
by 倫
お互いに、すこし慣れないことをした。
それはそれはくだらない小さな喧嘩。
その結果、比奈が、こちらの手に身を竦めた。たったそれだけのことに俺は腹を立てて、今、久し振りに比奈以外の女を抱いている。
ホテルなど利用したのは何年ぶりだろう。
「言ってご覧、どうして欲しいのか」
とりあえず後腐れはないように、派遣社員としてプロジェクトの補佐にやってきている女の誘いに乗ってやったのだった。
「喘ぐだけじゃ、幸せにはなれないよ」
こんな、斜にかまえた科白が今の自分に似合いのようで。
「あ・・・・・・ぁ、専、務・・・・・・・・だめ、うますぎっ、もうっ、いっちゃうっ・・・・・・・」
けれどもその意は彼女には難しかった様子。
気付かれぬ程度の小さなため息を漏らしてから、ぴちゃりくちゅりと音を立てながら再度指での抽送を始めてやる。
三本の指をくわえていたそこを、焦らすように中指一本にして、わずかに指先をまげて掻き混ぜて、時々その内部を立てた爪で突つくように。
もちろん、こりこりと音がしそうなほどにふくれて自己主張している蕾もやさしく強く、緩急つけた動きで弄りまわす。
既に舌で十分に転がされている成熟したそこがひくひくとうずいて、より大きな刺激と快楽を貪欲に求めている。
シーツに沁みるほどにぐちゅぐちゅと音をさせているのもまた聴覚を刺激し、涌き出る蜜は涸れることを知らないよう。
内部を掻き回す指とは逆方向に緩やかにうねる腰がひどく艶かしい。
ひぃひぃと、普段の声からは考えられないような音をその紅いくちびるから漏らしつつ、断続的に襲ってくる小さな爆発に耐えているのがその締め付け具合から見て取れた。
ああ、でも幼さの残る比奈の胎内には指ニ本を入れるのが精一杯で、たとえ一本でも身動きが取れないほどきつく、けれどしなやかに締め付けてくるのだった。
比べてこの女は。と心なしかゆるいその胎内の締め付けに違和感は禁じえない。
そしてそれほどまでに比奈にとらわれている自分が歯痒い。
「ねぇっ・・・・・指だけじゃイヤ、頂戴、」
焦らしに焦らすこちらの指使いに女はまさに発狂寸前。
「頂戴、あなたの、おちんちん・・・・・」
恥じらいも何もない明け透けな物言いに漏れる苦笑いを押し隠す。
正直、こんな女はまったく好みではないのだけど。
「自分で気持ち良くなりなさい」
何から何まで好みとは対極にしてみたかった。
上にした女が、苦笑いに反応して張り詰めきれないこちらを、頼みもしないのに咥えてくれる。
真っ赤に塗られたくちびるが多少グロテスクなそれを懸命に口に収めている。
こんな嗜虐的な光景はあまり慣れていなかった。
なぜなら比奈があまり好まないから。
比奈が。
ただひとりの愛すべき存在が。
「…挿れますね…」
比奈は今ごろ何をしているんだろう。
比奈は。
比奈は。
「待って」
恍惚としたハスキーな声を遮る。
「はい?」
心配をかけようとしてこんなことをしているのに、気になって仕方がない。
「悪い、約束を思い出した」
帰るよ、と。
今日は楽しかった、また明日、会議で。
簡潔な身繕いをして簡潔な言葉を放る。
カチャリと扉が閉まる瞬間に、放心状態から戻った金切り声を聞いた気がした。
日付は変わってしまっている。こんな時間に連絡もしなかったことはない。
後悔した。
呼び鈴を押した数秒後、足音と共に軽い家具が倒れる音がして、がちゃりと、わずかに上気した顔がのぞく。
目に見えて潤んでゆく比奈の目に、足元からぞくぞくと何かが競り上がるのがわかる。
それが自分の情動なのだと気付く間もなく、
つよく抱いてくちびるを合わせる。
すべての熱は、この瞬間のために。