| Word Game ことばの国のアリスの間 |
最終更新日 2000年03月01日 23:09:21
| 第三章 乾かすレース後 話している |
岸辺に集まったのは
見るからに風変わりな集団だった。長い尾を引きずってる鳥たち、毛が
べたーっと体にひっついてる動物たち。みんな
びしょ濡れで滴を垂らして気持ち悪そうにイライラしてた。 いちばんの問題はどうやって みんなの体を乾かすかということだった。色々意見を出して話し合ってたが、ふと アリスは みんなと幼なじみみたいに自然に和んで話してるのに気づいた。 アリスはインコとずいぶん長くやり合ったが、インコは最後には口を尖らして こう言うだけだった。 「私はあんたより長く生きてんのよ。だからあんたより物知りなの ! 」 アリスはインコといくつ離れてるか わからないから、それだけは認めたくなかった。インコは年のせいなのか 自分が何歳か意地になって言わなかったので言い合いは終わった。 |
この集団の中で最も権威があ(りそうに見え)るねずみが「俺の出番だ
! 」と言わんばかりに口を開いた。 「さあ みんな 座ってくれ ! まあ 俺の話を聞けよ ! 乾かすなんて簡単なことさ ! 」みんなは すぐに大きな輪になって座り、真ん中には ねずみがふんぞり返ってた。アリスは不安げにねずみをじっと見つめてた。 「早く乾かしてくれなきゃ、悪い風邪ひいちゃうよー。」 「えっへん ! おっほん ! 」ねずみは風邪もひいてないのに もったいぶって咳払い。 「いいか ? みんな ! これから俺が知ってる いちばん乾いた話をするからな ! 黙って聞いてくれ ! 『ウィリアム・テルの素晴らしさはローマ法王にも認められ、偉大なる我が大英帝国も賞賛したんだが、その頃の国民は優秀な指揮者を求めていた。つまり当時は歌劇場と軍楽隊がひどかったんだな。バッハとヘンデル、つまり音楽の父と音楽の母は・・・』」 「うげーっ ! 」インコがあまりの寒さに身震いしてくしゃみした。 「どなたか質問でもあるのですか ?(人が話してるんだからさー) 」ねずみは眉をしかめながら、「くそーっ ! インコの奴め。」という憤りを抑えて馬鹿丁寧な口調で尋ねた。 「何も言ってないわよ。」インコは平然と答えた。 「うげーって言ったと思うけどな。まぁいいや、続けましょう。『バッハとヘンデル、つまり音楽の父と音楽の母はロッシーニが指揮者になるのに賛成した。その上 カンタベリーの熱狂的な愛国者として知られる大司教までもが、それを望ましいとして・・・』」 「のぞましいってぇー、なにをですかぁー ? なんかのぞいたんですかぁー ? おぞましいなら知ってますけどぉー。のどがましってことかなぁー ? 」あひるが突然、くちばしを挟んだ。 「『それ』を望ましいとしたに決まってるだろっ ! (あひるの馬鹿野郎)」ねずみは冷静に答えた。 「ここまでの話をしっかり聞いて いただければ『それ』が何を指すかは おわかりになると思いますけれども。」ねずみは 今度はかなり苛だって答えた。 「『それ』が指すものがあればぁ、『それ』ぐらいわかりますぅ。」あひるは言い張る。 「あひるだと たいてい『かえる』か『虫』なんだよねぇ、『それ』ってのは。現在、問題になっているのはカンタベリーの熱狂的な愛国者として知られる大司教が『なに』を望ましい と思ったかです。」ねずみはあひるを無視して先を急いだ。 「・・・『つまり、ウィリアム・テルの序曲と供にロッシーニを国立歌劇場の終身名誉指揮者として迎え、勲章を授けるのを望ましいとしたのであります。ところが、ロッシーニの連れてきた女たちというのが、これまた派手で浪費家で美食家で贅沢三昧の限りを尽くし・・・』 どうだい ? みんな。もう乾いただろ ? 」ねずみはアリスの方を向きながら言った。 「まだ濡れてるよー。こんな話じゃ全然乾かない。」アリスは根暗な声で言った。 |
「このような時には
じゃな」ドウドウがのそっと腰を上げておもむろに語り始めた。 「昔から『下手の考え休むに似たり』と言って、付け焼き刃の対症療法よりも活力旺盛な根治療法を火急に採択して、諸君の『同病相憐れむ』無惨な窮状を・・・。」 「じじぃ ! 何 しゃべってんだ ? もっと わかるように言えよ ! 」ワシの息子が凄んだ。「言ってることの半分もわかんないね ! 自分だって意味わかってないんだろっ ! 」息子はちょっと言いすぎたかなと思って 照れ隠しの忍び笑い。他の鳥たちも笑ってる。 「わしが言いたいのはじゃな、みんなの体を乾かす最善の方法は『乾かすレース』しかないってことなんじゃよ。」ドウドウは怒り交じりに答えた。 「『乾かすレース』って何よ ? 」アリスが仕方なく訊く。それがどんなレースかなんて知りたくもなかったけど、ドウドウは質問があって当然という顔だったし、みんなはしらけてたから。 |
