襲撃 5


  終章


 次の日の朝、ぼくは始発電車に乗ってアパートに帰った。そして帰るなり、ベットに倒
れ込んでそのまま泥のように眠った。気分はあまりよくなかった。

 夕方になって目が覚めると、ぼくは起きたままの恰好でしばらくぼうっとしていた。そ
ういえばまた大学をサボったな。
 何も考えずテレビをつける。
 期せずして動物園襲撃のことが報道されていた(テロップには動物園に対するテロ活動
と書かれていた)。ぼくは半ば白くなりかけた頭でテレビ画面を見つめ続けていたが、犯
人は不明、被害も調査中でまったく中身のない報道だった。あれから彼女がどうなったの
かよくわからないが、白のセダンの目撃談も出てきていないところを見ると、うまく逃げ
おおせたのだろう。それから、彼のことも、口をきく猫のことも何も話題に上らなかった。
 ぼくはテレビを消した。
 実感がない。
 まだ、ぼくが何をしてきたのか把握しきっていない感じだった。 ぼくがしてきたのは
犯罪だ、破壊行為だ。でもだから何なんだ?
 これから何か変わっていくのだろうか。よくわからない。それとも、もう何か変わって
しまっているのだろうか。
「そんなこと知るか」
 ぼくは散らかった部屋を片付けてから、部屋を出た。
「お腹空いたな」

 翌日は久しぶりの雨だった。
 ぼくは何となく真面目に大学へ行き、何となくひとつも授業をサボらなかった。

それから何日かぼくは大学へ行き、一度だけ植村に会った。
 彼は彼女と別れたと言った。彼は少し元気がなかった。場にそぐわないかもしれないと
いう気がしたものの、ぼくは彼女は元気そうだったかと訊いた。どうしても訊かずにいら
れなかったのだ。彼はそれを聞いて驚いたような顔をしたが、詮索もせずに力無く笑って、
よくわからないと言った。電話だったんだ。昨日かかってきたんだよ。急な話だったんだ
よ。俺、ショックだよ。
 それだけを言うと植村は去って行った。それ以来植村と会うことは少なくなっていった。
彼はその日から大学にあまり来なくなり、代わりにぼくは大学へ行くようになった。

 動物園の襲撃から一週間ちょっとがたった。ここのところ六月の空はずっと湿っぽかっ
た。空はやっと梅雨であることを思い出したみたいだった。

 それから何日かして彼女から手紙が来た。消印は広島だった。ぼくはそれをそのまま読
まずに捨てた。

 六月も終わりだったが、今はまだ梅雨で、梅雨には雨が降る。

 何もかもが正常稼働していた。

「ベリ、ナイス」


終幕