従兄妹

「はいやー!」

 タクシーを呼んでいる訳じゃあない。馬に乗っている訳でもない。

 テレビに向かって、日本でならTOP10に入るくらいに有名な剣のレプリカ?を手に、テレビの中の青い物体に向かって振り回している。

 恐ろしい事に、そのゲームはつい先日発売したものではないらしい。シリーズは同じらしいんだけど。

 確かに、振り回すコントローラーを持ってはいない。持っているのは、前述した剣のみ。

「…早さん、ゲーム機全部持ってるのに、古いのばっかするのね」

 私はそんな早さん―――私の親戚のお兄さんで、実は恋人でもある、本名工藤千早さんに、ちょっとしたイヤミのつもりで言ってみる。

「そうでもねぇよ。タイミング逃してPCエンジンGTとか持ってねーし。人をオタクみたいに言うんじゃねぇっつの」

 …自分がオタクだという事を認めないオタクは、性質が悪いと思う。なんとなく、そう思った。まあ、別に早さんはケミカルウォッシュの上下とか、無駄なまでの長髪とか、指抜きグローブとか、そういうのじゃなくて、普通の外見だけど。

「でも、最近腰も足も痛いって言ってたのに、どうしたの?元々運動嫌いじゃない」 不健康が売りの早さんなのに。私はもう少し早さんに近寄って、表情を見ようとする。

「…どっかの愛美さんが俺の事信用してくれないみたいだから、こうやって発散するしかないんですよーうだ」

 なんとかなんとかなんとか斬、みたいな技を出して、そんな、ちょっとどころじゃないイヤミを言ってくれた。



 …いや、そう言われても仕方が無いのかもしれないんだけど。


 早さんの事好きになって、告白したのは私から。早さんは4つも年下の私から告白されて、凄く困ってた。家も近いし、親同士も仲が良くて、兄妹みたいに育って来た。早さんに取っては、私は本当の妹みたいなものだったんだろう。

私は最初から好きだったけど。 でもって口は悪いけど、早さんは根っ子の所で優しくて真面目な人だから、私が傷付か

ないよう、どう穏便に断ろうか考えているのが丸判りで。ああ、私に告白されてまず感じたのは『戸惑い』だったんだろうな、と、理解した。

 結局私が引いて、その事は無しにしてもらった。

 悲しかったけど、正直ダメだろうな、と思っていたから。先に保険は用意していたようなものだったから、傷は浅く済んだ―――と、思っていたんだけど。

 
 存外、傷は深かった。

 馬鹿みたいだって思う。たかが子供の、大した事無い恋愛程度で、ごはんが喉を通らなくなるなんて、思ってなかった。私、本当に馬鹿だって思う。その当時だって思ってた。それなのに、身体のどこかに穴が開いちゃったみたいで、本当に体調を崩しかけた。