「乾かすレースというのは
じゃな・・・えーっと・・・説明するより実際にやったほうが乾きが早いんじゃ。冬の寒い日なんかは
やってみたくなるもんなんじゃよ。みんなも覚えておくとこれから役に立つかもしれん。」と言って
ドウドウは競技場の設営を始めた。(地面に棒きれで
まん丸い輪を書いただけなんだけど) 「コースの形は三角でも四角でも何でもいいんじゃ。一筆書きできればな。」全員がコースのあちこちにばらばらに座った。「位置について。3、2、1、よーい、どん ! 」なんて誰も言わない。好きな時に走りだし、休むのも自由だった。ゴールも作ってないからレースがいつ終わるのか誰にもわからない。でもそうやって三十分くらい走ってるとみんな体が乾いてきた。突然ドウドウが大きな声をあげた。 「よーし、これでもうレースは終わりじゃ ! 」みんながドウドウの回りに駆け寄ってきて羽根でハーハー言いながら尋ねた。 「で、誰が優勝なんだよ ? 」 |
全員が完走したんだから、このストレートな質問は、みんなを乾燥させることしか頭になかったドウドウを大いに悩ませた。固まったドウドウは足を組み、長い間
額に皺を寄せて優勝とは何かについて考えていた。(音楽室で見たことない
? 楽譜を持って運命とか歓喜について難しく考えてるベートーベンみたいな感じ。これでわからない人は
どこの駅前にもある『考える人』の銅像。) その間 みんな物音一つ立てず、今か今かと その瞬間をおとなしく待っていた。やっとでドウドウが口を開いた。「みんな優勝したんじゃ ! みんなが景品をもらえるんじゃ ! 」 「景品は嬉しいけど、誰がくれるのさ ? 」あちこちで疑問の声が上がった。 「そりゃもう決まっておる。彼女しかおらん。」と言ってドウドウはアリスに人差し指を向けた。 すぐに みんなはアリスを取り囲んで、口々に大声で叫んだから えらい騒ぎ。 「わたしに景品ちょうだい ! 」「ぼくもほしい ! 」「俺にもくれよ ! 」「うちの子のぶんも ! 」 アリスは初めての経験なので、どうしたらいいのかわからない。困ってしまって ポケットに手を入れ、ミルクキャラメルの黄色い箱(ラッキーなことに海の涙は入ってなかった。箱には逆立ちしてポンプを押す天使の絵が描かれてた。)を取り出し、景品として回りのみんなに手渡した。神の恩寵か仏の御加護でもあったのであろうか。ミルクキャラメルはちょうど一人に一個あって みんながもらえたのでハズレがなかった。 |
「待てよ、この子だって景品もらえるんじゃないかい
? 走ったんだから。」ねずみが言った。 「そうだとも、もちろんもらえるさ。当然のことじゃな。」ドウドウは落ち着き払って答えた。 「おまえはポケットに まだ何か持っておるかね ? 」アリスに振り向いて訊いた。 「キャラメルの箱だけしかないよ。(持ってるわけないじゃん ! )」とアリスは情けなさそうな顔。 「箱だけか ! 北のほうのお生まれじゃな。それ、わしによこしなさい。 」そしてまた みんなはアリスの回りに集まった。 ドウドウはキャラメルの箱を丁重に贈呈して 「お嬢様、どうかこの優美な箱だけを受けとられんことを。」とスピーチした。 授賞式が終わると、聴衆は拍手喝采して賞賛の声がいつまでも会場に鳴り響いた。 アリスは さっきからずっと馬鹿みたいなことが続くなって思ってたけど、みんな真剣なので笑えなかった。答辞も考えつかなかったので、ちょっとだけ頭を下げて、作り笑いをして自分の箱を受け取った。 |
みんながキャラメルを食べるのが
またひと騒動だった。大きな鳥たちは「何だ
? これは ! ちっとも味がわからんじゃないか。」って文句を言うし、小さな鳥たちの中にはキャラメルを喉に詰まらせる者もいて、背中を叩いてもらったり、それでも駄目な者は救急車を呼んでもらったり、もっと小さい鳥は口を開けたまま
何も喋れなくなって
目に涙を浮かべたりした。 このように全員に同じ大きさの物を分け与えるのは、公平なように見えて不公平である。 キャラメル騒ぎが終わると みんな何事もなかったかのように また集まってきて輪になって体育座りをした。そしてねずみに「もっとお話を聞かせてよ。」とせがんだ。 |
「あんた、あたしに約束したわよね ?
