********************************************** * * * 小島姫第10話 * * * ********************************************** (・・・・・・知らない天井だ・・・・・・) カ・シン男爵は呟いて、ゆっくりとベッドの上に身を起こしました。 「うっ・・・」 呻き声をもらし脇腹を押さえると、周りを見回します。 床に大の字になっている中西が視界に入ってきて、男爵は昨夜の失態に思い当たりました。 「くっ、ニシオなんかに借りを作っちゃ、オレもおしまいってもんだ。」 額に手を当ててうつむきます。 と、男爵は何かに気がついたように顔を上げました。 「・・・素顔じゃねえか。っていうか、上半身ハダカかよ。脇腹には・・・湿布と テーピングがしてあるな。ニシオがやってくれたのか。まぁ、コイツらしい 不器用なテーピングだがな。」 つぶやいてベッドから降りると、中西を一瞬優しげ、ともとれるような眼差 しで見下ろしたかと思うと、中西の肩を蹴りつけて叫びます。 「おいニシオ!お前オレのマスクと服、勝手に脱がしやがってどういうつも りだ、アッ!?いやらしいやつだなっ、エッ!?」 中西は、低い唸り声を上げると、目をこすりながら小山のような体をむくり と起こしました。 「ああ・・・目が覚めたかイッシー。おは・・・」 中西を遮るように男爵がまくしたてます。 「イッシー言うなって言ってるだろ、アッ!?マスクと服、さっさと持ってこいよ!」 「んん〜〜、マスクとかはほら、そこの椅子の背にかけてあるだろ。起きた と思ったらやたらと元気だなぁ。」 中西は、部屋の隅の椅子を指差しながら、眠そうに言いました。 「ったく、オレは男爵様で客だぞ、アッ!?」 ブツブツいいながら、男爵は部屋の隅の椅子に腰掛け、素肌に上着を羽織る と脚を高々と組みます。 「メシ、食うだろ?昨日いい山鳥が取れてさぁ、美味いぞ。」 中西は、台所から炊飯器や茶碗を持ってきます。 「今レンジであっためるから。」 なにやら台所でごそごそしている中西のほうを見やると、男爵は物思いにふ けるかのように、目を閉じてうつむくのでした。 「で、結局小島姫、死んでないじゃあないの。アナタたち、どうも信用でき ないわね。一体何の目的で私に協力しているのかしら?」 毎度のごとく、寝室で密談にふけるお妃様と蝶野公爵、武藤伯爵ですが、ど うもお妃様はご機嫌斜めのようです。 「だいたい、よく考えてみたら、小島姫がお城にいなければ、私の人気を揺 るがすものはないわけよ。それなのに執拗に小島姫の暗殺を私に要請する、 その目的は一体なんなのかしら?」 お妃様は、大きなお顔を公爵に近づけて言います。 (しっかし、このお妃のカッコはどうにかならないもんかね。あの図体にピ ンクのネグリジェ!だろ。しかもデカい顔にパックまでしてよぉ、一回に何 人分使ってんだよ、パック。) 武藤伯爵が自分の腰にぶらさげられているウエストポーチを棚に上げて、う んざりした顔でつぶやいているのを尻目に、蝶野公爵はまったく動じたとこ ろを見せず腕組みをしながら答えました。 「禍根を残してはいけない、そうは思われませんか、お妃様?」 「・・・禍根?」 問い返すお妃様に、公爵はいっそう顔を寄せて言います、 「そう、禍根ですよ。おわかりになりませんか?あの小島姫が、いつまでも あんな森の奥で、餅つき兄弟や旅の行商人の注目しか集められないような状 況に満足できるとお思いですか?我々は貴女のことを――― 「そうじゃないのよ!私は、『あなたたちの目的』、がなんであるかを聞い ているのよ!」 お妃様は、公爵の言葉を待たずに叫びました。 「おいおい、お妃さんよぉ、こりゃ仮にも密談ってやつだぜ。召し使いども が起きてきちまうじゃねえか。」 伯爵が肩を竦めながら言うのをよそに、蝶野公爵はトレードマークであるサ ングラスを外し、なおもお妃様に顔を近づけていきます。そして、お妃様の 目を見て公爵は、一語、一語噛んで含めるように言います、 「私たちは、貴女のために、協力、しているんです。貴女は、我々を、信じ ていてくだされば、いいんですよ。」 蝶野公爵が、お妃様の視線を捉えて言葉を紡いでいくほどに、お妃様の目か ら意志の光が失せていきます。 「そう、、、ですね。私はあなたたちを信用します。」 お妃様は、見る者に奇妙に平坦な印象を与えるようなしゃべり方で言うと、 公爵は口元を歪ませ微笑んで、その場から消え去るのでした。 