 けど、本当に崩す前に、早さんは来てくれた。

 投げっぱなしになった返事をしに。ちゃんと、断りに来てくれた。宙ぶらりんのままは、あんまりにも私に失礼だからって。

 …その時点で、どこに開いていたかすらわからなかった穴は、塞がった。

 断りに来た。と、そう言って私の部屋に来た早さんを見て、自分は本当にこの人が好きなんだって、再確認した。こういう人だから、好きなんだって。

 昔からそうだった。

 ワガママでぶっきらぼうに見えて、人の事ばっか考えていて、不器用で優しい人。

 だから、目一杯早さんが私への断りの言葉を考えて、どうにかひねり出して来てくれたんだ、とわかった。

 で、早さんの言葉は。

『お前の気持ちは嬉しい。お前みたいないい子が俺なんかを好きになってくれるなんて、思ってもいなかった。でも、俺はお前を妹以上には見れない。本当にすまない』


 …本当に、考えて考えての言葉なんだなあ、と思った。

 それで、充分だった。恋愛感情が無いにせよ、早さんがそうやって、私を傷付けない様に大事に思ってくれた。それだけでもう、なんだかモヤモヤは吹っ切れてしまった。

 だから、私も清々しいくらいの気持ちで、早さんにちゃんと振ってくれてありがとう、って言った。それで、私の初恋は終わった。


 ―――筈、だったんだけど。
 それから2週間ほど経ったある日、早さんは急に私の家に来て、私に向かって。

『…一度振った身で、本当に図々しいって思っている。けど、俺、お前の事が好きになった。本当にごめん。やっぱり、俺と付き合ってくれないか』

 と、180度違う事を―――しかも、地獄から極楽に突き落とす―――いや、突き上げられるような、あまりにも嬉しい告白。

 十何年も好きでい続けたのに、たった2週間で完全に諦められる筈が無い。私は一にも二にも無く、即答でOKした。

 でも、普通に疑問。
 妹としか思えない筈の私が、何故恋愛対象になってしまったのか。


 ―――付き合い始めて半年経つけど、未だその理由は不明です。聞いてないからだけど。

「…早さん、発散するなら今話題のなんとかなんとかキャンプとかすればいいのに。」

 そう何気なく言ってみる。半年も経てば、健康な成年男子の早さんは、私との関係にもう一歩を踏み出したくもなるというもの。子供だ子供だ、とは言いつつも、視線が色々な所に突き刺さって来る。

「ばーか。俺にあんなん出来るかっつの。薙ぎ払うぞ」


 べー、と、舌を出しながらロ○トの剣を私に突き付ける。ていうか、通じたんだ。
  
 …私、思った以上に子供だったみたい。
 早さんと恋人同士になって、それだけで本当に満足してしまっているようで。

 未だに、手を繋いだり、頭を撫でて貰ったり、抱っこして貰う意外に、スキンシップはしていない。

 それ以上の事―――なんていうんだろう…キスとかされそうになると、途端に引いてしまう。困ったような(早さん曰く)顔になってしまって、早さんも諦めてしまうみたい。

 そのくせ、心のどこかで早さんともっとくっつきたい、少女漫画で見たような合意の上でのレイプとかされてみたいとも、ちょっとは考えたりするんだけど…なんというか…本当にわからない。早さんが言うみたいに信用していない、という訳じゃないんだけど…

 そんな事を考えていたら、早さんは急に真面目な顔をして、私の前に座り込んだ。何事かと思っていると。

「…あの、さ。本当にお前、俺の事…まだ好きか?」

 ロ○トの剣を床に置いて、早さんは私の頬に手を置く。びく、と、してしまうけど、まだ大丈夫。怖くなんか無い。望んでた筈だもの。ていうか、そうじゃない。

「え―――どうして?なんで?」
 顔が、近付く。まだ大丈夫。こつ、と、おでこ同士がくっつく。

「ん、お前の気持ちの整理が付いてない内にさ、俺がお前を好きになったから、お前は本当はもう俺の事を吹っ切ったのが自分でわからないのにこうなって―――だから、無意識に俺を拒んでいるのかって、そう思ったから」

 ―――う。

 …多分だけど、無意識は早さんも同じ。これは真面目モードだ。私を振ろうとした時と

か、本当に真面目に物を考えている時、早さんは無意識に口調も真面目になる。ある意味、考えている事が駄々漏れみたいなもの。だから、今も本気で早さんがそう思っている、と

いう事。正直、それは考えた事、私もある。だけど。

 そんなの、杞憂。だって私、こんなに早さんが好きだって、自分で知ってる。近付かれただけでドキドキして、あんまりに幸せで、だから、それだけで満たされてる。


 あまりに幸せなこの状態がでずっといて欲しくて、だから―――だから。
 …あ―――だから…なの、かな。

 不意に、答えは出たような気がした。眼の前には、早さんの顔。私は、一旦顔を離してから、早さんの頬に自分の頬を擦り付けて、背中に手を回す。そうだ。

「…愛美?」

 びっくりしたような、早さんの声。真面目過ぎて、考え過ぎ。それが自分でも嫌だろうから、普段はああなんだろうけど。

「―――それは、無いよ。私、早さんが好き。大好き。それだけは絶対に変わらない」
 うん、と、頷く。本当。それだけは本当。

「そ…う、か?じゃあ、なんで」

 早さんの手も、私の背に回る。気持ちいい。ぞくぞくする。これだけで、本当に幸せ。でも、早さんはそれを感じていないのかな。それとも、それ以上の幸せを求めているのかな…私は…

