけで、それだけでここまで来てた。ていうか、なんで聞かなかったのだろう。

 …まぁ、いいか。私は結局返事もせずにそのまま寝入ってしまう事にした。その内、
言うだろう。別に知らなきゃ死ぬって事も無いし―――
 とりあえず、今はこの、まったりとした幸せ気分に浸っていたかった。


          終