ゴキ


僕は一人暮らしをするようになるまで、ゴキブリを見たことがなかった。
仙台の実家には、ゴキブリなんてものはいなかったのだ。
あの黒光りする体、長くて風に揺れる触覚、どこでも上れるたくましい足。
そして羽根。
完璧なんです。
ゴキブリは人類に嫌われるための条件を余すところ無く備えた恐ろしい生き物なんです。

冬の間、ゴキブリは息を潜めていただろうと思うんですが、こう暖かくなってくるとそろ
そろヤツラ、活動を始めているんじゃないでしょうかね?この春から一人暮らしをしてい
る人の部屋にも、もしかしたらどこからか進入して来てはびこっているかもしれません。
僕が一人暮らしを始めて1年目、出たんですよゴキブリが。
僕の部屋はワンルームのロフト付なんですが、最近のアパートっていうのは気密性が高く
て、あまり虫なんかも出ないんですよね。
理論的にはゴキブリなんて出ないはずなのに、ヤツラはどこからともなく進入してははび
こるんです。はびこってたんです。
おそろしいことです。
ヤツラはロフトで寝ている僕の枕元でさえも徘徊するんです。
部屋の明かりを消すと、物音が良く聞こえますね。
耳を澄ますと、ヤツラのカサコソという独特の足音が聞こえるわけです。
部屋が散らかっていて、コンビニのビニール袋なんかが散乱していると、その足音が良く
聞こえるわけです。
ビニールの上、中、下を這い回るガサガサした音。
ビニール袋はヤツラの足音を増幅します。
怖いですよこれは。
おちおち寝てられません。
もし口を開けて寝たりしようものなら、ヤツラは無防備に睡眠をむさぼる僕の口中に、勇
敢にもダイブをかますかもしれません。
すこしでもそのような不安を軽減し、充分な睡眠をとるためにも、お部屋は片付けておき
ましょう。
ゴキブリが出没していた頃の僕の部屋は、今よりもだいぶキレイでした。
だって、キレイにしてないと、ヤツラは目に見えないところをかすかに足音をたてながら
移動するんだもの。

しかし、いくら部屋を片づけても根本的な不安は解決しませんな。
駆除しなくてはいけません。
僕は悩んだ末、当時CFなどでメジャーだった、コンバットを導入しました。
さっぱりです。
さっぱり効きません。
かと言って、ゴキジェット(噴霧力2倍)などで部屋の空気を汚染するのもアレだし、バ
ルサンも、布団なんかにバルサンの殺虫成分が染み込みそうでためらわれます。
僕が次に導入したのは、古典的にゴキブリホイホイですな。
説明書の通りに、ヤツラの通りそうなところを選んで設置したところ、取れました。しっ
かり。5,6匹は。
5,6匹・・
いつのまにか繁殖してるんですヤツラは。
5,6匹とったところで、まだ僕の部屋では夜更けになるとヤツラが闊歩するんです。
打つ手無し。
袋小路です。

もちろん、原始的に丸めた新聞紙で叩き潰したりもしましたよ。
しかし、床に薄いゴキブリ色の体液の花が咲いたのを見て、くじけました。

なんで、なんで繁殖するのさゴキブリ!!
ゴキブリは一体どこからやってくるんでしょう。
当時考えたのは、買ってきた野菜などにゴキブリの卵が付着していて、ソレが孵って繁殖
したのではないかってことです。
それともうひとつ、窓やドアから侵入。
どうしたらいいというのか。
とりあえず、野菜は冷蔵庫で冷やす。ムダにしてしまうような野菜は買わない、っていう
のでなんとかなりそうですが、窓やドアはねぇ…
とりあえず、窓は開けちゃいけません。
網戸はアテになりません。
網戸のスキマから虫は入ってきます。
夏場はエアコンで頼りましょう。
いや、ゴキブリと共存できるような強靭な神経の持ち主だったらいいんですが。
そして、ドアはすばやく開けてすばやく締めましょう。
これですな。
これが大変効果的な予防方法だと思います。
そもそも虫がいなければ、いくら生ゴミをためても虫なんてわかないんです。

結局、ゴキブリは夏休みに2ヶ月近く帰省している間に姿を消しました。
食べ物も何も無い灼熱の部屋の中では、さすがのゴキも生きてはいられなかった模様です。
そのあと、前述の予防法を遵守して、今に至るまでゴキどころかハエすらも部屋には出ま
せん。

それにしても、ヤツラは恐ろしいですな。
特に高いところにいる場合は始末におえません。
なにせ飛ぶから。
自分の頭上の壁なんかをノロノロ這っているゴキを、丸めた新聞紙で叩き潰そうとした日
には、飛びますな。
ブーンという逞しい羽音をたてながら。
しかも、呆然とそのサマを口をポカ〜ンと眺めていようものなら、口中にダイブされてし
まうかもしれません。
一体ゴキの舌触りってのはどんなにおぞましいものなんでしょう。
あの足にびっしりと生えた繊毛。
どんな細かい突起すら見逃さずに、高いところに上っていく逞しい足が、カリカリと舌の
表面をくすぐるのかと思うと…。
それに、あの体に不釣り合いなほど長い、風にそよぐ触覚が口中をくすぐってしまうのか
と考えると…
ダメです!高いところのゴキに手を出しちゃいけません!!
低いところに降りてくるまで、指をくわえて待っているしかないんです!

ところで、ゴキの観察をしたことがありますか?
僕はゴキの存在に慣れてきた頃、ゴキの観察をしてみました。
観察といっても、どういう動きをするかとか、どんな時間帯に活性化するのかって事です
が。
ヤツラは夜行性ですな。
しかし、しばしばノロノロと動いてます。
よくじっとして動かなかったりします。
もしソレを実行できるだけの勇気があるんだったら、捕獲作戦を実行してみることをオス
スメします。
用意するものは、透明な、大き目の使い捨てコップと厚紙です。
じっと動かないゴキを見つけたら、そっと近寄ってコップをかぶせましょう。
風のようにすばやく。
そしてゴキをコップの中に捕獲したら、コップの口の部分に厚紙を差し入れて、ゴキを閉
じ込めてしまいましょう。
これで、ゴキの観察ボックスが出来上がります。
存分に観察しましょう。
ゴキを腹側から観察すると、ひょっとすると3日はゴハンを食べなくても苦痛じゃなくな
るかもしれません。
あんまりにもアレなので、詳しく描写することは避けますが、スゴイんです。

観察し終えたら、思い思いの方法で始末しましょう。

それにしても、面倒になってきたし気分も悪くなってきたので、これで終わります。
ああ、僕って根性ないなぁ。
でも、郷ひろみがテレビで歌ってるんだからしょうがないよね。
みんなわかってくれるさ。
ってことで、唐突に終わり。

サラバッ!


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