小島姫外伝 〜第4話 帰宅と祝杯〜 作:バーベル事件


「ふぅ〜ん、えぬ・だぶりゅー・おーですか。なるほどね。」

なんだか興味があるんだかないんだかわからない、それでいて妙に熱意を感じ

させる口調で小島姫は呟きました。

「本当にそれだけでいいんですか?お安いご用よバカヤロー。」

安易に大口を叩くのは、このころからのクセだったみたいです。

突然、壁に掛かっている時計の扉が開き、中から人形が飛び出しました。

「ホーッ!ホーッ!ホーッ!ホーッ!ホーッ!」

なにやら奇声を発している人形の顔には、精巧なペイントが施されています。

「あら、いけない。もう5時なの?!あたしのバカヤロー!もうおうちへ帰ら

なきゃ!」

チョーノは左側のドアに向かってなにやら目配せをしています。

でも、小島姫は「Tシャツを家族で着る、家族で着る」と先ほどのチョーノの

要望を復唱するのに忙しくって全然見てません。

「お引き留めして申し訳ありませんでした。では、お帰りになれる魔術を・・・

姫、このペンダントを見て下さい」

チョーノは首にかけていた逆三角形のペンダントを外し、小島姫の目の前でゆ

らゆらさせ始めました。

小島姫の目はペンダントについているサングラスをした坊主頭のデザインに釘

付けです。

見つめる内、小島姫は耐えられないほどの眠気に襲われ始めました。




ふと目を覚ますと、小島姫は森に戻ってきていました。なかなか散歩から帰っ

てこない姫を心配した王様が、森の中に捜索隊を出していたことを知る由もな

い小島姫。

「おお〜い、姫がいたぞ〜」という大声と沢山の人の声に驚き、駆け寄ってき

た人に次々とカウンターのラリアット(ぶん殴り)をたたき込んでいってしま

います。

あわてんぼうさんの姫ですね。

見る見る間に失神した人の山が築き上げられていきます。

やっと気が付いた小島姫、幼さの残る笑顔を作り、

「あら、この人達、どうしちゃったのかしら?まあ、可哀想に。」

そう言うと10人もの男達を無造作に肩にかつぎ上げ、引きまくる捜索隊の生

き残りをよそに、さっさと王宮の方に歩き出しました。

森を出た所には、王国の人々が「なんだ、なんだ」と集まってきています。

「観客」と「Tシャツ」が合わさると小島姫、ある条件反射を起こしてしまう

んです。「Tシャツ配布」ですね。

少なくとも100人は集まった群衆の中からロボ・コ○プなんて目じゃないほど

の電光石火の素早さで女性を見つけだすと、チョーノから渡されたTシャツを

あげてしまったのです。

勿論、1枚は子供にあげるのを忘れません。

王国国境線近くの洞窟の中では、そんなことはつゆ知らずチョーノとムタが祝

杯をあげています。

ワインをチョーノに持ってもらい、コルクをドラゴンスクリューで次々と抜い

ていく上機嫌のムタ。

部屋の天井は、ムタの喜びの表現である毒霧の後が点々と残っており、実にカ

ラフルです。

「ふふふ、あのTシャツに繊維型発信器が縫い込んであるとも知らずに・・・

これで、王族全員を説得することができるな。とうとう理論の実践ができる。」

チョーノのサングラスの奥の目がキラ〜ンと鋭く光ります。

「そういえば、俺、この計画が上手くいったら次は麻雀で理論の実践をしたか

ったんだ」

ムタが返事になっているようななっていないようなことを言っています。

そう、彼らの計画は小島姫に渡したTシャツからの発信信号をたよりに次々と

王族に直接謁見をして、理論の説得を試みるというものだったのです。

実行するのは夜中。チョーノは早めに床に就きます。ムタは徹夜覚悟で麻雀を

しに出かけていきます。

夜中、小島姫の物忘れの激しさゆえに彼らに襲いかかるであろう恐怖と戦慄。

眠りながら枕にSTFを極めるチョーノも、上機嫌で麻雀に興じるムタも、知る

由もありませんでしたとさ。

おしまい。


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