「おい!チョウちゃん!置いてくなよぉ!お妃さん、今日はもう休みな。あ のお姫さんに止めを刺す切り札を用意してくるからよ!じゃあなっ」 そう言って、武藤伯爵も側転しながら視界から消え去ってしまいました。 「殺す、わ。今度こそ私の手で。」 意志の欠けた声で言うと、お妃様は顔面を覆う白いパックをペリペリ剥がす のでした。 「しかしさぁ、いくら僕らが餅つき兄弟だとはいえ、こう毎日毎日餅ばっか りじゃみんな飽きちゃうんじゃないの?僕は全然平気だけど。お菓子もある し」 ドラえもんがなにげなく言った言葉に、小島姫は朝っぱらからキレます。 「なに言ってるのよっ!朝はお雑煮、昼は餅ピザ、夜は餅入りちゃんこ、昨 日だけでこのバリエーションよっ!他にもあべかわ、きなこ、大根おろし、 納豆、おしるこ、更にもち米を使ったおこわまでっ!我ながら惚れ惚れする ほどよっ!文句言うなっ!食えよバカヤロー!あたしはこれでもお城のミス 味っ子で通ってたのよ!」 小島姫は激情にかられてちゃぶ台をバンバン叩きます。 「い、いや僕はいいんだけどみんなが・・・」 普段は温厚なドラえもんが、気弱そうな返事を返しつつ、丸い大きなちゃぶ 台に座る兄弟達を困ったような眼差しで眺め回しました。 「たしかに僕らは餅つき兄弟だけど、餅以外にもやはりなにか食べたいって いう気はするよね。いや小島姫が節約のためによくやってくれているのはわ かってるんだけど。」 「そうよっ!みんなが趣味に思う存分お金を使えるように、あたしは食費を 削ってあげてるのよ!味や栄養の面でのクオリティーは保ってるつもりだわ っ!もうちょっとあたしに感謝なさいよ!オホホホホッ!」 高岩のフォローとも取れなくはないひとことによって、小島姫のテンション は朝っぱらから極大に達していました。なにせ久しぶりの登場ですし。 3人組はちゃぶ台で行われている一幕にも知らぬ気に、大きなテレビでアニ メを見ながら、時折思い出したように箸を動かしています。ニラは競馬新聞 とCSの競馬チャンネルに釘付けで、今ちゃぶ台で何が起こっていたのかと いう事にも気がついてはいなかったでしょう。高岩は相手をするのも面倒に なったという感じで、うつむいて黙々と箸を動かす事に専念しはじめたよう です。 小島姫は、この茶の間において明らかに浮いているという事実に気がついた のか、「あらやだあたしったら」とかもごもごと呟いて、再びおとなしく朝 食のおしるこを口に運びはじめました。 朝っぱらからおしるこというのも、あんまりにあんまりですね。 ちなみに名無しは、なにか考え事をしているかのように、ひっそりと気配を 消して座っていたというのが、餅つき兄弟宅の朝食風景でした。 「それじゃ、行ってきます。今度こそあやしいやつに気を許さないで下さい ね。」 高岩が言いました。 「ああ、わかってるわよ。あたしもバカじゃないんだからまかせてよバカヤ ロー!」 景気のいい事を言う小島姫を尻目に、名無しは 「バカだから2度も殺されかけるんだろ」 と呟いたのですが、幸いにもその一言は姫の耳には届かなかったようです。 「で、ムトちゃん、姫を確実に死に至らしめる事ができそうなのは手に入っ たのか?」 蝶野公爵の邸宅、その豪奢を極めた一室に公爵と武藤伯爵は向かい合ってい ました。床まで沈み込むような柔らかいソファの背に腕をかけて腰掛けた公 爵が、テーブルに足を乗せて腕組みをする伯爵に問い掛けました。 「ああ、面白いもんを見っけてきたぜ。」 そう言うと、伯爵は懐から布にくるまれた丸っこいものを取り出しました。 なにやら角らしきものが生えています。 「:@*;+・」 「なんだそれ?っていうか、ムトちゃん今何か言ったか?」 蝶野公爵は、サングラスを外すと身を乗り出して、テーブルの上に置かれた 丸くて角の生えたものを観察しはじめます。 「チョウちゃん、その布をとってみりゃわかるよ」 促されるままに、公爵は丸いものから布を取り払いました。 『でさ〜、オレ橋本の奥さんに相談されちゃって、[ウチの主人、毎日求め てくるんですけどプロレスラーってみんなそうなんですか?]ってさぁ〜参 るよなまったくナハハハ〜』 「なんだこれ、リンゴか?」 「見ての通りリンゴだよ。獣神サンダーアップルってな。おしゃべりなリン ゴだよな。」 『そ〜いえば飯塚の奥さんな、飯塚のキスの味は[ベチョっとしてます]って 言ってたな。なんだよベチョって。