「…大好きなの。だから、側にいるだけで、それでもう、幸せで、そのままでいたくて、それ以上は本当に、私、どうにかなりそうで―――だから、だと…思うんだけど」

 幸せを感じる前に、本当に心がどうにかなってしまう気がして。

 一瞬だけ、視線を合わせる。けど、すぐに早さんの胸に顔を埋める。早さんの匂い。腕の力の強さ。あったかい胸。それだけで、いい―――けど。

「わ」
 幸せで停止していた頭が、動き出す。もっと強い力で、早さんに抱き締められる。そし

てすぐに床の上に押し倒された。私を見下ろす早さんは、いつも拒んでしまう『それ以上』の事をしようとしている感じ。なのに、いつもより余裕がある。しかも、笑ってる。

「―――わかった。お前の気持ちはわかった。でも、もう少しだけハードル上げて。多分、それでどうにかなるなんて事は無い。ちょっとずつでいい。俺だってお前がいてくれるだ

けで幸せだ。だけど、俺はもう少し幸せになりたいんだ。どうしても」

 …い、言っている事が、私に劣らず支離滅裂。早さんの顔が、近付いて来る。つい、私はぎゅっ、と眼を閉じてしまう。何をされるか、どこかでわかっていた。ここ最近、何度

も繰り返して来た事。違うのは、私が逃げられない事。後、早さんが絶対に引かないって、わかった事。


「ん―――」
 唇に、多分唇の感触。キスだ。キス、しちゃった。びっくりした。

 すぐに唇は離れて、もう一度。最初より少し長く。でも短い。また離れて、また。さっきよりは長く。それでも時間にしたら少しだけ。ちょっとずつ長いキスを何度もされる。 ぎゅっと閉じた眼。視界はまっくら。たまに、はあ、と深いため息。

自分のか、早さんのものかもわからない。わかるのは。

「……―――」
 これは、幸せだ。

 間違いなく、幸せ。唇同士がくっついている間、感じるのは、今までと違う種類の幸せ。ドキドキして、おかしくなりそうな胸が、徐々にそれが幸せなんだって、感じて来ている。これが、早さんの言うちょっとだけハードルが上がる、という事なんだろうか。

「―――ん…?」

 そろそろと、眼を開く。すぐ側には、やっぱりいつもと違う表情で笑っている早さんの顔。私は、ボーっとした頭で早さんの胸の辺りを掴む。

「ん?もっとして欲しいの?」

 早さんが、少し眼を細めて、口の端を上げて、聞いて来る。いつもみたいな、少し意地悪っぽい顔。私は少し考えて。

「…うん…」
 頷く。けど、早さんは今度は頬にキスして。

「な?大丈夫だろ」

 そう言ってくれた。どうやら、今までと違う、あとそれ以上の幸せを感じて、どうにかなる程にはならない、という事はわかった。若干、まだボーっとしてるけど…

「じゃ、もうちょっと」

 そう言うと、早さんはまたキスをして来る。すぐに離れる。少し物足りなくて、今度は、私からしてみる。さっきの頬擦りみたいに、唇を唇で擦る。少し乾いた、でも柔らかい唇

の感触がとても気持ちいい。早さんにしがみ付いて、気持ちいい感触をいつまでも味わっていたくなる。私の悪い癖なのかもしれない、ひとつの事をずっとしていたいと思うのは。