身の上話を聞かせてくれるって。」アリスが迫った。 「なぜそんなに大嫌いなのかって話よ。ネ何とかコとイ何とかヌが。」カタカナの部分はまたねずみを怒らせちゃいけないと思って、特に強くアクセントを付けて大声で言った。 「俺の身の上話は長くてしっぽり泣ける話なんだ。」ねずみは溜め息をつきながら言った。 「そりゃ確かにあんたの尻尾は長く伸びテイルけどさー。」そう言ってアリスはねずみのしっぽを 初めて男を見る女のように不思議そうに眺めていた。 「で また何でそれが悲しい話なわけ ? 」ねずみの話を聞きながら アリスは悲しいわけを色々と考えてみたんだけど、あまり尻尾ばかり見つめていたので、アリスの頭の中では話はこんな形になっていた。 |
古い 野良犬
ねずみに 言った。 家で 見つけた どぶねずみ。 「俺と 一緒に 裁判所、 行ったら 裁判 かけてやる。 俺は 否応 言わさない。 何でも かんでも やってやる。 今朝は 朝から うずうずと、 やること なくて たまってる。」 ねずみは 犬に 言い返す。 「判事もなしで どうすんだ ? 誰がやるんだ ? 陪審員。 そんなに 息の根 止めたいか ? 」 「判事 いなけりゃ 俺がやる。俺が 今から 陪審員。」 野良犬 笑って うそぶいた。 「何から 何まで やってやる。 ねずみ なんかは イチコロだ ! 」 |
「真剣に聞いてないだろっ !
人の話。」ねずみはアリスに きつい一発 !
「なに考えてんだよーっ ! ホントに ! 」 「ごめん ! ごめん ! 尻尾 見てたもんだから。」アリスは尻尾を見たまま言った。 「えーっと、話は五つ目の曲がり角まで来てたんだよねー ? 」 「話を勝手に曲げるなよ ! とっくに結びの一番だよ。」ねずみはカンカンになって怒った。 「あっ ! 結び目か。」いつも誰かの役に立ちたいと願ってたアリスは 回りを見渡して 「ねぇ、あたしがその結び目ほどいてあげるよ。」と言った。 「そんなことさせるもんか ! 」ねずみは今にも向こうに歩いていってしまいそうな気配だ。 「おかしなことばかり言って 俺を馬鹿にしてんだろ ? おまえは ! 」 「そんなことないよー。あんたが怒りっぽいんだよ。」ねずみは答えずにグルグルうなっただけ。もう歩き始めてる。 「頼むから帰ってきてよー。話を最後まで聞かせてよ。」アリスがねずみの後ろ姿に叫んで追いかけると、他のみんなもコーラスに加わって、懐メロの「帰ってこいよ」(Lover come back to me)を唄った。 「その通りだよ、いま話しとかないと 一生 誰も聞いてくれないぞー。」 でも ねずみは「もう我慢できん」という感じで頭を振って 素早く立ち去ってしまった。 |
「まぁ
しょうがないさね。若いうちは我慢ができないんだから。うちの人も若い頃は・・・。」ねずみが見えなくなるのを見計らって、インコが懐かしそうに溜め息をついた。 カニのおかあさんは ちょうどいい機会だと 娘にお説教を始めた。 「ほら わかったでしょ ? あんな風にキレちゃいけないのよ。昔からことわざにあるでしょ。『たぬきはのんき』って。またひとつお勉強したわね。」 「なに言ってんだよっ ! 」カニの娘は吐き捨てるように言い返す。 「十八年も辛抱してきたオヤジだって怒らせて出て行かせちゃうくせに ! 」 「あーあ、ここにダイナがいてくれたらな。あの子ならすぐにねずみを連れ戻してくるのに。」アリスは独り言のようにつぶやいた。誰に言うのでもなく。 「あのー、ちょっといいですか ? 誠につかぬことをお伺い致しますが、あなたのおっしゃるダイナってどちらの方ですか ? 」インコが尋ねた。 アリスはダイナのことなら いつだって話す準備ができてたので喜んで答えた。 「ダイナってあたしが飼ってるねこなの。ねずみを捕るのがすっごく上手なの、本当。かわいいよ ! それに鳥を追っかけるとこなんかも みんなに見せたいな。小鳥なんかだったら見つけたらすぐに食べちゃうの。」 |
このダイナの話があたり一帯に不穏な空気を撒き散らした。鳥の何羽かは即飛び去った。かささぎのじいさんは念入りに羽根を身繕いしてぶつぶつつぶやいた。 「わしも家へ帰らにゃならん。夜風はわしの喉に悪いんじゃよ。」 カナリヤも震えながら子供たちのお尻を叩く。 「さぁさ 行きましょ みんな。もうベッドに入る時間ですよ。」 みんながそれぞれ色んな理由を並べ立てながら姿を消してしまった。 アリスはひとりぼっちになった。 「あんな話するんじゃなかったなー。」アリスはすっかり落ち込んでしまった。 「ここじゃ みんなダイナが嫌いなんだ。世界中で一番いいねこなのになー。あーダイナに会いたいよー。今頃どうしてる ? もう二度と会えないのかなー ? 」アリスは しょんぼりしちゃって 淋しくなって また泣き始めた。 でも しばらくすると遠くから誰かの足音が聞こえてくる。頭を上げて耳をすます。 「あのねずみが改心して戻ってきて話を聞かせてくれるんだ。」 少し期待して 足音のする方をじーっと見つめていた。 |