たしかに口にいっつもなにか入ってそう な感じはするけどなぁ』 怪訝そうに、角の生えた赤白だんだら模様の奇妙なリンゴを見つめつつ、公 爵は言いました 「で、これをどうするんだ?」 「決まってるじゃんか。食わせるんだよお姫様に。」 「食うかな。」 「食うだろバカだから。」 「というか、これは毒リンゴなのか?」 「どう見ても毒だろ。喋っている内容からして毒だろ。」 「たしかに毒々しい喋りだが・・・」 奇妙な果物を前に、そして毒々しいゴシップをBGMに、蝶野公爵と武藤伯 爵の悪巧みも遅々として進まなさそうです。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @ 小島姫第11話未完成 @ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 「お前に話してもしょうがないとは思うんだが」 「なんで?」 「頭悪いからだよ」 小島姫 第11話 地鶏の照焼きの匂いがほのかに残る、中西の猟師小屋 カ・シン男爵と中西が、今後の対策を練っていました。 中西がいれてくれたお茶の湯飲みを片手に、きっちりと上着を着込んだカ・ シン男爵がいつものように脚を高々と組んで椅子に座っています。中西はと いえば、破れたTシャツに黒パンツ、そして裸足というリラックスしすぎな カッコでベッドに後ろ手をついて座っています。 「なんだよ、そんなこと言わないで詳しく説明してくれよ。」 男爵は、しょうがないなぁとでも言いた気に首を振ると、話しはじめました。 「しょうがねえなぁ。お前にゃ理解できないだろうが、この国にはいろいろ とあるんだよ。あのデカい顔したお妃様がお前に小島姫暗殺を頼んだのがま ず発端だろ。あの牛オバサンが小島姫を暗殺しようとしたのは、小島姫が人 気者であるってことを妬んだからだろ。で、それくらいなら別にオレがこう やって出てくるまでもなかったんだがな。問題なのは、そこにあの蝶野と武 藤の二人組が出てきたってことだよ。アイツらはもう地位も名誉もある大貴 族だぞ。いまさら王妃に取り入ってどうなると言うんだ?オレのわからない ところでなにかの陰謀が進行している。別に小島姫がどうなろうとかまわな いが、オレの縄張りでオレの知らない、オレに真相が嗅ぎ付けられない陰謀 があるってことが気にいらねえんだよ。ヤツらはなにが目的で王妃に取り入 る?いや、王妃に取り入るのが目的でなければ、アイツらは何が目的であん な行動をとるんだ?」 そう言ったところで、うつむきながら演説に没頭していた男爵がふと顔を上 げると、中西は床に座り込んで、いつのまにか小島姫の部屋から持ち出して きたマル禁ビデオを見ています。 「おいニシオッ!お前オレがせっかく話してやってるのに何やってんだよ!」 そう言うのと一緒に、男爵は持っていた湯飲みを中西の背中に投げつけます。 幸いな事に湯飲みの中は空になっていたので、部屋が濡れる事はありません でしたし、中西の背中は湯飲みをぶつけられたくらいでは何の痛手も被らな いらしく、小揺るぎもしません。 「ん〜、ああ、やっぱよくわかんないからいいわ。」 トロンとした目をモニターから離さないまま、中西は答えました。 「中西にンな話してもしょうがないだろ」 突然小屋のドアが開き、傍若無人な大声が投げかけられました。 湯飲み程度では全く揺るがなかった中西ですが、その胴間声を聞いた瞬間、 あぐらの姿勢のまま床から30センチは飛び上がりました。江頭も真っ青で す。そのまま恐る恐る後ろを振り返ると・・・ 「永田、遅かったじゃないか。」 驚いた様子も見せず、男爵は言いました。 口をパクパクさせて何も言えない中西に、永田は容赦無く精神的攻撃をかけ ます。 「よぉニシオ。お前、牛のお妃様に命令されて小島姫暗殺やらかしたんだっ て?しかも失敗したらしいじゃんか。ダハハハッ!」 必要以上に大きな声が、小屋中どころか朝もやも消えかけた森にも轟きます。 「な・・・なんでそんなこと知ってるんだよぉ・・・」 中西が上目遣いで勝ち誇る永田を見上げます。 「海外に行ってても、中西情報は逐一オレに入ってくるんだよ。ガハハハ」 高笑いする永田をよそに、男爵は脚を組み替えると 「しかし、なんだよこの短すぎる短パンとタンクトップは。あっちのバカに でも影響されたのか?」 と呟いたのですが、当然永田の高笑いにかき消されて、そのつぶやきは誰に も聞こえないのでした。