「―――っ」

 だから、没頭し過ぎて、早さんが急に舌を出して来た事にとても驚いた。もっと柔らかくて、濡れた感触。顔を引こうと思ったけど、抱き締められていたから、出来なかった。

「あ、はや―――ん」

 顔を引き寄せられて、唇を普通に舐められる。ぞわ、と背中が粟立って、どう対処していいかわからなくて、私は困ってしまう。顔を背ける事も出来なくて、早さんはずっと私の唇を舐めている。あ、今度は、さっきの私みたいに唇を擦り付けてくる。

違うのは、濡

れている事。なんだか、凄く恥ずかしい。

 また、キス。ボーっとしていたせいか、口が半開き。だからかどうかはわからないけど、早さんの舌が、口の中に。

 …というか、さっきから、早さんの手が私の胸をやんわりと揉んでいる。気が付けば、足と足の間に、早さんが膝を食い込ませている。舌で舌を舐られながら、胸の上の手に、両手を沿える。

 …やめてほしい。
 …やめないで。

 どっちも、頭に浮かぶ。

 だって、ハードルを上げるのは、今日は、ちょっとだけだって、最初に言ってた。それなのに、こんなのがちょっとだったら、やっぱり私はどうにかなってしまう。でも、気持ちいい。ぞくぞくして、もっとして欲しいとも、思ってる。

「む―――」

 胸の上の手が、少し上がる。そう思ったら、指がくるくる、と胸の上を回る。ブラと、服と、あるのに、指は胸の先を囲うみたいに回る。私は首を横に振って嫌がるけど、早さんはやっぱり引いてくれない。指が、膨らんだ先を強く押す。

びく、と、身体が震えた。

「ぁ―――ふ、ぅ」

 止めていた息を、吸って、吐いてしまう。同時に涎が零れる。早さんはそれを気にする事無く、キスを続ける。胸を這う指の動きも、止まらない。私は身体から力がどんどん抜けていってしまって、早さんのされるがままになってしまっている。

 これじゃ、本当に私、おかしくなりそう。だから、そうなる前に。

「―――ぶっ!?」

 私は、両手で早さんの顔を掴んで、無理矢理引き剥がす。離れた唇から、唾液の糸が繋がって、それが物凄く恥ずかしく思えて、口を拭う。


「ん―――んっ…もう、や…」

 口の中に溜まっていた、私のとも、早さんのとも言えない、混ざった唾液を飲み込んでから、私は拒絶の言葉を告げる。と。

「そ。そ―――う、か。そうだな。ん。今日はおしまいな」

 意外にも、あっさりと早さんは引き下がってくれた。ぐったりとした私の身体を起こして、いつもみたいに抱っこしてくれる。

「…ばーか。こわがり」

 もう、いつもの早さんだった。切り替えが、早過ぎると思う。私はまだ、ボーっとしてるのに。ずるい。でも、気持ちいい。意地悪。

「早さんのばか…」
 いつもみたいに、胸に顔を埋める。早さんの匂い。あったかい。気持ちいい。幸せ。

 …さっきのも…正直、怖いけど、本当にボーっとしてしまって、気を抜いたら本当に合意の上でのレイプみたいになりそうだった。嫌なのは、一瞬でもそうなってもいいかもしれないと、思ってしまった事。物凄く恥ずかしくなって来る。

「ばか…」
 私は何故か無性に腹が立って、手探りでロ○トの剣を手繰り寄せ、早さんの背中を叩く。

「へいへい。どうせ馬鹿でちゅよー」
 全然気にもしないで、後頭部を撫でてくれる。もう片方の背中の手も、あったかい。

「ま、その内慣れるだろ。ハードルちょっとずつ上げような」
 …きっと、今の顔はいつも通りのふざけたニヤニヤ顔。

「でも、ちょっとって…今日は、どのくらいだったの?」

 すふー、と、息を吐く。ちょっと、どころじゃなかった気がする。だって、キスして、もっと凄いキスして、胸触って、それもエッチな触り方で、多分だけど、膝、あ、あそこに食い込んでた…これで、ちょっとだったら、私本当に付いていけない…

 早さんは少し考えたように唸って。

「…30センチくらいか?」
 と、軽く言ってくれた。ていうか、高っ。

「高過ぎるよ…普通、上げるなら5センチでしょ?第一、最高は何センチなの?」


 あまりの数値に、私は頭がくらくらして来る。酷過ぎて、こちらも酷い質問をしてしまう。早さんはこれまた真面目に唸って。

「―――最高、50センチ?但し、第一ハードル」
「意味がわからないよ!!」

 本当に意味がわからない。けど、顔を上げて、視界に入ったその顔は、真面目そのもの。という事は、本当にそう考えている…って事?怖くて、最終的に何段階あるのかは聞けな

かった。聞けなかった―――と、いえば。

「…あの、早さん」

 神妙に、名前を呼ぶ。聞けなかった、というより、タイミングを逃してしまった質問。聞くなら今かな、と思った。

「ん?」
 声の感じでわかったのか、早さんは優しく首を傾げてくれる。

「―――早さんは、どうして私を好きになってくれたの?」
「…今更聞くかお前」

 一瞬で、表情が元に戻る。舌打ちをして、がりがりと頭を掻く。何度か瞬きをして、首を振る。いらいらした表情になって、頬を膨らませる。

 確かに、とてつもない今更感。どうしてあの時聞かなかったんだろう、と、私も後悔。 暫く無駄な動きをして、漸く止まる。諦めたかのように早さんは溜息をつき。

「…お前、振った時に礼言いやがったろ」
 ―――えと。
 一瞬、考える。ああそうだ。だって。

「うん。言ったよ。早さんが、私に失礼だからって、ちゃんと振ってくれたから。振られ

たのは悲しかったけど、それ以上に私、嬉しかったから。そういう人だから好きだったし、私を傷付けない様に、大切にしてくれたの、わかったから」

 もう一度、胸に顔を埋める。

 だから、嬉しいと同時に不思議だった。振った後に私を好きだなんて言ってくれて。そうだ、でも不思議よりも、その時は嬉しい、が大きかった。だから聞きそびれていた。

「…そんな事考えてやがったのかよ…くそ」


 私の手からロ○トの剣を奪って、今度は私を叩く。痛くない。

「泣きそうな顔して笑いやがって…あーくそ、マジむかつくんですけど」
 ?叩くのが、地味に痛くなって来る。そのくせ、抱き締める腕の力も強くなって来る。

「無理して笑ってると思ったのに、その顔が滅茶苦茶可愛くて、なのに、そんな顔させたくねーって思って、すっげー損した!!」

 剣を後ろに頬り投げて、私の頭をぐちゃぐちゃに掻き回す。言っている事が、わからないようで、微妙にわかる…うう、確かに、言われたこっちも恥ずかしい。早さんは両手で私を抱いて、尚も投げ遣りに。

「…そんでよ、ずっとお前の顔頭から離れねーでやんの。もう2週間丸まる。あー、もうダメだって思ったわ」

 はぁあ、と、物凄い溜息。照れ隠しだ、今は。なんとなく、というかあからさまにわか

る。早さんは物凄く恥ずかしがっているけど、私はそれがなんだか凄く嬉しい。嬉しくて、私は今まで散々拒んでいた事を、何の気無しにしてしまう。

 苦い顔をしている早さんに、私はキスをした。

「―――大好き。早さん、大好き」

 ぎゅー、と、今度は私が早さんを抱き締める。けど、早さんはどーん、と、私を突き飛ばした。おまけに、唇を思い切り拭う。ごっしごっしと。酷い。地味に酷い。

「うっせー!!お前帰れ!!」

 早さんは、もう一度剣を持って、テレビに向かう。私は転がったまま、早さんの真っ赤になった耳の後ろを見て、ほくそ笑む。

 だいすき。
 奇声を発しながら剣を振り回す早さんを見て、今までで多分、一番幸せだと感じた。
 何故か、笑いが止まらなかった。

 …早さんは、物凄い勢いでステージをクリアしている。
 明日は筋肉痛だろうなあ、と、なんとなく思った。



              終